がちゃがちゃ

persona

 窓を閉め切り、明かりを消した宿の自室は暗闇に近かった。目が慣れたおかげでかろうじて自分と相手の姿は見えている程度だ。
 しかし、今ははっきりと見ていたくはないので助かった。暗闇ではなかったら耐えられなかったかもしれない。
 だって――。
「ん、あッああアぁ♡あんっあ、ああ♡」
 私は今、寝そべるクリック君に自ら跨って、淫らに腰を振っている。
 脱ぎ捨てた互いの衣服を気にすることもせず、善がる声を抑えることもせず、口の端から垂れる唾液も気にすることもせず。身体の奥を貫くモノを必死に窄みで咥え込み、全身で快感を得ようとしている。
 どうして、どうして、こうなってしまったのだろう。記憶の糸を手繰り寄せてもまったく分からない。
「テメノスさん。ほら、言ってください。僕のこと、どう思ってるんですか……?」
 寝そべったまま私を見上げたクリック君がにこりと微笑み、甘い声で名前を呼んでくる。
 それに誘われるように私は口を開き、なんとか喘ぐ以外の声を絞り出そうとした。
「す、好き……あ、ぁ♡クリックくんが、すき……ッ♡」
 言葉を発している最中も容赦なく下から突かれるので、意識が飛びそうになる。ナカを抉る様な抽挿のせいで、視界も危うい。
 だけど更に強い刺激でクリック君が私の奥を暴こうをしてくるので、意識が呼び戻されてしまう。
「嬉しい、僕も好きです。ずっと、ずっと……あなたのことだけを想っていました。どうしようもないぐらい愛してるんです」
「ほんと……?」
「もちろん」
 愛の言葉を贈られる度にナカにいる彼自身をキツく締め付けてしまう。きゅん、と下腹部が疼き、与えられる快感は増すばかりだ。
「……僕に好きって言われて気持ちよくなってるテメノスさん、すごく可愛いです」
「やッ、アああっ♡んン、あぁ――……~~~ッ♡♡」
 腰を掴まれ、深く挿入される。何度目の射精か分からない。勝手に揺れる腰が止まらず、ぴゅるぴゅると先端から溢れさせる自分の様子に頭がおかしくなりそうになった。

 * * * * * * *
 
 ――そうだ。クリック君に好きだと告げられたあと、彼は私の気持ちにも気が付いていると言った。
「テメノスさん、僕のこと好きですよね」
 そう言われて、言葉を出せなかった私は頷くほかなかった。
 そんな私を見て、彼は嬉しそうに私を抱き寄せて、嬉しいと囁いていたことを覚えている。
 私もクリック君の胸に顔を埋めながら喜びをかみしめていた。誰かと心が通うことが、こんなにも満たされることだったなんて!
 幸せに包まれながらクリック君の腕の中で彼を見上げた。すると、笑顔の先の、澄んだものが私を射抜いていた。
「僕、本当にあなたのことが好きなんです」
 すう、と何かが消える音が聞こえた気がした。
「誰にも渡したくなかったし、触れられたくなかった。でもそんな考えは良くないって分かってたから、ずっと必死に抑えてきたんです。あなたに嫌われたくなくて、我慢して……」
 私は、クリック君のことが好きだ。とくに、彼の透き通るような目が好きだ。
 嘘も穢れも無い、彼自身を表したような無垢な瞳が私を見ている瞬間が好きだった。
 だけど、今は。
「こんな僕を知って、嫌いにならないでください。あなたが嫌がることは全部やめますから。お願いだから……」
 今にも泣きだしそうな、弱い弱い、未熟で臆病な男の目。
 私に嫌われることだけを恐れ、自分を偽る卑怯者の目。
 そんな目を持ったこの男が、愛おしくてたまらなくなった。

