purusha
適当に夕飯を済ませトレーニングルームで軽く汗を流した後、悟空はバスルームへと向かおうとするベジータを呼び止めた。
「待てよ、オラも行く」
「なら先に行け。オレは後でもいい」
「いや、そうじゃなくて。一緒に入ろうってこと」
振り返ったベジータが目を大きく見開きぽかんと口を開け、今まで見たことないような顔で固まっている。そんなことは気にしない悟空はベジータを連れてバスルームへと向かおうとするが、その手を払いのけられてしまった。
「貴様と一緒だと……じゃなくて、そこまで着いて来る必要はないだろうが!」
「じゃあ聞くけどさ。これ、どっちがシャンプーか分かるか?」
悟空は両手に片手ずつ、それぞれ異なるボトルを持つ。片方はシャンプー、片方はボディソープだった。
どちらがシャンプーだと問われても微塵も見当がつかないベジータは眉を寄せ交互に二つのボトルに視線を送るだけだ。似た色且つ似たデザインのボトルは、今のベジータにとっては判別が困難であると知っている悟空はにやにやと口の端を上げる。
「ほらな、分かんねぇだろ?そんな状態で一人で入ったらすっ転んじまって、オラがブルマに怒られちまう。だから遠慮すんなって!」
遠慮なんかじゃないバカアホやめろクソッタレ!とバリエーション豊かな罵声が聞こえてくるが全部無視して悟空はベジータをバスルームへと押し込み、自分も続いて入って行くのだった。
* * * * * * * *
大人の男二人が入ると流石に少し狭かったが、なんとか悟空はベジータの髪を洗うことに成功していた。もっと暴れるだろうと思っていたが、抵抗しても無駄だと踏んだのか大人しく悟空にされるがままになっている。
悟空は背後からベジータの髪をわしゃわしゃと泡を立て洗う。そして、彼の髪が思っていたよりも柔らかいことを知った。いつもしっかりと逆立ち崩れることが無いので、もっと硬いものだと思っていたのだ。
そして指通りの良い髪を指で遊ばせながら、傷の多い背中と普段は間近で見ることにないうなじに魅入っていることに気が付いた。
「何をしている」
いつもと違う視線に何かを察したのか、ベジータが怪訝そうな声で肩越しに視線を寄こしてきた。慌てた悟空は話を反らす為に「そう言えば」と続ける。
「オラ、一回だけブルマに体を洗ってもらったことがあるんだよな」
「な、なに?」
「一緒に旅をし始めてすぐだったかな。しっぽに驚いたブルマが腰ぬかしちまってさ……今思えば悪いことしたなぁ」
はは、と笑いながら話を続ける。ベジータは静かに耳を傾けていた。子どもの頃の話だと理解したのか、小さく「まったく下品な奴らだ」と呟いた。
お互い髪を洗い終えた後、浴室から出ようとするベジータを悟空はなんとか止めて一緒に浴槽へと浸かった。
互いに向き合って浸かっているが、彼がこうも大人しいことが悟空には不思議だった。
「ベジータはもっと嫌がると思った」
素直にそう言えば、ベジータは少し頬を染めながらそっぽを向いてしまった。
「……オレが文句を言ったり暴れたりすればブルマに迷惑をかける。それに、大人しくしていないとトレーニングも許されんのだろう?」
ベジータはどこか遠くを見ているようだった。
一度ブルマもトランクスも死亡している。魔人ブウ復活のきっかけを作ってしまったことに彼が負い目を感じていることを知っている悟空はどこか寂しそうな色の目に胸が痛んだ。
「――そりゃ!」
悟空は両手で水手砲を作るとベジータを目掛けて撃ち、同胞の横顔に思いっきり湯をかけた。
「ッ!?き、貴様なにを……!」
「がら空きだったからさ。どんな時も油断しちゃいけねぇんだろ?」
