がちゃがちゃ

あなたの月まで連れてって

 自分は今、夢を見ている。
 何故夢だと分かるのかと言うと、目の前で四つん這いになっている有明さんが普段では考えられない格好をしているからだ。
 彼は今、見知らぬベッドの上で横になり上半身だけを上げた状態の自分に跨りながら、四つん這いのまま尻だけを少し上げた体勢となっている。ぴょこっと上を向いた臀部が愛らしく、そういえば自分は彼を兎のようだと例えたことを思い出した。
 そして、あらためて有明さんの方へ向きなおる。彼の服装は見慣れたシャツとスラックスではなく、それこそ兎を彷彿とさせる真っ白でふわふわとした素材の服のようなものを身にまとっていた。
 “のようなもの”と表現したのは、それが自分にとって、とても服とは言い難いものだったからだ。
 というのも、まずは露出が多すぎる。有明さんが身に纏っている“それ”は彼の背中から胸元までを、さらしの様に巻き付いている。細い首や華奢な肩、白い二の腕、臍までを惜しみなく曝け出されている。それより下は丈が太ももまでしかないズボンに、つま先から膝辺りまでは、長い靴下で覆われていた。
 それらの全てが綿ではなく、まるで綿をつめたような……ふわふわ、もしくはもこもこ、と形容されるような素材で作られているようだった。少しだけ興味が湧いて触れてみたい衝動に駆られつつ、何故だか無暗に手を出してはいけない気がして慌てて出かかった手を引っ込めた。
 一呼吸を置き、自分は更に目を疑った。今まで有明さんの服ばかりを意識してしまっていたが、少し視線を上げてみると彼の頭部にも見慣れないものがあった。
 ――兎の耳。それはまさしく、自分がよく知る兎のソレだ。彼の着ている服と同様に、ふわふわとした、ぴんと上を向いた真っ白な長い耳が、そこにあった。
 見たものを信じられず両目を手で擦っていると、有明さんがこちらを見上げながら小首を傾げた。そのあざとい仕草に眩暈を覚えつつ、彼の両肩に自分の手を置く。やっと触れることが出来た。
「有明さん。なぜ、そんな恰好を」
「え?えへへ。なんでって、ここは大崎さんの夢だからに決まってるじゃないですか」
 言いながら、彼がぐっと顔を近づけてくる。キャラメルの甘い匂いが香った気がして、慌てて首を振った。これは夢だ、騙されてはいけない。
「僕は大崎さんの伴侶で、今はあなたのうさぎさんです。ねえ大崎さん、知ってますか?うさぎって、寂しいと死んでしまうんですよ……」
 そして唇が触れるか触れないかというところで、彼が身を引いた。どうして、と言いたくなったのを堪えながら彼から手を離す。
 じっと有明さんの様子を窺っていると、目を細めてはにかみながら胸元の服に白い指を引っ掻けた。どうするのかと思えば、そのままずるりと布をずらす。そこに現れた淡く色づいたふたつの小ぶりな突起が目に入り、思わずごくりと息を呑んだ。
「大崎さん。寂しがり屋な僕のこと、可愛がってくれますか……?」
 再び距離を詰められた。もう夢だろうがなんだろうが関係ないか――と自分の中の理性が負け始め、諦めが優勢となる。
 有明さんは膝立ちになり、自分の手を取った。手袋を外された両手は、片方は色気を纏った胸元へ、もう片方は滑らかな太ももへと導かれる。ついには欲望が勝り、柔らかな両の太ももの間を撫でるように手を滑り込ませた。
「あ……ッ、おおさき、さん」
 彼の声が甘ったるくなっていった。はあ、と少し息を上げて、耳まで真っ赤にしながら恥ずかしそうに身を捩っている。自分からけしかけてきたくせにいじらしい様子を見せてくるのは卑怯だろう。
 太ももを撫でていた手を徐々に上へと向かわせ、服の隙間から内部に滑り込ませた。何度も触れてきた底に指を這わせ、目で見なくとも物欲しげにしていると分かる、ひくひくとしている箇所を辿る。
 許可なく指を押し込めば、彼は途端に「あっ」と可愛らしく鳴いた。
「ん、ぁ……や、大崎さん、あ、んッ!」
 ぴくんっと腰が揺れ始めている。彼が自分に言う「嫌だ」は本意ではないのだと心得ているので、そのまま指を押し進めた。
 胸へ這わせていた手も忘れず、彼の弱い部分を弄る。指の腹で突起を掠めれば、それだけで指を締め付ける。現実と変わらぬ愛らしい反応に、少しだけ胸の奥が苦しくなった。
 そんな自分を誤魔化す為に、彼の無防備な乳頭を舌先でつつく。反応が好くなっていったので、べろりと舐めると上ずった声が聞こえた。
「声、我慢しなくていいですよ」
「だって、ぇ……はずかしい、じゃ、ないですかぁ……あ、ぅ」
 今更、だと思う。自分たちはお互いに、声以上に恥ずかしい面を曝け出してきたではないか。
 誰にも見せたことがない場所も、誰にも触れさせてこなかった場所も、すべて共有してきた。何もかも、知って欲しいと思ったからだ。
 素直になってほしくて彼の胸に歯を立てた。本来であれば相手が嫌がる愛撫だろうに、彼はこれをすると悦ぶのだ。それをおかしいとは思わない。自分は有明さんの、こういう不器用なところが好きなのだから。

 * * * * * * *

 そこで目が覚めた。
 ぼんやりとした頭のまま、よく知る天井を見上げる。ここは有明さんの家で、昨晩はいつもの様に裸のままふたりで一緒に寝たのを覚えている。
 今日は自分も有明さんも仕事が休みなので、予定など気にせず昨夜は情事に雪崩れ込んだ。といっても、普段から明日の予定など気にせずそうなることが多い。自分は彼に求められれば断れないとバレてしまっているし、自分もまた常に彼を前にすると身体の奥底に眠る汚い欲を抑えきれなくなるのだ。
 有明さんの身体を気遣いたいと思いつつ、一度始まれば抑えられない。昨晩も随分酷く抱いてしまった気がして、いまだ自分の腕の中で夢を見ている有明さんの腰を労るようにさすった。
 すると閉じられていた両目がゆっくりと開き、こちらを捉えた瞳に光が差した。
「……おはようございます、大崎さん」
「おはようございます。起こしてしまってすみません」
 起きたばかりで声が掠れている。そんなところさえ可愛らしいと感じてしまうのは、まだ本人には黙っていようと思う。
 有明さんは開いたばかりの目を再び閉じ、自分の胸に額をぐりぐりと押さえつけながら甘えるように身を寄せてきた。
「どうしたんですか」
「いえ……今朝、おかしな夢を見て」
 有明さんも夢を見たという。まだ“夢を見た”ということしか聞かされていないが、何故か冷や汗が伝った気がした。
「それは。どんな夢、なんですか」
 別にやましいことをしたわけではないが、なんとなく恐ろしく感じて平静を装いながら彼に尋ねた。
 すると有明さんは薄く目を開き、少し戸惑いに瞳を揺らしながら腕の中でこちらを見上げてきた。
「大崎さんが、狼になっている夢です」

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