がちゃがちゃ

盲目的な愛を説く

 そうして次の日になってもクリックは昨夜の出来事が忘れられず、大聖堂前広場での見回り中だというのに落ち着かない様子だった。
 テメノスさん、案外積極的だったな……と恋人の痴態が脳をよぎり、慌ててぶんぶんと首を振る。
 だが、今朝も彼はクリックを惑わせてきたのだ。

 * * * * * * *

 クリックがカーテンの隙間から差し込む朝日を浴びて目が覚めると、目の前には表情を綻ばせたテメノスがいた。
「て、テメノスさん!?」
 飛び起きようとしたのをテメノスに引き留められ、あたたかな布団の中へと連れ戻される。
「おはよう。ぐっすり寝てましたね、あんまりにも寝顔が可愛いので起こさずに観察しちゃいました。ああ、まだ起きるには少し早いので大丈夫ですよ」
 そう言いながらくっついてくるテメノスに、クリックは昨夜の記憶を総動員させた。
 そうか、昨日は愛するテメノスさんへ告白して気が付けば体を重ねていたのだ。そこまで思い出すと互いに裸なのも相まって火が出そうなほど顔が熱くなる。
「あ、あの。本当に僕でいいのでしょうか。あなたは素晴らしい人です、僕のような男よりも釣り合う人がいるのではないかと」
 クリックが不安に思っていることを口にすると、テメノスの人差し指が唇に押し付けられた。それ以上は不要だと言うかのように、視線が鋭い。
「あのね、クリック君。私は君が想いを伝えてくれて本当に嬉しかった。二度とこの光を失いたくないんです。だから、お願いだから……そんなこと言わないで」
 少し寂し気に揺れる瞳を見て、クリックは自分を殴りたくなった。どうして彼を悲しませるようなことを言ってしまったのだろう。テメノスさんは僕を選んでくれたのだから、それに応えるのが男というものではないだろうか。必死にそう言い聞かせて、クリックはテメノスを抱き寄せた。
「すみません、あなたが悲しむことは二度と口にしないと誓います。だから、そんな顔しないでください」
「……ふふ。本当にかわいい子羊くんですね」
 そう言って穏やかに笑うテメノスの頬にキスを落として幸せを噛み締める。ずっと求めていたものが腕の中にある。なんと喜ばしいことか。
 主よ感謝します……と頭の中で唱えながら、ふと、昨夜の出来事を思い返す。そういえばテメノスはやたら手慣れていなかったか、と。

「……あの、テメノスさん。ひとつお伺いしてもよろしいでしょうか」
「はい、なんでしょう?」
 にこりと微笑むその穏やかな表情が歪むか否かは、この後の言葉にかかっている。
「非常に答えにくいこととは思うのですが今後の為に知っておきたくて、えっと……」
「はやく言いなさい。日が暮れてしまいますよ」
「……その、“ああいうこと”には慣れておいでで……?」
 ああいうこと。そう濁しはしたが、テメノスにはそれが意味することは伝わったようだ。
 テメノスとは深い仲になったとはいえ、彼の過去をすべて知っているわけではない。恋愛遍歴など知る由もない。というより、それに関する話題は避けてきた……が正しいのかもしれない。テメノスの年齢を考えると将来を誓い合った人物がいてもおかしくないだとか、故郷に想いを寄せている人がいるのではないかだとか、そんなことばかり考えてしまって知ることが怖かったのだ。
 
 クリックの強張った顔とは真逆にテメノスは穏やかなままだった。あはは、と声上げて笑うとクリックの大きな手を取って、甘えるように自分の頬に当てている。
「まさか、君がはじめてですよ。なぜそう思うの?」
 そう問われ、クリックは感じていたことを正直に打ち明けた。
 性行為に対する抵抗が一切無かったこと、手際も準備も良かったこと、男同士だというのに挿入に手間取らなかったこと。
 聖職者として(聖職者ではなかったとしても)口にするのは躊躇われるような内容をぽつりと紡ぎながら、クリックの表情は更に険しくなっていく。はじめてだと言うのなら、何故あんなにも手慣れていたのかと。

「では、答え合わせをしましょうか」
 テメノスは頬ずりしていたクリックの手を掴んだまま布団の中へと潜らせ、自身の背後へと回させた。何をしているのかと思いつつ身を任せていると、気が付けばその手は彼の後孔へと導かれており、昨夜散々暴いた箇所に触れている。
「私はね、君が思っているよりもずっと拗らせているんですよ」
「こ、拗らせ……?」
「そう。言ったでしょう、全て君に捧げるって」
 より密着してきた肌があたたかい。耳元で艶を含んだ吐息を感じて、無意識に中心が勃ちあがってしまう。それを見破られるとくすくすと笑う声が聞こえてきて、クリックは目を閉じた。
「いいんですよ、君の好きにして。私はいつだって受け入れられるんですから」
 指を一本だけ挿入れるとそこはまだ柔らかく、軽く押すだけでテメノスがもどかしそうに身を捩る。もっと、と強請る様な視線でついに耐えられなくなったクリックはテメノスを組み敷き、二人を覆っていた厚めの布団が床へ落ちていく。
「あなたが、僕を惑わせるのが悪いんです」
「そう思ってくれたのなら光栄ですね」
 こちらを翻弄してくる軽口を無視して後孔に雄を押し当てると、ちゅう、とキスをするように吸い付いて来た。
「ほら、はやく……あ、あッ♡」
 ずぷんっ♡と一気に挿入されテメノスが仰け反る。それに構わないままクリックは抑えつけている身体へと抽挿を続けた。より激しくなっていく動きに抑えていた声が溢れてきて、部屋中に嬌声が響く。
「はァ、あっんン♡クリックくん、くりっくくん……♡」
 媚肉を擦られ喘ぎながらも、きゅう、と締め付けて名前を呼んでくる恋人が愛おしくてたまらない。貪るようにキスをして腰を打ち付けると、その下で善がる男は与えられる快楽を享受しようと必死になっていた。
「テメノスさん、すき、好きです……ずっとあなたのお傍にいますから」
「んンッあ、あ♡わたしも、あッん♡好き、くりっくくんが好き、ぃ……ッ♡」
 びくんっと身体が震えて、互いに果てたのが分かった。
 息を整えていると先程までは僅かだった朝日が濃くなっていることに気が付き、クリックは慌ててテメノスの後処理をはじめた。