がちゃがちゃ

プリズムに陥落

「いいですよ」
 薄暗い寝室で、自分の口から出た言葉に驚く。クリック君まで驚いている。そんな簡単に決めてしまっていいわけがないが、どうしたってもう逃げられないだろう。
 或いは、このとても悪魔とは思えない夢魔には「ノー」と言えば退いてくれたのかもしれない。
 しかしそんなことは出来なかった。きっと私は、彼のことが好きだ。経験が乏しい私にはそれがどういった類の好意かは分からないが、ロイに向けるものとは違うという事ははっきりとしている。
 それに、彼に求められたことは素直に嬉しかった。夢の中で彼が話していた“運命の相手”に嫉妬していたことを思い出す。あれは自分だったことを知ったとき、正直信じられないぐらい嬉しかった。
 ずっとうるさい心臓を鎮めるためにも、私は彼に身を捧げても良いと思えたのだ。

「だけど私、本当になんの経験も無いので……面倒だったらすみません」
 自分の性経験について他人に話すことなんて今まで無かったので、なんだか気まずくなる。それを紛らわせるためにぎゅっと服の裾を掴んでいると、その手に私のものよりも大きな手が重ねられた。
「大丈夫ですよ。ぜんぶ僕に任せてください」
 言いながら頬にキスを落とされる。
 何もないとは言ったが、幼少期に戯れでロイとキスの真似事をしたようなことはある。あの時は恋愛のレの字も知らず、キスというものは『仲が良い人同士でやる行為』という認識でしかなかった。
 もう少し大きくなってキスの本来の意味を知った時はとんでもないことをしたと慌てたものだが、ロイは何も気にしていなかったので自分の中ではノーカンだと捉えている。
 そんなことを考えていると腰を抱き寄せられて、お互いの胸がぶつかった。どきどきと脈打つ心臓の音がバレてしまわないか心配で、そわそわしてしまう。
「今は僕以外のヒトのこと、考えたら駄目ですよ」
 見透かされている。
 そもそもロイはそういう対象ではないので、どちらかと言えば夢魔とこんなことをしていることがバレた時にはどう言い訳すべきかと考えているが、もうどうでも良くなってきてしまった。
 
