がちゃがちゃ

誰のためでもない

 ベッドに腰かけたまま見つめ合っている二人の間を沈黙が流れる。悟空の言う“結婚”に疑問を頂きつつ、ベジータは目の前の澄んだ瞳を見つめていた。
(本当に、これでいいのだろうか)
 今更になって不安になる。いくら好いているとはいえこの男とセックスなんて出来るのだろうか。募らせた想いは一方的だし、そもそも悟空はこちらに対してなんの感情も持ち合わせてはいないだろうとベジータは途端に弱腰になってしまう。
 だけど悟空はやけにやる気に満ちており、いつものようにへらへらと笑っているではないか。こんな時だと言うのに肝の座っている様子に感心しつつ、ふざけるなという気持ちが湧かないでもない。
 
 そうこうしていると悟空がベジータの両肩をがっしりと掴み、ゆっくりと顔を寄せて来る。ここで本当に愛を囁かなければならないのかと身構えていると、見上げた悟空の表情がふわりと和らいだ。
「オラ、チチと結婚した時もよく分かってなくって怒られたんだよな。正直今でも全然分かんねえけど、でも、ベジータのことけっこう好きだ。ベジータは?」
「……オレ、は」
 突然伝えられた好きと言う言葉に動揺を隠せない。心臓の音が伝わってしまいそうなほど近く、まっすぐこちらを見つめる視線から逃れられず、ベジータは頭の中が真っ白になる。
 これはママゴトのようなものだ。好きと言う言葉になんの意味もない。分かっている筈なのに、どうしてそれ以上のことを望んでしまうのか。
「オレは、……貴様のことは、嫌いじゃない」
 やっとの思いで絞り出された精一杯の言葉に悟空は小さく吹き出すと、ベジータの肩を掴んでいた手を下ろして腰にまわした。
「はは、ベジータらしいなぁ。そういう素直じゃねえ所も好きだよ」
「な、にッ……!?」
 ぐいっと腰を引き寄せられ胸が当たる程に密着する。そして目の前が暗くなったかと思えば、気が付けば愛を囁いた男とキスをしていた。
「んん、ッ!」
「はっァ、……ベジータの唇やわっこいな?」
「うるせ、ぇッ!んなこと、ぅっ、ンぁ……」
 脳がふわふわと浮いていく感覚に戸惑いながら身を捩るが、しっかりと抱き寄せられており逃げられない。セックスの意味もぼんやりとしか知らないような男がどうしてこんなキスができるのかと不思議に思いながら舌で歯列をなぞられる。くちゅ、と音が鳴って今自分たちが何をしているのか自覚してしまい、絡まる舌が感覚を麻痺させていってベジータは自分を保とうと悟空の道着をぎゅっと掴んだ。
 しばらくして悟空の顔が離れていき、二人の間を糸が伝う。口元を腕で拭っていると無垢な男は「これでオラたち夫婦だな!」と満足そうに笑っていた。
 
「じゃあ、早速はじめっか!」
 悟空はまだ戸惑っているベジータをシーツの上に押し倒すとあっという間に服を脱ぎ捨て下着一枚になっていた。そのスピードについていけずベジータは悟空の下で必死に声を上げる。
「ま、待て!貴様どうしてそんなにやる気なんだ!?」
「だって、いくら待ってたって何も変わんねえだろうし、やるなら早くした方がいいと思ってさ」
 確かにそうかもしれないが状況を飲み込むのが早過ぎるだろう、とベジータは息を呑んだ。再び顔を寄せてくる悟空の厚い胸板を押し返しながら抵抗したが意味は無い。
「そもそも、なんでオレが下なんだ!貴様、男同士のやり方なんて分かるのか!?」
「だってベジータの方が体ちっちぇーし胸もでけぇし触ったらやわっこいだろうし。あ、男同士の方法は亀仙人のじっちゃんと修行してた時に勉強したから知ってるぞ!」
 今言われたこと全てに反論する気力など無く、もうなるようになれと腕を降ろした。すると即座に大きな手で胸を鷲掴みにされて高い声をあげてしまう。
「ッひ、あぅ!」
「やっぱり柔らけぇなー!前からそうじゃねぇかなって思ってたんだ!」
 楽しそうに胸を揉んでくる男の告白に意識を取られている内にトップスをがばりと捲られ、好き勝手にされていた胸がさらけ出される。男の太い指がピンッと尖った突起の先端を擦っては摘まみ、その度に熱を持ち反応してしまう体が信じられなかった。
「あ、ぁんっう、ぅ……」
 ベジータの抑えきれず溢れる声を楽しんでいるのか悟空は始終上機嫌で、ぷくりと膨らんだ乳輪からピンク色の乳首までをねっとりと舐め上げる。舌先で突起を転がし、反応を窺いながら時折強く吸いついてきた。
「ベジータぁ、おっぱい気持ちいいか?」
「んなこと、訊くな、……ぁっ!」
 上目遣いのまま片方の先端を吸われ、もう片方は擦る様に摘ままれている。このままどうなってしまうのかと考えている時に、ついに下に着ていたものも剥がされてしまった。
 
