黎旦にさよなら
ぎし、とベッドが悲鳴を上げる。
服を脱ぎながらテメノスさんを見る。脱いだ衣服を丁寧に畳んでいるのは普段の癖なのか、これから起こることへ気持ちの整理をつけるための時間稼ぎなのかは分からない。
そして互いに一糸纏わぬ姿になり、ゆっくりと彼を組み敷いた。テメノスさんの身体がいつもより小さく見えたのは、今の自分が捕食者である自覚があるからかもしれない。
「あの、クリック君」
「どうしました……?」
テメノスさんは自分の身体を抱きながら、どこかそわそわとしていた。
無理をしているだけで本当は嫌なのではないだろうか。そうであるなら謝りたい。
真意について問おうとしたが、それより先に彼の口が開かれた。
「私、こういうのはじめてで……たぶん、きっとものすごく面倒です。だから、最初に謝っておこうと思って。……ごめん、なさい」
——僕は、なんて愚かなのだろう。
彼の気持ちを汲み取ってあげられていなかった。ずっと何を躊躇っていたのか気が付いてあげられなかった。
「謝るのは僕の方です。テメノスさんのこと、分かっているつもりだったのに、僕は何も……」
「いえ、私から話せば良かったんです。だけど、その。どうしても話しにくくて」
それはそうだ、彼から言わせるわけにはいかない。
もっと早く気付かなければならなかった。せっかくテメノスさんは僕を“つまらない男”から脱出させてくれたというのに、なんてことを。
僕は後ろ頭をがしがしと掻き、一旦落ち着けてから彼の額に口づけた。
「もう隠し事はなしです。何かあればすぐに言ってください。いいですね?」
「え、はい……。ふふ、なんだか頼もしいですね?」
緊張が解かれ、笑顔が戻っていく。その様子に安心して、改めて僕に組み敷かれている彼と向き合った。
キスをして意識を逃がしながら、潤滑剤に香油を指へ纏わせて、白い太ももの奥へと這わせていく。
狭い窄まりは指一本でもキツく、中を少し解そうとしただけでテメノスさんは眉を寄せていた。
「ん、ぅ……」
「痛いですか?」
「いえ、大丈夫……です」
はあ、と重たげな吐息が溢れている。
大丈夫なわけがない。自分だけが気持ちよくなっては意味が無い。二人で一つの快楽を得たくて、僕は彼に口付けつつゆっくりと慣らしていった。
なんとか三本ほど収まるようになった頃、テメノスさんの吐息はすっかり乱れ、僕にしがみつきながら必死に声を押し殺していた。
中に収まっている指を曲げるとやっと探していた箇所に触れることができた。香油を増やし、ぬるりとそこを指で撫でる。
「あっ、ぁ!」
ぴくんっとテメノスさんの身体が震える。
火照った身体をすり寄せながら潤んだ瞳で、じっと僕を見つめていた。
「く、くりっく……くん」
「ここ、嫌ですか?」
「嫌じゃない、けど……でも、あっん、なにか、ヘンで……、ひ、ぁ!」
他者から与えられる“気持ちいいこと”を知らない彼は、この感覚が分からない。
甘い声を聞きながらトントンとそこを指で押すと、テメノスさんは身を捩り無意識に快楽から逃げようとしていた。
「やぁ、クリックくん、だめっそこ、いっぱい触っちゃやだ、あん、あァっあ」
「気持ちいいですよね、大丈夫です。僕に抱き着いたままでいいですから」
「で、でも……あ、だめ、出ちゃ、あ、あ……——!」
とぷ、と彼から溢れたのが分かった。僕にしがみついたまま、びくびくと身体を震わせている。
恥ずかしいのか、すぐさま両手で顔を覆って、だけど起こった事実を受け止めようと顔を赤くしたまま指の間から僕の様子を窺っていた。
「わ、私。本当に……君の、手で」
汗で張り付いた白銀の前髪を払ってやりながら額にキスを落とす。
「はい。とても可愛かったですよ」
「……~~~ッ」
テメノスさんは身体を反転させて枕に顔を埋めてしまった。
