君のせいだよ - 1/2

 ぐちゅぐちゅとこの場所にはおよそ不釣り合いな音が響く。外は朝から吹雪いており風と雪の音が鳴りやまない。それだけなら静かなものだが、今日は心臓の音がやたらとうるさい。
 雪を防ぐために山頂付近にある小さな洞窟の中に籠る。二人きりで、自分たちはいったい、何をやっているのだろう。いや、自分は何もしていない。情けないことになすがまま、されるがままだ。

「ふ、ぅ…ん、ん」
 こちらの昂る熱と欲に舌を這わせ、必死にソレを咥え込もうとする幼馴染のつむじと揺れる睫毛を見つめる。まったく、どうしてこんなことに。


 事の始まりは、今朝シロガネ山にグリーンが顔を出したことだった。
 レッドはカントーのチャンピオンになった後シロガネ山へと引きこもった。数年前にジョウトのトレーナーに敗れてから一度下山し自分を知る人たちに「生きていたのか」と驚かれたものだった。だけど今でも、たまにこうしてシロガネ山に引きこもっている。別に人間が嫌いなわけではない、むしろ強いトレーナーには興味がある。とは言っても、時には人の世界から逃れて一人になったり、強いポケモンたちの世界に入り浸りたい時がある。それが一週間か一ヵ月か、はたまた一年なのかは気分次第だ。とにかく、レッドがこうしてシロガネ山にいること自体はそう珍しいことではない。
 彼の幼馴染でずっとライバルでいてくれるグリーンも、そのことをよく知っている。下山した時には近くでジムリーダーをやっているので顔を見せに行くこともある。その度に「お前どんどん人間離れしてていくな」とよく嫌味を言われたものだ。
 だからグリーン自らシロガネ山にやって来た時は驚いた。何かあったのかと思い聞いてみたが、どうやらそうではないらしい。では何故、と問い詰める前に彼は「オレがここに来たって良いだろ」と、それだけしか言わなかった。
 とにかく今から下山させるのは危ないので普段寝床にしている洞窟に彼を連れて行った。何も無いけど、と言えば、レッドがいるじゃん、と返されてしまった。どうにも調子が狂ってしまう。

「あー寒い、お前よくこんな所にいられるな」
「文句言うなら帰ればいいじゃん」
「この吹雪の中を? 冗談だろ」
 はあ、と手に息を吹きかけながらグリーンは固い壁を背にしてしゃがみ込む。その隣に腰を下ろすと、彼は荷物から暖かそうなブランケットを取り出した。
「これで、なんとかなるかな」
 言いながら、あたたかそうなブランケットにくるまっていた。細身なグリーンがブランケットにくるまれている姿は、普段と違うもこもことしたシルエットになっていて小さなポケモンのようで少しおかしい。
「なんだよ?」
 こちらの視線に気が付いたのか、怪訝そうにこちらを見ている。思ったことを素直に言えばキツい一撃をくらってしまいそうだったので、黙っておくことにする。
「ほら、レッド」
 見れば、グリーンがくるまっていたブランケットを広げて、手招きをしている。
「見てるこっちが寒い。お前も入れよ」
「別に、平気だよ」
「だから見てるほうが寒いって言ってるだろ。そんでお前に拒否権なんか無ぇから。しばらくオレ様の湯たんぽになれ」
 気が付けば、グリーンと一緒にブランケットにくるまっていた。昔からレッドは、どうしてかグリーンに逆らえないのだ。
 ブランケットは見た目よりも大きくて、男二人でも十分に入ることができた。それに思ったよりも暖かい。グリーンがこれを持ってきた理由が分かる気がする。だけど、やはり彼がどうしてこんな場所にやって来たのかが分からない。聞いても答えないだろうが、目的が分からないので対応に困る。
 そうこうしていると、いつの間にかグリーンが僕の片手に自分の手を絡めて握ったり離したりを繰り返していた。
「何してるの」
「いや、お前の手あったかいなーと思って」
 やわやわと握られて、少し変な感じがする。そしてグリーンを見たときに、彼が来ているニットの緩い首元から鎖骨がちらりと覗いた。いつの間に自分の身長はグリーンをかなり追い越しており、こうして隣に並ぶと見下ろす形になる。なんだかまじまじと見てはいけない気がして、慌てて視線を逸らした。
 その時、再び手のひらに細い指でにぎにぎと刺激を与えられる。小さく電流が走ったような衝撃に驚いていると、グリーンがこちらに体を寄せ距離を詰めてきた。
「な、なに」
 裏返りそうな声で尋ねると、グリーンは「んー」とけだるそうな返事をした。
「なんか、懐かしいなと思って」
 懐かしい。そう言われ、過去の記憶を呼び返した。
 