「指、いれていいか?」
 悟空の声に小さく頷くと足を開かれ、いつの間にかローションを纏っていた指がナカを拡げる様にゆっくりと入って来た。
「そんなもの、どこで……」
「ああ、そこの下の引き出しに入ってた」
 この行為に及ぶに至った紙が入っていたサイドチェストを指さす悟空を見て、そんなものまで用意されていたのかとこの部屋の意味を改めて考えてみる。そもそも、どうしてこんな部屋に来てしまったのか。何故オレたち二人なのか。出るための条件は、本当にこれだけなのか――。
 今更考え始めたところで意味など無いが、それでも何かがあるのではないかと疑ってしまう。しかし途中でナカを探る指が浅い部分の腹側を掠め、びりっと走った刺激につい腰が跳ねてしまった。
「ぁッあア、ん!」
 悟空は一瞬だけベジータの表情を窺い、そのまま挿入を進めていく。ナカに収まっていく指が二本、三本と増えていくことが信じられずベジータの身体は自然と強張っていった。
「ベジータ、力抜いて」
 いくら穏やかな声色でそんなことを言われても出来るはずもなく、息を吐いてみても初めてのことに余裕を出せぬまま首を振った。すると口を塞がれ、口内を弄ばれながらヒクつく後孔の奥を犯される。
(キス、気持ちいい……だめだ、どんどん力が抜けていく……)
 唇を食む様に舐められ、つい広い背中に腕をまわしてしがみついてしまう。悟空はその手を振り払うこともなく、最後に額にキスを落として今まで身に着けていた自分の下着も脱ぎ落していった。
 
 * * * * * * *

 はじめて目の前にした同胞の怒張が想像していたよりも質量があり、ベジータはある種の恐ろしさを感じていた。
 これが今から自分の中に入って来て、ちゃんと収まるとは到底思えない。入ったとして最後までできるかどうかも怪しい。不安そうにしているのが伝わってしまったのか、苦笑した悟空が髪を撫でてきて「大丈夫だって」と声をかけてきた。何を根拠にそんなことを言っているのか分からないが、何故だか今ならその言葉を信じられる気がした。

 散々好き勝手にされた後孔は何かを期待して待ち焦がれている。血管の浮いた逞しい屹立の先端がキスをするように媚穴へと吸い付き、にゅぷりと中へと侵入していった。
「はァ、あっあア、ぅ」
「……キツいか?」
 苦しさに声を漏らすと、するりと頬を撫でられる。その手をとって掌に頬を寄せ、なるべく普段の口調になるよう息を整えた。
「いい、そのまま進めろ……」
 悟空は頷くと、言われた通り奥へとモノを押し込んでいく。すべて収まったところで動きを止めベジータの腹を撫でた。
「全部はいったぞ。……なあ、やっぱりキツいんじゃねぇか?」
「当たり前だ、あんなデカいもん入れられて平気なものか……ぅ、絶対まだ動くなよ」
 ぎゅう、と強くシーツを掴んで痛みに耐えながら浅い呼吸を繰り返す。これ以上好き放題されると本当に自分がどうにかなってしまいそうで、ぼやける視界の中でこちらを心配そうに見つめる悟空を見上げた。
「でもずっとこのままってワケにはいかねぇだろ。ゆっくり動くから、ちょっとだけ我慢してくれ」
「な、カカロット、やめっ……ッ!」
 腰を掴まれたかと思うとゆるゆると動かされ抽挿される。中に塗りたくられたローションがぐぷりと音を立て、押し拡げようと突いてくる怒張が肉壁を擦っていった。
「やァっあ、ぁ!あんっ、ぁ、ひぅっン!まっ待て、とまって、ぇ!」
「あー、ダメだベジータ……オラ止まんねえ、かも」
 徐々にあがる腰の速度にベジータはただ揺さぶられるだけだった。力任せにピストンされては奥を突かれ、ただ嬌声をあげることしかできない。
 劣情の色をした目がこちらを射抜いており、はじめは痛みと苦しみだけだったのにいつの間にか快楽に変わっている。深く突かれる度に溢れる声が本当に自分のものなのか分からない。
「ナカ、すっげぇうねってて気持ちいーなぁ……」
 息を乱しながら言う悟空を締め付けてしまい、収まっているモノの質量が増したのが分かった。
「あ、なんで大きくなっ……て……ッ!」
「ベジータがオラのちんぽ締め付けっから……も、出そうだ。ごめんベジータ、ッこんな気持ちいいのはじめて、で、ごめん、ごめん……!」
 どくんっと熱いものが注がれる感覚に包まれる。どうやら悟空は絶頂したようで、その後何もなかった壁にうっすらと線が浮かび光を放って扉へと変化していくのが見えた。

