メテオライト
テメノスの部屋があるマンションを出てから最寄りの駅までは近い。数分歩けば辿り着けるので、なんとか走らなくてもすみそうだ。
そしてもう少しで到着するというところで、クリックは彼の部屋にマフラーを忘れていることに気が付いた。慌てて出てきてしまったので置いてきてしまったのだ。
忘れ物をしたことだけ伝えてまた取りに来ればいいかとも考えたが、今夜は風が強かった。電車に乗っている間は問題ないが、さらに自宅は駅から数十分歩くのだ。耐えられそうになく、クリックはテメノスの部屋へと戻ることにした。
先程出たばかりの部屋の前までやってきて、数週間前に貰ったばかりの小さな羊のキーホルダーがついた合鍵を取り出す。キーホルダーはこの鍵を貰った時には既につけられていた。テメノスは時折クリックを子羊君と呼ぶので、誰の鍵なのか分かるようにということなのだろう。
鍵穴を回しながら、中にいる人物のことを考える。ここに戻る前に念のために忘れ物をしたので取りに戻ることはメッセージアプリで送った。テメノスは電話を嫌うのでメッセージのみ送ったが、既読はついていない。しかしマフラーだけ取ってすぐに帰るので問題は無いだろう。
部屋の中に入ると、真っ暗な短い廊下と奥にある寝室に続く扉が見えた。ここを出る前には確かに廊下の電気は消えたままであったが、寝室は明かりが点いていたはずなのにどこも真っ暗だ。もしかして自分が出た後にテメノスも外出したのかもしれない。だとするならば、家主が不在の部屋に長居するわけにはいかないので手早く忘れ物だけ取って帰ってしまおうとクリックは急いだ。
しかし寝室の扉を開けようとしたとき、部屋の奥から微かにテメノスの声が聞こえてきた。彼は出かけたのではなく眠っているだけなのかと思ったが、寝息にしては苦しそうに聞こえる。もしかして体調が悪かったのだろうか、それに気が付かないまま無理をさせてしまったのだろうか。だが、本当に眠っているだけなのかもしれない。眠っているだけならば起こさないように気を付けて忘れ物だけ取ればいいのだ。
クリックは状況を確かめるべく、ゆっくりと寝室の扉を開いた。
「あ、ん……はァ、あ……ッ♡」
暗闇に慣れた目が捉えたのは、クリックが寝間着にしていたシャツを抱きしめながら裸のままベッドの上へ横たわり、自慰に耽る恋人の姿だった。
蹲るようにまるめた身体を淫らに捩り、自ら後孔に手を伸ばして快感を求めるように指を動かしている。片手でクリックの服を抱きしめたままそこに残った熱を求めながら顔を埋め、呼吸を乱していた。
「んぅ、ふ、あ……好き、クリックくん、くりっくくん……♡」
愛を囁く小さな声とともにくちゅくちゅとナカを搔き乱す音が届いてきて、クリックの頭は真っ白になった。テメノスはそのままびくんっと身体を震わせており、彼の中心からはとろとろと白濁が溢れている。
それを見たクリックは、気が付けば足音を気にすることなく恋人の痴態の前へと姿を現してしまっていた。
「……、……え、クリックくん!?」
夢心地のぼんやりとした目のテメノスはやっとこちらに気が付くと、これは違うのだと言うかのように抱きしめていた服を手放し布団を手繰り寄せて身を隠そうとした。
しかし、そんなことは意味が無い。クリックはテメノスが抱きしめていた服を床に投げ捨てると、一時間程前と同じようにテメノスをベッドに縫い付けるように組み敷いた。違う所と言えば、今の彼は背中ではなく顔をこちらに向けているということだ。
「テメノスさん、もう我慢できなくなっちゃったんですか?僕の服なんか使って、そんなことしちゃうぐらいに」
「ち、ちがう……!」
「何も違わないでしょ」
テメノスが逃げないのを良いことに、クリックは撫でるように薄い腹へ指を走らせる。そのまま上気した肌を辿って、ぷっくりと膨らんだ胸の突起を摘まんだ。普段の行為中は背中しか見せてくれないので、こんなにも正面から彼をまじまじと見たのは初めてのことだった。
「ひ、やぁ♡それっやだぁ、あッん♡」
嫌だと言ってはいるが抵抗など無い。むしろ善がりながら「もっと」と強請るように腰を揺らしているので嘘だと分かる。
「嘘ついたら駄目ですよ、気持ちよさそう……」
桃色の乳輪を撫でながらくにくにと両方の乳首を扱くとテメノスの腰が跳ね、それだけでぴくんっ♡と身体を震わせていた。見れば彼の芯はしとどに濡れており、涎を垂らしている。敏感になっている先端に触れてやると糸が引いて、くちゅりといやらしい音がした。
「テメノスさんすごい、おっぱいだけでイってる……いつからこんなになってたんですか?いつも一人で……?」
ぴんっ♡と尖った突起に舌を這わせる。今まで見ることも触れることもできなかった場所が、こんなことになっていたなんて知らなかった。
「うう、ばかばか、クリックくんのばかぁ……!」
