no one knows
その日の深夜、やっとのこと行為を終えた二人は湯で身を清め、二人揃ってひとつのベッドに潜り込んでいた。
初めてだというのに無理をさせてしまったかと反省しながらクリックは隣で横になっているテメノスを見る。
しかし多少ぐったりはしていたものの、想像よりは疲れ果てていない。
それだけではない。クリック自身もどういうことがぴんぴんとしているのだ。
テメノスほど無理な行為ではないし体力はあるにしろ、それでも何かがおかしい。
疑問を抱きつつ隣で眠るテメノスの髪を撫でると、もぞもぞと動きシーツに皴を作っていた。
「あの、実は検証結果があって」
「検証結果」
クリックが復唱する。
何が、と聞く前にテメノスが説明を開始した。
「君が来るまで、例の文献をもう一度読み直してみたんです。そうしたら、やっぱり身体の相性が条件だと書かれていて」
「それは先ほどまでの状態で分かりましたが……」
お互い、乱れに乱れた。
あれで相性が悪いなどと言われたら、今後何も信じられなくなってしまう。
「それだけではなくて。その、一定以上に……つまりとんでもなく相性が良い場合に粘膜の接触を行うと、怪我だけではなく病や体力まで回復させる場合もある、と」
「えっ」
粘膜の接触。その言葉が引っかかり、クリックは考え巡らせた。
接吻……もとい性行為による接触。
山小屋でクリックの熱が引いた理由は身体的な接触だけではなかったのだと納得する。
そして、先ほどまでの二人での行為。
「クリック君、今それほど疲れていませんよね。私たちが身体を重ねると粘膜接触が起こり、つまり……」
「無限にあなたを抱けるということですか」
「言い方に品がありませんが、そういうことです」
なるほど、とクリックが頷く。
しかし、もう一点気になることがあった。
「僕の体力が尽きないのはテメノスさんとの接触が理由だとして、でもテメノスさんも疲れていませんよね。それはどうして……?」
「それは――」
それ以上話すことは恥ずかしいのか、テメノスはほんのり顔を赤らめながらサイドチェストのランプに明かりを点けると一冊の本を引き出しから取り出した。
そしてここを読めと言うかのように、あるページを開いて指をさす。
「えーっと……」
粘膜接触による体力回復の条件。
怪我の治癒と同じく一定以上の身体的な相性が良い場合のみ発生することがある。
さらにその行為中、互いに相手への過剰な恋慕が含まれていた場合、治癒者である神官の体力をも回復させる。
「――ええ?」
こんなもの、まるで都合の良いロマンス小説でしか見たことがない。
しかし現実は見ての通りで、クリック自身も目の前のテメノスも散々抱き合ったというのに体への負担が少ない。
「つまり僕たちは身体の相性が良いだけではなく、心もこれ以上なく通っていると?」
「その本の筆者が言うにはね……」
筆者はどうやって検証したのだろうか……と思わないでもないが、それよりもこの事実が嬉しくてたまらないのだと伝えたい。
クリックは本を置くとテメノスを目一杯抱きしめた。
「嬉しいです、そんなにまで僕のことを想っていただけていたなんて」
「ふふ、まぁ……そういうことなんですが。クリックくん、一つ忠告しておきます」
「忠告?」
先程のように復唱する。
笑みを浮かべているテメノスは目を細め、クリックに触れるだけのキスをした。
「君との行為で先程のような効果が現れなくなった場合。しっかりと審問させていただくので、そのときは覚悟してくださいね?」
笑顔の裏では何を考えているか分からない。テメノスのことをそう話す騎士がいたことを思い出す。
しかし安心してほしい。そんな日は絶対に来ないのだと伝える為に、今度はクリックから口づけた。