がちゃがちゃ

異端審問官は新米子羊の夢を見るか?

 テメノスが久しぶりに聖堂機関本部へ顔を出すと、騎士達は慌ただしく走り回っていた。
 それらを上手く避けながら、テメノスは副機関長の執務室へと向かう。

「こんにちは、オルトくん」
 すでに開けられていた入口のドアをノックしながら声をかけると、何やら事務作業に追われているらしいオルトが顔を上げた。
「ああ、テメノスか。来てもらったのにすまない、座って待っていてくれるか」
「どうぞお構いなく。適当に待たせていただくので。今日も皆さん忙しそうですねぇ」
 指示されたソファには座らず、テメノスは窓の外を眺める。青い空と、はばたく鳥たち。今日もとても平和だ。

 やっとひと段落ついたらしいオルトがテメノスへ声をかける。窓から振り返ると、いつもよりも穏やかな表情でこちらを見ていた。
「まったく。あのとき俺は、本気でお前たちは死んでしまったと思ったんだぞ」
 今その話をするのかと、テメノスは苦笑した。
「それはそれは、ご心配をおかけしました。思ったより頑丈だったようです」
「とにかく、大した怪我はなくて良かったものの、もうあんな無茶はしないでくれ。……しかしテメノスには世話になりっぱなしだな。異端の件も魔物の暴走も、その後の報告と調査結果のおかげで想定よりも早めに対処できている」
 オルトの様子から、仕事がスムーズに進んでいるため上機嫌なのだと想像がついた。
 
 テメノスは今日、今後の対策についてオルトから呼び出されていた。
 異端についても魔物についても、聖堂騎士だけでは賄えない部分がどうしても出てくる。ずっと閉鎖的だった組織なため騎士団以外への他所への要請は難しい。そんな現状を打開するため、ひとまず教会という繋がりを持っている者同士で手を取り合いたい、ということらしい。騎士達が忙しないのは、こういった取り組みが始まっているからだろう。
 今のソリスティアは、確実に未来へと向かって進んでいる。死で救われる世界になってはならない。終わりを見届ける喜びなど得なくてもいい。誰もが前を向いて、己の聖火と向き合う世になれば良い。
 それを担う若者たちがこうして励んでいるのだから、テメノスは喜んで協力をしている。
「――それで、今日はこのあとどうするんだ」
 一通り必要な話を終えた後、出された茶を飲みながらオルトがテメノスへと訊ねた。
 テメノスは一瞬にこりと微笑むと、飲み終えたカップをソーサーへ置いた。
「申し訳ありません。私は一人しかおらず、この身も子羊くんだけのものなので……」
 必要以上に、そしてわざとらしく答える。テメノスが口元に手を当てながらしおらしい態度をとると、オルトは飲んでいた茶を吹き出しそうになるのを堪えながら咳をした。
「いや、そんな話を聞きたいわけじゃ……まあいいか。相変わらず、仲が良いようで安心した」
「ええ、一生添い遂げるつもりなので。あ、オルトくんを仲間外れにしているわけではありませんよ」
「……また、用があれば呼ぶ」

 * * * * * * *

 ストームヘイルの宿にも慣れたもので、湯浴みを終えたテメノスは備え付けの部屋着に着替えると個室のベッドの上に寝転んでいた。
 時計の音をやけに大きく感じてしまう。はやく、はやくと鼓動が急かす。
 そして、あの時と同じように控えめなノック音が聞こえた。返事をすると待ち侘びていた声が名乗ったので、急いでドアを開ける。
「クリックくん」
 私服の彼も、もう見慣れたものだ。今すぐ抱き着きたい衝動をなんとか抑え、彼を部屋へと招き入れる。そうしてやっと両手いっぱいに抱き着くと、クリックはそのまま離れようとしないテメノスを横に抱えてしまった。ベッドへと向かいゆっくりと下ろされ、やっと二人は顔を見合わせた。
「テメノスさん、遅くなってすみません」
「いいえ。君を待っているの、好きですから」
 嘘などではない。しかしクリックはいろんな表情を繰り返した後、はぁーと大きなため息をついていた。
「どうかしましたか?」
「いえ……なんだか、最近のテメノスさんの破壊力がすごいなって、思いまして」
「はかいりょく……?」
 テメノスが首を傾げると、クリックは「深く考えないでください」と視線を泳がせた。

「私、君を好きになって分かったことがたくさんあるんです」
 相変わらず抱き着いたままテメノスが言えば、今度はクリックが首を傾げた。
「私にも人並みに独占欲があったこと。会いたいと思ったら我慢できないこと。いつも私を一番に考えてほしいこと。……今まで極力他人と関わらないようにしてきましたから、少し変な感じです」
 場合にもよりますけどね、と付け加える。
 返事が無いことに不安を覚えたテメノスが顔を上げると、すぐさま唇を塞がれた。

