がちゃがちゃ

ぼくたちの失敗

 ベッドのスプリングがぎしぎしと音を立てて、まるでそれに合わせるかのように乞うような、はたまた媚びるような、そんな甘ったるい声が両の耳を震わせる。
 組み敷いた身体は快楽を得ては跳ね、時折逃げ出そうと無意識に身を捩るうつ伏せの白い四肢を押さえつけては自分の支配欲を満たしていく。もう、何度目だろうか。
 汗が伝う彼の首筋に顔を寄せて自分が残した痕を眺めながら「何回やったら慣れるかな」なんて囁けば、荒い息の中で「馬鹿野郎」と汚い言葉が返って来る。まったく、どうしてこうも君は生意気で、意地っ張りで、そして愛らしいのか。
 
 * * * * *
 
 グリーンという男は、常識人の様で実際はとても変わった人だった。レッドにだけ口が悪くて、レッドにだけ厳しくて、レッドにだけ執着している男だ。
 レッドにとっての彼は、光のような存在だった。何度目の前が真っ暗になったって、いつだってその闇を照らしてくれる。彼がいなければ、もっと違う人生を歩んでいて、そしてつまらない人間になっていたことだろうと信じて疑わないほどに。
 そんなレッドとグリーンは、昔からいろいろなことを競ってきた。テストの点数。身長。かけっこの速さ。力比べ。そしていつしか二人は旅に出て、ポケモントレーナーとなり、他人と競い合うと言う本来の意味を知った。
 自分が何かの頂点に立つという事は、つまりは他人を蹴落とすという事だ。その意味を理解しないままマサラタウンの少年はゴールまで走りきってしまい、そして、他人を蹴落として玉座を手に入れてしまったのだ。
 大人たちに「今から君が新チャンピオンだ」と言われても、レッドにはその実感が湧かなかった。だって隣に彼がいないのだ。光が見えない。勝利を讃えてはくれたが、結局最後には背を向けられてしまっていた。

 数年の時を経て再びレッドの目の前に光が差したのは、雪解けとともに訪れた春が顔を見せた頃だった。
 トキワの入り口で、いつの間にかジムリーダーになっていた幼馴染の久しぶりに見た表情が逆光でよく見えず目を擦ると、泣いていると思われたのか「相変わらず情けねえ奴」なんて罵声を食らった。レッドは幼なじみの以前と変わらぬ口の悪さに安堵しつつも他にも欲しい言葉があり、自ら口を開いてしまった。
「ただいま」
 ようやく見えた懐かしい顔はレッドの言葉に大きなつり目を忙しなく瞬きさせたかと思うと、ゆっくりと瞼を閉じ、次の瞬間にはぽたぽたと彼の中に溜め込まれていたいろんな感情が溢れだしてしまっていた。
「君だって……グリーン、だって。情けない男じゃないか」
 久しぶりに口にする名前がむず痒い。どうしよう、さっきから心臓が物凄くうるさい。
「うるせえ、お前にだけは言われたくない」
 喋りながら頬を伝う涙を拭ってやりたくてレッドは片手を差し出すが、そこへ触れる前に彼の両手に包むようにと握り込まれる。あたたかくて、おだやかで、触れた肌から彼の言いたいことが全部伝わてくるようだった。
「おかえり、レッド。おかえり……、もう、どこにも行くな」
 どうやら言霊というものは実在するようで、それから彼の言葉が頭から離れることは無かった。
 
 その言霊に縛られるかのように、約束通りレッドはどこにも行かなかった。……と言えば語弊があるかもしれないが、少なくとも連絡も無しに年単位で行方をくらますことはなくなった。
 せっかく戻って来たのだからリーグへ来ないか、ジムリーダーにならないか、など有難いことにいろんな声がかかったが、その全部をレッドは断ってしまっていた。どこか一つの場所にいるのは性に合わないし、すぐに投げ出す自信があったからだ。それにもしリーグ関係者になってしまったら今より忙しくなって、きっと今のように好き勝手にグリーンに会う機会が減ってしまうだろうことが怖かった。(これを正直に本人に伝えたら怒られてしまった)
 だけど見聞を広めたいという名目で短期間の旅に出ることは何度かあった。カントーの外は知らないことが多くて面白い。図鑑が埋まっていく度に、知らない戦術を知る度に、胸が躍ってしかたがないのだ。そう言えばグリーンと一緒に他地方の大会に出たこともあった。思い返せば、楽しいことばかりだった。
 
