寄する波
それは、悟空がベジータとともに精神と時の部屋に入ってから一週間が過ぎた頃だった。薄い空気や体力を奪う気温と過酷な環境の中で、切磋琢磨とまではいかないかもしれないが、二人はそれなりに協力をしあいながら更なる力を求め修行を続けていた。
この場所では三年間を過ごすこととなっており、修行に明け暮れながらも確実に力を得ているのだと感じていた。そう言えば、ベジータと二人きりでこんなにも修行だけに集中できる機会はそうそうない。地球にいる間のベジータは単独で行動していることが多く、ビルス星にいる時も二人きりになる場面といえば寝ている時ぐらいだった。今目の前で拳を交えているベジータの姿を見ながら、悟空はそんなことを考えていた。
気温は上がり続け、悟空は灼熱の中とまらない汗を拭いながらベジータを見る。恐らく、お互いに体力の限界が近い。一度休憩を申し出ようとしたその瞬間、部屋の気温は凍えそうな程に下がっていった。それに気を取られていると腹に衝撃を受け、身体が遠くへ吹っ飛んでいく。その後を追って飛んできたベジータは倒れたまま動かない悟空を見下ろすと舌打ちして、神殿の方へと戻っていった。
その後、やっと起き上がった悟空も神殿へと戻っていくとベジータは腹が減ったのか粉をこねており、それを真似するように向かい合って座った悟空も粉をこね始めた。無言のまま時が過ぎていくが、今日の修行はもう終いだと言葉にしなくても分かる。あとは腹ごしらえ(ここの食事はたいして美味しくはないのがつらいところだ)をして、入浴を終えれば眠りにつき、目を覚ませばまた修行。その繰り返しだ。それだけの生活に夢中になってしまっている自覚はあり、悟空は明日はどんな修行をしよう、と胸を躍らせながら、固まってきた粉を口に入れた。
下がった気温は上がることなく入浴後も冷たい空気が身を包んできて、無意識のうちに悟空は自身の体をさすった。
「今日は特に冷えるなぁ」
「フン、軟弱なやつだ」
悟空の言葉に、ベジータは不機嫌そうに鼻を鳴らす。いつものことなので特に気にはせず、悟空は明日目覚める時はまた違う環境になっているのだろうなどと考えていた。
それにしても、寒い。今は何度と正確な気温は分からないが、とにかく寒すぎると悟空はベジータを見る。なんともなさそうに振舞っており、特に寒そうにしている素振りはない。もしかしたらベジータは寒さに強いのか、もしくは平気な振りをしているだけなのか、どちらかは分からないが少なくとも自分よりはこの気温に適応しているのだろうと悟空は思った。
もうベッドに向かうつもりなのか、ベジータがこちらに背を向ける。その後ろ姿をじっと見ているうちに気が付けば腕を伸ばしており、力任せに抱き寄せていた。
「な、なんだ……!?」
突然のことに驚いたベジータは暴れたが、本気ではないのか簡単に押さえつけることが出来た。悟空の腕の中でじたばたともがく姿と体温にどうしてか愛おしさが込み上げてきて、いつの間にか悟空はこの極寒の中でかなり精神状態がやられてしまっているのだなとぼんやりと考える。普段ならこのようなことは絶対にしないのに、小柄な同胞がどうしようもなく可愛いと思えてしかたがなかった。
そのまま暴れる身体を抱きかかえてベッドに投げるように乱暴に降ろすとスプリングが悲鳴を上げた。逃げられる前にバウンドするマットレスに縫い付けるように覆いかぶされば、組み敷いた男は脅えたような目でこちらを見上げていた。
「……ッ貴様、どういうつもりだ」
きっとキツく睨みつけてくるが、その奥には動揺が見え隠れしている。なんだかおかしくなってきて、つい渇いた笑いが出てしまう。
「わかんねえけど、もうとにかく寒くて。ベジータはあったかそうだからさ、ちょっと付き合ってくれよ」
だから、いいだろ。そう言うと、悟空はそのままベジータを強く抱きしめた。想像していたよりもあたたかくて、やわらかくて、いいにおいがして、頭がふわふわとしてきて、まるで別の生き物を抱きしめているようだった。それはぬいぐるみなどではない、血が通って自我のある、プライドの高いサイヤ人の男だというのに。
どんどん自分がおかしくなっている感覚に溺れて、そこから這い上がろうとも思わなかった。何故か逆らうことのない同胞を抱き寄せて首筋に顔を埋め、すんすんと鼻を鳴らす。肺に吸い込まれていく懐かしい匂いが全身を満たしていき、悟空はうっとりと目を閉じた。
* * * * * * *
目覚めると、腕の中のぬくもりはそのままだった。昨日はベジータを抱きしめたまま眠ってしまったのだと気が付き、未だ夢の中にいる男の頬を撫でてみる。
(寝ている時は無害そうっちゅーか、大人しそうに見えるのになぁ)
普段は深い溝が作られている眉間に触れると男が身じろいだ。すると目を覚まし、二人の視線はしっかりとぶつかった。
「……お、おはよう?」
