がちゃがちゃ

憂える太陽を見ている

 幸せの定義など考えたことはない。満足するまで修行をして、大切な仲間たちと一緒においしいものをたくさん食べて、強い奴と出会って戦って、疲れたら朝までぐっすりと眠る。それがあれば他に欲しいものなどないと思っていたが、それが徐々に変わってきた。
 ベジータと一緒にいたいと思うこと。悟空の中の『幸せ』にそれが追加された。それだけのはずだったのに、だんだんと欲深くなっていった。肌に触れたい、キスをしたい、身体を重ねたい心の繋がりが欲しい。自分の汚い部分が溢れだしたようで、悟空はこれについてあまり考えない様にした。
 例え今後どうなろうと、自分とベジータは一緒にいる運命なのだ。悟空はそう信じて疑うことがなくなっていった。きっと死ぬまでそばにいて、本当に死んでしまう時は宇宙の果てで一緒に消えてしまいたい。そうすれば、死んだ後だって一緒にいることができるのではないだろうか。そんなことを一瞬でも考えてしまったことに悟空は苦笑する。家族との別れは寂しいが、やはり戦いの中で生きて戦いの中で死にたいのだ。それを理解してくれるのはきっとベジータだけだ。きっと、いや絶対に、そうに違いない。

 ベジータとの一線を越えてから、悟空は彼と顔を合わせる度にその男を抱いた。拒まれはしなかった。ベジータから誘ってくる日もあった。これは心が通っている証拠に違いない。それがなにより嬉しかった。
 彼はセックスに関して積極的だった。いつも決まって自分から悟空に跨るのだ。あとは座位ぐらいで、こんなに回数を重ねた今でも他の体位を行ったことはない。そうか、ベジータは誰かの下になるのが嫌なのだ。プライドが高い男だから。意地っ張りな性格だから。直接本人に聞いたわけではないがきっとそうであろうと、悟空はそれについて文句を言う事も無かった。ベジータがしたいようにさせたかったし、それにどんな状態であってもベジータがしてくれることがいつだって気持ちがイイ。頭の中がふわふわとしてきて、まるで夢の中にいるような心地よさを感じるのだ。だから悟空はたいして気にしてはいなかった。

 今日のベジータはやたらと機嫌がよかった。悟空が修行に誘えば二つ返事で着いて来た。その後も普段とは変わらぬ口調と態度ではあるが、声色や笑い方が違う気がする。それに気が付いた悟空は、ベジータが嬉しそうだと自分も嬉しくなるのだな、と考えていた。
 日が傾きかけたところで、汗を流して、少しだけ胃に食べ物をつめて、気分が良くなってきたところで悟空はベジータの肩を抱いた。自分たち以外に人などいない荒野だというのにベジータはやたらと人目を気にしている。手を振り払われ、「来い」と手招きをされ大人しく後を着いて行くことにした。そしていつものようにベジータが森の奥へ隠す様に用意したカプセルハウスへ二人で入って、触れあいながらシャワーを浴びる。悟空はこの時間が好きだった。戦うことも、修行することも、ベジータのことも好きだ。好きなものを抱えきれないほど与えられて、得体のしれない感覚に酔ってしまいそうになりながら綺麗に身を清めるベジータを見つめる。あまり見ると文句を言われるので程々にしながらシャワーを浴びて、適当に拭いたら二人して部屋の明かりも点けずにベッドに流れ込むのがいつもの流れだ。それは今日も同じで、ベッドの上で腕の中に抱えた男へとキスをしながら悟空はぼんやりと考える。これは、一体いつまで続くのだろうか。
「好きだ」
 どうやら悟空の口から溢れた言葉はベジータには届かなかったらしく、何も返事が無いまま寝転ぶ悟空の上に跨ってきた。今日も彼を見上げながら、快楽を得ようと腰を振る彼を見上げながら、満足したら一緒に少しだけ見つめ合ってキスをするのだろう。