 それからもレッドは自由気ままに旅をしていたが、ある日グリーンからお呼びがかかる。一体何の用だと彼の待つトキワジムへと訪ねてみれば奥の事務所へと通され、そこで一緒にアローラへ行って欲しいと告げられた。
 アローラ地方。行ったことはないが名前は聞いたことがある。自然豊かな温暖な土地で、確かジムが存在しない今時珍しい地方だ。興味がある場所ではあるが、一体何故。そう問えば、どうやらレッドとグリーンがバトルツリーという施設に招待されているらしい。
「聞いてないよ、そんなの」
「それはお前がいなかったからだ」
 グリーンは「はぁ」と浅い溜息をついたかと思えば二枚ある招待状の片方をこちらの胸へと押し付けてきた。それを受け取ると、彼の言う通りあて名は自分の名前になっている。
「お前がフラフラしてるせいで、お前宛ての用事とか手紙とか全部オレのところに来るんだぞ」
「それは申し訳ない……けど、これって行かなきゃだめなやつなの?絶対?」
「知らねえけど、行っておいた方が良いぞ。それに、たぶんお前が好きそうな感じだ」
 ふふ、とどこか楽しそうに口の端を上げるグリーンを見て、その言葉が嘘ではないことを察する。

 「レッド」
 ふいに名前を呼ばれ、どきりとする。どうしたのかと思えばグリーンはこちらに一歩ずつ近づき、どんどんレッドを部屋の隅へと追いやっていく。彼の方を向いたまま後ずさりしているとついに壁に背が当たる。もう逃げ場はない。
「お前はアローラへ行くんだよ、オレと……いや、オレ様と一緒に。お前が今までしでかしたことを思い返してみろ。拒否権なんか、最初っから無いんだよ」
 体が密着しそうな距離で上目遣いにそう詰め寄られ、ふわりと鼻をかすめるオーデコロンにレッドの心臓はばくばくと忙しなく動いている。
「分かったか?」
 小さなガーディ……と言うよりもイーブイのように小首を傾げながら訊かれるものだから、レッドはつい勢いよく頷いてしまった。
「そっか。それなら良かった」
 満足そうに目を細めたグリーンは、そのまま離れていってしまった。
 レッドは遠ざかる姿と香りに少し名残惜しさを感じつつ、彼の圧から解放されたことに胸をなでおろした。

 あれから数か月後、レッドとグリーンは二人でアローラの地を踏みしめていた。
 ここは暑い。とにかく暑い。煩わしさと感じる暑さではないが、雪山に籠っていた期間が長いせいか自分が熱にあまり強くないことを知る。それに比べてグリーンはなんでもなさそうにしている。そして薄着がよく似合う。思った以上に夏が似合う男だな、なんて感心してしまった。
 「その服、似合うね」と正直に伝えたら、少し照れくさそうにしながら「今度はお前の服も見繕ってやるよ」と返された。その言葉は嬉しいけれど、どうも彼の自分へと向ける視線が気になる。この服、気に入ってるんだけどな。
 
 グリーンが話してくれた通り、バトルツリーは面白い施設だった。そもそもアローラ地方自体が新鮮な場所で、それに加えて見知らぬバトル施設だなんて!
 一体今まで何を躊躇っていたと言うのか。人間と必要以上に会話をする必要など無く、挑まれたバトルを受けるだけで良い。なんてシンプルなんだ。グリーンも傍にいるので心強い。それに、自分にとっても良い経験になる。
 アローラにも慣れて毎日が楽しいだなんて浮かれきっていた頃、グリーンがリーグ関係の用事があるからと一日別行動になった。ここに来てからはいつも一緒だったので(ホテルも同室だった)少し寂しい。今日はバトルツリーにも行かなくて良いと言われたので、それならばとレッドはホテルの部屋に彼を残し、一人で外へ出た。せっかくの機会なので図鑑を更新したいし、のんびりとアローラの野生のポケモンを見ておきたい。
 
