がちゃがちゃ

物語の一部に過ぎないから

 男が酒を飲んで饒舌になりはじめてくれたおかげで、特に何もされることもなく予定の時間は刻々と近づいていた。
 カミュも渡された飲み物に口を付けながら適当に相槌を繰り返し、壁にかかった時計の時刻を確認する。あと数十分で日を跨ぐ。そうなったらシルビアから言付かった内容に従って、ここから脱出すればいい。
「やけに時間を気にしているね」
 時計を見ていたことに気づかれてしまったのでカミュは慌てて「そんなことはない」と返事をしたが、男はやけに食い下がってきた。
「私の話はつまらない?それとも……」
 男が再び太ももを撫でてきたので避けようと身を捩ると、空いている方の手で胸を揉んできた。もちろん揉むような胸など無いのだが、撫でるように触れられるたびに何故か体が反応して、無意識に腰が揺れはじめてしまう。
「おや、小さいわりに反応はイイみたいだね?」
 ドレスの上から胸の突起を弄られ、形が分かる程にぷっくりと浮き出てしまう。それをコリコリと指で引っかかれ「あっ」と小さな声が漏れた。それを抑えようと手で口を覆うと今度はソファに押し倒されてしまった。いよいよまずいと思い、カミュはポケットに入れていた小瓶を使おうと手を伸ばす。
 シルビアから預かったこの小瓶の中身には特殊な力がある。この香水をつけたもの同士は匂いが落ちるまで、お互いを触れられなくなるという呪いのアイテムらしい。予定の時刻が来たらこの香水を男にふりかけて、怯んでいる隙にリレミトで逃げる。そういう算段だ。
 少し時間ははやいが、男とバレて力づくで何かされても面倒だ。小瓶を手に取ろうとしたら突然意識が朦朧としてきて、カミュは掴んだ小瓶を床に落としてしまった。
(しまった……ッ)
 はやく拾わなければ。そう思って体を起こそうとしたがそれを止めるように男が肩を押してきた。
「その香水がどうかしたのか?」
 何も言い返せず顔を背ける。男は追及こそしてこなかったが、ドレスの胸元を掴むと力任せに前を開いてきた。外れたボタンがあちこちに飛んでいき、膨らみなど無い胸が晒されてしまう。流石に男だとバレたかと思ったが、どうやら慎ましい胸の女だと受け取ったようで気にするでもなく触れてきて、力の入らないカミュはされるがままになっていた。
 男はカミュの胸元に手を近づけてきたかと思えば突起に指を這わせてきて、カミュが「嫌だ」と声を上げてもやめてはくれなかった。それどころか執拗に摘まんだり引っ掻いたりを繰り返し、反応を楽しんでいる様に見える。
 カミュは何度か男から逃れようとしたが、まるで力が入らない。どうしてなのかが分からずぼんやりとした視界の中で男を見上げると「気になるかい?」と気味悪く笑っていた。
「この部屋の香煙には人間の意識を弱くしてしまう力があってね。ちょっとだけ媚薬のような力もあって……慣れていたら問題ないけど君は初めてだから、効果が出てきたようだ」
 そう言って乳首を摘ままれ、「んん゙ッ♡」と出したくなかった甘ったるい声を上げてしまう。それを好意的に受け取ったらしい男はドレスのスリットへと手を伸ばし、わざとじらす様にゆっくりと捲っていった。
(ダメだ、そこ……見られたら……ッ!)
 何も抵抗が出来ないまま、呆気なくカミュの下半身は男の前に曝け出されてしまった。
「……なるほど、そういうことか」
 男の冷えた声に、カミュは身を震わせる。
 もうどう足掻いても隠し通せない。正気には見えない目の前の男には何をされるか分かったものではない。恐ろしさに男の顔を見れないでいると、何故かその男は愛おしそうにカミュの頬を撫で始めた。
「最初に君をここへ招こうとした時、なぜ断られたのかが分からなかった。婚約者の男がいるのは知っているが、そいつと私とでは比ではないだろうに。だけどやっと理由が分かった。君が男だから、私とは結婚などできないと思って遠慮したんだ、そうだろう?」
 男は、好都合なことにまったく的外れな解釈をしはじめていた。これはチャンスだと思い、カミュは朦朧とした意識の中で口を開く。
「そ、そうです。だからこのことは忘れて、もう帰していただけませんか……今ならまだ間にあいま、す……ぁッ!?♡」
 男は何故か手を止めず、話している途中のカミュの乳首を引っ掻きながら下腹部を撫でてきた。
「ど、どうして……」
「別に性別にこだわりがないだけだ。女だろうが男だろうが、どっちでもいいんだよ」
 そう言いながら、シルビアが用意した下着がスルスルと脱がされていく。無抵抗のまま脚を開かれ、いつの間にかローションを纏った男の太い指が後孔を撫でた。部屋に蔓延している香煙のせいなのか、たったそれだけで「ひぅ♡」と善がるような声が溢れてしまう。
「いや、やだァ……♡」
「ここまできておいて今更嫌だは無しだろう?」
 男は聞く耳を持たず、無遠慮に指を押し入れてきた。想像していたよりも解れていることに気が付いたのか、笑い声をあげながら無遠慮にナカを弄る。
「“こっち”はしっかり使い込んでいるようだし、構わないよね?」
 駄目に決まっているのに、身体が言う事を聞かない。ぬぷぬぷと指を出し入れされて、その度に腰が揺れる。
 更に男は空いた手で再び胸へと触れてきて、ぷくりと膨らんだ乳首を弄りながら同時に媚肉を指で犯してきた。それだけで意識が飛びそうな程になり、カミュはソファの布地を掴みながら必死で抵抗した。
「や、だ♡いや、やめ……あ、んン♡」
「すごいね、前は触ってないのに……ほら、指が締め付けられて、イキそうになってる。」
「うう、ひぁッ♡や、らァ……あッん♡ああッッ……♡」
 ぴゅるるっ♡とカミュから欲が吐き出されたのを見て、男は満足そうに笑っていた。
 知らない男に指でイかされたことにカミュは泣きそうになってしまう。しかし今は泣いている場合ではなく、一刻もはやくこの場から去らなければならない。
 しかし男は止まるどころか、自分の服を脱ごうとし始めた。このままでは本当に犯されてしまうという危機感が全身を襲い、頭の中が真っ白になる。