もっと彼のいろんな表情を見たい僕としては、今どんな顔をしているのかも知りたいところだ。
「隠さないで、ぜんぶ見せてくださいよ」
「だ、だって……」
少しだけ顔を上げた彼の瞳にはうっすら涙が浮かんでいた。
ああ、可哀想なことをしてしまっただろうか。だけど綺麗だ、なんて思ってしまう。僕のよくない所だ。
「今日はここまでにしますから。ね、それなら恥ずかしくないですか?」
「え、ここまで……?」
ちら、とテメノスさんが僕の中心へと視線を送るのが分かった。
それもそうだ。恋人の可愛い姿を見て反応しないわけがない。
だけどこれ以上彼に無理をさせるわけにはいかない。僕としてはここまででも大きな一歩で、これからゆっくりと歩めればいいと思っている。
しかし納得いかないのか、テメノスさんは身体を起こして僕と視線を合わせてきた。
「でも、君がまだ」
「僕はいいんです。後でなんとかしますから」
「なんとかって……」
もう一度ソレをじっと見つめられる。お互い同じものを持っているから見られたとしても別に構わないのだが、あまりじろじろ見られると流石に恥ずかしい。
しかしそれを隠そうとすると、テメノスさんは僕の膝上に乗り上げてきた。
「えっ」
思わず間抜けな声が出る。まさかそんな行動に移されると思わず、呆然と彼を見たまま固まってしまっていた。
「私だけ、なんて嫌です。君がここまでしてくれたのだから、私も君に……気持ちよくなって、ほしいです」
言いながら、テメノスさんは勃ち上がっているソレに自分の孔を押し当てるように腰を落とし、揺らしてきた。
何をしているんだと止めなければならない。だけどそんな余裕も無い。好きな人に擦られて気持ち良くないはずもなく、つい抵抗できないまま彼に身を委ねてしまっていた。
「全部は無理かも、ですけど……少しだけなら……あ、んっ」
柔らかな臀部に挟まれながら、亀頭がにゅるりと吸い付いていく。
少し先端が収まったのが分かる。このままでは本当にまずい。
だけど彼にやめる気配はなく、僕に抱き着いたままゆるゆると腰を動かしていた。
「ん、あ……くりっく、くん」
浅いところを擦るように動いている。そこが気持ちいいことは分かっているし、無意識に好きな所へ当てている姿がなんとも悩ましい。
くちゅ、と中で擦れるたびに淫猥な音が聞こえてきて、自分の中の理性という二文字がガラガラと崩れ落ちていくのが分かった。
「クリックくん、きもちいい、ですか……?」
「……はい、気持ちいいですよ」
「そう。ん、ぁ、良かった……」
とん、と下から軽く突くと、テメノスさんは少しだけ声を詰まらせた。
だけど嫌がりも苦しそうにもしないので、もう一度同じように彼の中を擦る。
するとテメノスさんは眉を寄せ、口元を隠すように手で覆っていた。
「クリックくん、それ、もっと」
「え?」
もじ、とテメノスさんが中を締め付ける。
「もっと、いっぱい君に突いて、もらいたい……です」
ぶわ、と胸の奥で何かが弾ける感覚があった。
ごめんなさい、と一言だけ謝罪を入れた僕は彼の腰を掴むと窄みで亀頭を咥えさせるように、強く、深く、腰を落とさせた。
「ひぁ、あっん、あ!」
びくんっとテメノスさんが喉を仰け反らせる。
その白い喉に噛みつくとなんだか甘い香りが漂ってきて、誘われるがままに彼を下から深く貫いた。
「や、あんっあ!君の、おっきぃの……いっぱい入って、あ、分かんな、なに、これ……あ、あん!」
「……そういうこと言うから。僕、これでも耐えてる方だったんです」
「なに、や、待って、あッん、あァ!」
ぴゅるっと再び彼の熱が溢れ、ナカで締め付けられた僕も同時に果ててしまった。
そのまま互いに抱き着いたまま息が整うまで待って、いつの間にか視線が交わって、引き寄せられるがままにキスをした。