どうしてか慌ててしまい、咄嗟に朝の挨拶をするとみるみるうちに顔を赤くしたベジータは悟空を押しのけて無言のままベッドから出て行ってしまった。そのままシャワーを浴びに行ったようで、勢いよく浴室へ続く扉が閉まる音が聞こえた。いくら寒かったとはいえ、何故あんなことをしてしまったのか。悟空は盛大なため息をつくと同じくベッドから降りて、ひとまずは身支度をすることにした。
それからは、まるで何事も無かったかのように修行に没頭した。同じように二人で力を磨き、腹が減れば食事をとり、そして体力が尽きれば眠る準備をする。何もおかしなことなど無かったのだと思っていると勝手に一日の終わりがやって来てきた。
眠りにつく直前に、冷やりとした空気が肌を撫でた。また気温が下がり始めているのだ。ああ寒いなあと思っているとベジータが目に入る。駄目だと思っているのに、ぬくもりを求めてまた腕を伸ばしてしまった。
ベジータは、今度は暴れもせず、何も言うことはなかった。悟空は大人しい男を抱えると昨日と同じようにベッドへと連れて行き、強く抱きしめて二人してシーツに沈んだ。その心地よさに浸っていると、腕の中のベジータが何かを言いたげにこちらをじっと見つめていた。
「どうした?」
声をかけても返事はなく、ただ視線を向けられているだけだ。髪を撫でてやると目の前の男はくすぐったそうに目を細めて、少しだけ笑った気がした。
そして、また次の日がやって来る。何日も何日も同じことを繰り返しているうちに、おかしなことは当たり前に変わっていくのだと悟空は思った。
起きて、身支度をして、腹を満たして、修行をして、休憩をして、また腹を満たして、修行を続けて、食事をして、入浴をして、そして眠る。その流れに、ちょっとだけ変わったことが出来た。眠るまでのほんの少しの時間にベジータを抱きしめること。一緒に眠りへとつくこと。
この空間で二人きりでないのは夢の中だけ。それを寂しいと感じてしまっている自分がいるのだ。悟空は自分の変化に驚き、それでも構わないと見て見ぬふりをした。
* * * * * * *
そんな生活を何日も続けていると、ある日を境にベジータから悟空のベッドへと入って来るようになった。
毎日悟空からベジータを抱きかかえていたが、疲れ切っており倒れるようにベッドに沈んだ日があった。するとベジータは悟空のベッドまでやって来て、おずおずと空いたスペースに入ってきたのだ。
それに気が付いた悟空はうつ伏せのまま片腕を上げるとその隙間に身を寄せて来たので、肩を抱いて二人で眠った。目を閉じるとどんな時もこのぬくもりは必要なのだと実感してしまって、手放せなくなっていった。
それからは一人で眠る日は無くなった。眠りにつく前のほんの少しの時間だけ、違う時間が流れている様だった。
今日も悟空はベジータを抱きしめてベッドに沈んでいる。寝息を立て始めた男の背を撫でていると、身体の変化を感じて慌てて手を離して距離を取った。
(あ、やべぇな……)
ここに来て一か月近く経とうとしている。となれば溜まるものは溜まるわけで、それを主張するように張り詰めたものが服を押し上げていた。
この状態でベジータと密着しているのはまずいと思い手を離すと、夢の中のはずのベジータがまるで悟空を探す様に身じろいだ。きゅ、と眉を寄せて苦しそうにするので再び背を撫でると落ち着きを取り戻したので、どうしたものかと考える。静かに目を閉じてなんとか保とうとしているのに、ベジータの太ももが悟空のモノを擦る様に動いた。
もう、どうにでもなれ。悟空はベジータと密着したままソレを取り出して、荒くなる息を抑えながら扱き始めた。
「……ん、ぅ……?」
「あ……」
もう少しのところで、ベジータが目を覚ましてしまった。悟空の異変に気が付いたのか二つの黒色がゆっくりと下へと向かい、露出されている悟空の陰茎をしっかりと視界へと入れている。驚いた様子ではあるが特に騒ぐことなく、そのまま悟空から離れてしまった。
流石にまずかったかと猛省しているとベジータはずるずるとベッドの端まで移動して、悟空の股間に顔を近づけている。何をするつもりなのか様子を窺っていると、悟空の手を払い退けて天を向いているソレをぱくりと口に含んだ。
「べ、ベジータ!?」
今度は悟空が大慌てし始めたが、そんなことは気にしていないのかベジータは咥え続けている。舌で幹を撫でながら口いっぱいに吸い付き、じゅぽじゅぽといやらしい音が響く。
「顔離せ、も、出ちまうから……ッ」
「……、貴様は、カカロット……だよな……?」
そう話すベジータにちゅう、と強く吸われた瞬間に悟空は果ててしまい、小さな口の中を汚してしまった。すぐに吐き出させようとしたがあっという間に飲み込んでしまったので、悟空はそれを呆然と見つめる。
目の前の男がどういうつもりなのか分からず、ひとまず口をゆすがせる。二人でベッドに入り「ごめんな」と謝ると、ふわりと笑った気がした。