がちゃがちゃ

静寂に茹だる

 びしょ濡れの大型犬の様な男を自宅へ連れ帰り、普段はほとんど使っていない客室へと招いた。そこから二人してベッドになだれ込み、気が付けば上からのしかかる様に覆いかぶさってきた悟空の背に腕をまわしていた。ずぶ濡れの身体はひどく冷たい。なのに触れた背はあたたかい。それが何故かだなんて考えたくもなかった。
 額に、頬に、唇に、次々とキスが降って来る。こんなことをする男だとは思いもしていなかったが今まで見たことない姿を知ったようで気分が好い。だがそれと同時に惨めにもなる。今までそれなりに孫悟空という男を知った気でいた。カカロットというサイヤ人を分かっているつもりだった。だけどそうではなかったのだと一方的に告げられているようで空しくなる。何も知らなかったのだ。本当のことなど、何も。

 いつかの様に口内を犯していく舌に息が荒くなる。一方的な行為がもどかしく山吹色の乱れた道着に手をかけると笑い声が聞こえた気がして何も考えない様にした。
 息苦しさの理由を探る様に悟空の服を脱がせれば見慣れたはずの身体に目を奪われる。オレと殺せたはずなのにそうしなかった身体。誰をも平等に扱う力。誰も特別なんかじゃあない、そう、誰も。きっと気まぐれなこの行為に身を委ねていれば楽になれる気がした。
 雨のせいで肌にぴたりと張り付いた服が剥がされていく。外気に触れ強張る身体へと再びキスが落ちてきた。性欲の為だけならそんなことをする必要なんて無いはずだ。どういうつもりなのか分からず、ただそれを受け入れることしか出来ない。
 一糸纏わぬ体に触れられ、無遠慮に胸を揉み拉く武骨な手から伝わる体温が妙に心地よくて力が抜けていく。二つの先端がぷくりと尖り、それを見た悟空が口を開いた。
「前から思ってたんだけど」
 何を言われるのか分からず薄く開いた目で視線を追うと、何故か照れ臭そうにしている表情でこちらの胸をじっと見ていた。
「ベジータっておっぱいでかいよな。いや、でかいっつーか……なんて言うんだけ。えっち?えろい?」
「な、に言って……ッ!?」
 言うや否や薄く色付く乳輪をべろりと舐められる。反抗する隙を与えられずされるがままに胸を揉まれては舐められ、摘ままれては引っかかれ、口ではなんと言おうとも身体はびくびくと反応してしまい与えられる刺激から逃げるようにシーツを強く掴んだ。
 乱れる息が絡み合いどこを触れられても反応してしまう。つぅ、と身体のラインをなぞる様に太い指が這い、恐ろしさを感じた。
「はぁ、ッあぁ、ぅ」
 抑えたくても溢れてしまう声を防ぐために唇を噛む。するとそれを止めるように舌をねじ込まれた。唾液が口の端から垂れ、それを舐めとられた時、もう諦めてしまったのかもしれない。欲しい、欲しいと全身から訴えてくる。あとはこちらが与えるかどうかを決めるだけ。決定権を委ねられている感覚に興奮しないと言えば嘘になる。
「……貴様の、ッ好きに、しろ」
 絞り出した声とともに癖のある髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜるように悟空の頭を抱え、ベジータから口付けた。一瞬戸惑ったような顔を見た気がしたが構わない。
 全部お前のせいだ。お前がオレとこうさせているのだから。