「クリック君、脱いで」
 私は起き上がり、ベッドの上で自分の服を脱ぎ捨てながら彼に言い放った。
 クリック君は「何を言ってるんだ」と言いたげにこちらを見ている。当然の反応だ。
「そんなにまで私のことを愛してくれている君になら、すべてを捧げたっていいと思ったんです」
 ある程度脱いだところで彼がまだ動いていなかったので、その服に手をかけると抵抗された。
「でも、だからって!」
 私の手に一回り大きな手を重ねながら、クリック君が顔を赤くしたまま反論してくる。
 ここまでしておいて今更真っ当な人間を演じるのは、あまりにも滑稽ではないだろうか。
「君は私に嫌われたくないと言いましたね。嫌いになんか、なるはずないじゃないですか。どれだけ酷いことを言われても、暴力を振るわれても、例え剣を向けられたって、私は君を愛したまま死ねますよ」
 はっきりと伝えると、クリック君の手から力が抜けていったので服を脱がせにかかる。
 シャツのボタンを外し、現れた見事な腹筋の指でなぞる。私にはないものを彼はいくつも持っている。それを私が、私だけが、触れるのを許されている悦びをなんと例えたら良いのか分からない。
 下も脱がしながら彼にキスをした。人生で初めての口付けは、さぞ稚拙なものだっただろう。だけど彼は笑いもせず、ただ受け入れてくれている。舌先が触れあって音を立てながら口内を味わおうとする目の前の男の目は、まるで獣のようだった。
 それを見て、身体の奥が疼いてしまう。
 だから、彼も私も同罪だ。自分だけが汚れているだなんて、烏滸がましいにもほどがある。
 
 私は部屋の明かりを消すと、すべて脱ぎ去ったクリック君を仰向けに寝かせて自分から彼に跨った。男同士の繋がりは生産性を持たず意味がないはずなのに、心だけでは満足できない私はこうして交わろうとしている。どうにかして彼を手に入れたいし、受け入れたいのだ。それにはこうする他ないし、彼に私を穢してほしかった。
 身体への負担など気にも留めていなかった。私がほんの少しの知識で跨ったまま準備を行っている間も、クリック君は戸惑っているままだ。
 大して慣らさないまま膝立ちになり、触れてもいないのに既に天を向いて勃ちあがっているソレに後ろ手に添えて、目的の場所へとあてがう。ぴとりと触れただけでびくびくと脈打ち質量を増していく手の中のモノは見えてはいないけれど、きっと想像以上に大きい。
「私のこと、いっぱい愛してくださいね……?」
 ゆっくり、ゆっくりと腰を落としていく。先端が割り入ってくるだけで、信じられない圧迫感があった。苦しいとか、痛いなんてものじゃない。
 だけど、そんな苦痛さえ今の私には快楽でしかなかった。クリック君が与えてくれるものすべてが愛おしいから、何も拒むつもりは無い。
 なんとか浅い所まで挿入って、息を吐く。見れば、クリック君は不安げに眉を下げていた。
「なんで君がそんな顔をしてるの」
 思わず笑みが零れた私は彼の頬を撫でた。
「だって、まだ夢を見ているような気がして……テメノスさんが、僕に、こんな」
「余計なこと考えないで。私は夢ではなく本物だし、君のことを愛してるんです。酷いことも痛いことも、何ひとつありません」
 私は笑っているはずだ。なのにクリック君は悲しそうに目を細め、私の腰を撫でている。
「さすがに嘘だって分かりますよ、何もないはずがない」
「変ですよね、私だってそう思います。でも不思議と……痛いのに嫌ではないし、もっと欲しいって思ってるんです」
 言いながら、ぐ、と腰を沈める。
 みしみしと隘路が悲鳴をあげているが、何も気にならなかった。
「だから、そのまま……私のこと、ぜんぶっ受け入れて、おねが、ぃ、あッん、あァ♡」
 ずぷんっと半分ほど収まり、呼吸がひどく乱れていく。手を後ろについて、繋がっている箇所が彼に丸見えであることも構わず欲望のまま腰を揺らした。
「ほら、子羊くん。もぅ、こんなにはいっちゃいました……♡」
 動くたびに、ぐちゅ、と垂れた津液が音を立てる。限界が来たのか、いつの間にかクリック君も動いていて下から私を突いている。これだけでも耐えるにはギリギリだというのに、クリック君は私の腰を掴んで深くピストンさせてきた。
 その瞬間、二人の律動が合わさってより深く繋がってしまい、びりびりと全身が痺れるような感覚が訪れた。
「あ、んぁっあ♡はぁ、だめっイっちゃぅ、あん、ああッ♡」
「ッいいですよ、僕も、もう……、……ッ!」
 どちゅ、と深く暴かれた感覚があった。刹那、奥へ種を注がれると同時に私の熱も放たれていた。
「あ、あ――……♡」
 力が抜けていくがなんとか倒れないよう持ちこたえ、前側へ手をつく。
 視界の端で、乱れた呼吸を整えている私を捉える、ぎらりと光る何かが見えた気がした。