シルフェリ

One Last Time

「最低」怒りとも悲しみともとれる感情を含んだ声と共に、頬に痛みが走る。何故こんな夕方の河川敷で女の子に打たれなければならないのか。もうすぐ夏になろうというこの季節に河川敷に呼び出されたかと思うと、この仕打ち。仕方ない、原因は俺なんだから。額…

没分暁漢

最近のフェリクスの様子がおかしいことにシルヴァンが気がついたのは3日前のことだった。おかしいというのは、具体的にはフェリクスがシルヴァンを避けている、ということだ。まず講義の後の訓練場に顔を見せなくなった。自主練は日課だったはずなのに。おか…

passion

俺には弟がいる。それはそれは、可愛い弟が。弟といっても本当の弟ではない。弟のように可愛がっている、が正しい。口は悪いが剣の腕は一流で、気難しい性格だが慣れると考えていることが分かるようになる。普段は一匹狼のくせに、俺が誘えば食事を共にする。…

前を向いてれば

初めて剣の柄を握った時、人間の肉を割いた時、溢れる血が視界を覆った時、何を感じたのかよく覚えている。命乞いの声は耳につく。向けられた背中は剣士の恥だ。倒れた人間は人形のようにぴくりとも動かない。どんどん下がる体温のおかげで寒さは感じない。雪…

his method

「じゃあ、次の問題」優しい声と、ふわりと香る品の良いコロン。ローテーブルに並んで座っていて距離が近いからか、それとも彼の部屋にいるからなのか、その香りはいつもより濃く感じた。自分のものよりも大きな手が解き終えたテキストを開き、満足そうに微笑…

You Don’t Know Me

じりじりと燃えるような炎、なんてのんびりしたものではなく。実際の想像よりも素早い火球がアネットの方へ飛んでいくのが見えた。それに気が付いてしまったが最後、体が勝手に動いていた。掴んだ細い腕、振り返ったアネットの驚いた表情、体の焼ける痛み、そ…

Mine

その日は暖かく雲も少ない良い天気だった。池に向かって釣り糸を垂らし、群がってくる魚たちをじっと見つめる。つん、と1匹が針に食いかかったにも関わらず、その1匹とまわりの仲間たちは一斉に池の底へと隠れてしまった。理由は分かっている。背後からの隠…