「カカロット、見ろ。恐らく……出口、だ」
「え、あ……――」
 ベジータが扉の方を指さすと、余韻に包まれたままのぼんやりとした目で悟空がその先を追った。扉が見えた悟空の表情も明らかに変わっていき、じっと一方を見つめている。
「もうこんなところから出られる。はやくオレから抜きやがれ」
「ん?ああ、でも……ベジータはまだイってないよな?」
 だからどうしたと返す前にくるりと繋がったままの体をひっくり返され、今悟空がどんな顔をしているのか分からなくなる。大きな二つの手が腰に添えられたのが分かり、ベジータの額に汗が浮かんだ。
「おい、貴様なにして……」
「悪いベジータ、だって、ここから出たらもうおめえに会えないかもしれねえんだ。そんなの嫌だ。だから、もう少しだけいいだろ?」
 背後から聞こえてきた声は、決して無垢な男のものなどではなかった。

 * * * * * * *

 真っ白な天井。真っ白な壁。すべてが白く塗られた空間の中、悟空の下では数時間前までともに戦っていた男がシーツを掴み媚穴の奥を突かれながら善がっている。
「あっはぁッアあ!ふ、ぁあッんン、うぁ、っあっあン!」
 ベッドの上に転がっていた小さなクッションをベジータの腹の下に差し込み、寝バックの体勢で奥を突く。先程よりも奥へ挿入されているからか締め付けが激しくなっている気がする。ヒクヒクと疼きながら咥えてくる媚肉を擦り、どちゅどちゅと響く音を聞きながら悟空はうっとりと目を細めた。
「これ、奥まで来、るッひィ、ぁア!や、やらァ!も、抜け、はやく……ッ」
「駄目だってベジータ、おめえまだイってねえじゃん。それにヤダって言ってるわりに気持ちよさそうだし」
「そんな、あ……ッ、ァん!あ、あッかかろっと、そこッや、やだ!うう、だめ、ぇ」
 悟空がずぷんっ!と突くと最奥に辿り着き、ベジータの声がどんどん甘く蕩けていく。嫌だといいつつ身を捩り自ら腰を揺らしていることには気がついてはいないようで、ひたすら解放を訴えている。
 反応がよかった箇所を擦る様に突くと止まらぬ嬌声が響いて悟空は胸の奥が熱くなっていくのを感じた。自分がベジータに抱いている感情がなんなのか分からない。友情。愛情。どれも違う気がする。一言では片付けられない気がして、その答えを探る様に腰を揺らした。
「はッぁ、あっあぅ、ああ、ダメ、だ、カカロット、もぅ、ぁ……~~――ッッ!!」
 ベジータがびくびくと震えたのを見て達したのだと分かり、その瞬間強く締め付けられた悟空も中で同時に果ててしまった。
 ゆっくりと萎えたものを抜いてベジータの顔を上げさせ頬にキスをする。まるで夢の中にいるかのように目が蕩けている様子を見て、悟空は自分よりも小さな汗ばんでいる体を抱きしめた。
 
「もういいだろ……。オレの肉体はどのみち消えるしかなかった。ここまで残っていられたのが奇跡で、貴様はもう……あそこへ帰るべきだ」
「でも、ここにいればずっと……」
 ベジータが扉の方へ視線を寄こし、悟空は口を噤む。言っていることは分かるが何故だかそうしたくない。腕の中の熱を手放したくない。これが奇跡だというのなら自分にだって選ぶ権利はあるはずだ。

 ベジータは表情を変えぬまま悟空をじっと見つめている。
 そして、悟空は――――

 ▶最後にもう一度だけベジータを抱きしめて、この部屋を後にした

 ▶何も言わないベジータの手を自分のものと絡ませて、もう一度キスをした