がちゃがちゃ

寝ても覚めても

 それは一ヵ月ぶりにテメノスさんと会ったときのことだった。
 休暇を利用してフレイムチャーチへ訪れて、彼の自宅へ泊めてもらうことは恋仲になってから何度もあった。
 今夜もその予定で、湯浴みを終えてから少しだけ触れあって、触れるだけのキスをして、互いにおやすみなさいと言い合って眠りにつこうとした。
 腕の中のテメノスさんが、心なしか落ち着かない様子でそわそわとしている。どうしたのかと訊いても何も言わず、僕は彼から話してくれるのをじっと待つことにした。
 テメノスさんは男性だから当然であるが、女性の様に柔らかくはない。なのに、どうしてだろうか。こうして腕の中に抱いていると心地よいし、ふわふわとした気持ちになる。
 そして、いつもいい匂いがするのでつい髪に顔を寄せてしまう。彼の全身を堪能しながら待っていると、ついに「クリック君」と名前を呼ばれた。
「あ、あの。その、今夜は……」
 普段の彼は物事をはっきりと口にする人間で、こうして言葉に詰まることは滅多に無い。
 だから、口ごもってばかりのテメノスさんに違和感を覚えた。
「どうされましたか?」
 なにか言いづらいことでもあるのかと心配になり彼の髪を撫でると、少し落ち着いたのか腕の中の呼吸が整っていくのが分かった。
「だから、今夜は……もう、寝てしまうの?」
 その言葉に驚いた僕は目線を移し、彼の瞳をまっすぐと見つめた。
 なにかを求める様な、じれったそうにしているような、潤んだふたつの目がしっかりと僕を捉えている。
「えっと。それってつまり、お誘いと受け取っても……いいのでしょうか……?」
 彼とは長い付き合いになるが、テメノスさんから誘いを受けることは少ない。いや、むしろゼロではないだろうか。
 今までこちらから誘って拒否されたことは無いが、積極的であったこともない。
 だからずっと、テメノスさんはこういった行為が嫌なわけではないけど好きなわけでもない。つまりは普通。あってもなくても、どちらでもいいもの。そう思っているのではないか、と自分の中で答えを出していた。
 だが今の彼はどうだ。物欲しそうな視線に誘われた僕は、つい思ったままを口にしてしまった、というわけだ。
「そうでなかったら、何だって言うんですか」
 テメノスさんは不機嫌そうに眉を寄せ、視線を僕から逸らしてしまった。
 僕としても久しぶりに会う恋人を抱きたい気持ちはある。だけれどいつも会うたびにその流れなので、がっついていると思われたくなかった僕はついかっこつけてしまっていた。
「い、いや! テメノスさんから誘ってもらえるのは初めてだなと思って、つい……その、僕としてはとても嬉しいです」
「……そう」
 そっぽを向いてしまった恋人の頬に手を添え、顔をこちらへ向かせる。
 再び視線が絡んで、僕たちは引き寄せられるようにキスをした。

 * * *

「あの、テメノスさん……本当に無理しないでください」
「だから無理なんかしてないって言ってるじゃないですか」
 このやり取りは何回目だろうか。
 テメノスさんの誘いが嬉しすぎるあまり、僕は「テメノスさんがしたいこと、なんでも言ってください」と言った。
 それは彼の為であって、彼を満たしたかったからだ。
 だというのに、なぜ、なぜ。
「なんで僕の脚の間にテメノスさんがいるんですか~……!」
 僕が「なんでも」と口にした瞬間に彼の目の色が変わったのは、なんとなく分かっていた。
 しかし特には気にならなかったので「ではベッドの縁に座ってください」という要望に言われるがまま従った。
 するとテメノスさんはなんの躊躇いも無く僕の前に跪いた。そのまま太ももに手を添えたかと思うと、無防備な僕の両足をがばりと開いてしまったのだ。
 突然のことに驚いている僕の下衣は彼の手により呆気なく剥かれてしまい、情けなくも無抵抗の性器は外気に晒されてしまっていた。
 何をしているのかと問う間も無いまま剥き出しの性器は彼の手に握られ、亀頭は小さな舌で撫でられている。耳に響く水音のせいで僕の心臓は一気に忙しなくなり、体温が上がる。
「そんなこと、しなくていいですってば……!」
「君が私のひたいことをなんでも、と言ったんでふから、おとなひくしてて」
 テメノスさんは上目遣いのまま、形の良い口で懸命に熱を与えようとしている。キスをするように啄んだり舌先でつついたりと好き放題に弄られて、目の前で起こっていることは現実なのだと思い知らされていた。
 次第に淡い口淫は激しくなり、じゅぽじゅぽと音をたてはじめた。穢れを知らなさそうな綺麗な両手で扱かれる様は目に毒で思わず視線を逸らしたくなったが、男の本能が「この瞬間を見逃して良いのか」と訴えてくる。欲望には勝てなかった。テメノスさんの呼吸も荒く、悩まし気に眉を下げて僕の性器を愛おし気に口に含んでいる。
 そして湿った吐息をかけられ、ふるりと身体が震える。限界が近いと彼に知らせるために指通りの良い髪を撫でた。
「テメノスさん、もう……離してください……ッ!」
 嫌だとでも言いたいのかテメノスさんは目を細め、長い睫毛が白い肌に影を落とす。
 そして頬を赤らめながら強く吸い、同時にぬるぬると両手を幹へ這わせていた。
「ん……クリックくん、いっぱい出ひて……ッ♡」
 一際強く吸われ、集まった熱は弾けてしまった。
 言わずもがな、テメノスさんの口の中へ――……。

 * * *
 
 射精の瞬間、目を潤ませたテメノスさんを見た。口で受け止めながら苦しそうに、だけれど幸せそうな表情に僕の胸の奥はすっかりかき乱されてしまっている。
 彼を満たしたかったはずなのに、気が付けば満たされたのは僕の方だった。

「テメノスさん、なんでこんなこと……! ほら、はやく吐き出して……って、なんで飲んじゃうんですか~ッ!」
 慌てている僕はずっと喋りっぱなしだ。
 一方当のテメノスさんは落ち着いており、口元に手を添えながらまるで甘味でも食すかのように上品に喉を上下させた。
「だって君が出したものですよ、勿体ないじゃないですか」
 なんでもないことのように、テメノスさんはふわりと微笑む。
「う……僕には勿体ないほどの愛を感じます……」
「実際、愛していますからね。めいっぱい感じてください」
 口の端に溢れてしまったものも器用に舌で舐めとったテメノスさんが、ベッドに座ったままの僕へ抱き着いてくる。
 そんな彼を抱き返しながら、僕は始終気にしていたことを口にした。
「なぜ口でしてくれたんですか。いや、とても良かったんですが……テメノスさんは、こういうことはあまりお好きではないと思っていました」
 素直に問えば、テメノスさんは不思議そうに瞬きを繰り返す。
 そして僕へ体重を預けながら、楽しそうに声を弾ませた。
「嫌いだなんて一度も言ったことはないですよ。ただ、自分から誘うことに慣れてなかっただけで……私だって、もっと君に触れたかったし君を気持ちよくさせたかった」
 もじ、とテメノスさんが身じろぐ。
「それに、次は君が私をいっぱい気持ちよくしてくれますよね?」