がちゃがちゃ

夜もすがら

 すべて夢だった。
 当然だ。獣人ではない限り、人間には動物の耳も尻尾も存在しないのだから。
 起きた瞬間に目が冴え切っていることなんて、今までなかっただろう。僕は薄暗い寝室の天井を見つめながら、どうしてか素数を数えていた。

 なんとか心を落ち着かせてから寝返りを打ち、隣で寝息を立てているテメノスさんを見る。
 なにか悪い夢を見ているのか息苦しそうで、顔がほんのりと赤い。
「……テメノスさん」
 彼が僕よりも長く眠っているのは珍しいことに加え、この状態。起こそうと肩を揺すると、テメノスさんはすぐに目を覚ました。はっと目を見開かせ、僕の顔を見るなり更に顔を赤くして布団を頭まで被り隠れてしまった。
「あの、どうかされました?」
 心配になり声をかけ続けるが、布団の中から「ぅー……」というような小さなうめき声しか聞こえてこない。
 しばらく見守っているとテメノスさんはやっと顔を出し、そして今度は両手で顔を隠してしまった。
「……夢を、見ました」
「えっ」
 ぼそりと囁かれた彼の言葉に息を呑む。
 まさか、と思わずにはいられない。
「僕も見ました。……テメノスさんが、うさぎになってる夢を」
 テメノスさんは手を下ろし、僕をじっと見つめる。
 まだ赤いままの顔で眉を下げ、何かを言いたそうに小さな口をぱくぱくと開いたり閉じたりと繰り返していた。
「き、君が!寝る前に変なことを言うから!」
 それだけ言い残して起き上がったテメノスさんは、逃げるように寝室から出て行ってしまった。
 
 まさかと思うが、もし僕とテメノスさんが同じ夢を見ていたのだとしたら――。
 真相を問いただした後は、夢の中で宣言した通り謝ろうと思う。