がちゃがちゃ

わたしは月を見ている

 久しぶりの長期休暇、そして恋人と過ごす時間。それだけで足取りが更に軽くなる。なんとか休みを勝ち取った僕は、フレイムチャーチに辿り着くと早速テメノスさんを探した。彼の自宅の場所は知っているが、まだ日が傾く前のこの時間なら教会にいるかもしれないからだ。
 しかし教会へと続く道を歩いていると、すぐに探していた本人を見つけることができた。
「いらっしゃい、クリック君。思ったよりも早い到着ですね」
 テメノスさんはいつもと変わらない笑顔で出迎えてくれた。ちょうど家に帰るところだからと、二人で並んで家までの穏やかな道を歩く。
「僕ももう少しかかると思ったんですけど、テメノスさんに一秒でも早く会いたかったので頑張って急いで来ました!」
「……」
「あれ、テメノスさん……?」
 元気よく返事をしたつもりだったが、隣を歩く恋人は黙ってしまった。聞こえなかったことはないはずだが……と考えているうちに彼の自宅に到着する。
 テメノスさんは無言のまま玄関の鍵を開けると僕を招き入れた。「荷物を置いて良いですか」と訊ねると、バタンと大きな音が鳴り響くほど勢いよくドアを閉めている。
 一体何事かと振り返るとものすごいスピードで飛び掛かるように抱きつかれてしまい、持っていた荷物が鈍い音をたてて床に落ちてしまった。
「もう!本当になんで君はそんなに可愛いんですかっ!!」
「えっ、え……?」
 今日はいつもの鎧ではなく私服なせいで、ぎゅうぎゅうと抱きついてくるテメノスさんの体温を告白をした日よりも強く感じる。きゅ、と目を閉じて力の限り僕を抱きしめているテメノスさんを剥がして、何が起こっているのか理解できないと正直に伝えた。
 すると、なんとか冷静さを取り戻した彼は「だって!」と声を張り上げ肩を震わせている。
「君があんまりにも可愛いことを言うから……!外で我慢できなくなりそうで大変でしたよ。もっと時と場所を考えてください!」
「それって僕が怒られることなんですか?」
「それはそうでしょう」
 本当にそうなのか……?と考えていても仕方がない。テメノスさんが言うのだから、そうに違いないのだ。

 その後、僕たちは言葉の通り戯れあった。
 早めの夕飯を済ませると、普段の法衣からラフな格好に着替えたテメノスさんが引っ付いてきた。彼は誰も見ていないところではこうして甘えてくるのだと知って嬉しくなる。
 また髪を撫でたいのかと思ったが、どうやら違うらしい。僕は彼の手によりいつの間にかベッドまで連行されていて、そこで彼が何を望んでいるのか気がついてしまった。想定していたステップよりも三段飛ばしのスピード感でついていけそうになかったが、彼にされるがままにベッドに押し倒されてしまう。
 ああ、ついに愛する人と繋がる時がきたのか……こんなにも早く……主よ、心の準備をお与えください……などと脳内で唱えていると、なぜかテメノスさんまでぼくの隣に寝転んだ。
「……テメノスさん?」
 なんだか思っていた展開と違ったので名前を呼ぶと、テメノスさんはそのまま僕に抱きついてきた。甘えるように体を密着させて、髪をわしゃわしゃと撫でられて、そして首筋に顔を寄せてたかと思えば幸せそうに目を閉じている。すん、と匂いを嗅がれていることに気がついた僕は慌てた。だってまだシャワーを浴びていないし、汗臭いに決まっている。
 だけど彼は離れようとしなかった。それどころか「もっと近くに君を感じたいんです」などと可愛いことを言っている。
「あの、テメノスさん」
「なんでしょう」
 ごくりと喉が鳴る。ずっと求めていた大好きな人にこんなことをされて、黙ったままでいられるわけがなかった。
「僕も、テメノスさんに触れてもいいですか……?」
 僕の問いかけに、テメノスさんは頷いた。
「もちろん。君にならどこを触られてもいい……いいえ、余すことなく触れられたいです」
 だから、来て。耳元でそう囁かれた僕の体は火がついたかのように熱くなる。気がつけば同じように彼を抱き寄せて、お互い寝転んだまま唇を重ねていた。

「ふ、ぁ……キス、気持ちいいです……♡」
 うっとりと蕩けているテメノスさんの瞳に僕だけが映っている。ぜんぜん足りなくて何度も口付けていると、彼の方からおずおずと舌を絡ませてきた。
 それが嬉しくて、きっと僕は調子に乗ってしまった。愛しい人とのキスに溺れるあまり、無意識のまま己の欲を表す芯を彼の太ももに擦り付けていたのだ。
 すり、と擦らせているとテメノスさんがもじもじとし始めた。
「あ、の……クリックくん、これ」
 遠慮がちにそこへと手を伸ばした彼に、服の上から優しく撫でられる。
「……、……うわああッ!?」
 付き合って間もない恋人に何をしてしまったのか気がついた僕は、慌てて飛び起きてベッドの上で頭を下げた。無意識とは言え最低すぎる。
「ご、ごめんなさい!ぼくっあの、そんなつもりじゃ……ないと言えば嘘になるんですけど、でも……」
 一体何を言っているのか自分でも分からなくなる。恐る恐る顔を上げると、そこには体を起こして顔を真っ赤にさせたテメノスさんがぺたりと座り込んでいた。
「私は、……」
 テメノスさんは自分を抱くようにして、うずくまってしまった。大切な彼を傷つけたかもしれない。もう一度深々と謝ると、再び抱きついてきた彼から「違うんです」と返ってきた。
「その……突然のことにびっくりしてしまって。でも、君が私のことをそういう目で見てるって分かって嬉しいんです、嘘じゃありません」
 テメノスさんは僕から離れて、もじもじと太ももを擦り合わせている。そしてキスをしていた時と同じ様にうっとりと両目を蕩けさせると、膨らみに触れてきた。
「テメノスさん、大丈夫ですからっ!」
 彼がこれから何をしようとしているのか理解した僕は、その手を取りこれから止めさせようとした。しかし、ふるふると首を振ったテメノスさんは続けようとしている。
「いいんです。私はもっと君のことが知りたい、君に触れたい。駄目ですか……?」
 このソリスティアに、あざとく首を傾げる異端審問官に求められてノーと言える男がいるわけがない。いたとすれば異端か、もしくは頭がどうかしているかのどちらかだろう。
 