 * * * * * * *

 はじめて他人と唇を重ねたが、こんなにも気持ちがイイ行為だとは知らなかった。それとも相手がクリック君だから、なのか。
 ゆっくりと深くなっていくキスに鼓動が高鳴っていく。にゅるりと舌が入ってきて、絡められ、口内を暴かれていく。
 潔癖と言うわけではないが、他人の口内なんて理由も無ければ見たいとも触りたいとも思わなかった。
 しかし、今こうやって舌で触れているとたまらなく気持ちが良い。それどころか甘いような感覚があって、夢中になって貪ってしまう。これも夢魔の力なのだろうか。
「ん、あ……ッ♡」
 たまらず声が出てしまったが、どういうわけか気にならない。
 舌先が触れるたびにびりびりと背筋が痺れて力が抜けそうになる。
 しかしクリック君がしっかりと支えてくれているので、私は安心して彼に体重を預けていられる。こんなにも誰かに甘えて身を任せるだなんて、生まれて初めてかもしれない。
 私を欲しがっている男の首に腕を回して、しっかりと身体を密着させながら何度もキスを繰り返す。そうしていると彼の中心が兆していることに気が付いた。
 相手の表情を盗み見ると、相変わらず余裕がない表情をしていた。飢えた獣、とまではいかないが、目の前の獲物を喰らうことに必死な顔をしている。
 それを見て嬉しいと感じてしまう自分も大概ではあるが、どうにも収まりそうにない。キスを続けていると服の中に大きな手が忍び込んできて、びくりと肌が震えた。
「すみません、嫌だったら言ってくださいね」
 随分と優しいことを言う悪魔だ。嫌なことなんて、きっと何ひとつ無い。
 肌を這う手が上がってきて、胸までやってきた。そのまま反応しかけていた突起の片方をぐにぐにと指で潰されたり撫でられたりして、無意識に腰が揺れてしまう。
「ぁ、んぅ」
「ここ、気持ちいいですか?」
「わかんな、ぃ……♡」
 甘く尖った乳首をコリコリ♡と引っ掻かれ、呼吸が荒くなっていく。
 同時にもう片方のぷっくりと膨らんだ乳輪をすりすりと指の腹で擦られて、もどかしさに太ももを擦り合わせてしまう。
「なんか、それ、ヘンになるぅ……、あッあ♡」
 服を捲られ、今度は露わになった乳首を舐められた。先ほどまでキスをしていた彼の舌がそこを這っているのが見えて、全身が熱くなる。
 ぬるりと舌に乳首をツン♡と突かれたり吸われたりして、溢れる声も止まらない。全身が悦んでいるのが分かる。
「やァ、あ……あんっあ♡も、だめ、ぇ♡」
「ダメ、なんですか?」
 ダメという言葉に反応して、馬鹿正直にクリック君の手が止まる。そういう意味ではないと伝えたいのに言葉が出てこない。
「ちが、そうじゃなくて……あ、ァあっんン♡」
「本当は気持ちいいんですよね、分かってますよ」
 ちゅう、と強く乳首を吸われて強い刺激が流れ込んでくる。
 善がる身体が疼いてやまない。ぴくんっ♡と腰が跳ねて、乳首だけでイってしまったのだと分かった。
 クリック君もそれに気がついたようで、あっという間に下着と一緒に着ていたものを脱がされてしまった。いつの間にか彼も裸になっている。
 先程達したせいで、くったりとしている先端はとろとろと滴っている。恥ずかしいはずなのに見てほしくもあって、自分が分からなくなった。
「テメノスさん、かわいい」
 言いながら再びキスをされる。かわいいと言われたことよりも、彼の中心がとんでもなく主張していることの方が気になって目を反らせない。
 そんな私の視線はバレていたようで、手を掴んで触れさせられた。手の中でどくどくと脈打つそれに興奮しないと言えば嘘になる。
「……大丈夫ですよ。今日は挿入れませんから」
 今日は、とは。いつかは挿入られるのだろうか。そんなことを考えると、もっとどきどきしてしまう。
 二人の距離を縮めて、クリック君が私の萎えたものに触れる。それだけで反応してしまって恥ずかしい。
 そんなことを気にする間もなくお互いのモノが擦れるほどに身体を密着させられた。クリック君の大きな手が私の手に重なって、二つのものを一緒に包み込んでいる。
「手、動かしてください」
 耳元で囁かれてぞくぞくと感じながら、言われた通りに手を上下させる。触る程に質量が増していって、色も形も私とまったく違って本当に自分と同じものなのか分からない。
 先走りが溢れて指に纏わせながら、くちゅくちゅと音を立ててお互いを同時に扱く。はぁ……♡と吐息が溢れて、そうしているとただ私を眺めているだけだったクリック君が再び胸へと触れてきた。
「ひ、ぁ♡」
 くに♡と両方の乳首を扱かれる。指先で弾いたりしながら私の反応を窺っているようで、自分の手に集中できなくなってしまう。
「ほら、手が止まってますよ」
「だって、ぁ……あ♡これ、こんなの無理、ぁンっ♡だめ、だめェ♡」
 乳首を弄られながら他人と自分の性器を擦り合わせて、一体何をやっているのだろう。だけど堪らなくキモチイイ。ずっとこうしていたい。
 そのまま続けていると、クリック君が深く口づけてきた。舌を絡ませながら、お互いの絶頂が近いことが分かった。
「クリックく、んっも、だめぇ♡イく、イっちゃ、ぅ♡」
「僕も……テメノスさん、ずっと好きでした、僕の手でイってください」
「は、ぁんッああ♡や、あぁァ……~~~ッッ♡」
 ぴゅるるっ♡と自分の性器から吐精され、少し遅れてクリック君のものからもびゅるびゅると勢いよく吐き出されているのが見えた。
 その間もずっと手の中では力強く脈打っていて、出し切った後はクリック君に抱き着いて私からキスをしていた。
「好き、……私も、君のことが好き……♡」
 夢ならば覚めないでほしい。お願いだから現実だと言ってほしい。
 だけど意識が遠のいて行く。行かないで、と手を伸ばすことも出来ぬまま。