がちゃがちゃ

散るは覚悟

 神官様へ失恋して数日後。それでも自分は夜な夜な神官様を想い、情けないことに自身を慰めていた。
 そもそもこれは恋心だったのだろうか。ただ邪な思いを抱いていただけなのではないだろうか……。
 散ってしまってはなんであろうと意味は無い。ただ今まで見てきた美しい彼の姿を忘れることは出来ず、妄想の神官様に頭の中で廃れた心を癒してもらっていた。

 そんなある日、大聖堂で荷物を運んでいる女性神官を見かけた。
 ひとりで抱えるには大荷物であったし、彼女は普段から忙しくしていることを知っていた(これもテメノス様を目で追っていたからだ)ので、自ら手伝うと声をかけた。
 するとその女性神官は深々と頭を下げ、ほっとした表情を浮かべていた。予想以上に困っていたようだ。
 そして倉庫へ荷物を運ぶ途中だったのだと教えてくれた。彼女が抱えていた荷物をすべて引き受け、自分は倉庫へ向かうことにした。

 普段は人が訪れることのないこの倉庫は、催事の際に使う道具や今は使われなくなった備品などが置かれている。人は通ることができない小さな窓しかなく、明かりを灯さない限りは薄暗い部屋で少し不気味だ。今も僅かな光が差し込んでいるだけでほぼ暗闇ではあるが、荷物を置くだけであれば困ることは無かった。
 頼まれた荷物を指定された場所へと運ぶ。多少埃っぽいが定期的に誰かが掃除しているのか、思っていたよりも片付いていた。
 そして何度か往復して荷物を運び終えたので立ち去ろうとすると、部屋の奥に大きなクローゼットがあることに気が付いた。
 大人が数人は入ることができるであろうその大きなクローゼットからなんとなく目が離せなくなり、自分は閉じられていた戸をあけた。
 
 そこには神官達が使用する法衣や、巡礼者のための着替えなどが仕舞われていた。
 神官達は、多くは同じような法衣を身に着けている。自分はクローゼットの中の法衣を眺めながら、恋心を抱いていた相手を思い出していた。
(ああ、神官様。テメノス様。……あなたの心は、心だけではなく身体も、あの騎士のものなのですね)
 感傷に浸っていると、どうしてか下半身に熱が集中してきた。法衣を見ただけでこれとは、最悪である。
 しかし許してほしい。というのも、あの日に目の前で自ら騎士君へと口づけていた神官様が、今朝もしていただとか、夜に続きを、だとか口にしたせいで……自分は、…………。
 正直、あの清廉な雰囲気を纏った神官様がその様な情事に勤しんでいるとは考え難かった。
 騎士君だってそうだ。性欲なんてまったくありません、みたいな顔をしている癖に。
 
 だが本人達が口にしていたのだ。そのせいで、あの夜は大変だった。
 瞼を閉じると屈強な騎士に組み敷かれている華奢な神官様が目に浮かび、そのまま汚されていくのだ。
 あの綺麗な声であんあんと喘いで、穢れを知らない真っ白な肌を上気させて、自ら腰を振りながら誘惑して、淫らに雄を誘い、そのまま……。
 ……本当に、そんなことが——?

 妄想に耽っていると、誰かが部屋に近づいてくる音が聞こえてきた。テントを張っている姿を見られるわけにもいかず、慌ててクローゼットの中に逃げ込む。
 すると足音は更に近づき、倉庫の扉が開かれた。
 誰かは知らないがはやく出て行ってくれとクローゼットの中で祈っていると、今一番会いたくなかった人物の声が聞こえてきた。
「ああ、ここにありました」
 テメノス様の声だ。
 自分の体が強張っていくのを感じる。ここに隠れていることは、絶対にバレてはいけない。
 声からして、何かを探していたのだろう。そのまま立ち去ってくれないか……と祈っていると、なんともう一人の声まで聞こえてきてしまった。
「良かった、見つかったんですね!」
 あの騎士の声だ。まさか二人ともやって来るとは。最悪だ。
 ますます出られなくなり、衣服に埋もれながら必死に息を押し殺す。
 
「……」
 目的は終えただろうに、二人が立ち去る気配が無い。
 それどころか、なぜか熱のこもった空気を感じる。一体どういうことだ?
 暗闇に目が慣れてきたので何が起こっているのか確認するために、クローゼットの戸をほんの少しだけ開けて部屋の様子を窺うことにした。
 すると。
(——なんでだよ……ッ!)
 騎士君と神官様は、熱っぽい視線を絡ませたままその場に佇んでいた。部屋の扉は閉められており、完全に二人の世界に入っている。
 頼むからさっさと出て行ってくれという願いは、どうやら主には届かなかったらしい。今まで脳内で神官様を辱めていた罰なのだろうか……。
 
 嫌な予感がしつつ、しかし目が離せない。
 しばらく見つめあった後、ふたりの距離が縮まっていく。予想通りの展開だ……。
 しかも、そのまま唇を重ね始めている。今日はあの日とは違い騎士君も神官様の腰を抱き寄せていた。
「ん、ぁ……♡」
 神官様の艶を含んだ声が溢れ始め、キスが深くなっているのだと分かる。布が擦れる音と口づけの音が重ね合わさって、妙に生々しい。
 見てはいけない。だがそれは無理な話だ。
 ずっと劣情を抱いていた相手が今、その恋人と触れあっている。相手は自分ではないにしろ、夢の中で思い描いていた姿なのだ。
 興奮がおさまらず、自分は一部始終を見守ることにした。

 * * *

 神官様は騎士君の前に膝をついて、張り詰めた雄を頬張っている。
 時折苦しそうな声を出しながら、それでも懸命に舌で撫でたり綺麗な白い手で扱いたりと、うっとりとした表情でおいしそうに咥えていた。
 あの美しい声を紡ぐ口で、男のモノを……と、信じられない光景である。
 いつか触れた形のいい唇はあまりにも小さくて、こんなことは出来そうにないと思っていたのに……しかも、なんか妙に慣れてないか……?
「ッんぅ、おいひぃ、です……♡くりっく君、きもちぃですか……?♡」
「はい、……気持ちいいですよ」
 くしゃりと、だけれど丁寧に、愛おしそうに。騎士君が神官様の髪を梳かす様に撫でている。
 そのたびに神官様は気持ちよさそうに目を細めながら「うれひぃ♡」と口にしている。なんてことだ……。

 じゅぽじゅぽと音をたてながら雄を咥える姿は品が無いはずなのに、どうしてか神官様のその姿は絵画のように美しかった。
 二人はお互い中途半端に服を脱ぎ、乱れた姿など気にすることなく口淫を続けている。
 そして神官様が深く咥えて強く吸うと騎士君は小さく呻き、熱が吐き出されたのだと分かった。
「ん、ん……ッ♡」
 彼の欲を口で受け止めた神官様は上を向き、まるで食事中かのように口元を両手で押さえて飲み込んだ。
 上質な料理に対するような振る舞いに目が眩む。まさか、あの人がこんなことを。

 神官様は立ち上がるとばさりと法衣を肩から落とし、下に穿いていたスラックスも脱ぎ捨ててしまった。
 そしてシャツのボタンをぷちぷちと見せつけるように外しながら騎士君へと身を寄せ、すりすりと身体を擦り合わせている。
「クリック君……私、もう……我慢できないです♡」