メテオライト
今は何時なのだろうか。カーテンを閉め切った部屋には光が入らず時間の感覚が失われる。もしかしたら陽の光など、とうに消えてしまっているのかもしれない。
クリックはマンションの薄暗い一室にて、お互い一糸纏わぬ姿のまま見慣れたベッドの上で部屋の主を静かに組み敷いていた。長いことかけて口説き落とし、つい先日やっと受け入れてくれた彼は自分の下でうつ伏せになりシーツを掴んでいる。それだけでも充分に官能的ではあるのだが、更には肩甲骨を浮かせ息を荒げて、もどかしそうに腰を揺する姿にはうっすらと汗を浮かべて白い首には乱れた髪が張り付いていた。身を捩るたびに細い身体に影が浮かび、時折「あっ」と小さな声を溢れさせては無意識にこちらを煽るのだ。
「テメノスさん、声……我慢しなくていいですよ」
クリックが耳元に顔を寄せて伝えても、それはいつも無視されてしまう。理由を聞いても何も言わないので、きっと恥ずかしいのだろう。正直に言えばもっと声を聞きたいところではあるが、とにかく今は余裕がない。テメノスの熱を持った腰を掴み、ゆっくりと押し入れていた自身で背後から勢いよく突くと途端に身体を震わせていた。
「や、あッ!」
彼のシーツを掴む力が強まり、皴がますます深くなる。そんな布ではなくこちらを向いて抱きしめてほしいのに、絶対にテメノスはそうしない。最中に顔も見せてくれない。しかし無理強いをして嫌われたくはない。なんとか己の欲望を抑え込むことはできている。いつか、素直になってくれると良いのだが。
屹立を咥えた隘路が形を覚えようとするように締め付けてくる。きゅう、と締まる感覚に息が漏れ、もっと優しくしたいのに我慢が出来ない。自分ばかりがよくなって、彼はどう思っているのだろうか。こうやって受け入れてくれているのだから、嫌ではないのだろうか。聞いても答えてもらえないのだろうけど。それでもテメノスの腰が揺れているのを見ると、ちゃんと繋がれている気がした。
「テメノスさん、かわいい」
「ッばかなこと、言わない、で……ん、ァあっあ、あ!」
抽挿を続けながら思っていることを伝えても、返ってくるのは決まって捻くれた言葉だった。それでも構わない。こうやって一緒にいることができれば、それだけで幸せなのだから。
* * * * * *
あれからどれだけ経ったのか分からない。やっと明かりを点けた部屋で、つい先程まで自分の下で喘いでいた恋人が行為後になると冷静に「時間は大丈夫なんですか」と訊いてくるものだから、クリックの頭は現実に引き戻されてしまった。
重たい身体でベッドの隅っこに投げ捨てられていたスマホを手繰り寄せて時間を確認する。想像していた時刻よりも2時間過ぎており、クリックは慌てて体を起こした。
「うわ、すみませんテメノスさん!僕もう帰らないと……」
「だろうと思いました。今から出れば終電には間に合うでしょう」
「うう……後処理も出来ずにすみません、また連絡しますから!」
クリックは慌てて床に転がっていた服を身に着けながら、自分の荷物を無造作に鞄へ投げ込んでいく。昨日から泊まってはいたが荷物は最低限だったし、もし何か忘れていても恋人の家なのでなんとかなるだろうとどこか余裕があった。
準備を終えて、簡単に辺りを見回す。ベッドの上ではまだ裸のままのテメノスが布団を羽織ってこちらにひらひらと手を振っている。はやく帰った方がいいということなのだろう。
「それじゃあ、帰ります。あ、鍵は閉めておくので!」
「いいから早く行きなさい、本当に乗り遅れますよ」
クリックは部屋を出る前にテメノスのもとへ寄ると、何をしているのだと言いたげな彼の頬にキスをした。驚いて瞬きを繰り返す彼に軽く頭を下げてから部屋を出る。まだ顔が熱い。部屋の鍵を閉める手が震えている。もっと、もっと一緒にいられたらいいのに。