盲目的な愛を説く
次の日、クリックは朝から重い足取りでフレイムチャーチの教会へと向かった。昨夜の出来事からテメノスとは顔を合わせづらい。しかし、このままでは終わることが出来ない。そんなことは絶対に無理だ。
教会の前までたどり着く。しかしどうにも扉をあける勇気が出ずに佇んでいると、村の子どもたちがやって来た。非番のため私服ではあるが顔を覚えてくれているらしく「騎士のにーちゃん!」と声をかけてくる。
「どうしたんだよ、中に入ればいいのに。鍵なんかかかってないぜ?」
少年が言うと、まわりの子どもたちも頷いていた。
「うん、そうなんだけどね……あはは」
渇いた笑いで誤魔化そうとしたが子どもには通用しないらしく、みんな口々に「変なのー!」と叫んでいる。
どうしたものかと考えあぐねていると、教会の入り口がゆっくりと開かれた。
「どうしたんですか、みんなで入口で騒いで……おや、クリック君」
中から現れたのはテメノスだった。一瞬だけこちらを見るとすぐに視線を子どもたちへと移し、はやく入りなさいと促している。
最後の一人が教会の中へと向かったところでテメノスが扉を閉めようとしたので、クリックがそれを手で押さえると驚いた彼にしっかりと睨まれた。
「何をしているんです。騎士を呼びますよ」
「僕が騎士なのをお忘れですか。……じゃなくて、あなたと話がしたいんです」
力では敵わないことを知っているからか、テメノスは大人しく外に出てくると教会の扉を閉じる。そして腕を組み「忙しいので短めでお願いしますね」と不機嫌そうにクリックを見上げた。
「僕があなたを傷つけるようなことを言ってしまった事は謝ります。なので、もう一度チャンスをくれませんか」
クリックが頭を下げると、テメノスのため息が聞こえてきた。
しかし何も言わないままなので、クリックは顔を上げるとテメノスの手を取る。そして一歩近寄り、真っ直ぐ目の前の翡翠を見つめた。
「許してくれとは言いません。ただ、あなたと話がしたい。僕は、あなたを失いたくないんです……」
そう言うと、テメノスは視線を逸らして唇を噛んだ。クリックの手から逃れると背を向けて、動かないでいる。
「……私は、君を信じたい。だけど君が言ったんですよ、私が悲しむことは二度と口にしないって。なのに」
そこまで言い終えると、テメノスは教会の中へと戻っていく。
追いかけることも出来ず、クリックはその場に残されてしまった。
日が傾き、風が冷たくなってきた頃に再び教会の扉が空いた。中から朝に声をかけてきた子供たちが次々と出てきて、中にいる神官たちへ別れの挨拶を告げている。
子どもたちの内の一人が教会前に佇んでいるクリックに気が付くと、「あれ?」と首を傾げていた。
「騎士のにーちゃん、まだ入らねえの?」
少年の問いに、クリックは力なく頷いた。
「……うん、まあね」
「ふーん」
じゃあな!と手を振って去っていく少年を見送って空を眺めていると、空いたままの扉から会いたかった人物が現れた。
「テメノスさん……」
驚いた表情のテメノスはクリックを見るなり手を取って、その冷たさに表情を歪めた。
「まさか、ずっとここにいたの?手が冷えちゃってるじゃないですか」
クリックが黙ったままでいると、テメノスは困ったように笑った。
「君には負けました」
* * * * * * *
教会を後にしたテメノスに手を引かれ、クリックは彼の自宅へと招き入れられた。まるで告白を受け入れてもらったあの日の様だと遠い記憶に思いを馳せていると、まずは湯につかって来いとテメノスに浴室へと押し込まれてしまった。
頭から湯を浴びながら、彼のことを考える。一体何があの人を傷つけてしまったのだろう。
どれだけ考えても答えは出ない。何が原因かを理解していない男を、あの人は許してくれるのだろうか。
湯浴みを終えたクリックが濡れた頭のまま戻ってきたのを見て、法衣からラフな格好に着替え終えたテメノスが慌てた様子でやって来る。渇いたタオルでがしがしと金色の癖毛を拭きながら、眉を寄せていた。
「もう、せっかく温まったんだからちゃんと拭かなきゃ駄目じゃないですか。本当に風邪をひいてしまいますよ」
「そしたら、テメノスさんが看病してくれますか?」
「……どうでしょうね」
あとは自分で拭きなさいと、テメノスは離れて行ってしまう。
もっと傍にいてほしいのに、今の自分にはそれを言う資格がない。それを思い知って、クリックは項垂れた。
「ほら、はやく座って」
見れば、見慣れたテーブルの上にはシチューが盛り付けられた皿が二つ並んでいる。こんな自分の分も用意してくれたことへクリックが感激していると「食べないなら下げますけど」と言われたので慌てて席に着いた。
出来立てのシチューはあたたかく、クリックの空腹の胃を満たしていった。また手料理を食べることができて嬉しいと素直に伝えるが、テメノスからは「そうですか」と素っ気無い返事がくるだけだった。
食べ終えた頃に「それで」と話しかけられ、それだけで緊張が伝わってきたクリックは姿勢を正す。
「君はどうしたいの。もう私への興味なんてないでしょう?」
テメノスは立ち上がり、二人分の食器を片付け始めた。手伝おうとしたが「座っていなさい」と一蹴されたので、そのまま大人しく座ったままでいることにした。
「興味……といいますか、僕は今も変わらずあなただけを愛しています。これからも大切にしたい。それでは、駄目でしょうか」
ぽつりと思っていることを紡いでいくと、片付け終えたテメノスが再び向かいに座った。頬杖をつくと寂しそうに笑って、あの時の寂しそうな、諦めているような表情を思い出す。
「駄目ではありません。駄目なのはむしろ私の方ですね」
「そんな、あなたは何も悪くない!」
クリックがテーブルに手をつき立ち上がる。それを見上げながら、テメノスは自嘲気味に話し始めた。
「君は私に多くのものを与えてくれました。それだけで良かったのに、愛まで分けようとしてくれた。なのに……せっかく君が私というつまらない人間に興味を持ってくれたのに、私が差し出せるものなんてこの身体くらいです。だけどそれを拒まれたら……君が私と一緒にいる意味なんて、ないじゃないですか」
「……何を、言って」
「私には他に君に返せるものがありません。だから、私はずっと……」
視線を逸らすテメノスの言葉に、クリックは怒りを覚えた。
彼は、先程からずっと自分勝手な事を言っている。自分の価値を自分で決めつけ、もはや価値なんて言葉では言い表せられない程に焦がれているというのに、そんな理由で離れようと言うのか?
