儀式の意味を知っている
ベジータはその場に悟空を押し倒すとその上に跨り、ゆっくりと道着を緩めて服を脱がせはじめた。自分はしっかりと戦闘服を着たままなのは、こちらの方が相手よりも優位であると感じられる気がしたからだ。
場所などどこだって構わない。こんな森の中だとしても。どうせ夢の中だ、誰に見られる心配もない。きっとぜんぶ、終わってしまえば無かったことになってしまうのだろうから。
乱れた呼吸が混ざり合って、頭の中がぐちゃぐちゃになって、何も考えられなくなってくる。服を脱がせながら姿勢を低くしてキスをやれば、悟空はぼんやりとベジータを見つめていた。それにひどく気分が良くなっていき、所詮貴様は与えられる側なのだと思い知らせることが出来たように思える。悟空が着ていたものをぜんぶ剥ぎ取ってやり、晒された箇所に手を這わせる。これだけで反応しているのが滑稽で笑いそうになる。本当に、馬鹿な奴。
勃ちあがったものに口付けて舐めてやると一丁前にビクビクと反応していた。駄目ではないらしい。それに安堵している自分に気が付いて、少し気分が悪くなる。
手で擦りながら強く吸えばあっという間に達してしまい、口の中にどくどくと欲を注がれてしまった。それが嫌ではないと感じている。本当に馬鹿なのはどちらなのだろうと思いながら溢れた分も舐めとっていると頭を撫でられたので、挑発するように鼻を鳴らしてやった。
「ほら、忘れられたくないんだろ?自分でも動いてみろ」
「あ、ああ……」
悟空は恐らく丁寧に服を脱がせながら、横たわるベジータを組み敷いた。互いに一糸まとわぬ姿になっているというのにまだその両目に戸惑いの色が見えたので、つい舌打ちしてしまう。
「ここで終わっても良いんだぞ」
「え!いや、悪い……ちゃんと、するから」
彼の言うちゃんと、とは。分からないが、とりあえず好きにさせてみることにした。
男と女の勝手が違うことは分かっているのだろうかと不安になったが、そんな心配は無用だったようで、徐に目の前に差し出された手を舐めるように指示された。太く骨ばった指を見せつけるようにねっとりと下に絡ませながら口に含んでやる。そのまま黙って従っていると満足したようで、「もう大丈夫かな」と呟くとこちらの後ろへと手をまわし始めた。
つぷり……と指が一本侵入してきて、息を呑む。久しぶりの感覚に視界が点滅しはじめたが、なんとか我慢できそうだった。黙ったままのベジータを気遣いながら悟空は必死に行為を進めようとしている。
慣れた頃を見計らって少しずつ指を増やされ、息が荒くなってくると自然と視線が絡まった。何も言わずとも欲しいものは伝わったようで、悟空はいつか見た時と同じように困ったように笑っている。それがどうしてかおかしくて、必死なのは貴様の方じゃないかと伝えたくて手を伸ばした。
* * * * * *
ゆっくり、ゆっくり、慎重に事を進めようとする態度に徐々に苛々としてしまう。忘れられたくなければもっと手ひどく扱わなければ駄目だろうがと言ったところで、悟空は首を横に振るだけだった。
だとすれば、こちらが導くしか方法は無かった。ベジータは大きく脚を開くと、先程まで悟空が触れていた箇所を自らの2本の指で拡げて見せた。
「オレの気が変わる前にやるならさっさとしろ」
「ほ、本当にいいんだな?」
「くどい、何度も言わせるな」
言えば、悟空は小さく頷いて腰へと触れてきた。この身体がやわではないことなど知っているはずなのに陶器でも扱うかのような手つきがもどかしい。
やっと欲しかったものが後孔に宛がわれ、はあ、と熱い息を吐く。ぐ……と押し込まれていく感覚に身震いがして、逃げるようにこの身体を支配しようとする男を見上げれば余裕の無い表情をしていた。
半分ほど収まったところで動きが止まり、ここまで来て何を気遣う必要があるのかとナカにあるものを締めつける。
「もっと、奥……」
それだけ伝えれば充分だろう。その予想は当たっていたようで、ごくりと喉を鳴らした悟空は今までとは比べ物にならないほど荒々しく動き始めた。乱暴に腰を振り、無遠慮に肉壁を擦られる。「あっ」と小さく声が漏れてしまい、それを聞き逃さなかった男は「ここか?」と確認しながら同じところを何度も何度も突いてきた。
「あ、ああっん!」
自分から溢れる声などに構っていられない。息を荒げながら抽挿を繰り返す目の前の姿を忘れたくなくて手を伸ばすと、もっと深く繋がろうと体重をかけてきた。
「ああ、あ、ベジータ……」
余裕の無い声色に頭が溶けそうになる。ずっと欲しかったもの。やっと、やっと……。
「か、かろっとぉ……そこ、あ、ァ!」
更に奥へと暴こうとされて腰が跳ねる。びくびくと震える身体に「大丈夫だから」と何度もキスを落とされて、再び視界がちかちかと瞬いた。
(夢。夢の癖に。こんな姿、本当は知られるはずじゃなかったのに)
熱を逃がさない為に締め付けると悟空の顔が歪んで、「まいったなぁ」なんて呟いている。どうせ、もう止まらないのだと分かっているはずだ。
腰を抱えなおされて、上から伸し掛かる様にして奥を何度も突かれる。そのたびに声が溢れて、そのたびに悟空が嬉しそうに見つめてきて、愛おしそうに息を吐いている。信じられない光景がずっと広がっていて、ベジータはただ与えられているものを享受するしかなかった。
与えられる側はお前の方で、オレがお前より上にいて、それを教えてやりたかったのに。どうしてもこの関係を変えられないのか。
「や、あッああ、あん、あ……あ、ぅ」
「べじーたぁ、おらのこと、忘れないでいてくれるよな……?」
「そんな、の……分かってる、だろうが」
ずっと変わらない。こんなことが起こらなくとも、忘れるはずがなかった。
馬鹿なやつ。本当に、馬鹿なやつ。必死に腰を振って自分を刻もうとする姿は滑稽だと笑ってやりたいのに、それが出来ないのはこちらも同罪だからだ。
深くピストンされながら溢れる嬌声を止められないままでいると、悟空が耳元に顔を寄せて来た。
「ごめんな、ベジータ」
直後、どくどくと口に出されたものと同じものがナカへと注がれていく。同時に自身からも熱が溢れて、息を整えようと上下する胸を悟空が愛おしそうに撫でてきた。
「これで終わりかも、なんて思ってたけど。そうならないようにしたいって思ってる。本当だ」
「……信じられるか、そんなこと」
「はは、だよな。……でもさぁ、やっぱりまた会える気がするんだ」
頬に訪れた感触は一瞬で離れていく。なんの意味も無いやり取りだというのに満たされるような感覚があったのは、これが嘘ではない気がしたからだろうか。