 ベジータがゆっくりと腰を落としてきて、待ちきれずビクビクとそそり立っている怒張を飲み込んでいく。丁寧に味わうかの様に腰を揺らしながら甘く締め付けてくるものだから、悟空は溜まらず熱い息を吐いた。そうしていると動きが激しくなってきて室内に水音が響き始めた。ベジータのか細い嬌声が聞こえて、悟空は彼に視線を送った。交わった視線から別の何かが送られてくるようで、離さないと言われている様な気がして、胸の奥で心臓がどくどくと脈打っている。
「あア、ぁ……んッ♡」
 ベジータは小さく震えながら媚肉でしっかりと悟空の屹立を締め付け、扱く様に腰を揺らしている。イイ所を擦ると時折きゅっと目を瞑って耐えているようで、善がる様子にまた体が熱くなる。もっと、もっと欲しいな。そう思って下から突くと、決まってベジータは悟空の名前を呼ぶ。
「カ、カロットぉ……♡」
 もっと、と言われているようで気分が良くなる。そんなの、こっちだって。お前だけじゃない。だって、ずっと、ずっと前から――。
「ベジータ、オラもうイきそうだ」
 素直に伝えればベジータは目を細めて、きゅう♡と一層強く締め付けてきた。それと同時に悟空は彼の中で果ててしまい、同時に自分に跨っている男もぴゅるっ♡と欲を吐き出していた。そして、いつもと同じ。腰を上げて悟空から離れたベジータは身体を拭くものを探す為にベッドから降りようとしている。今日はまだこの熱を手放したくなくて、悟空は離れて行こうとする男の腕を掴んだ。
「……なんだ」
 冷たい目だった。さっきまで、あんなに愛おしそうに見つめてくれていたのに。鋭い目線に射抜かれた悟空は息を呑む。だけど、正直に伝えなければ。
「まだ、やめたくねえんだ」
 そう言って腕を引いて、バランスを崩したベジータをシーツに縫い付けるように押し倒した。思えばベッドの中でベジータを上から見下ろすのは初めてかもしれない。こんなにも驚いている彼の顔は今まで見たことがないものだった。はじめてのことは、いつだって胸が躍るものだ。だが悟空がそのままキスをしようとすると、どうしてか顔を背けられてしまった。
「ベジータ……?」
「……」
 ベジータが何も言わないから、キスが嫌なだけだと思った。だからなるべく優しく頬を撫でながら「好きだ」と伝えると、彼は顔を背けたまま声を上げて笑い始めた。突然のことに驚いた悟空は瞬きを繰り返す。一体、どうしたというのだ。
「な、なんだよ。どうしたんだ?」
「ふ、ふふ……オレを好きだなんて、おかしなことを言うのだなと思っただけだ」
 ベジータのことに悟空は眉を寄せる。だって、これはちっとも変でもおかしなことでもない。それに、今までだって何度も伝えてきた。その度にベジータは……、……――。
(あれ。ベジータって、オラに好きだって言ってくれたことあったかな……)
 やっと気が付いたのかと言うかのようにベジータがこちらを向いて目を細めている。悟空は険しい表情のまま、組み敷いている男を黙って見つめている。すると見下ろしている男は再び笑い始めて、楽しそうにべらべらと喋り始めた。
「貴様は馬鹿だ、本当に馬鹿な奴だ。オレがお前を好きなものか!」
 悟空の視界が歪んでいく。先程まで眩く鮮やかだった世界が一瞬にして霞んでしまった。どうして、こうなってしまったのだろう。
「だ、だって。最初にベジータからキスしてくれて、全部受け入れてくれてたじゃねぇか……」
「オレは貴様がオレに抱いている感情を確認しただけだ。今まで一度も同じ気持ちだったことなどない。どうだ、これで分かったか?オレはただ、欲しいものがすぐそばにあるのに手に入らない苦しさを教えてやりたかった。いつもオレを上から見ていた貴様に見下ろされる屈辱を味わわせてやりたかった。それだけなんだよ。ああ、おかしくて笑いが止まらない……」
