がちゃがちゃ

あなたの月まで連れてって

 閉め切られたカーテンの隙間から差し込む光が濃くなり、太陽が高くなったのだと気が付く。
 しかし電気の通されていないこの部屋は未だ薄暗く、近くにあるものしか視界で捉えられない。
 自分であれば有明さん。有明さんであれば自分しか見えていないだろう。二人だけの世界のようで、少しだけ胸が躍った。

「有明さんを動物に例えるなら、ずっと兎だと思っていました。そんな思いが夢になって現れたのだと思っています」
「兎……なぜ兎だと思うんです?小さいから、弱い生き物だから、それとも、捕食対象として……?」
 有明さんは興味津々といった様子で顔を寄せてくる。
 今度こそ先程の名残惜しさを消し去る為に、彼の後頭部に手を刺し込み口付けた。舌を捻じ込めば彼はあっという間に迎え入れてくれて、そのまま吸い付く様に絡ませてくる。
 しばらく好きに吸い、やっと離れたときには有明さんの顔はぼうっと赤く染まってしまっていた。
「……有明さんは、自分と並ぶときいつも楽しそうで。ぴょこぴょこ軽やかに歩く姿が兎を連想させたからです」
「ぴょこぴょこ……」
 先程の会話を続けたら、有明さんは頭を必死に回転させはじめた。
 ぴょこぴょこ、なんて言われて嬉しくは無いだろう。そう思っていたが、意外と彼は素直に受け入れていた。
「だって、あなたといる時はいつだって楽しいから。つい足元が弾んでしまうと言うか……ちょっと、浮かれてしまうんです」
「もう再会してから何ヵ月も経つのに」
「えへ、きっと死ぬまで変わりませんよ」
 ふわりと微笑むその笑顔が好きだ。そう伝えたくて再び口付けて、今度は夢の中と同じように彼の身体を弄った。
 恥ずかしそうに、そしてくすぐったそうに有明さんが身を捩る。逃げられないようにキスに集中させながら、昨晩暴いたばかりの底へ指を這わせた。
 白い肩がびくりと跳ねたのを見逃さない。落ち着かせようと髪を撫でれば、甘えるように身体をすり寄せてきた。

「おおさきさん、おおさきさん……ッ」
 有明さんは、行為中にたくさん名前を呼んでくれる。
 それはまるで「あなたはここにいるのだから」、「生きているのだから」と伝えてくれているようで、あたたかい何かがじんわりと胸に広がっていく。
 指を這わせた箇所はまだ柔らかく、少し解しただけですんなりと数本の指を受け入れた。赤く染まった耳を食みながら、ぐに、と浅い部分を擦る。すると途端に嬌声がひろがって、彼ははっと気が付いたように口を手で覆った。
「あッ、ん!」
「声、我慢しなくていいですよ」
 夢の中と同じことを現実の彼にも言ってみた。
「だって、ぇ……はずかしい、じゃ、ないですかぁ……あ、ぅ」
 すると、夢の中とまったく同じ返事が返ってきた。自分が“同じ”だと思い込んでいるだけかもしれないが、多少言葉は違えと、似た返事であったように思う。
 有明さんとは何度も体を重ねている。だけど声を聞かれるのは未だに嫌なようで、あまり聞かせてくれない。
 理由は恥ずかしいからなのだろうが、自分としては素直な彼の声が聞きたい。慎ましい態度も魅力的ではあるが、彼のすべてを知りたい。
 他の誰にも聞かせたことがない声を、聞かせてほしい。

「……、有明さん」
 指を抜き、覆いかぶさる様に彼をシーツに縫い付ける。見下ろした顔には戸惑いの色が広がっていて、まるで自分が今から悪事を働こうとしているのでは、という気にさせられた。
「自分は、あなたのすべてを知りたいです。あなたがまだ持っている“はじめて”を、自分にくれませんか」
 すると、有明さんは赤かった顔を更に赤くさせた。どうやら嫌だとは思われていないらしい。
 もじもじと太ももを擦り合わせながら、彼が自ら脚を開いていく。薄暗くてはっきりとは見えないが、先ほどまで自分が触れていた箇所が視界に入った。
「ここ、はやく欲しいんです……奥、寂しくって。はやく大崎さんに埋めてほしいです。そしたらきっと、声、我慢できなくなっちゃうから」
 そして、まるで絵筆を走らせるように細い指で臍の下あたりを艶っぽく撫でていた。
 ごくりと喉が鳴る。自分は、彼にずっと翻弄されている。

