がちゃがちゃ

盲目的な愛を説く

 クリックの告白を受けたテメノスは近くで見なければ分からない程に目を潤ませ、こくりと小さく頷いていた。
「本当に嬉しいです。わたしの傍にいてくれた人は、みんないなくなってしまいました。君だけは……クリック君だけは、どこにも行かないでください」
 クリックが「もちろんです」と頷くと、まわりに誰もいないことを知ってか知らずかテメノスは勢いよく目の前の騎士に抱き着いた。こんなことならもっと早く想いを伝えれば良かったと、クリックは目の前の幸せを噛み締める。
 くっついて離れないテメノスをぎゅうと強く抱きしめ返しても、鎧のせいで体温まで伝わってこない。それがもどかしく寂しいと素直に伝えると、顔を上げ見上げてきたテメノスの目が、ゆらりと揺れた気がした。

 * * * * * * *

 恋の成就に浮かれている内に、テメノスに手を引かれたクリックはいつの間にか大聖堂から彼の自宅までやって来ていた。
 あれ……?と不思議に思っていると、薄暗い室内で後ろ手に扉の鍵を閉める音が聞こえた。
「テメノスさん……?」
「私も、はやく君の体温を知りたい」
 そしてもう一度手を引かれ、彼に初めて導かれた時の記憶が蘇る。
「さあ、いらっしゃい」
 あの時もテメノスさんは美しいその声で僕を……と記憶に浸っていると、部屋の奥にあるベッドまで連れて来られていた。
 ぼとり、と木製の床に籠手が落ちて鈍い音が響いた。そして肩当てと次々に脱がされていることに気が付き、そこでやっとクリックはベッドの前で慌て始めた。
「な、な、なにをしてるんですか!?」
「……私は、君に全て捧げるつもりです。だから、ほら」
 脱いで。耳元でそう囁かれ、断れるはずなどなかった。

 あっという間に装備をひん剥かれ(後半はクリック自身で脱いでいたが)、インナーとズボンだけの格好になったクリックは想い人の匂いが残るベッドに座らされていた。
(一体、何が起こっているんだ)
 まだ分からない。思いが伝わったのは分かるが、そこからどうしてこうなったのかが理解できない。
 そうしていると隣にテメノスが座ってきて、艶を含んだ視線で見つめられる。そのまま見惚れて動けなくなっていると、ふいにずっと欲しかった体温が近づいて来て、唇に柔らかいものが当たった。
(テメノスさんと、キスをしてる)
 あまりの出来事に、それを理解するのに数秒かかってしまった気がする。
 啄むようなリップ音を含んだキスを何度も繰り返す。見るとテメノスの瞼は閉じられており、長い睫毛が影を作っていた。
 こんなときの顔でさえ美しいのかと目を離せずにいると、まるで猫がするように唇を舐められた。そして閉じられていた瞼がゆっくりと開かれ、その奥にある二つの翡翠が何も言わずただ静かにこちらを見つめている。
 そこで、クリックは彼が何を求めているのかを悟った。それは自分も同じで、全てを捧げると言った彼に同じように返したい。その一心で、細い肩を抱いて再び口づける。
 今度は先ほどのような可愛らしいキスなどではなく、深く探るように口付けた。舌を入れるとはじめは戸惑っていたようだが、テメノスはすぐに受け入れてくれた。にゅるりと舌先が触れ合う感覚が気持ち良くて、角度を変えながら何度も何度も口を吸う。
「ん、んっ」
 いつもは凛としている彼の落ち着いた声が甘く蕩けている。もっと聞きたいと腰を抱き寄せると、甘えるように首に両腕が回ってきた。溢れる声が大きくなってきて、それが耳から脳へと伝わり余計に思考が鈍っていく気がする。
 そうしているとテメノスの片手が首から胸、腰そして更に下へ下へと降りていった。あ、と気が付いたときにはもう遅い。杖を握る細くて白い美しい手が、すっかり反応してしまっているクリックの下腹部の膨らみを愛おしそうに服の上から撫でていた。
「君が私を欲しがってくれて、嬉しいです……」
 すり、と頬を寄せられながらそんなことを言われれば欲は一層増していき、耳元で微かに笑う声が聞こえた。
 

