persona
(クリック視点)
テメノスさんは可愛い。
ものすごく可愛い。
あの魅力を分かっているのは自分だけ……と思いたいが、どうやらそうではないらしい。
というのも、テメノスさんがストームヘイルへ訪れた際に、彼へ近づこうとする騎士を見かけることが頻繁にあるからだ。
はじめは異端審問官という珍しい職に興味を持って声をかける者が多いのだと思った。だけどよくよく様子を窺ってみると、会話の内容の節々から下心がにじみ出ていることに気が付いてしまったのだ。
大抵は僕が通りがかる振りをしてけん制するのだが、今日は手ごわそうだ。
当のテメノスさんはその下心を知ってか知らずか逃げようともあしらおうともしていない。快く会話に応じ、にこやかに話を続けてしまっている。その会話に急に割り込むのも怪しまれるかもしれないし、今テメノスさんに声をかけているのは僕よりも上級の騎士だ。どう対処すべきか……と考えていると、その騎士の手がテメノスさんの腰へ触れようとしているのが見えてしまった。
「――すみませんッ!」
結局、僕は二人の会話に割って入ってしまった。
騎士は怪訝そうに僕を見て、テメノスさんは首を傾げながら頭に「?」を浮かべている。今かわいい仕草なんてするな、気が散るから。
「テメノス審問官をお連れするよう、オルトから連絡があったので……失礼します」
オルトの名前を出せば、その騎士は大人しく頷いてくれた。勝手に友人の名前を借りるのは心苦しいが、これしか方法が思いつかなかった。
僕は内心胸を撫でおろしながら頭を下げ、テメノスさんを廊下へ連れ出し、そこで説教の一つでもくれてやろうと思ったのだ。
しかし。
「子羊くんが来てくれて助かりました。あの人のお話、やけに長くて。どうしようかと思っていたんです」
ふふ、と笑みをこぼす姿が眩しい。ああもう可愛いなぁ……なんて見惚れている場合ではない。
この人はガードが固そうで、案外緩い。誰にでも分け隔てなく接するし、どういうつもりなのか笑顔を振りまくものだからそれに騙された輩が寄って来るのだ。本人にはその気が無いのだから質が悪い。
おまけに見目が良いので、中性的な容姿に魅了された男どもが彼を男性だと知っているにも関わらず近づこうとしてくる。危険なことこの上ない。
まあ、僕も似たようなものではあるが……。
「テメノスさん、駄目ですよ。ああいうのは適当な所で逃げなければ」
僕は怒っているはずなのに、何故だかテメノスさんは楽しそうに笑っている。
「君は騎士なのに私の味方なんてしていいの?」
「確かに騎士ですが、今は男として言ってるんです。あのまま僕が何もしなければ――」
しなければ、の続きを待つテメノスさんの瞳の無垢さに、僕はやられてしまった。何が起こるかなんて、何も分からないという顔をしている。
「……とにかく、何かあったらすぐ呼んでください。いいですね?」
「はいはい。頼らせていただきます」
そう言って頬を染める姿に翻弄されている僕の身にもなってほしい。
僕は、ここでしかテメノスさんを守れない。彼がフレイムチャーチや別の場所で同じような目に遭っていたとしても、どうすることもできないのだ。
自分の無力さや立場が身に染みる。どこへいても彼を守る口実が欲しい。
そう、例えば――。
「……例えば恋人、だとか」
意識が戻ってくる。酒場の一角でテメノスさんとの食事中、なぜか恋人の有無を訊ねられてしまった。
見れば、少し緊張気味にテメノスさんはこちらを見つめていた。頬を染めて、熱っぽく瞳を揺らして、こちらの反応を窺っている。
どう考えたって僕に対する好意にしか思えないその言動に、頭を抱えたくなる。もしこれで本当に僕にこれっぽっちも好意が無いのだとしたら今度こそどこかで痛い目に遭うのではないかと心配になるほどだ。
誰にでもこんな顔を見せるわけではないのだと知りたかった。僕を、僕だけを見ているのだと、教えてほしい。