問いに対しての返事が無いことが、つまりは答えなのだろう。稚拙な罵倒とともに涙目で睨まれるがテメノスには悪いがまったく怖くなどは無く、むしろ劣情を煽り立てているようにしか思えない。
「そんなこと言われても煽ってるようにしか聞こえませんよ。僕、嬉しいんです。あなたがこんなにも僕のことを想ってくれていると分かって」
なるべく優しく頬を撫でると、少し落ち着いたのかテメノスは目を細めた。それから唇を重ねると、珍しいことに彼から舌を入れてこようとしている。クリックは驚きながらもそれを受け入れ深く口づけると、ちゅう、と強く吸われて離れて行く際には唇を小さな舌で舐められた。
「はァ……、クリックくんの匂いがする……♡」
首の後ろに手が回ってきたのが分かり、クリックの鼓動が高まる。こんなことは彼との付き合いの中では初めてで、全身が燃えるように熱い。クリックはテメノスの手を解き一度体を起こすと膝立ちになり、窮屈そうにしている箇所を寛げて昂っているモノを取り出した。服を全て脱いでいる時間さえ惜しいのだ。
もじもじと太ももを擦り合わせている彼の脚を開き、強請るようにヒクヒクと疼いている後孔に擦りつけた。そこは媚びるように吸い付いてきて、貫かれるのを今か今かと待ちわびている様だった。
「伝わってなかったようなので、何度でも言いますけど。僕はあなたが好きでこうしてるんです。それだけは分かっていてください」
ずぷ……と先端を押し入れる。テメノスの吐息が乱れ始め、うっとりと瞳を揺らしていた。
「ん、私だってきみのこと……あ、アっああアッ♡」
クリックは細腰を抱え、浅いところをゆるゆると突いている。隘路を擦るとイイところに当たっているのかテメノスは喘ぎながら甘イキを繰り返していた。
「あッああ♡ぁんッあ、ひ、ぅッあぁ♡」
ピストンを止めることなく、クリックはテメノスの表情へと視線を走らせる。いつもこんな情欲的な顔をしているなんて知らなかった。もっと知らないことを教えてほしい。もっと、もっと、もっと。
「テメノスさん、好きです。もっとあなたのことが知りたい……」
「でも、わたしは……や、ぁっあ、あアッッ♡」
深く貫けば、ぴゅるっ♡とテメノスの芯から熱が溢れた。とろとろと涎のように垂らしながら与えられる快感を享受して、突かれるたびに射精を繰り返し、媚肉で咥えているクリック自身をきゅうきゅうと締めつけている。
そろそろ自分も絶頂が近いという頃に瞳を蕩けさせたテメノスが両腕を伸ばしてきて、小さな口を開けた。
「クリックくん、もっと……きて……♡」
どくん、と鼓動が大きく鳴った気がした。
クリックはテメノスに覆いかぶさるとシーツに沈め、ぐっと腰を抱き寄せた。今更緊張するようなことではないはずなのに、どうしてか普段よりも体が強張ってしまう。顔が見えているだけで、こんなにも違うものなのだろうか。
きっと、いつものようにはいかない。
「……テメノスさん、ごめんなさい」
クリックの言葉にテメノスは首を傾げる。
「クリックくん……あッあ、あんっあ、あア♡♡」
どちゅ、どちゅんっ!と肉が擦れ、肌を重ね、深く貫く。もう何も出ないテメノスはびくびくと快感に身体を震わせながら連続でメスイキするとナカで自身を犯す怒張を締め付け、それに耐えるようにクリックの背にしがみついている。ギリギリまで抜いて再び挿入すると、媚穴が逃がすまいと吸い付いて来た。
「ッや、あぁ♡そこ、深いところ、きもちぃ……ッ♡もっと奥、おねが、い♡」
「いいですよ、テメノスさんの気持ちいいところ全部、知りたいですから」
最奥を抉じ開けるように何度も何度も突く。お互い絡まり合って、他になにも見えないようだ。もしかしたら、本当になにもないのかもしれない。
普段は見せてくれない表情も、聞かせてくれない声も、ぜんぶ曝け出している恋人が目の前にいる。愛おしさが募り、クリックは抽挿しながら口付けた。
「好きです、テメノスさん……あなたが想っているよりも、ずっと、ずっと」
口内を味わいながら、まるで動物のように腰を振る。
「そんなの、私だって、ぇ……好き、くりっくくんが好き……ぁ、だめ、またイく、イっちゃう、ぁんッああっあ♡」
「イくところ見せてください、ぜんぶ知りたいから」
「くりっくくん、ぁ、あッ♡ひぅ、あっああ……ぁ、――~~ッッ♡♡」
絶頂を迎え、最奥へ射精したクリックは自分の下で虚ろな目をしてくったりとしているテメノスを見る。
慌てて自身を抜き、後処理をしようとするとテメノスはもぞもぞと上半身を起こした。
「クリックくん……」
ぼんやりとした声と表情で、自分本位なセックスをしたことについて怒られるのだろうと思った。
しかし、待ち受けていたものはもっと別のもので。
「わたし、まだ足らないんです。君もですよね……?」
つう、と長い指がクリックの頬を辿る。
そう言われて、ノーなどと言えるはずがなかった。