「ん……ッ!」
 息が苦しくなるタイミングを見計らって角度を変えられ、何度も口づけられる。
 二人の逢瀬はこれがはじめてではない。討伐からの帰還後、想いが通ったことを確認するかのように時間を作ってはこうして触れあっていた。
 しかし、いつもは優しく包み込むような行為であったのに、今日はやたらと性急だった。
「クリックく、待って、……あっ!」
 服の中に大きな手が滑り込んでくる。甘く尖った突起に直に触れられ、声が我慢できなくなってしまう。
 そのままシーツに縫い付けるように押し倒された。がばりと服をめくられ、上半身が露になる。
「やだ、クリックくん……明かり、消して」
 布団を手繰り寄せるが、それすら払われてしまう。
「ごめんなさい、今日はもう待てないです。テメノスさんがあんまりにも可愛いことを言うから……」
「え、ぁ……ッ!」
 下に穿いていたものも剥かれ、隠すものがなくなってしまった。
 慌てて脚を閉じるが、こじ開けられてしまう。
「隠さないでください。僕、テメノスさんのこと……全部知りたいんです」
 唾液を纏った指が物欲しげにヒクヒクとしている窄みを撫でる。つぷりと侵入して、弱い部分を何度も押しつぶしてくる。
「ん、あッあ!やぁ、あっん!」
「テメノスさん、指、気持ちいいですか……?」
 中を弄る指が増えていく。じゅぷ、と音を立てながらナカを暴く指に、テメノスは喘ぐ声を抑えられなくなっていった。
「きもちい、ぃ……もっとシて、おねが、ぃ、あア!」
 途端にテメノスが仰け反る。ぴゅるっと熱が吐き出されて、それを見たクリックはゆっくりと指を抜いた。肩で息をしているテメノスにキスを落とすと前を寛げ、天を向いているソレを取り出した。
 改めて明るいところでしっかりと見るのは初めてで、テメノスは顔を赤らめる。
「い、今まで……“それ”が私の中に入ってたんですか……?」
 信じられないものを見るかのようにもじもじと太ももを擦り合わせながら、テメノスは手で口元を覆う。
「いつもテメノスさんが、もっとって強請ってくれてたものですよ」
「う……」
 思わず顔を反らす。しかし行為が中断されるわけでもなく、再び大きく開かれた脚の間にソレがあてがわれる。
 キスをするように吸い付き、後孔が今にも咥え込もうとする。はやく、はやく欲しいと、勝手に強請り始めている。
「僕だけの人だって、もっと感じたいんです。いいですか……?」
 今すぐにでも好きにできる立場であると言うのに、クリックはこうして確認をとる。そこに愛おしさを感じているテメノスとしては、イエス以外の選択肢は無かった。
「当たり前じゃないですか。はやく、きて」
 二人の手が絡み、押さえつけられる。そのまま先端だけ押し付けられていたものがナカへ挿入されていき、容赦なく肉壁を擦った。
「ん、アあっ!あんっあ、ああッ!」
 ずぷずぷと抽挿され、テメノスは堪らず喘いだ。嬌声が響く中、クリックは深く腰を落とす。
 はじめは浅く、徐々に深く挿入され、すっかりクリックの形を覚えた隘路は堪能するかのように咥え込んでいた。
「やぁ、あ……くりっくく、ん……っん、あっん!」
 びくんっと腰が跳ね、テメノスは再び絶頂を迎えた。
 その最中も奥深くを貫かれ、助けを求めるかのように広い背に抱き着いていた。
「ぁあッあ、奥、ぁん!すごい、ぃ……ひ、ぁッ」
「はァ、テメノスさん……ナカ、うねって、気持ちいいです」
「だって、ぇ、クリックくんにいっぱい擦られるのきもちよすぎてぇ、……んッ!あッあ、ここ、きゅんってなっちゃ、ぅ」
 テメノスが片手で自らの下腹部を撫でる。するとクリックは眉を寄せ、深く息を吐いた。
「……そういうの、一体どこで覚えてくるんですか」
「え、わかんな、あッああ!くりっくくん、そこっ深ぃ、あっ頭ヘンになる、あっンん、あっあん!」
 ピストンが激しくなる。時折探るように突かれ、テメノスはキツく目を閉じた。
 再び熱が集まってくるのを感じて、震える身体が言う事を聞かなくなりそうだった。
「や、またイっちゃ、ぅ!んッ好き、くりっくくんが好き、もっといっぱい奥に、くださ、ぃ……あッん!」
「僕も……もう、あなたのことしか見えないんです。僕でいっぱい気持ちよくなって、いっぱい可愛いところ見せてください」
「ああ、んァっあ!あっあッん……~~~ッッ!!」
 抱きしめられながら熱を放つ。それと同時に奥に注がれる感覚があり、テメノスは全身を震わせた。
 耳元で愛を囁かれ、汗が伝う背を撫でる。すると頬にキスが落ちてきて、胸の奥が満たされていった。

 * * * * * * *

「私のこと、大切にしてくれるって言いましたよね」
 行為後、ベッドで抱き合いながら眠りにつこうとしているクリックへテメノスが問いかけた。
「はい、言いましたけど……」
「もし嘘だと分かったら、私はどうなってしまうか分かりません。だから一生大切にしてくださいね、私も一生、君の傍にいるつもりなので」
「一生、僕の傍って」
 クリックが言い終える前に、テメノスはクリックの腕の中で器用に寝返りを打ち「おやすみなさい」と背を向けた。
「え、テメノスさん……言い逃げはずるいですって!」
「寝ているので聞こえません~」
「ああもう、明日詳しく聞きますから……!」
 クリックは納得がいかないながらも、背後からテメノスを抱き寄せる。
 その体温と鼓動を感じながら、二人はゆっくりと目を閉じた。