夢で会えるよ
いつもの様にビルス星に広がる大きな池のほとりでの修行の最中、休憩だと言って悟空が水を飲んでいる間にウイスはベジータへと話しかけてきた。
「ベジータさん、修行の成果はどうですか?」
人当たりのいい笑顔を貼り付けた天使の笑顔はまるでこちらの心中を探ろうとしているようで、ベジータは怪訝そうに眉を寄せた。
「オレたちのことなんて、どうせ話さなくても分かっているんだろう?」
今朝の夢のこともあり、ついトゲを含んだ口調で返してしまう。ベジータの言葉にウイスは肩をすくめると、口に手を当てて大きく瞬きした。
「まぁ!随分と反抗的なんですねぇ」
「そういうわけじゃ……」
機嫌を損ねて修行を中断されては困る。ベジータが慌てて弁解しようとすると、ウイスは人差し指をたててベジータの鼻先をちょんっとつついた。
「ふふっ気にしてませんよ。なんだか少し、貴方を揶揄いたくなりまして」
「……なんなんだ、一体」
ウイスの言動に訝しむベジータは一歩後ずさる。すると、笑顔のまま「以前にお話ししたことですけど」と続けてきた。
「貴方たちにもっと高みを目指してもらうには、今のままでは駄目なんです。それは既によくご存知と思いますが……実はその為に、最近お二人にちょっとした細工をさせていただきまして」
「なんだと?」
聞き捨てならない内容にベジータはつい声を大きくしてしまう。その反応にウイスは目を細め、悟空へと視線を移した。
「ベジータさんは今朝、不思議な夢を見ませんでしたか?どうやら悟空さんはまだのようですが……彼もそのうち似たような夢を見るはずです」
今朝の不思議な夢、と言われベジータは背筋が凍りついた。あの下品な夢がウイスの仕業だと言うのなら、その内容も目の前の天使は熟知しているというのだろうか。いくらあれは自分ではないといえ、とても他人に見せられた姿ではない。そもそもあの夢が何故修行に関わると言うのか分からない。ベジータが顔を赤くしたり青くしたりさせながら言い淀んでいると、ウイスは「大丈夫ですよぉ」と軽い口調で言った。
「私は夢の内容までは知りません。あくまで悟空さんとベジータさんが私の見せた夢を通して己の中の隠れた部分を曝け出し、殻を破り、最終的に本来の自分を見つめ直すことが目的ですから。私には夢の内容なんて関係ないんです」
「……さっきから言っている意味が分からん」
「夢とは己を映し出す鏡。言わば見えざる真実、そしてあなた自身。……ですが、まだ分からなくて結構ですよ。ま、ベジータさんは悟空さんより深刻ではありそうですねぇ……貴方が本来の自分を見つめ直すには、まずその胸の中の悩みと向き合わなくては」
そう話しながらウイスは「修行を再開しましょうか」と言って微笑むとベジータに背を向けて悟空の方へと歩いて行ったので、その後に続く。
天使の話すことはよく分からないが、とにかく彼が見せている夢が強くなる一歩へと繋がるらしい。その言葉を信じて、ベジータはそれ以上何も言わなかった。
* * * * * * *
しばらくして地球に戻ってきたベジータは、時折ビルス星にいた時の様に悟空と組み手を行っていた。今日も人の寄りつかない荒野で互いの持つ力を確かめ合っている。修行に夢中になっているベジータはいつの間にか、ウイスの話していた夢のことなどすっかり忘れていた。
やはり対人となると瞑想や重力質でのトレーニングでは得られない経験がある。それらも確かに大事ではあるが、こうして誰かと拳を交えるのは単に修行だけではなくストレス発散にもなるのでベジータから悟空を誘う日もあった。そしていつしか、修行の後は決まって体を重ねるというのがお決まりの流れとなっていた。