 そして、クリックはベッドに横たわっていた。テメノスが触れてくる箇所がすべて心地よく、気が付けば彼にされるがままになっている。
 視線だけ彼の方へ送ると、今まさに着ていたものをすべて脱ぎ捨てて一糸纏わぬ姿でクリックに跨っているところだった。
 夢にまで見たような光景が現実になる悦びと恐ろしさが同時にやって来る。クリックがごくりと息を呑むと、テメノスはベッドサイドを指さした。
「一番上の引き出しの中、取ってくれますか?」
 クリックが上半身を起こしてベッドサイドに置かれているチェストへ手を伸ばす。指示通り一番上の引き出しを開けると、とろりとした液体が入った小瓶を発見した。それ以外には何も入っていなかったので目当ての物はこれだろうと、中身が半分ほど減っているそれをテメノスに差し出す。薄暗い中でも分かるが、あれはローションだろう。テメノスが小瓶を受け取ると「君は見ているだけでいいから」と胸を押され、再び上半身がベッドに沈んだ。見ているだけとはどういうことだと疑問に思いながらも、言われた通りに愛しい彼との成り行きを見守ることにした。
 テメノスは小瓶の蓋を開けると、中身を手の平に出して両手で包むようにしている。それから膝立ちになって腰を上げると液体をまとった指を下腹部へと伸ばし、その奥にある場所へ指を滑らせた。
「あッん」
 無意識なのか腰が揺れている。無防備に曝け出された太もも、その中心にある先端が濡れている性器、淡く色づきぷくりと膨らんだ胸元の突起、美しく澄んだ声を生み出す細い喉元、そして理性が追いつかず乱れた表情。すべてがクリックという人間を刺激している。
 ぐち、と濡れる音が聞こえる度に顔が熱くなる。すると愉しそうに笑う声が降ってきた。
「もうちょっとだけ、我慢してくださいね……?」
 溢れたローションが白い太腿と伝っているのが見えて、クリックはそれを指で受け止めながら剥き出しの柔らかい肌を撫でた。
「ひぅ、あっ、ぁ!」
 ひと撫でするだけでテメノスはびくりと震え、先走りがとろりと溢れている。待っているだけなのも辛くなってきたと感じたところで、テメノスが深い息を吐いた。
 そしてクリックの服へと手を這わせ、膨らみをそっと撫でると前を寛げる。現れたものをうっとりと見つめると“それ”に跨る様に体の位置を変えるように動く。そのままゆっくりと腰を落としながら、クリックへと恍惚とした眼差しを向けていた。
 
「この日を、ずっと……ずっと待っていました……♡」
 
 ずぷ、とゆっくり押し込められていく感覚が心地良い。クリックの腹に手をついて腰を揺らすテメノスに視線を奪われてしまう。
「あ、あンっあぁ、あッんン!♡」
 こんな声を聞いて、平静でいられるはずがない。溢れる嬌声を受け脳が溶けてしまいそうだが、クリックは自身の上で乱れながら腰を振る男を更に揺さぶる様に下から突きあげた。
「や、ァあっ♡くりっくく、んダメ、だめ♡」
「でも、テメノスさんすごく気持ちよさそう……」
 駄目だと言いつつ完全に快楽へと身を委ねている。クリックが奥を突くたびに嬌声をあげて、それをひとつも逃さないようにテメノスはうねる隘路でクリックを締めつけていた。
「そこ、もっとぉ♡くりっくくんのおっきぃので、奥、いっぱい擦って♡あッん、おねがい♡」
「は、ぁ……テメノスさんのなか、きもちいいです」
「わたしも、きもちぃ……ひぁっ♡あ、ん!もうイく、イっちゃ、う……ッッ♡」
 クリックが欲を吐き出すと、テメノスもびくびくと震えながらぴゅるっ♡と可愛らしく吐精していた。そして乱れた呼吸を整えようと浅く息をしていたので、クリックは体を起こすと愛しい人を抱きしめてキスをした。
「愛しています、テメノさん。これからも、ずっと」
 その言葉にテメノスは花が咲く様に微笑み、互いの汗ばんだ肌をより密着させてきた。
「嬉しい、クリックくん……絶対に、離しませんからね」
 
 こうして新米聖堂騎士の童貞は、この世で最も愛する異端審問官様に奪われてしまった。