許されるための儀式 - 1/4

「大当たりぃ〜!」
 大きな街の広場の端っこに佇んでいる出店の前で、店主が鳴らすガランガランと賑やかな鐘の音とともに叫ばれた言葉にイレブンはぽかんとした表情のまま固まっていた。

 世界に平和が戻り、故郷であるユグノアを復興すべくイレブンはもう一つの故郷であるイシの村から単身で色々な国を回っていた。だいたいはユグノアに滞在して現場を見て回ることが多いが、今日は近くの国に腕の良い大工がいると聞きイレブン直々にスカウトをする為に赴いている。
 目当ての人物が見つかり目的を果たしたところで、ちょうどお祭りのような催しをやっていたのを見つけたので軽く見て回ることにした。広場の端に小さな出店があったのでなんとなく惹かれて見ていると、それはくじ引き屋だったらしく店主が「あんた他国の人だろ?特別に一回だけタダで引いていいよ」と言うのでイレブンはその言葉に甘えることにしてくじを引いた。一本引いた紙はおみくじのようで中身が見えない様にぐるぐると巻かれており、少しワクワクしながら紙を開くとデカデカと「特賞」と書かれていた。
 そして、冒頭に戻る。見事特賞を引き当てたイレブンに、店主はにこやかに話しかけてきた。
「お兄さん運がいいね、今日の特賞は珍しいものなんだよ」
 店主が渡してきた小箱を受け取ったイレブンはタダで引かせてもらったのに申し訳ないと断ったが「構わない」と半ば無理やりその特賞を押し付けられた。箱の中身は分からないが、どうやら店主の話だと珍しいものらしい。
 気がついた時にはかなり時間が経っており陽も傾きかけていたので、イレブンは店主にお礼を告げると大人しくその箱を受け取り足早に今夜泊まる予定の宿へと向かった。