そんなある日、悟空が不思議な夢を見たと話してきた。夢の話をするなんて珍しいと思いながら聞いていると不思議という言葉では片付かないほどに下品な内容で、ベジータはウイスの話を思い出してしまった。
悟空の話した夢の内容は変な穴に落ちた悟空がいやらしい格好のベジータと出会い、今までの二人ではありえないセックスをした、というものだった。そう、今までの二人、では。
しかし、既にベジータも悟空と同様にとんでもない夢を見ているのだ。普段とは違うセックスをして、欲望のまま抱いてくる悟空に考えられないほど善がる自分がいて、本来の二人の間で何かが変わってしまうのではと危惧していたがそれが現実になるのではないかと思えた。
「――と、いう夢を見た」
夢の内容を話し終えた悟空を前に正気でいられるはずもなく、ベジータは自分を誤魔化す様に肩を震わせて叫ぶ。
「なんでオレがそんな下品な格好で下品なことを言いながら貴様に抱かれているんだ!」
どれだけ声を荒げても悟空はけろっとした表情のまま腕を組み何かを考えている。その姿はまるで、夢の中のベジータと目の前のベジータを見比べているようだった。
「そんなこと言われても夢の話だからなぁ。確かに変だと思ったんだよな、ベジータはあんなえっちな格好しないし変な言葉も使わないし」
「当たり前だ!」
まともに視線を合わせることが出来ず背を向けたのに、話を続けようとする悟空が前に回ってくる。
「夢の中のおめえは普段と全然違ったけどさ、一個だけ同じところがあったんだよ!」
「……、言ってみろ」
きっとろくな内容ではないとベジータは眉を寄せる。反対に悟空は子どもの様に無邪気な笑顔になると、とんでもないことを言い放ってきた。
「オラにおっぱい吸われたり乳首舐められるのが好きなのは同じだったぞ!」
それを聞いたベジータは反射的に拳を繰り出したがギリギリ避けられてしまったので飛んで逃げようとした。しかしその前に悟空が腕を掴んできたのでここを離れられなくなってしまう。
「なんだ、はなせ!貴様のような下品な夢を見るやつに付き合ってられるか!」
これ以上おかしな夢の話をされると本当にどうにかなってしまいそうだった。夢と現実の境目が分からなくなる。そうなってしまっては、きっと今のままでの関係ではいられなくなってしまう。
ベジータは、もっと悟空が欲しいと思ってしまうことが怖かった。修行以外で必要以上に求めてはいけないのだと分かってはいるのに、あの夢を見てから……いや、悟空に抱かれるようになってからどうもおかしい。体が求めてやまない男が、どんどん狂わせてくるのは恐怖そのものだった。
だと言うのに、悟空はなんでもないようにベジータに接して来る。修行中でもベッドの中でも変わらない。思うがままに“自分”をぶつけてくる悟空を、一体何度羨ましいと思った事か。
「そう言うなって。ほら、確かめようぜ。夢と同じだったかどうか」
悟空はベジータの腕を掴んだまま、素早くもう片方の手を胸に這わせてきた。それだけで何かを期待して反応してしまっている乳首に触れられると同時に無遠慮に摘ままれてしまい「ひぁん♡」と声をあげてしまう。ベジータは慌てて口を塞ぐがもう遅い。そのまま岩陰に連れ込まれると壁に手をつく体勢にされて背後から腰を掴まれた。ここまで来るともう後戻りはできない。ボトムスを降ろされ、突き出した尻奥の窄まりへ背後から涎を垂らした亀頭が擦りつけられる。
「はァ、悪いベジータ。オラもう我慢できねぇ」
「ッうぅ、ヤるならはやく、しやがれェ……、ァあっ!」
胸を弄られながら軽く慣らされた後、ずぷんっ♡と勢いよく突かれたベジータは悟空のピストンに合わせて腰を振っている。ぱちゅっぱちゅんっと肌がぶつかりあって、あっという間に互いに果ててしまった。
そして日が暮れるまで何度も激しく突かれたベジータは、自分の中の何かが変わっていくのを感じていた。