 少し張り切り過ぎてしまい、レッドがホテルに戻るころにはすっかり日が暮れてしまっていた。月が照らす帰路を歩きながら次のフィールドワークはグリーンと一緒に行きたい、なんて考えている。そしてホテルの部屋に戻ると、ベッドではなくお世辞にも大きいとは言えないソファで横になっている幼馴染の姿を見つけた。
 近寄ると、背もたれの方向へと背を向けて穏やかな寝息を立てているのが見えた。なんだか起こしてしまうのは可哀想な気がしたので、なんとなく……しゃがんでその様子を眺めてみる。
 長い睫毛が影を作り小さく揺れて、思わず視線を逸らす。すると大きく開かれたシャツの胸元が目に入りレッドは息を飲んだ。普段の彼は口が悪いのでそちらに気を取られて気が付かなかったが、どうやた幼馴染は少し隙が多いようだ。
 レッドはなんだか見てはいけない気がしたので立ち上がろうとしたが、突然ぐいっと伸びてきた両手に掴まれて眠るグリーンの上に倒れ込み、体制を崩してしまった。
 
「わっ、え……グリーン、起きてる?」
 転ばないように彼の顔の両脇に手をつき、覆いかぶさる様な体勢になった。すると薄く目を開いたグリーンが小さな口で拙く「れっど」と名前を呼んだ。
「れっど、れっどだよな……?」
 呂律のあやしい声で何度も名前を確認してくる彼に少し違和感を覚えつつも「そうだよ」と頷くと、途端にぱあっと花が咲くように笑顔になった。
「ああ、レッド。かわいい……おれの、れっど」
 その言葉を飲み込む前に強く引き寄せられて視界が暗くなり、同時に唇に何かが当たる感触。見なくたって分かる、自分が今、誰と何をしているのか。
 
 
「んっ、ん」
 目を開くと、一生懸命に僕の口を啄むグリーンの顔が視界に広がった。ちゅ、ちゅと可愛らしいリップ音が繰り返されている。それと同時に仄かに香るアルコールの匂いに、ある程度の予想がついてしまった。
 どうしたものかと考えるが首に両腕をまわされているので動けずにいると、いつの間にかしっかりと開かれていたグリーンの両目がどうしてか不安そうにこちらを見ていた。
「れっど……?」
 いつの間にか先程までは夢中だった動きが止まっている。そうかと気が付き、されるがままだったのを今度はこちらから何の躊躇いもなく押さえつけるように口付けた。自分から仕掛けてきたくせになかなか開かない口へと無理やり舌をねじ込み逃げるように這う彼のものと交じる様に絡めれば、上がった息と一緒に甘ったるい声が何度も何度も溢れていた。
 家族と幼馴染以外の人間にあまり興味が無いわりに、こういった知識が最低限のレベルではあるが自分にあって良かったと思う。でなければ、こうして彼と熱を共有することも無かったのだろうから。
「んぅ、んッあ、れっどぉ、ァ、ッ……」
 捩るグリーンの体を逃がさぬように、レッドは体重をかける。頭がくらくらとして溶けてなくなってしまいそうだった。だけど今は目の前の獲物を貪るのに忙しい。据え膳食わぬは男の恥……とは違うのかもしれないし彼の真意は分からないが、どうしてかレッドは、求められたからには全力で応えてやりたかった。
 しばらくじゃれ合っていると苦しそうにしていたのが見えたので顔を離すと、先程まで絡まっていた箇所が薄く糸を引いた。放心しているのか、だらしなく開けっ放しのグリーンの口の端から溢れるものをぺろりと舐めとると再び抱き寄せられたので、細い首筋に鼻を埋めて遠慮なく彼の匂いを肺いっぱいに吸い込む。ああ、幸せだな。
 