 
 まだ旅に出る前の幼かった頃、グリーンの家に泊まったことがあった。その日の夜は博士が不在でナナミさんも既に就寝しており、グリーンと二人で深夜にテレビを見ていた。
 子どもがこんな遅くまで眠らずテレビを見ているという背徳感と、テレビから流れていた映像が悪かった。二人で見ていたのは海外のホラー映画で、謎の洋館で若いカップルが幽霊に襲われる、というベターな内容だった。最初は怖いと思いながらもわくわくしていて、二人してソファの上で大きなブランケットにくるまれながらその隙間から映画を見ていた。
 そして突然、物語の終盤辺りで突然主人公の男性とヒロインの女性の影が重なった。その意味を、幼い二人はきっと理解していなかった。主人公がヒロインをソファに押し倒しながらキスをしている、というのは流石に分かっていただろうが、自分が知っているキスとそれはあまりにもかけ離れていた。その後の行為についても意味が分からず、かなり混乱していたと思う。
 何が何やら、とただ茫然と画面を眺めていると、グリーンが先に「あのさ」と口を開いた。
「レッドはさ、キスしたことあるか?」
 どこかふわふわとした声で、グリーンは同じようにまっすぐテレビの画面を見つめたまま訊ねてきた。
「ええっと、……ある、よ」
 ない、と言えばまた馬鹿にされるかもしれない。そう思い、咄嗟に嘘をついた。
「嘘だな、それか相手はおばさんだろ?」
「う、そうだけど……」
 確かに、母にはキスをされたことがある。映画の男女とは違い、頬や額に、ではあるが。
「じゃあ、グリーンは?」
「ない」
 はっきりと答える姿が意外で、思わず「えっ」と聞き返してしまった。
「なんだよ」
「だって、グリーンってなんでも知ってるし、いつも馬鹿にしてくるから」
「それ、褒めてんのか貶してんのかどっちなんだよ」
 眉をつり上げてむっとした表情になりつつも、グリーンは顔を寄せてきた。
「な、なに……?」
 こんなに近くで彼の顔を見たのは初めてで、長いまつげから落ちる影がきれいだと思った。
「オレがしたことないことをお前が先に経験するかもしれないのって、なんかムカつくんだよな」
 どんな言い分だ、と思うがグリーンとはそういう人間だった。いつも自分の前にいて、態度がでかくて、でも本当は寂しがり屋なだけだということを知っている。
 そして次の瞬間、ふいに唇に柔らかいものが触れた。それはすぐに離れて行ってしまったが、伏せられたグリーンの目から視線が離せなかった。
「オレからしたから、オレの方が最初だよな?」
 いつもの意地悪な表情で話すグリーンを見て、どうしてかその日は目が冴えてしまい眠れなかったことを覚えている。