 * * * * * * *

 熱を持ち張り詰めた自分のソレを、彼の窄まった場所へと宛あてがう。
 亀頭で内側を擦り、ゆっくりと奥へ押し込む。浅いところで抽挿を続ければ、有明さんにキツく締め付けられた。
「ん、ぁ……」
 気持ちよさそうに目を細めて、全身で受け入れてくれて、愛おしそうに見つめてくれて。
 彼の全てが自分を愛しているのだと伝えてくれる。だから、それを受け取って、自分ももっと深く彼を愛したいと思った。

「有明さん」
 名前を呼ぶと、彼の意識は行為から自分へと移った。言葉の続きを待つように視線だけを動かし、小さな口で呼吸を繰り返している。
 すっかり柔らかくなった箇所から更に奥へと熱を押し込むと、無意識に彼の身体が逃げだそうと揺れはじめた。
「逃げないでください」
「そんな、つもりじゃ……あ、ァ!」
 ぐ、と一気に奥底へと押し込み、辿り着いた場所を強く叩く。
 苦しければ苦しいほど、有明さんは乱れていく。本人は否定しているが、ここが彼の好きな場所だと分かりきっている。
 それは自分しか知らないことだと思いたい。
「は……ぁ、大崎さ、ん、おおさきさん……ッ」
 融けだしそうな程に甘ったるい声で名前を呼ばれる。この声で名前を呼ばれるのが好きだった。
 徐々に上がっていく自分の熱に後押しされるがまま、彼の腰を力いっぱいに引き寄せた。
「あ、ぁ!」
 ぐぽんっと、暴いたことがなかった場所まで侵入を許されたことが分かった。何が起こったのか分かっていない有明さんは涙目になりながらこちらに手を伸ばし、背中に爪を立てられた。綺麗に整えられているようで、痛みは無い。
「おおさきさん、そこ……あっん、なに、わかんな、ぃ……や、ン!」
 腰を打ち付けながら、皮の薄い首へと噛みついた。
 どうやら彼は自分を狼だと思ってる様なので、それに従おうと思ったまでだ。
 嫌がられはしなかった。時折こちらの様子を気にしつつ、与えられている快楽を拾うことに夢中になっているのだろう。
 わざと歯を立てて、痛々しいほどの痕を残す。血が出るほどまでに噛みつきたい衝動は明日の彼の業務を考え、抑えておいた。
 律動に揺られながら有明さんが絶頂しているのが見えた。ぴゅる、と弱く射精する姿に視界がくらりと歪んだ気がした。
 それでも自分が抽挿を止めないでいると、有明さんは背に立てていた爪でそこを引っ掻き始めた。
「や、大崎さ、……今イって、あッあ、ん!」
「有明さん、綺麗です。すごく。もっと見せてください」
「綺麗なんかじゃない、ぃ……あ、またきちゃう、んぅ、おおさきさ、ん」
 有明さんの手が背中ら離れ、手のひらを返し弱々しくシーツを握っている。
 上半身を解放されたので、可愛らしい小振りな乳頭を摘まむ。すると甘えるように、きゅう、と中を強く締め付けられた。
「あっん、ン!」
 嬌声が部屋中にひろがっていく。彼の声が全身にひろがっていく。心を燃やす様に、脳を融かす様に。
 いったいどちらが獣か分かったものではない。
「有明さん」
 もう一度名前を呼ぶ。目が合って、兎の様な緋色の瞳に自分が映っているのが見えた。
 続きを言おうとする前に、有明さんが声を出す。
「中に、ください……大崎さんの、ぜんぶ、僕にくださ、い……ッ」
 欲しがっているのはお互いのようで、彼に導かれるまま奥底へと射精した。

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