 
「あ……れ、レッド?」
 ソファの上でグリーンを抱きしめたままでいると、どうやらいつもの彼が戻ってきたようだった。
「うん。ただいま」
「おかえり――じゃなくて、オレ、もしかして、え……?」
 混乱しているのか半ば突き飛ばす様に突然押しのけられて、そのままグリーンは物凄いスピードでソファの隅っこに膝を抱えた姿勢でうずくまってしまった。そのせいでレッドには今グリーンがどんな顔をしているかが分からない。だけど、彼の真っ赤な耳がすべてを物語っていた。どうやら記憶はあるようだ。
「夢だ、ぜんぶ夢だ……! だって、こんなの……」
「大丈夫、全部夢じゃないよ」
「だから大丈夫じゃないんだよ……ッ!!」
 勢いよく顔を上げたグリーンの顔が、いろんな感情を含んで赤くなったり青くなったりしている。
 かわいそうに。そう思って手を差し出すも、振り払われてしまった。
「……お前は、平気なのかよ。何も感じてないのか!?」
「何もって、何を?」
「――~~~~ああああ、もう……まさかオレが、こんな失態……」
 頭を抱えるグリーンを一旦放置して、辺りを見渡す。よく見れば傍にあるローテーブルの上には恐らく空になっているアルコールの缶がいくつかある。なるほど、と確信を得てレッドは再びグリーンへと向き直った。
「グリーンがどう思ったのかは分からないけど、僕は嬉しかったよ」
「うれし……って、え、なに……?」
 まだ混乱しているのか、彼の視線は泳いでいる。真っ直ぐ見てほしくて赤い両頬に手を添えた。
「グリーン、僕のこと好きなんだよね?」
 そう伝えれば、彼の瞳はみるみるうちに驚きの色へと変わっていく。
「あんなことされて今更なんでもないですっていう方が無理があるよ。オレのかわいいレッドって、言ってくれたじゃないか」
「ああやめろ、もう、やめろ……ッ!」
 詰め寄ると、泣き出しそうな顔になってしまった。それを見て可愛いな、なんて思ってしまった自分に少し驚く。まさか自分の中にこんな感情があったとは。
「ねえ、いつからなの? グリーンの話、いっぱい聞かせてよ」
「……お前、今日はやたらとお喋りだな」
「そりゃあ、これ以上ないってぐらい楽しいからね」
 最低。趣味悪い。変態。
 ひどい罵声だ。だけど、そんなさえずりの様な声でいくら罵られたってちっとも痛くなんてなかった。それよりも、もっと鳴いてるところが見てみたい。そっちにばかり気持ちが向かってしまう。
 
「ねえ、答えてよ」
「知らねえよ、こんなことするつもり無かったし。……お前がなかなか帰って来ないから適当に飲んでたらいつの間にか寝ちまってて、夢に子どもの頃のお前が出てきて、それで……」
「え、ちょっと待って」
 自分から聞いて来たくせに遮るなと怒られてしまったが、それよりも気になることがある。彼は今、なんて言った?
「ごめん、聞き間違いかな。夢の中に子どもの頃の僕が出てきたって言った?」
 レッドが訊くと、グリーンは不思議そうに瞬きを繰り返し、そしてゆっくりと頷いた。
「じゃあ何。君は子どもの頃の僕にキスをしたの?それで『オレのかわいいレッド』って言ったの?」
「……は?」
「今の僕じゃなくて、子ども頃の僕が好きってこと?」
 一体何が言いたいんだ、と彼の顔にはっきりとそう書かれているのが分かる。だけどこちらにとっては、ものすごく大事なことなんだ。
 レッドは、例え酔って寝ぼけていた時の勢いだったとしてもグリーンが自分からキスをしてくれたことが確かに嬉しいと思ったのだ。それに応えたいとも思った。だから気が付いた。お互い同じ気持ちなんだと。
 それなのに、どうしたことか! 彼が好きなのは子どもの頃の小さなレッドだ。まだ幼くて、今よりも僅かではあるが愛嬌があって、大人たちからはそれなりに可愛がられていた、あの頃の……。
 かわいい。そう言われれば男なら違和感と感じるべきところなのだろうが、相手がグリーンならば嫌な気分はしなかった。どういう形であれ、自分に好意を持ってくれている事実が嬉しかったのに。
 
 レッドは声が出せず、ソファの上からも動けず正座をしている膝へと視線を落とす。そろそろ足が痺れてきたが、そんなことどうだって良い。
「な、なあ……お前が何を想像してるのか知らねえが」
 グリーンがこちらに身体を寄せ、先程レッドがしたのと同じように両頬に手を添えられた。彼の細い指が、目にかかる髪をさっとかき上げてくれるのがくすぐったい。
「別に今のお前は好きじゃないとは、一言も言ってないからな……」
 そこからは、まるで昔からそうであったように自然と顔を寄せていた。重なる箇所が一度目よりも熱い気がする。
 なんだ、全部杞憂だったのか。何も心配することなど、初めからなかったのだ。
 

