がちゃがちゃ

夢で会えるよ


ただ貴方には

 自然が広がる美しい景色とは似つかわぬ音が空を切った。それと同時に激しく風が舞い、空中で二人のサイヤ人が激しくぶつかり合う。それを見上げ、しばらく眺めていたウイスがため息をついた。
「はい、そこまで!」
 鶴の一声に空中で交えていた拳がぴたりと止まる。理由も分からぬまま終わりを告げられ、組手の最中だった悟空とベジータは不満そうに地上へと降り立った。
「ウイスさん、何かあったんか?」
 悟空がウイスのもとへ駆け寄ると、その後ろをベジータも着いて来ていた。二人が傍に来るとウイスは目を細め、そして頬に人差し指をあてながら「うーん……」とわざとらしく唸る。
「何もありませんよ。というより、何もなさ過ぎる……といったところでしょうか」
「どういうことだ?」
 ウイスの言葉にベジータが眉を寄せ、眉間のしわをより深くさせた。おだやかな風が流れていると言うのに空気は乱れている様な気がして、悟空は後ろ頭をがしがしと掻く。
 ウイスはこちらに背を向けると、ゆっくりと空を見上げた。
「お二人とも、以前私がお話ししたことを覚えていますか?頭で考えてからだと体が動くまでに時間がかかるんです。だから頭で考える前に身体が勝手に動くようにする……これを極めることができれば今よりも更に強くなれる」
 顔だけ振り返ったウイスが肩越しに悟空とベジータの様子を窺う。二人は顔を合わせると肩をすくめ、怪訝そうにウイスを見た。
「それは覚えてるよ。だけど、そう簡単に極められるものじゃないってウイスさんが言ったんじゃねえか」
「そうですね。だから、まずお二人は己の殻を破る必要があるんです。その為には今のまま同じような修行をいくら続けたって無駄。……ということで実は以前、お二人が修行に来た時にもっと己を殻を破れる様にちょっとした細工をさせていただいておりまして」
 言い終えたウイスはにこりと微笑む。天使の言葉に悟空は「細工?」と首を傾げ、嫌な予感がしているのかベジータは一筋の汗を垂らしていた。
 もっと詳しく教えてほしいと悟空が食い下がってもウイスはそれ以上何も言う事はなく、結局その日の修行はそこでお開きとなってしまった。

 * * * * * * * 

 夜になり、ベッドの上で大の字になっている悟空は一週間ほど前のことを思い出す。食事の為にブルマのもとへ訪れていたウイスが、修行に来ないかと悟空を誘いに来た日だ。
 悟空はベジータも一緒に行こうと誘ったが、最初は渋られてしまった。以前もブルマの出産が近いからと断られたことがあったが、今回はどうやら理由が違うらしい。そもそも今は誰も妊娠をしていないし、病を患っているわけでもない。何故と訊いても答えてくれず困っていたところにウイスが「ベジータさんの悩み、悟空さんと一緒に来れば解決できるかもしれませんよ」と言った。それを聞くなりベジータはビルス星への同行を了承し、今に至る。ベジータの悩みとは何か、悟空は知らない。あの口ぶりからするとウイスは何かを知っているのは確実だが、ベジータから話してくれるまで待っていようと思った。
 
 ごろりと寝返りを打ち、壁際の離れた場所にあるベッドの上で瞑想をしているベジータを見る。力の大会の後、ベジータはこうして瞑想をしている時間が増えた気がする。というのも、ジレン達を超える強さを手に入れるには攻撃の瞬間以外はリラックスをさせていることが大事なのだと言って体だけではなく精神面も鍛えるようになったからだ。
 そんな瞑想中の姿を見ていた悟空の視線に気が付いたのか、目を閉じたままのベジータに「じろじろ見るな」と言われてしまう。悟空は何も言わず、もう一度寝返りを打ち背を向けた。そう言えば、修行が忙しく毎日疲れ切っていたこともありビルス星に来てからベジータとは一度もセックスをしていないと気が付く。別に毎日やっていたわけではないが、二人でいる時はどちらが誘うでもなく自然とそういう流れになっていたのにと考える。何も言わなくてもベジータの目を見れば何を求めているのか予想が付く。熱を感じれば腰を抱いてキスをして、欲を感じれば体を重ねた。それを繰り返している内に、いつしか当たり前に変わっていった。悟空から求めることの方が多いが、ベジータから誘ってくることも少なくはない。だから悟空とのそういう関係を嫌だとは思ってはいないはずなのに、それを口にされたことは無い。ベジータが本当は何を考えているのか知りたいが、それを叶える術はない。これ以上考えても無駄だと思い今日はこれ以上頭を使うことは止めた。眠気が限界に近いのだ。