夢で会えるよ
ないものねだり
月の無い夜、一つのカプセルハウスが山奥に佇んでいた。その明かりの無い薄暗いハウスの部屋の中、二人の男の影が重なっている。荒い息と肌が擦れ合う音と穏やかではない水音が広がった空間はまるで夢の中の様で、悟空はいつか見た夢のことを思い出していた。
まるで絵本の中のような世界で出会ったもう一人のベジータが悟空に向かって何度も好きだと言っていた姿を思い起こす。素直に、甘えるように、必死にこちらを求めて己の持つ欲を一つも隠そうとしない姿が忘れられなかった。
「ッなに、を、考えて、る」
そんな悟空の心中などお見通しだと言う様に、腰を掴まれ後ろから激しく突かれているベジータが苦しそうな声で呟いた。肩越しにこちらの様子を窺っている表情に不安が宿っているのが分かり、安心させようと腰のラインをするりと撫でた。
「ああ、ベジータのこと考えてた」
「どうだかな……」
だって本当のことだ。悟空はずっとベジータのことを考えている。畑仕事中も、修行中も、こうやってセックスをしている時だって。頭の中を支配してやまないのは意地っ張りで口が悪く、そして努力家でかわいい一面も持っている同胞のことだった。
目の前で猥らに腰を振る男は、あまり自分のことを話さない。こうして肌を重ねている時ですら、甘い言葉の一つも吐き出さない。別に、セックスの度に好きだの愛しているだのと言って欲しいわけではない。それを公で口にしてはいけないことは悟空とて理解していた。サイヤ人としての家族という言葉が持つ意味は地球のそれとは違う。だけれど自分たちはその地球で生きているのだから、別の人種の理論を振りかざしたって意味が無いのだ。
だから、というわけではないが。こうした逢瀬は二人にとって特別だった。いつの間にか行われていたこの時間は確かに必要なもので、それでも互いの家族も大切だと分かっている。大切なものを全て平等に扱いたいと思うのは身勝手なことなのだろうか。
もっと、もっと、思うがままに、自由に、自分たちらしく触れ合えたらいいのに。
そう思っていると自然と深く腰を打ち付けており、ベジータの体がびくんっと跳ねた。
「あ、ァあぁッあ、ぅ、かかろ、と、ぉ……」
急にどうしたと言わんばかりに涙目のベジータがこちらを睨んできた。悟空は柔らかい笑みのまま、これまで幾度も貫かれている内にすっかり悟空自身の形を覚えてしまっているナカをとんとんと突いて押し広げている。
「や、ンんっあ、あんっあ!ぁあ、ひ、ぅ」
「ベジータも、さぁ、ッおらのこと考えて、くれてるかなって」
「ばか、が……貴様、は、ほんとう、にぃ……ッッ!」
悟空はベジータの最奥を目掛けてずぷんっと挿入し、そのまま擦り付けるように何度目か分からない欲を吐き出した。それを受け止めている体は震えており、その様子を見下ろしながら悟空は萎えたモノをゆっくりと抜いていく。栓の無くなった場所からは白濁がどろりと溢れ出して、愛しさの募った悟空は汗の浮いている背にキスを落とした。
お互いの身を綺麗に整えた後、広めのベッドで横になっているベジータの隣を陣取った悟空は寝転んだまま片腕で頭を支える体勢で背後から声をかけた。
「なあ、ベジータぁ」
返事はない。いつものことで特に気にはしていないので、そのまま話を続ける。
「ベジータはさぁ、オラのこと好き?」
聞いた瞬間、背中を向けていた男がくるりと体ごと振り返ってきた。その顔は険しく、何かいけないことでも聞いてしまったのだろうかと悟空は狼狽える。
「なぜ、そんなことを訊く?」
「なぜって……」
「いつもは訊いてこないだろ」
それを聞いて、今までベジータにその類の言葉を直接求めたことはなかったことに気が付いた。体の相性は良いはずなので悪い関係だとは思っていないはずだが、心はどうなのだろう。
それでも夢の中で聞いたベジータからの『好き』が忘れられなかった。一度でいいから、それ以上は望まないから、その言葉が欲しいと言えば叶えてくれるのだろうか。
「そう言えば……貴様、前に下品な夢を見たと言っていたな。おおかたその夢の影響なんだろう?」
「え、まぁそうなるんかな……?」
「そんな夢のことはさっさと忘れろ、それはオレじゃない。また下らんことを訊いてくる様ならこの関係もここまでだ」
それは困ると思い悟空は慌てて口を噤む。するとベジータが笑った気がして、胸の奥があたたかくなる。そのまま目の前の自分よりも小さい体を抱き寄せれば、もっとあたたかくなった。こういう時は素直になるのか、ベジータは腕の中で大人しくしている。気分が良い時は胸板に頬をすり寄せてくれるので、どうやら今はその時のようだ。