「……、テメノスさんの言いたいことは、よく分かりました」
「それは良かった。だったら……」
「では、あなたの身体を求め続ければ僕から離れたりしませんか?」
「……え?」
クリックは立ち上がるとテメノスの方へと向かった。突然のことに慌てているテメノスの腕を掴むと無理やり立たせ、勝手知ったる寝室まで連れ込むとベッドの上に押し倒す。逃げられないように両手をシーツに縫い付けるように押さえれば、テメノスの表情は驚きから戸惑いに変わっていった。
「く、クリックくん……」
脅えを含んだ声はクリックを更に苛立たせた。
何も話せないように無理やり口を塞ぐと拒まれると思ったのに呆気なく受け入れられ、思わず笑ってしまいそうになる。口内を犯しながら彼の服の中へ手を忍ばせる。それだけで「あっ♡」と声が漏れたのが聞こえてきて、どんどん自分が何をしているのか分からなくなってきた。
手を胸元まで進ませると、指先がすでに尖った乳首へと触れた。ふっくらとした乳輪を撫でながら先端を指の腹で弄ると途端に甘ったるい声が溢れており、クリックはがばりと服を捲ってそこへ顔を寄せた。
「あ、ぅ♡くりっく、くん……♡」
吸ってほしそうにぷっくりと熟れた乳首を舌で転がすと、テメノスが腰を揺らし始めた。
「そこッだめ、ダメ♡あ、ァんっ♡」
「でもここ触られるの、好きでしょ」
ちゅう、と強く吸うだけで「ひぁんっ♡」と喘いでいる。もう片方も摘まんだり引っ掻いたりしているだけで、テメノスの息は乱れていった。
「やぁ、んぅ♡ほんとうにダメだってば、ぁ♡あ、や、やらぁ♡」
「いいですよ、イって。おっぱい触られるの大好きですもんね?」
「ちが、あッあ♡イっちゃ、う、ほんとうにイっちゃうから、ぁ――~~ッッ♡♡」
びくびくとテメノスが仰け反る。達したのだと分かり、クリックも服を脱ぎ始めた。
「え、ぅ……クリックくん」
涙こそ出ていないが、何が起こっているのか理解できていないテメノスがぼんやりとした瞳でクリックを見上げている。
クリックは着ていたものをすべて脱ぎ捨てると今度はテメノスの服も脱がしにかかった。先程イったせいで下着まで汚してしまっており、くったりとした性器から糸を引いている。
その間も抵抗は一切無かった。されるがままのテメノスはまるであの日と逆のようだと、クリックは彼の頬を優しく撫でる。
「テメノスさん、言ってましたよね。僕にすべてを捧げるって」
クリックは今朝からサイドチェストへ置かれっぱなしの小瓶を手に取るとテメノスの脚を大きく開かせた。その奥を慣れた手つきでローションを纏った指で撫でるように解す。
そして腹につきそうな程に勃ちあがった自身を待ち焦がれてヒクヒク♡と疼いている媚穴へと宛がった。幾多の行為で、そこはすっかり雄を咥えることに悦びを得るようになっている。
「で、でも。きみが、もういらないって」
「なに勝手に決めつけてるんですか。そんなこと一言も言ってませんよ」
テメノスはずっと理解できていない。クリックが何を言いたいのか。何を求めているのか。
そしてそれは、全てテメノス自身なのだということを。
「ぼくが、あなたを手に入れる為にどれだけ我慢していたか!絶対に離しません、これからも、死ぬまで、ずっと」
「クリックくん、さっきから分かんな、い、ぁっああアッん♡」
大して慣らしもせず、どちゅん!と一気に挿入する。上から押し付けるように突くとそれだけでナカではキツく締められ、クリックの顔が歪む。
「あなた以外なんて欲しくない、求めていないんです。なのに、なのに!」
「い、やぁ♡あ、ぅ……ひ、あんっあア♡クリックくん、くりっくく、ん♡」
どちゅどちゅと奥へ抽挿していると、テメノスはぴゅっ♡ぴゅるっ♡と甘イキを繰り返していた。
(ぼくは、何をやっているんだ)
クリックが首を振ると、テメノスは弱々しい手をクリックの背に手をまわしてきた。一際奥を突いて種付けすると、テメノスは恍惚とした眼差しをクリックに向けながら少しの隙間も埋めるように抱き寄せる。
「テメノスさん……僕、は」
理性を取り戻したクリックが視線を泳がせていると、テメノスは戸惑う男へそっと口付けた。
「クリックくん、もっと……♡」