恋人はいないと答えるとテメノスさんは分かりやすく安堵していた。きっと心の中では慌てふためいていることだろう。その様子を想像するとおかしくて、愛おしくて、なんて可愛い人なんだと胸の奥が苦しくなる。
もっといろんな顔を見せてほしい。僕しか知らない、他の人には見せない姿を知りたい。
だから、ほんの少し……自分の中の意地が悪い一面が、顔をのぞかせてしまった。
「なんでそんなこと訊くんですか?」
訊くと、テメノスさんはさっと顔を反らした。
「……別に、他意はないです」
確定だ。下手な嘘をつくぐらいなら黙っていた方が良いですよ、なんてアドバイスは今更無意味だろう。
少なくとも、彼は僕のことを多少なり好いていることは分かった。あとはどうにか事を進めたくて、恋人はいないが好きな人はいる、だなんて言ってしまった。もはや告白したも同然だ。
だというのに、テメノスさんは悲しそうな顔をしている。これは、確実に勘違いをしている。
それからは、僕の弱さを彼に知られてしまった。
強がってはいても、僕は結局のところテメノスさんを子どもの様に独り占めしたかったのだ。
もう彼のいない世界を想像できないし、そんな世界で生きていたいとも思わない。だから全部打ち明けた。
こんな穢い男を、あなたが好ましく思ってくれていた純粋さは見せかけであることを、どう受け止められるのか怖かった。
だが。
「私のこと、いっぱい愛してくださいね……?」
テメノスさんは僕と、僕の奥に眠る獣までまるごと愛してくれた。
ぜんぶ受け止めてくれた。
そして、気が付けば彼と一夜を共に過ごしてしまった。
僕の上で乱れに乱れたテメノスさんを視界に焼き付けたくて一瞬たりとも目を反らさなかったが、それよりも彼の持つ別の顔を探る方に必死になってしまった。いつもはふわふわとして掴み所が無いのに、僕に対する異常とも呼べるような重たい何かを感じ取ってしまったからだ。
あれが本性なのか演技だったのかは分からなかったが、今なら答えを導き出せる気がする。
* * * * * * *
フレイムチャーチでの穏やかな夜。辺りはしんと静まり返っているというのに、この家の中はひどく乱れていた。
想いが通じ合ってからというもの、僕はテメノスさんの自宅にまで招かれるようになった。
そして、顔を合わせるとなれば必ずと言っていいほど身体を繋げている。今日も例外ではない。僕の下で、テメノスさんはいつものように猥らに善がっている。
「んッあ、ああっあ、あん♡そこ、きもち、ぃ、あッんン♡」
テメノスさんは、痛いことも気持ちいいのだと言った。だからこうして、わざと奥へと抉る様に突いている。
それから、もうひとつ分かったことがある。彼は誰かにはっきりと向けられる感情に、ひどく弱い。
「やらしい顔したテメノスさん、すごく可愛いです」
例えば、可愛いという言葉。
本音なので直接伝えているが、これを言うと必ずテメノスさんはキツく締めてくる。もっと、と言っている様にも見えるので何度でも言ってしまうのだが、あんまり数を出し過ぎると恥ずかしがってしまう。それもまた可愛いのだが。
「うう、かわいくなんか、ない……んッん、や、あぁ♡」
「嘘じゃないですけど、恥ずかしがってる姿も好きですよ」
例えば、好きという言葉。
これも正直に何度も伝えている。「もっと」と強請る様に腰を揺らして、種を注げと急かしてくる。
こんな彼の性質に、僕はすっかり囚われてしまっている。だって、しかたがないじゃないか。可愛いと思うのも、好きだと思うのも、すべて本当のことなのだから。
ひどく乱れたままのテメノスさんを貫きながら、彼の胸元へ手を這わせる。何度も彼を抱くようになってから、はじめからそうであったように反応がよくなった。
「ん、ぅ……♡」
