がちゃがちゃ

from eternity

 あれからテメノスさんと会えていない。最後に会ってから一ヵ月が経とうとしてる。
 しかし、この間受け取った手紙には明日ストームヘイルへ訪れる予定だと書いてあった。どうやらフレイムチャーチの神官代表としてオルトに呼ばれているらしい。楽しみのあまり朝の訓練に熱が入り過ぎてしまい、先輩から説教された。煩悩を見破られてしまったのかもしれない。神に仕える騎士として、まだまだ精進しなければらない。はやく、テメノスさんに一人前の騎士として認めてもらうためにも。

 そうして日課の巡回へ向かおうとしたところで、近くで雪崩が起こったと報告があった。
 雪崩自体は珍しいことではないが聖堂機関本部は慌ただしくなり、詳しい話を近くにいた騎士へと尋ねる。どうやら現場には子どもを連れた行商人がいたと目撃情報が入ったらしい。救助へ向かう騎士が募られ、僕は迷わず声を上げた。

 現場は、街からそう離れてはいなかった。
 雪崩が起こった付近では大量の荷物を積んで倒れた馬車と、繋がれたままの馬。そしてその傍らには一人の男性が倒れていた。他の騎士が馬を馬車から放しているいる間に、倒れている男性を起こしながら声をかける。返事があり、無事なことが確認できた。馬も無事の様で安堵したのも束の間、目撃情報にあった子どもが見当たらないことに気が付いた。
「お願いです、助けてください……雪崩に巻き込まれた時、息子が馬車から投げ出されてしまって。あの子を、どうか」
 泣きながら、ぐずぐずとなった声で救助したばかりの男性が縋ってくる。
「必ず助けます。どちらへ落ちたか、方向は分かりますか」
 問えば、彼はひとつの方角を指さした。その方向は急斜面となっていて、投げ出されたと同時に雪と一緒に押し流されてしまった可能性が高い。
 その場合、街から離れてしまい魔物と遭遇してもおかしくはない。そこからは集まっていた騎士は救助班と捜索班に分かれ、僕は捜索班へ加わることにした。

 教えてもらった少年の名前を叫びながら、雪原の中を歩く。
 雪に埋もれている可能性もあるため見逃さないように懸命に辺りを捜索するが、途中で雪が降り始めてしまった。
(どこにいるんだ……ッ)
 無意識に表情が強張る。この真っ白な場所で、たった一人で震えている子どもがいるかもしれない。それを考えるだけで焦りが止まらず、足早になっていく。
 すると、どこからか声が聞こえた気がして耳を澄ませる。それは確かに子どもの泣き声のようで、近くにいた騎士と一緒にそちらへ向かった。
 向かった先は、入り組んだ雪林だった。だんだんと泣き声が大きくなり、近づいているのが分かる。
 もう一度少年の名前を呼ぶ。すると泣き声は止み、助けを呼ぶ声へと変わっていった。
「……いた!」
 奥まった場所で少年の影を見つけ、すぐさま駆けつける。うずくまっていた少年は立ち上がると、脅えたようにしがみついてきた。
 それにしても、なぜこんな見つかりにくい場所にいたのか。怪我をしていないか確認しながら尋ねると、少年は震えながら辺りを見渡し始めた。
「遠くに、た、たくさん魔物がいて。見つからないように、ここで隠れてたんだ」
「魔物……」
 その魔物がなんであれ、まずは少年を安全な場所へ連れて行かなければならない。
 少年は別の騎士が抱えたので、皆で街へと戻ろうした。
 その時だった。
 耳を劈く呻くような鳴き声に襲われ、振り返る。そこには大きな翼と顎を持った、三体の雪蛇鳥がいた。

 その後のことは、正直あまり覚えていない。数人の騎士と一緒になんとか迎え撃ち、全員無事だったことは記憶している。
 しかし、その途中で僕は怪我を負った。少年を守る為だったとはいえ、無防備に魔物の前に飛び出してしまったのだ。急所は外れていたようだが鎧を貫くほど傷は深く、カウンターで一太刀浴びせたあとは倒れてしまったそうだ。
 そこで最後の一体だった魔物が倒れる瞬間を見たので、撃破できたはずだ。傷を負ったのは情けなく思うが、少年を守ることができて良かった。
 今こうして担架に担がれ街へと運ばれている道中で、オルトの顔が見えた気がした。あいつは救助班だったのに、わざわざこちらまで戻ってくれたのだろうか。本当にいい奴だ、と涙が出そうになる。
 まだ生きているのだなと実感できて、そこで意識を手放してしまった。