 * * * * *

 空気に流されるがまま、レッドとグリーンはベッドへと移動していた。
 お互い何も言わない。絡めた手から緊張が伝わって来る。だけど平気だった。だって僕は彼のことが好きだし、彼も僕のことが好きなのだから。レッドは頭の中で、何度も何度もそう繰り返していた。
 
「あ、あッん、ンッれっど、れっどぉ、ッあ」
 薄暗い中、組み敷いた彼の唇を再度貪りながら服を捲り胸元に手を這わせる。想像よりもすべすべとしていて、同じボディソープを使っているはずなのになあ、なんて考えてしまう。
 次第につんと上を向き触ってくれと言わんばかりに主張する飾りを指先で引っ掻いたり摘まんだりを繰り返すうちに、先程よりもどんどんグリーンの声が甘ったるくなっていく。
「そこ、ンっやだ、や……ぁ、あ」
「どうして? 気持ちよさそうなのに」
「んなワケ、……ぅ、やめ、れっど、ッ!」
 頭の位置を下げて、指で遊んでいた飾りをぺろりと舐めてやる。舌先で転がしては時折吸ってを繰り返し、いつの間にかそこは初めよりも硬くなり、ほんのりと色づいていた。
「グリーン、あのさ」
「な、んだよ……」
 視線だけこちらに向ける彼の息は荒い。はやく次の快楽へ進みたいのはこちらも同じだ。だけども。
「知識の無い僕なりに、なんだけど」
 言いながら、胸に這わせていた手を降ろし彼の太ももの内側をゆるりと撫でる。指の動きに合わせてびくびくと震えるのが面白くて、もう一度撫でたら不機嫌そうに「やめろ」と言われてしまった。
「男同士って、その……ちょっとずつ進まなきゃいけない……んだよ、ね」
「あ? ああ……そう、だな」
 レッドは手を太ももから付け根に移動させ、更にその奥へ進め……気まずそうにしていたグリーンの身体が強張ったのを感じた。自分でも触ったことが無いであろう場所に、他人の、しかも男が触れようとしているのだ。誰だって逆の立場だったら怖くて堪らないだろう。
「その……ちょっとずつで、良いから。僕を受け入れて欲しい。なんだってする、我慢もする、だから」
「さっきからそんなこと気にしてんのか、お前」
 グリーンの手が伸びてきて、レッドの髪を掻きあげるように目いっぱい頭を撫でる。それだけで安心してしまって、言葉を紡ぐことの難しさなど忘れてしまう。
「そんな顔しちゃってさあ。でっかいガーディみたいだ」
 ふ、と笑みを漏らす彼の笑顔が眩しい。ウインディではなくガーディなのかと思ったが、きっと彼の中でのレッドは図体がデカくなっても小さい頃のままなのだ……それはそれで先程のことを思い出して胸の奥が痛む。
「安心しろよ、ぜーんぶ受け止めてやるし。それに……」
 先程彼の奥へと進めようとしていた手に、レッドよりも細いグリーンの手が重なる。
「いい加減、待ちくたびれちまった。イイコのレッドなら、この後どうすれば良いか分かるよな……?」
 幼馴染でありライバルであるグリーンは、常識人の様で実はとても変わった男だ。
 僕にだけ口が悪くて、僕にだけ厳しくて、僕にだけ執着している男だ。そして、誰よりもかっこ良いのだった。レッドは、その事実を噛み締めていた。