 テメノスさんが僕の窮屈そうにしている部分を寛げて下着を少し下ろすと、勢いよくソレが飛び出してしまった。彼がまじまじと見つめてくるものだから「あんまり見ないでください……」と小声で訴えるが聞き入れてもらえず、撫でる様に白い指を絡められる。
「すみません、他人のものを見るのは初めてなので……私のとは、ぜんぜん違うんですね……」
 おっきい……♡なんて口走られたせいで更に質量と硬度が増していく。テメノスさんが育つばかりの血管が浮いた僕のペニスを綺麗な手で扱き始め、室内に卑猥な音がして響いた。
「ん……、気持ちいいですか?」
「はい、とてもきもちいい……です……ッ」
 はぁ、と吐息混じりの熱を持った彼の声が芯に響く。溢れる先走りがテメノスさんの指を汚しており、それがなんだか見てはいけない光景な気がしてきて背徳感に包まれた。ぐちゅぐちゅと音をたてながら懸命に手で扱き続けるテメノスさんを見る。正直イけそうにはないが、こうして触れてくれているだけで天にも昇る様な気持ちなのは確かだ。
 しかし、テメノスさんの表情は何かを焦っている様な、または悩んでいる様な、そんな顔をしている気がした。どうしたのかと訊ねると、不安藤そうな表情を浮かべながら小さな声で話してくれた。
「わたし経験不足で、こういった類のことに疎くて……下手ですよね、ごめんなさい。もっと君に気持ちよくなってほしいのに……」
 な……なんていじらしいことを!
 僕はテメノスさんが落ち着けるように、絹のような髪を撫でた。
「そんなこと言わないでください!テメノスさんが僕のことを想ってくれているだけで、本当に幸せなんですから」
「でも、このままじゃ苦しいですよね……あ、そう言えば」
 テメノスさんは急に手を止めたかと思えば、僕の前で四つん這いなった。何を始めるつもりなのかと思っていると、そのまま先程まで触れていたソレに顔を寄せて、躊躇いなくぱくっと咥えてしまった。
「ちょ、テメノスさん!?」
 より背徳感が増した光景のせいで、中心には更に熱が集まっていく。
「……こっちの方がイイって聞いたことがあります」
 どこで聞いたんですかと問いただしたいところではあるが、それどころではない。このままでは彼の手だけではなく口まで汚してしまうだろう。そんなことに耐えられる自信が無い。恋人同士なのだから同意が得られれば問題は無いのかもしれないが。
「んぅ、クリックくんのおっきいから……ぜんぶ入んない……♡」
 なんだかまた可愛いことを言いながら、テメノスさんは僕のペニスに手を添えてぺろぺろと小さな舌を這わせている。幹を舐めながら先端は指先でぐりぐりと弄っており、様子を窺いながら裏筋を愛撫され、先程とは全く違う刺激の波が襲ってきた。しかも時折彼の吐息がかかって力が抜けそうになる。やばい、気持ち良すぎる。
「くっ……テメノスさん離して……ッ」
 限界が近いのを感じて彼の顔を離そうとしたが、拒まれてしまう。それどころか喉元まで咥え込み、じゅぽじゅぽとストロークさせている。
「だめです、本当にもう出ますから……!」
「いいでふよ、そのままわたしに……出ひて……ッッ♡」
 いよいよまずいと思った時には既に遅く、もごもごと喋る彼の口の中に容赦なく射精してしまった。そこで一気に血の気が引いていき、今度こそ無理やりテメノスさんを引き剥がす。すると、彼の男性にしては細い喉が上下するのが見えた。
「なッ!?」
「えへ、ごちそうさまでした♡」
 そんなの本当にどこで覚えてくるんですか?という気持ちと、とんでもなく気持ち良かったですという感情が僕の中で喧嘩をしている。
 僕は大急ぎでテメノスさんにうがいをさせて、手を洗わせて、そして最後に土下座をした。
「本当に申し訳ありません……お詫びになんでも言うことを聞きますから」
「私が勝手にしたんですから詫びなんて……あ、でも一つお願いしたいです」
「なんですか!なんでも言ってください!」
 床に土下座している僕の前に屈んだテメノスさんは、僕の顔を上げさせると指で唇をなぞりながら微笑んだ。
「お風呂、一緒に入りましょ♡」