 * * * * * * * *

 仰向けに寝そべるベジータの脚の間にローションを纏った大きな手が這い、その奥の窄まりに指が押し込まれる。今まで感じたことのない異物感に目を顰め、自分を押し倒す男を睨んだ。
「う、ぐぅ、ッんん……」
 苦しいと目線で訴えるが「大丈夫、たぶん」となんとも返しがたい言葉を吐かれてしまい言い淀んでしまう。無意識のうちに閉じようとしている脚を無理やり開かされ、恥ずかしい体勢を維持されてしまった。丸見えになっている箇所に視線が注がれていて、もうどうにでもなってしまえと天井を仰ぐ。
 ナカで指が曲げられる感覚があり、んっ、と声が漏れる。ぐにぐにと解すように肉壁を押しつぶされ、挿入される指の数が増やされた。逃げるように身を捩ると、ある一点に指先が触れ未知の感覚にびくんっと腰が大きく跳ねた。
「ッん、ぁ!」
「あ、ここか?」
「い、やァ、やめっあ、あん、ァ!あう、カカロッ、ト!」
 鼻歌を始めそうなほど楽しそうに同じ箇所をコリコリと引っ掻くように触れられ、喘ぐ声が止まらなくなる。思えば、この淡泊そうな男に男同士での性行為の知識があることが驚きだ。どうしてそこをイイ場所だと理解しているのか、なぜこの行為が必要なのか、本当に分かっているのだろうか。
 気が付けば指がまた増えている。中はすっかり広がり、前立腺を刺激される度にひくひくと震えていた。
「うぁ、そこッやだッやら、ぁ……!うゥ、くそっ……なんで、ぇ……」
「オラさ、なぁーんにも知らなくて。ベジータとえっちなことしてえなって思った時に困っちまったんだよな」
 何故の意図を理解したのか、悟空がぽつりと喋りはじめた。今与えられている快感よりも話された内容の衝撃が大きく、ごくりと喉が鳴る。
「もういつだったか覚えてねえけど、いつの間にか欲しいなって思ったら止まらなくて、でもどうすればいいか分からなくなってて。別に誰かに話すつもりも無かったし、なんとなく良くはないことなんだろうなって思ったけどベジータなら分かってくれると思ったんだ。そしたら……」
 キスをしていた。そう告げられ、ベジータは悟空を見た。泣き出しそうな表情とは裏腹に澄んだ目に自分の姿が映っている。一か月前のあの日にそんなことを考えていたのかと思うと目を背けたくなった。
「殴られちまったけどな、はは……でも修行がしたかったのは本当だ。今日だって……、だからベジータも同じこと考えてるかもって思ったら、また止まんなくなっちまった」
 話しながら悟空の指は動いたままでベジータは必死に快感を受け流そうと藻掻くが、手首を押さえつけられそれも敵わない。勃ち上がったペニスの先端からとろとろと先走りが垂れ、ふるりと震えた。
「んっも、う……はやく、ぅ、ぁあっ!あ、ンン、ん!」
「気持ちよくなってるって思っていいんか?なあ、言ってくれないと分かんねえ」
「うるさ、いッあ、ぁあッん、はァっあ、ああ!あ、い、ぁッああン、ん!」
 びくびくと腰が浮き脚がピンと伸び、先端から白濁が溢れ腹にかかる。頭の中が弾けたようでくらくらするが、それでも止まらない行為に声を上げた。
「ばか、今イっただろう、がッ!くそ、もうやめ……!」
「だって、かわいいから……すげえな、尻だけでイけちまうんか。ああ、ベジータのこんな姿、オラだけが見てるんだな」
 そんなの初めてのことで、凄いかどうかなんて知りたくもない。悟空は絶頂したばかりのベジータを組み敷いたまま恍惚の表情を浮かべている。ようやく指を抜いたかと思うと自身の張り詰めた怒張を手に取り、先程まで我を忘れたかのように好き勝手していた箇所へ愛おしそうにすり……と押し付けてきた。グロテスクな程に大きいものに腰が引けるが今更逃げられるわけもなく、さらには言うことを聞かない身体は待ちわびているかのように熱くなっている。
 ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てながらひくひくと疼く後孔を攻められ、また声が止まらなくなる。助けてほしいような、もっと求めてほしいような、自分でも分からない感情が胸の中で渦巻いて何も考えられない。優しく頬を撫でられ「欲しいって言ってくれ」と耳元で囁かれ、誰が言ってやるもんかと言葉の代わりに背を傷が出来るほど強く引っ掻いた。
 少し眉をしかめた悟空は満足げに笑みを浮かべると「そういうところが好きだ」と言い、後孔に向かって思い切り腰を押し当てた。
「やっァあ、あっ!う、ぅあ、ァんっあ!」
「はあ、ベジータぁ……。なか、やわっこくて、うねってて……すげー気持ちいい……」
 熱い吐息がかかり、蕩けるような表情で見つめられる。欲にまみれた姿など知らなかったのに、どうして。
 ずぷずぷとナカに押し込まれるペニスに息が詰まりそうになる。力を抜いた方が楽になるのだろうが上手くいかずただ嬌声をあげることしか出来ない。
 腰を掴まれ、奥へと押し進めるようにゆっくりとピストンを繰り返している悟空を見る。陶酔感に浸っている様子にどうしてか嫌悪感を抱くことが出来ない。それどころかもっと酷い顔をさせたくなってしまうのは、きっと狂ってしまったからだ。
 好い所を擦りながら肉壁を広げられ、スプリングがギシギシと悲鳴を上げる。もっと好きに動けばいいのにと、じれったい行為に腰が揺れた。
「かかろっと、もういい、から……」
 シーツを掴んでいた手をすっかり乾いた後頭部へと回し撫でてやる。すると戸惑いの色を含ませた視線を感じて、鼻で笑ってやった。
「意気地なしめ」
 