 ローションの力を頼っても、男の身体というものは本来そこを愛情表現で使うようにはできていないのだと思い知らされる。
 お互い一糸纏わぬ姿になり、レッドはぬるりと液体をまとった自分の指で組み敷いた身体の後孔を広げるように進めていくが、どうにも上手くいかない。初めてだからこんなものなのか、とも思ったが、比較対象がないので分からない。
「グリーン、辛かったら言って。無理させたいわけじゃないから……」
「は、ァ……も、気にしなくていい、から」
 時折「んっ」と小さく声を漏らしているのは苦しいからなのか、それとも別の感覚があったからなのか。彼が「平気だから」以外何も言わないので分からないが、とりあえず行為を進めていく。
 その時、一瞬ある箇所を指が掠めた先程よりも高い声が漏れた。もしかして、と思って同じところを押しつぶす様に触れると先程とは打って変わってビクビクとグリーンの身体が反応した。
「や、あッそこ、ッなんか、ぁ……や、ぁッ」
 ぐり、とわざと強く攻め続けると抑えきれない声が溢れてくる。目の前で、普段は強気な幼馴染が乱れている。それも、自分の手で。
「ここ、気持ちいい?」
「ん、ん……ッあ、ぁ」
 これはイエスだなと思い、ナカを押し広げていく指はそのままに彼の未だ反応の薄い中心に指を這わせる。
「あ、れっど、そこ……」
「今日は、君を気持ちよくさせてあげるのが目標だから」
 同じように液体をまとった指でゆるく反応している箇所を扱いていけば、次第に硬度をもっていった。先端を弄りながらナカのイイ所も一緒に触れて行けば、グリーンの溢れる声が大きくなっていく。
「そこ、いっしょにさわった、ら……んッぅあ!ぁ、だめ、やだッぁ、ん、ン!」
 ぐちゅぐちゅと音を立てながら、ローションなのか彼自身のものなのか分からない液体がどんどんレッドの手を汚していく。先程までの威勢はどこへ消えたのか、今ではレッドにされるがまま身を捩り、与えられる快楽に身を委ねている。
「うァ、れっど、ッも、ぅ……イっちゃ、あ、あッ!」
 ナカを広げる指もそこそこに扱く手のスピードを上げると、ぴゅるっと先端から白濁が吐き出され彼の腹にかかった。
 
「グリーン、好き……」
 白濁が伝う彼のお腹にキスをしながら正直な気持ちを述べると、ぽか、という効果音が似合う程の軽い力で頭を叩かれた。
「ばか、今言うのがそれかよ……」
「だって、そう思ったから」
 レッドが綺麗にした彼のお腹に頬ずりをしていると、ふいに自分の両足の付け根を押し上げる感覚に襲われる。見れば、グリーンが片膝でこちらの中心をぐりぐりと刺激していた。
「オレばっかり、こんなになってさ。今度はお前の番だろ」
 不敵に笑うその表情は、今まで何度も見たことがある。負けの可能性を知らない、勝ちしか見ていない、大好きなライバルの目だった。

 今度はレッドがなすがままにされた。グリーンはこちらの両足の間に顔を埋めたかと思えば、なんの躊躇いも無くぱくりと先端を咥えるものだから驚いてしまい、てっきり手でされるものかと……と話したら、「それじゃあ面白くねえだろ」とのことだった。ここで面白さを求めるのが彼のかっこいいところ、かもしれない。
 突然の刺激にレッドはと言えばあっという間に達してしまい顔の顔を汚すわ「いくら何でも早すぎ」と罵られるわで散々だった。普段はこんなことないと言い返しても「そんなこと聞いてない」と一蹴されるだけだった。情けない。
「あーあ。まあ、いいけど……にしても、なんか、その……」
 こちらの萎えたものを凝視したまま固まるグリーンを見て、先程まで咥えられていたとはいえ恥ずかしくなり姿勢を変えてさっと隠した。
「そんなじろじろ見られても」
「いや、なんか。お前、やっぱりでかくなったんだなあと思って……」
 頭から足先までを舐め回す様に見られた後は「お前のせいで顎の感覚がない」と言われ、こちらを見たままベッドに寝ころんでしまった。
「オレが男で良かったな。女だったらソレ見た瞬間、引いてるか逃げてるぞ」
「ええ、そんなこと言われても」
「レッドも昔は……小さくて、かわいかったのになぁ」
 まただ。また、子どもの頃の僕のことを考えている。今目の前に、『レッド』がいると言うのに。レッドの眉間のしわが深くなっていく。
 その後はもう一度じゃれ合った後眠りについたが、どうにももやもやとしたものを抱えたままになってしまっていた。

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