乖離点
先程とは打って変わって、今は王泥喜が上になっている。
いつもは見下ろしてくる男をこうやって上から眺めるのはどうにも不思議で、まじまじと見ていると「だから見すぎだってば」と笑われてしまった。
「僕から言うのも変な話だけどさ、おデコくんは聞かないんだね」
「なにを、ですか」
「ぼくが、君以外の男と経験があるのか……とかさ」
改めて指摘されると、答え辛くなってしまった。
それが気になっていなかったと言えば嘘になるが、その答えを知ったところで状況は変わらないだろう。だから聞かなかった。
だけどその理由は彼に通用するのか分からず黙っていると、何かを見定めている様に目が細められていった。
「まあ、僕としてはいいんだけどね。君が童貞だったことが分かったから」
「えッ!なんで、それ知って……」
「はは、弁護士さんお得意のハッタリって便利だね」
やられた。そう思って俯くと頬に手を添えられた。優しく撫でられて顔を上げると額を指で弾かれてしまい、痛みに目を閉じると彼の長い脚で股間をぐりぐりと刺激されてしまった。
「ほら、いつまで我慢してるのさ?」
余裕ぶった涼しい笑顔が気に入らない。ずっとそう思っていたはずだった。
なんでも見透かしたようなその目から逃げ出したくなるのを堪えて、王泥喜は牙琉の太ももに触れる。ぐ、と後孔に自身を押し入れると、組み敷いている男の表情が少し歪んだ。
「おデコくんが、言ってくれたから……僕も、言っちゃう、けど」
こんな時に何を、と顔を上げると、顔を赤くして顔を背けている男がぼそぼそと呟き始めた。
「同じだよ、君と。いつもは小さいことに鋭いくせに、こんなときには鈍いやつで……嫌になるのにね」
それを聞いて、胸がどんどん苦しくなっていた。
オレも、オレも好きです。アンタに負けないくらい、ずっと。
それを声にできなくて、王泥喜は先端だけ咥えていた箇所からずぷずぷと突く。反射的に逃げようとする腰を強く掴んで、先程よりも激しくピストンさせるとだらしなく開いた口から嬌声が溢れはじめていた。
「あ、ぅあッん♡そこッだめ、ぁ、あ♡」
シーツを掴んで、きれいな髪を乱しながらなんとか耐えようとしている姿に興奮して激しく打ち付けてしまう。これは止まらないな、と自嘲気味に笑い、喘ぐばかりの男に声をかけた。
「我慢しないでください、オレも我慢、しませんから」
「しないんじゃなくて、できない癖に、ぃ……ッ♡」
どちゅんっ!と奥を突くと腰が跳ねて、彼の先端からもとろとろと欲が溢れていた。甘イキを繰り返しながら腰を揺らす牙琉に、やはり先程の質問が引っかかってしまった。
「どうだっていいと思ってました、検事が……アンタが、他の誰とこんなことしてたって、関係ないって言い聞かせてました」
「な、に……」
虚ろな二つの目がこちらを捉えられているのかは定かではないが、構わず王泥喜は続ける。
「でも、やっぱり嫌です。オレだけ見ててください、今だけで、いいから」
ごりごりと肉壁を擦るように動いてやると、きゅうとキツく締め付けられて果てそうになる。
それを知ってか知らずか、牙琉は余裕そうな表情に戻ると王泥喜の腰に脚を絡めてきた。
「やっぱり君は馬鹿だね、おデコくん」
「……どうせ馬鹿ですよ」
「うん、早とちりで、周りが見えていなくて……僕のこと、なんにも分かってなくて」
手を伸ばしてきたかと思えば顔を引き寄せられて、触れるだけのキスをされた。ちゅ、と可愛らしい音が聞こえたかと思うと唇を舐められて、王泥喜はつい固まってしまう。
「自分だけを見てほしい、なんてさ。そんなこと思ってるのは自分だけだって思ってるんだろ?」
それは、どういう意味ですか。そう聞く前に絡められた脚が腰をより強く掴んできた。はやく続きを、と急かされているようで望み通りに動いてやると、よく出来ましたと言わんばかりにキスが深くなっていった。
「ふ、ぁ……あ、んッ♡」
キスの合間に声が溢れて、打ち付ける腰は止まらなくて、王泥喜の頭は真っ白になっていった。
目の前の男を好きにしている背徳感も優越感も、本物なのか分からない。ただ、自分をとらえて離さない人を逃がしたくはなかった。
「おでこく、ん、あッぁんン♡ひ、ぅ♡」
「あ、がりゅうけん、じ」
いよいよ我慢ができなくなって、深く繋がるように体制を変えると牙琉が王泥喜の体を更に抱き寄せた。
イきそうなのは彼もそうなのだろうと奥を突くと、びくびくと体を震わせながらぴゅっ♡ぴゅるっ♡と断続的に熱を吐き出しているのが分かった。同時に王泥喜も果てると、たっぷりと注いだせいで下の男は苦しそうにしている。
すみません、と伝えると頭を撫でられて、子ども扱いされていることに反抗してキスをした。
すると耳元で自分が彼に伝えたことと同じことを囁かれてしまい、体の熱は引くどころか増していく一方だった。