がちゃがちゃ

散るは覚悟

 【騎士君のお話】
 
 テメノスさんは綺麗だ。
 美人だ。
 聡明だ。
 ときどき子どもの様な振る舞いになる可愛らしい方だ。
 そして、僕の最愛の人だ。
 恋人であるテメノスさんは魅力が溢れすぎて困っている。
 そうオルトに話したら惚気はやめろだのなんだのと小言を吐かれたことがある。事実なのに。

 実際、フレイムチャーチの大聖堂へ派遣されてからはテメノスさんの近くにいられることが嬉しい反面、心配事も増えたのだ。
 テメノスさんは村人からの信頼が厚い。他の神官達や村人からとても慕われている。
 そんな様子を見て微笑ましく思っていたのに、ある日村へとやって来た旅人がテメノスさんへ無理やり近づこうとしているところを目撃して救出したことがあった。
 当の本人であるテメノスさんは何故かけろっとしており、何が起こったのか理解していないようだった。
 僕は彼の両手を取ると優しく握って、状況を説明することにした。
「あの、テメノスさん。あなたが困っている人を放っておけない優しい方だということは知っています。ですが、ああいった不埒な輩にはあまり近づかないでいただきたく——」
「不埒な輩……?」
 だめだ。こてん、と可愛く首を傾げている。
「ええっと。例えば先程の男性、あなたの身体を触ろうとしていましたよね」
「手が当たっただけでしょう?」
「あなたを無理に人気が無い場所へ連れて行こうとしていましたよね」
「他人に聞かれたくない話をしたかっただけでは?」
 ……だ、駄目だ。
 事件となれば鋭く聡い人なのに、どうして色事になるとこうも鈍くなるのか。
 今まで恋愛経験など皆無だと言っていたが、鈍いだけで迫られている場面は幾度もあったのでは……?
 
 それから、やはり僕の考え通りテメノスさんが外部の人間に迫られている場面を何度も見てきた。
 声をかけるだけでは飽き足らず触れようとしたりどこかへ連れ出そうとしているのに、テメノスさんも人が良過ぎてまったく疑っていない。
 もし彼らが異端であれば異常性を見出し下手に近づかなかっただろう。しかし対象はあくまで一般人だ。ただテメノスさんという人間の魅力に惑わされた、ある種の被害者なのだ。
 だからテメノスさんの勘も警戒心も働かない。穏やかに、村の子どもたちへ接するようににこやかに対応なんてしている。彼らが抱えている下心など知らずに……。

 だから僕は、出来るだけテメノスさんの近くへいることにした。
 聖火教会と根深いこの村では聖堂騎士が神官と行動を共にするのは珍しくないし、誰も疑問には思わない。
 そうすることで、実際にテメノスさんへの被害は減ったように思う。だから安心していた。
 なのに、最近になって村へやって来た男は僕がいない瞬間を見計らってテメノスさんへ近づこうとしていた。
 目の色がおかしいので前々からマークしていたのが幸いだった。今日も午後からテメノスさんが大聖堂へ来ると言っていたのに全く現れる気配が無いので迎えに行くと、案の定その男がテメノスさんの手を撫でまわしているではないか。
 おいおい何してる、と剣を抜かなかった僕を褒めてほしい。
 何も気が付いていない素振りを装いながら、僕は男とテメノスさんとの間に無理やり割って入った。
「午後には大聖堂へいらっしゃる予定だったじゃないですか。なのに、全然来る気配が無いから」
「だからってわざわざ探しに来たんですか……?」
 テメノスさんが上目遣いに僕を見る。可愛い。しかし今は見惚れている場合ではない。
 この怪しげな男にこれ以上最愛の人を近づけるわけにはいかず、見せつけるように恋人の腰をぐっと抱き寄せた。
 するとぴとりとテメノスさんも身を寄せてくれて、このまま抱きしめて口付けたい衝動に駆られるがそう言うわけにもいかない。クリックよ、我慢、我慢だ……。
 その日はそのままテメノスさんを大聖堂へ連れて行き、なんとかその男から何も知らないテメノスさんを引きはがすことに成功した。

 また別の日、テメノスさんを見失ってしまった。
 大聖堂の中をいくら探しても見つからないので外へ向かうと、影に置かれているベンチへ腰かけて眠っているではないか。
 なんて無防備な。例の不埒な輩にこんな姿を見せてしまえば手を出されてしまってもおかしくはない。
 なので僕は慌てて彼を起こした。目覚めた時の様子を見るに何も無かったようではあるが、どうしてかテメノスさんは立ち上がった瞬間に僕へ口づけてきた。
「ふぇっ!?」
 がさ、と奥で物音がした気がするが今はそれどころではない。啄むように何度も愛らしいキスをしてくるテメノスさんをなんとか急いで引きはがした。
「こ、こんなところで何してるんですか!」
「何って、いつもやってることですが?」
 ああ、そうだ。恋人なのだからキスのひとつやふたつ……だなんて言っている場合ではない。
 ここは大聖堂のすぐ近くだ。信徒や神官も多い。誰かに見られてはまずいので、僕ははやく戻ろうとテメノスさんを急かした。
 すると彼は「君に触れられている夢を見た気がした」と気になることを零した。
 普段ならば僕の夢をみてくれただなんて、だとか、また可愛いことを言ってるな、ぐらいにしか思わない。
 だけど妙に引っかかってしまった。その理由は、結局分からないままだった。