挑発するように言えば、向かい合った好敵手は戦闘態勢に入り「いいだろう」と乗ってきた。
気分の上がった二人は洗ったばかりの髪が湯にまみれることを気にも留めず、互いに水手砲を撃ちあい続けていた。
しばらく遊びを続け、その途中で悟空が浴室の中で折り曲げた足を動かすと指先がベジータに触れた。ん、と小さな声が聞こえた気がして悟空は身を固くする。
ほんの少し触れた柔らかいそこは、どう考えても彼の尻だ。怒られると思ったが、ベジータは何も言わなかった。
改めて悟空は浴槽の中で正面に座っているベジータを見る。もう色々な箇所がはっきりと見えていることに今更になって気が付き、目のやり場に困ってしまっていた。
このよく鍛えられている小柄な体のタフさを知っている。なのに引き締まった筋肉は美しく思わず見とれてしまい、くびれた腰と豊満な胸筋から視線が離せない。その二つの先端を見てしまいそうになったところで、慌てて顔へと視線をずらした。
(ベジータにはオラがここにいるって分かってるだけで、全部は見えてないんだよなぁ)
不思議なものだと、悟空はベジータに向かって手を伸ばしてみる。その様子は分からずとも気配で近づいてきたことを察したのか、ベジータは一瞬だけびくりと肩を揺らした。
そのまま手の甲で隙だらけの頬をつぅ……と撫でる。やめろと止められることはなく、くすぐったそうに目を細めるだけの姿に悟空は熱い吐息をついた。
これ以上は駄目だと思い湯から上がると、悟空はベジータを残し浴室から出ようとした。
「どこへ行く」
何も見えていないベジータの心なしか不安そうな声に呼び止められ、悟空は口ごもる。
「の、逆上せたみてぇだから先に上がってるよ。ベジータはもう少し温まった方が良いと思うから、あとで迎えに来る!」
早口で言い終え、悟空は浴室から出ると急いでドアを閉めその場にしゃがみ込んだ。すっかり反応してしまっている己の股間を見て盛大なため息をつく。
「……最低だよな」
今ベジータの目が見えていなくて本当に良かったと、壁一枚挟んだ向こう側にいる男のことを想いながら悟空は頭を抱えた。
* * * * * * * *
眠りにつく前に「何かあったらすぐ言えよ」と声をかける悟空にベジータは「余計なお世話だ」と返すだけだった。
おやすみという言葉にも返事はなかったが、悟空にはそれどころじゃなかった。ベジータで勃ってしまったという事実が脳内をかけめぐるばかりで、他のことが頭に入らなくなっている。
(ああ、オラどうしちまったんだ。明日は普通にできる……よな……)
不安になりながら布団を頭まで被る。余計な考えを頭から消し去る様にぎゅっと目を瞑れば、いつの間にか夢の中へと向かっていた。
恐らく真夜中のことだ。寝ている体に急な衝撃を受け悟空が体を起こすと、そこには悟空のベッドに飛び込んだかのように腹の上でうつ伏せに倒れているベジータがいた。
「ベ、ベジータ!?」
倒れた体を起こしてやると、ベジータは顔を上げて恨めしそうにこちらを睨んでいた。
状況から察するに、トイレか何かで起きた彼は目的地まで行ってここまで戻ってきたは良いが、自分のベッドの位置が分からず彷徨っている内に悟空のベッドに躓いてそのままダイブしてしまったのだろう。
「起こしてくれりゃいいのに」
「いちいち世話になってられるか。フン、笑いたければ笑え」
半ば自棄になっているような言い方に悟空が眉を下げる。
ほぼ無意識だった。悟空は起こしたベジータを抱きしめると再びベッドへ横になった。決して同情からでも怪我を負わせた負い目からでもない。ただそうしたかっただけだ。