 その瞬間、0時を告げる時計の音が響き渡った。それは控えめで大した音ではなかったが、カミュの頭を覚醒させるには充分だった。
 男の意識が時計に向いているのを確認したカミュは力を振り絞って床に転がったままの小瓶を拾い、素早く蓋を開けると男に向かって思い切り振りかけた。
「うわ……!?」
 男は顔にかかった香水を服の袖で拭うと一瞬だけ怒りを含んだ表情を浮かべ、すぐに元の顔に戻った。
 しかし香水の効果が表れたのか、男はカミュに触れられなくなり、ソファから立ち上がり後ずさった。
「なんだ、どうなってる?」
「……魔除けだよ。じゃあな、オレはそろそろ帰らせてもらう。言っておくが、追って来ようとなんかするなよ」
 カミュがリレミトを唱えると、辺りが優しい光に包まれた。消えていこうとするカミュに向かって、男は必死に叫び始めた。
「待ってくれ、どうして……どうしてダメなんだ、あの男とどう違う!」
 貴族の男が話す「あの男」とは街を出ようとしている恋人の片割れのことだろうが、カミュの頭には別の人物が浮かんだ。
 無口で、優しくて、誰よりも強いたった一人の勇者様。
「あいつとお前じゃ、ぜんぜん違うんだよ。一生勝てっこないさ」
 リレミトが発動し、男に背を向けるようにしてカミュは屋敷を後にした。

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