 楽しそうに笑うベジータを見ていた悟空は俯いてしまい、何も返さない。その様子を鼻で笑いながら、ベジータは更に続けた。
「どうしたカカロット、オレが憎いだろう。殴るか?殺すか?」
「……そんな、こと」
「弱々しい貴様は見ていて腹が立つ。もっと怒ってみろ、そうしないとオレは満足できな――ッ!?」
 突然顔を上げた悟空はベジータをさらに強く組み敷くと、逃がさぬように両の手首を爪が食い込むほど強く握った。ベジータが痛みに顔をゆがめた瞬間、顔を近づけると唇を重ねて無理やり舌を捻じ込む。男の顔が嫌悪に歪むが、もうそんなことなど関係なかった。
「やめ、ろ……くっ、あッ!」
「ずっとそうやって、オラのこと騙して、楽しかっただろうな。なあ、気持ちいい顔してたのも嘘だったんか?」
「はァ、ッそうだ。誰が貴様なんかと……あ、あっん、離せ、あ、ァあ♡」
 ぎりぎりと腕に指が食い込んでいく。悟空は深く口付けながら逃げ出そうとしている男に腰を押し当てる。すると血の気が引いたかのようにベジータの顔は青ざめていき、弱々しい声で「やめろ」と懇願し始めた。
「もう遅いって。だってオラ、ベジータのこと今更手放せねえよ。それに全部おめえが教えてくれたんじゃねえか。だから死ぬ時も一緒だって思ってて、これからもずっと一緒で、いつも傍にいてくれなきゃ。なあ、オラのこと好きじゃないって自分に言い聞かせてるだけなんだろ……?」
 悟空は暴れ出しているベジータを押さえつけると脚を開かせ、自身を先程まで受け入れてくれていた箇所へ押し付ける。ぬぷ……と先端が飲み込まれて行き、それだけでベジータは蕩けた表情になり甘い声を上げた。
「ほら、やっぱり気持ちいいんじゃねえか。これも嘘だって言うんか?」
「くそ、気持ちよくなんかない、ィ♡ばか、さっさと離せ……ぁん、あ――~~~ッッ♡♡」
 ずぷんっ!と勢いよく奥へ押し込むと、それだけでベジータはアクメしていた。そのまま悟空はもう逃げることなど忘れてしまっている腰を掴んで激しく抽挿を繰り返す。隘路を拡げるように怒張で媚肉を擦れば、それだけでベジータは善がりながら無意識のうちに締め付けてきていた。
「あッや、やだ♡抜け、はやく抜いてェ♡」
「もう嘘なんかつくなよ、ずーっとオラのちんぽ離さねぇくせに」
「ちが、違う♡知らない、こんなの……や、あん♡あぅ、またイく♡イきたくないのにィ♡あッああ、アあぁ……ッッ♡」
 ベジータは再びトコロテンすると、ぴゅるる♡と弱々しく欲を吐き出しながら嬌声をあげている。身を捩り必死に与えられる快感から逃れようとしているが、それは無意味に終わっていた。
「ベジータが、悪いんだぞ……こんなこと知らなったのに、こんな気持ちも無いはずだったのに。おめえが全部、全部……だから、最後まで一緒にいてくれなきゃ。好きだって言ってくれなきゃ。もう……どうしたらいいか、分からねえんだ」
「あァ、ひぅ……ッ♡オレは、あッアあ♡う、……好きなんかじゃないィ、誰が……今更、そんなこと言われて本気にするものか、ァあッん♡死ぬまで抱えてろ、ひとりで、あ、ぁ……♡」
 ベジータが悟空の背に腕をまわして抱き着いてきた。悟空が驚いていると腰に足まで絡ませてきたので、そのせいで深く挿入してしまう。そのまま何度も最奥へとピストンして何度目かの時にたっぷりと欲を叩きこんだ。はあ、と重たい息を吐くと押し倒していた男は意識を手放しており、悟空は無抵抗な顔にキスを落とす。
 最初から、全部夢だったらいいの。そうすれば、幸せになれるのだから。