 夜が更けて食事を終えたイレブンが宿のベッドに寝転んでひと息ついている時に、サイドチェストへ例の小箱を置きっぱなしにしていたことに気がついた。
 そう言えばまだ中身を確認していなかったなと、小箱の蓋を取る。少し縦長の箱の中からは、やたらと艶かしいピンク色の筒状の何かが現れた。
(なんだこれ)
  何か分からないそれを手に取ってみる。筒状のそれには天地の片側にだけ指を入れられるぐらいのフチが少し盛り上がった穴があり、触れてみると柔らかい肌の様なすべすべとした感触だった。ぐに、と入り口を広げてみると中はまるで内臓のような作りをしていて、何故だか人肌のように少しあたたかい。
 箱にはもう一つ小さなボトルが入っており、そのボトルにはドロっとした液体が入っている。付属の説明書を見ると表紙には「マホウのオナホ」と書かれていた、
「マホウ……マホウは魔法のことかな。でもオナホってなんだ……?」
 その単語の意味は分からなかったが、どうやらこの液体を筒状の中に入れて使うらしい。と、いっても何のためにどう使うモノなのか分からず、イレブンは説明書を読み進めた。
「えーっと。瞼を閉じると大好きなあの人をよりリアルに感じられます……って、結局よく分かんないや」
 説明になっていない説明書を投げ捨てる。しかし、どうにも書かれていたことが気になってしまう。半信半疑のままイレブンはボトルの中の液体を含ませると、筒状のソレを手に持ったまま指示通り目を閉じてみた。
(……あれ、カミュが見える)
 瞼の向こうには、イシの村で一緒に暮らしているカミュの姿が見えた。夢を見ているのかと思ったが妙にリアルで、自宅の中の様子だけではなく音まで聞こえてくる。
(なるほど。大好きな人をリアルに感じられるってそういうこと……。カミュ、しばらく会えてないなぁ)
 イレブンとカミュが同棲を始めて一年以上経つ。だがイレブンはユグノアの復興、カミュはマヤと旅をすることもあって二人はなかなか会えずにいた。
 二人でいる時は仲睦まじく過ごしているし、視線が交われば導かれるままキスもした。だけど、その次には進めないまま現在に至る。今まで何度かその先に進もうとしたが勇気が出なかった。上手くいかなかったらどうしよう。カミュを傷つけてしまったらどうしよう。そう思うとイレブンは、カミュに触れられなくなっていった。
(大好きなのになぁ。僕が弱虫だから……いや、そもそもカミュはその先なんて望んでいないのかもしれないし)
 考えてもどうしようもないことだが、一度考え始めると止まらない。瞼を閉じれば再びカミュの姿が見えて、そのカミュはベッドに入り眠ろうとしているところだった。
 寝顔も綺麗だ、なんて思いながら無意識のうちに手にしたままの手触りの良い筒の入り口を指で撫でる。すると、静かに横になっていたカミュが一瞬だけびくりと震えているのが見えた。
「……?」
 起きてしまったカミュは不思議そうにベッドの中でごそごそと動き、落ち着いたのか再び眠りにつこうとしている。だが、何かに勘づいたイレブンが筒の入り口に人差し指を押し込むとカミュは小さく震えながら息を荒げはじめた。
「あ、ぁッ……」
 うめき声の様な、だけど甘ったるい様なか細い声が聞こえてきてイレブンはごくりと喉を鳴らした。謎の液体の力を借りているからか指はすんなりと収まっていく。差し込んだままの指で筒の中の隘路をなぞる様に動かせば、たちまちカミュの声が大きくなっていった。
「ッやぁ、あぅ……!なん、で……ッ!」
 そこでイレブンは確信する。どういう仕組みかは分からないが、どうやら今手にしている筒状のものとカミュの身体がリンクしているようだ。そして恐らく、繋がっている場所は今まで触れたことがない、彼の……、……。
 これ以上は駄目だと分かっているのに手は止まらず、ぬぽぬぽと響く液体の水音を響かせながら指を抜き差しし続けてしまう。だいぶ中が解れてきたので挿入する指を増やすと、耐えきれなくなったのかベッドの上で横になっているカミュの身体が大きく仰け反り、肩まで被っていた布団が床へと雪崩れ落ちていくのが見えた。
「あ、ぁんっああ!あぅっんン、んぅっや、ぁ……ッ!」
 身体を抱える様にしてシーツをぎゅっと掴み何かに耐えているカミュは、可哀想になるほどに震えている。暗闇でもわかるほど顔は耳まで赤くなっており息は乱れたままで、必死に原因の分からない刺激から逃げようとしていた。
 これが本当に現実なのか夢なのかは分からない。だけど、もうやめた方がいいのかな。イレブンがそう思いかけた時、筒の中を弄っていた指がシコリの様なモノに触れた。そこを一瞬掠めた瞬間、カミュばびくっと身体を震わせて「ひぁっ♡」と喘ぎ始めた。
「んぅ……ッな、なに…さっきから、なんなんだッ……尻に何か……ぁあッひうっ♡ぁッ、あんっ♡」
 恋人の今まで聞いたことのない嬌声に、イレブンは信じられないと息を呑む。いつもクールでかっこいい頼れる相棒が、こんなに甘ったるく鳴くなんて知らなかった。意外な一面を見てしまったせいで、もっと知らない姿が見たいと思ってしまうのは仕方がないことではないだろうか。
 イレブンは気がついていないが、先ほどからコリコリ♡と触れている箇所は彼の前立腺だった。そこが何かまでは知らないにしても反応を見る限りカミュにとって「気持ちがいいところ」なのは一目瞭然なので、イレブンはそこをひたすらに弄り続けている。
 自分の体の異常事態についにカミュは下着とともに寝巻きも脱ぎ捨て一糸纏わぬ姿になると、おずおずと後ろへと手を伸ばしていた。尻に何かが入っていると思ったのか突然何かを求めヒクヒクと疼き始めた場所に指を這わせ、何が起こっているのかを確かめようとしている。
 しかし、当然そこには何もない。だけど確実にナカを好き勝手に暴かれているのは明確だ。不思議に思いながら窄みを撫でているが、それとは違う感覚が再びカミュの身体を乱していった。
「そこっや、やだぁ!あっあぅ……♡ンぅ、なにっなんだこれぇ……ッ♡ああっも、やだ!やだ、やらァ……――〜〜〜ッッ!!♡♡」
 次の瞬間にはカミュの先端からぴゅるるっ♡と熱が吐き出されていた。それでもイレブンは止まらず筒の中を犯し続ける。
「はッ、んぅ♡待って、やだやだ♡やァ、とまって!とまってぇ……ッ♡ひぁんッあっあん♡あぁ、ァああ……ッッ♡」
 そして息を乱しながら震えて必死に快楽の波が過ぎ去るのを待っているカミュは喘ぎながら数回ぴゅっ♡ぴゅっ♡と吐き出して甘イキを繰り返すと、その場で意識を失いぐったりと倒れ動かなくなってしまった。
(しまった……やり過ぎた)
 やけにリアルな光景だったので、これは絶対に夢ではなく現実なのだろうとイレブンの額を汗が伝う。どう考えても恋人に対してやっていいことでは無かったと頭では分かっている。だけど、どうしようもなかった。
 イレブンはすっかり昂って天を向いてしまっている自身に片手を添えると、そのままカミュの痴態を思い出しながら無心で扱き何度も抜いたのだった。