 そんな日が続いた、ある日の夜だ。
 僕はテメノスさんの自宅で一緒に暮らしている。今日も彼と一緒にベッドへ潜り、少しだけ触れあいながらおやすみのキスなんてしたりする。
 幸せだ。幸せだからこそ、これを守らねばならない。
 そのために、彼に伝えたいことがあった。
「あの、テメノスさん」
 眠たいのか、テメノスさんはぽやぽやした様子で僕を見ている。
「ん……なんですか?」
「僕たちが、その。こういう関係だってこと。もう周りに話しても良いのかなって……」
 僕たちの関係については一部しか知らない。オルトと、テメノスさんのかつての旅の仲間達ぐらいだ。
 別に隠しているつもりもないのだが、わざわざ話して回るようなことでもない。
 ソリスティアでは同性婚は禁じられてはいないものの正式に認められてもいない。だけど僕としては彼と将来を誓い合いたいし、生涯のパートナーだと公言したかった。
 それに今こうして、テメノスさんへ無理やり近づこうとする輩が現れるという被害が出ている。ならば、彼を守るためにも僕と言う存在がいるのだと広まった方が良い気がしていた。
「……クリック君は、それでいいの?」
 眠そうだったテメノスさんはいつの間にかしっかりと僕を見つめており、少し不安げに眉を寄せている。
 安心させたくて額にキスをすると、彼の表情が和らいでいった。
「もちろんです。むしろ、あなたは僕のものだと早く言いたくて仕方がないんです」
「……」
 無言のままテメノスさんが頬を染めていく。可愛い。ぎゅう、と抱き寄せると腕の中で慌て始めていた。
「わ、私は……君にいつか飽きられるのが怖くて。だから、そうやって言ってもらえて……幸せです」
 飽きるだなんて!
 そんなこと有り得ないのに、どうしてかテメノスさんは僕との関係になるとどうも心配性であった。
「僕は一生あなたを大切にしたいですし、離れるつもりもありませんよ」
「……嬉しい」
 テメノスさんが抱き返してくる。愛おしくて更に強く抱き返すと自然と互いの顔が近づいて、そのまま深く口づけた。

 もう眠ろうとしていたところだったのに、時は深夜。灯はほとんど消え、人々は静かな眠りについている頃だ。
 だけど僕は今日も乱れた寝間着のテメノスさんを組み敷いて、僕しか知らない彼を背後から暴いている。
「んぁ、あっん♡くりっくくん、そこ、きもちぃ……♡」
 腰を突き出している彼の好きな場所をぐりぐりと亀頭で擦る。それだけでテメノスさんは甘く喘いで、小さく震えながらぴゅるっ♡と先端から欲を吐き出した。
 抑えが効かずそのまま奥を何度も突く。深く抉るとテメノスさんは背中を仰け反らせて、その度に達していた。
「や、あぁ♡またイっちゃう、ん、ぁん♡クリックくんの、奥でいっぱいびくびくってして……イくのとまんない……ッ♡」
「だって、テメノスさんが可愛いから」
 上から押さえつけるように覆いかぶさると更に奥まで挿入ってしまい、そのまま抽挿するとテメノスさんは甘イキを繰り返していた。
「ひぁ、あ……あっあん、あ……♡」
 先端からとろとろとを欲を零しながら、振り返ったテメノスさんは蕩けた瞳で僕を見つめている。
 もっと顔が見たくて、上気している華奢な身体をひっくり返した。
「僕のことが好きって顔……もっといっぱい見せてください」
「ん……私も、君の顔、いっぱい見たいです……ずっと、ずっと傍にいてください……♡」
 テメノスさんの脚が腰に絡み、ぎゅうと引き寄せられる。
 そのまま何度も突き、絞られるがままに射精を繰り返した。

 * * *

 朝。目が覚めるとテメノスさんは昨夜の疲れが残っているのかまだ眠っていて、僕は彼を起こさないようにベッドから抜け出した。
 服を着替えて簡単に身支度を終え、顔を洗うために水を汲もうと外へ出る。
 すると家の前を男性が横切る姿が見えて、つい声をかけてしまった。
「あの」
 それは、以前テメノスさんの手を撫でまわしていた男性だった。
 なぜ声をかけてしまったのか分からない。もしかしたら、彼が抱えていた荷物が少し出かけるような量ではなく、まるで旅にでも出るかのような大荷物だったからかもしれない。
「……おはようございます」
「あ、ああ。おはようござい、ます」
 意外にも男が挨拶をしてきたので、僕は反射的に返事をした。
 すると男はこちらへ向かって頭を下げた。
 そして僕とテメノスさんの自宅とを交互に見やりながら「やっぱり……」と口にしている。
「なにが、でしょうか?」
「いえ、こちらの話です。……安心してください、自分はこの村を出て旅に出ます」
「えっ」
 まさか本当に旅に出るとは。
 男は何かを考えるように眉を寄せ、そして諦めたかのように溜息を吐いた。
「ここには誘惑が多い。神官様にも、あなたのおかげで短い間ではありましたが幸せだったとお伝えください。だから、どうか……あなたがテメノス様を幸せにしてあげてください」
「……は、はい……?」
 それだけ言うと男はもう一度頭を下げ、村から出て行ってしまった。
 
 なんとなく寂しく見えた男の背中を見送って家の中へ戻る。
 それから眠っている恋人の髪を撫でながら、どうやってこの関係をみんなに伝えようかと考えていた。