ぷくっと膨らんだ乳頭と淡く色づいた乳輪を撫でるだけで、びくびくと身体を震わせている。これが演技でないと言うのだから、とんでもないことだと思う。
「あ、んンッ♡そこっ好き、ぃ♡は、あア、もっと触って、ぇ♡」
つまんだり擦ったりを繰り返している内に更に顔を蕩けさせて、今では可愛くおねだりまでするようになった。何も教えていないのに、なんということだ。
きゅっと摘まむと、彼の中心からぴゅるっと熱が溢れた。それを見届ける前に腰を掴みなおして深く突くと苦しそうに啼いた。
「や、ああ♡今だめだってば、あっあん♡やぁ、ああッ♡」
「だって全然嫌そうじゃないですよ」
「でも、あ、ああ♡きもちよすぎて、ん、んぁ♡頭おかしくなっちゃ、う、ああァ……♡」
なんだそれ。もう僕たち二人ともおかしくなってますよ、と言ってやりたい。
抽挿の途中で繋がっていたモノを抜くと、何度か出した精液がそこからぐぷりと溢れ出してきた。だというのに、まだ足りないとヒクヒクと疼いている窄まりが誘ってくる。思わずため息をついてしまった。
腰から太ももへ持ち替えて、今まで繋がっていた箇所が僕から丸見えになる様に上へ向かせる。
「クリックくん、それ……」
不安と期待が入り混じった瞳が僕をぼんやりと見つめている。この人は本当に、僕を煽るのが得意だ。
だからそこへ自身をあてがい、体重を乗せてどちゅ、と上から深く腰を押し付けた。
「や、あッあああ♡」
射精の回数など覚えていないが、きっと許容量を超えているのだろう。テメノスさんからはサラサラと、力なく液体が溢れている。
「挿れただけでイってるの、何回見ても可愛いです」
「も、やだ、あ……あんっだめ、ダメだってばぁ♡あっあァ、ああ♡」
「嫌ですよ、もっとあなたの可愛いところ、見せてもらわないと」
ぐぽ、と最奥を抉るとテメノスさんはまたびくびくと身体を震わせた。この人は僕にここを突かれるのが好きで、でもそれを恥ずかしいと思っているのか、必死に隠そうとしている。可愛いので黙っているが。
抽挿の途中、テメノスさんはふるふるとシーツを掴んで耐えていた。僕のことを子羊呼ばわりする癖に、僕に抱かれているときの彼は森の中の野うさぎの様なのだ。
そんな中、僕の限界を悟った彼は小さな口を開いてまたもや可愛らしくおねだりをしてみせた。
「なかに、くださ、ぃ……ぜんぶ、受け止めますから……ッ♡」
最後は外に出そうとしていたのを悟られてしまったようだ。
その観察眼はどこからくるものなのか分からないが、強請られてしまったので僕は言われた通りにするまでだ。
* * * * * * *
行為後、テメノスさんの身体を気遣うも彼はいつも「平気です」としか言わない。
「平気なわけないと思うんですが……と、好き勝手しておいて僕が言うのもおかしな話ですが」
「いいんです。私、君に好き勝手されるのが好きなんですから」
言いながら、テメノスさんがベッドの上でぎゅうぎゅう抱き着いてくる。やばい、収まったはずの熱がぶり返しそうだ。
まずいことになる前に彼を引きはがし、後処理をする。綺麗になっていく身体を見ながら、一方で彼に残った痕を見る。赤い虫刺されの様なものから歯形まで、見えはしないが自分にも同じようなものがついているのだと思うとやっぱり熱がぶり返しそうだった。
見ていることに気が付いたのか、テメノスさんが僕の首や肩へなぞる様に触れてきた。きっとそこに彼と同じ痕があるのだろう。
「ふふ、こういうの、なんて言うんでしょうか。独占欲?」
にこにこと語り掛けてくる姿が恐ろしい。独占欲というより、これは……。
「私、君にだったら牢に閉じ込められたって幸せだって思える気がします」
テメノスさんが僕の耳を食む。ああもう、せっかく綺麗にしたのに。この人はどうやら、まだ足りないらしい。
その化け物じみた言動も愛の一種だと思って、彼が僕を愛してくれたように、僕もまるごと愛そうと思った。