 ごくりと息を呑む音が聞こえ、次の瞬間には上から深く覆いかぶさられたと思うと同時に直腸まで突く様にずぷんっと奥まで挿入されていた。目を閉じ押し込まれる質量に耐えようとするが思うようにいかず、荒い息が木霊する。
「んっん、あぁッ!あ、ッは、あ……」
「なあ、同じだって思って、いいよな……オラだけじゃないって、自惚れてもいいよな……?」
 どちゅどちゅと激しく腰を打ち付けながら夢を見ている様に言われ、いよいよ言葉を選ぶ余裕が無くなってくる。どうして今になってそんなことを訊くのか。思うがままに求めればいいのに。同じだったらなんだと言うのだ。
 だけど悔しいことにそれに応えてやれる自信がある。手を伸ばして間抜けな顔を引き寄せると、目の前には欲しい男がいた。
「分かりきってるだろうが、馬鹿」
 音を立てならが軽く触れる唇を舐めると即座に舌を入れられ、頭の中は同胞のことでいっぱいになってしまっていた。

 * * * * * * * *
 
 もはや言葉はいらないのかもしれない。何度も絶頂を迎えたベジータのナカを悟空は欲を出しては何度も何度も突いている。
 イった余韻に震える身体に更にペニスを押し付け、ごりごりとナカを犯していった。
「なあ、気持ちいいか……?」
「きもち、ッいい、っあぁア、ん!かかろっと、かかろっとぉ、もっと奥、に欲し、ぃ……」
「はァ、おらも……締め付けられてて、すげえ気持ちいい。奥、いっぱいやるからな」
 どくどくと注ぎ込まれる感覚とともに、また「欲しい」と思ってしまう自分が哀れになる。正常位から背面側位の体勢に動かされ、ペニスが抜けたことにより注がれたものがどろどろと溢れだした。
 信じられないものを見たはずなのに、これが行為の正銘なのだと胸を熱くした。本当に、どうかしている。
「んん、もう一回……」
 返事など待たぬまま、ぐぷりと下品な音を立てながら挿入される感覚を受け入れた。またナカをきゅうっと締め付けてしまい、身体が悦んでいることがバレてしまわないか不安になる。
 肩越しに悟空が荒々しく髪をかき上げているのが見えて、また酷く扱って欲しいと手を伸ばした。はじめは大型犬の様だったくせに、今度は猫の様に伸ばした手の平へ頬を摺り寄せてくる様子に頬が緩む。
「ベジータ、こういうの……なんて言うんかな」
「……、知らないままでいい」
 そうか、と小さく頷く悟空は少し寂しそうにベジータの背にキスをする。そのまま締め付けていたペニスが挿注を繰り返し、再び腰が揺れた。
「は、ぁんッん!んあ、あぁあ、やぁ……」
 好い所を硬いペニスで何度も擦られ、最奥に注がれる欲に溺れそうになる。互いに抑えられない声を何度も聞いたのに、何も聞こえていない様に感じるのはこれが夢だからであってほしい。
「もうベジータのからだで知らないところ、無いかもなぁ」
 その言葉を聞いて、ぼんやりとした意識が戻って来る。
 オレは、オレは、オレは。いつの間にか、お前のものになっていたのか。
 そして求めて求められるがままにセックスに溺れ、何も出なくなったベジータのペニスを見た悟空がハァと熱い息を吐いたく。
「ああ、もう逃げられねえな……オラも、ベジータも……」
 その言葉はきっと間違ってはいない。
 そう確信できるほど、その目に捕らわれている。