悟空の行動に驚いたベジータは「離せ」と暴れたが、抱きしめる腕に力を籠めれば途端に大人しくなった。
「……どういうつもりだ」
「さあな、どういうつもりなのか自分でも分かんねぇ」
「なんだそれは」
ベジータが呆れながら上目遣いで悟空を見る。どきりと胸が音を立て、返事を見失ってしまった。
「なんでかな、ずっと……ずっと前からこうしたかったんじゃねぇかなって、思って」
ベジータは黙って悟空の言葉の続きを待った。だが、悟空は何も言わなかった。
静かな時だけが流れている空間の中、不意にベジータが声をあげた。
「カカロット、貴様……」
なんだと訊く前に、ベジータが膝を曲げて悟空の股間を刺激した。
「な、なにして……!?」
「貴様が一丁前にオレを前にして勃ててるからだろうが。なんだこれは、説明しろ」
説明と言われても困るところで、悟空は言葉に詰まる。何も言わない同胞にベジータはぐりぐりと膝で攻め立ててきた。
「ちょ、ベジータ本当にッや、やめ」
「やめていいのか?」
不敵な笑みを浮かべながらぐっと顔を近づけてくるベジータに思わず息をのむ。
「遠くにいる妻を思い出したのか?元々こういう体質なのか?それとも……」
ただでさえラフな露出の多い寝巻の胸元を指でずらしながら、ベジータが不敵な笑みを浮かべる。僅かに見える胸の突起に全身が熱くなり、抑えきれなくなった悟空はベジータに覆いかぶさる様に押し倒した。
「本当にやめてくんねぇと、オラ……おかしくなっちまう、から」
「もう遅い。とっくにおかしいだろ、貴様は」
オレの裸で興奮しているのだから。そう言われて、悟空はかあっと顔が熱くなっていくのを感じた。
そのまま力任せにベジータの口を塞ぐ。キスだなんて呼べるほど優しいものではないと分かってはいるがどうしようもなかった。このまま自分を突き飛ばし逃げてくれればいいのにと願っているのにベジータはそうしない。それどころか悟空を受け入れ舌を絡ませてきた。歯列をなぞり粘膜を舐めとるような行為に視界が歪みそうになる。
本当に、どうにかなってしまいそうだ。
「はあ、カカロット……」
互いに散々貪った後、うっとりとしたような声で名前を呼ばれる。熱に浮いた顔を見下ろしていると、ベジータは徐に寝間着の上をまくり上げた。
「ここが、見たかったんだろう?」
――最初から、全部バレていたのだ。そのことに悟空は羞恥を覚える。
このまま自分はどうするべきなのか分からず戸惑う視線を惑わす様に、今度はベジータが腕を伸ばしてきた。見えていないからだろう、手探りで悟空の顔を確認して頬をするりと撫で上げる。
「好きにすればいい。貴様が何をしたところで、どうせオレは……何も見えていないのだから」
寂しそうな声に引き寄せられ、今度は軽く触れるだけのキスを落とした。耳や首筋を舐めながら胸に触れるとベジータが熱い吐息をつく。少し強張ったのが分かり、なるべく優しく触れていった。
揉むように触れ、硬く尖ってきた先端を指で引っ掻くように触れる。ぷくりと膨れた少し大きめの乳輪に舌を這わせると、ぴくりと震えた。
「ベジータ、ここ弱いんか?」
「知るか……ッ、さっさと続けろ」
言われるがままに行為を進め、色付いた乳首を舐めながら口に含むとベジータが身じろぐ。つんと上を向いた二つの突起を指で摘まんだり舌で転がしたりしていると、喘ぎ声が聞こえてきた。
「あ、ぁッん」
やっぱり弱いんだな、と悟空は気を好くする。少し強めに吸いながらもう片方もコリコリと引っ掻くと、びくびく震えた体が悟空にしがみついてきた。
「ッん、ん……カカロット、そこ……もっと、ぉ」
ああ、もう駄目かもしれねぇな。
甘い声で囁かれ、悟空は自分を止められなくなっていった。