 あの時のことを言っているのか、と鮮明に蘇った記憶に納得した。あの日起こったことは誰にも話したことがなかったし、その後追及されることもなかったのですっかり忘れていた。
「確かに、懐かしいかも」
「あの時のレッドの顔、サイコーだったなあ」
 驚いちゃってさあ、とけらけら笑うグリーンの姿に、何故か胸の奥がもやもやとした。
「僕より先にキスしたのはグリーンかもしれないけど、今なら分かる。キスは量より質だって」
「うわ、お前が言うと全然説得力無いな」
「放っといてくれ。あの日のことはすっかり忘れてたけど、思い出したらなんか悔しくなってきた」
 へえ、と生返事をするグリーンの肩を掴んで無理やりこちらを向かせた。いきなりのことに驚いたグリーンが大きな目を瞬きさせ、こちらを見ている。
「なんだよ、お前ってそんなに根に持つタイプだったか?」
「そうでもないと思うけど、こればかりは負けっぱなしなのは嫌だ」
 そして、何かを言おうとした彼の口を塞いだ。あの幼い日の思い出のものとは違うものだ。
 小さく漏れる音も気にせず角度を変えてより深く暴いていく。舌が交わるたびに、どちらのとも分からない声が辺りに響いた。
「ん、ンぅ……、ふぁ、あ…」
 グリーンの声は、耳にも脳にも悪い。彼の肩を掴んだままなので、逃げようとする体をそのまま抑え込む。どうにかなりそうなのを抑えつつ、何をやっているんだろうという感情は捨てて行為に没頭した。どんどん力が抜けていくグリーンを見て勝ち誇りたい気持ちと、もっと違う姿が見たい欲に駆られる。
 細い腰を抱えてぐっと体を密着させると、このまま一つになれるような気がした。だけどキスが深くなっていくにつれ「苦しい」と胸を叩かれ、名残惜しく思いつつ体を放してやった。
「はッぁ、お前、なんで」
 そんなの、こっちが聞きたかった。口元を拭うグリーンを見る。どうしてあの日僕にキスをしたのか。どうして今、嫌がらなかったのか。
 だけど、そんな考えはすぐに吹っ飛んだ。というより、考える余裕が無くなった。何故なら、グリーンの視線がレッドの顔から逸れて、その下をじっと見つめていたからだ。
「あっ」
 間抜けな声だったと思う。それもそうだ。幼馴染の前で、たった一回のキスで、両足の間辺りから布を押し上げて隠しきれないほど主張するものを見られてしまったのだから。
「……、ごめん」
 慌てて背を向けた。なのに今度はグリーンが正面に回り込んできて、油断していた体はあっという間にその場に押し倒されてしまった。
「あーあ、なんて姿だよ?」
 新しいおもちゃを見つけたような笑みで、馬乗りになったグリーンがこちらを見下ろしている。どうして、こうなってしまったんだ。
「まあ、まだ寒いし。あっためてやるよ」
 言いながら、グリーンはレッドの足の間に顔を埋める様に体を移動させる。待って、というこちらの制止の声も空しく、ベルトをいとも簡単に抜き取られてしまう。何をされるのか予想がついたので逃げたいのに、体が言うことを聞かない。そして何より、楽しそうにしている彼から目が離せないのだ。
 ジーンズの前を寛げられ、硬くなった屹立を取り出される。きれいな赤の舌を出して唾液を手の平に出すと、そのまま根本と先端を包むように両手で上下に扱かれて、あっという間に達してしまった。彼の手に今しがた吐き出されたばかりの自分の熱がべたべたと張り付ていて、目の前が真っ暗になりそうだった。
「グリーン、ごめ……」
「いくらなんでも、はやすぎるだろ。こんな所に引きこもってるから、こんな簡単にやられちまうんだ」
 それは関係ないのではと異議を唱えたかったが、まだ熱を持ったままのソレを今度は彼がぱくりと咥えてしまったので出かかった声が喉に詰まってしまう。
「ちょ、何して」
 今度は返事がなかった。ぬちぬちと卑猥な音を立てながら、手と口で懸命に扱く姿を今更振り払う気にはなれなかった。

 そして冒頭へと戻る。舌先で先端を転がされたり筋をなぞる様に舐められ、どうにかなってしまいそうだ。口は動かしたまま根元を揉まれ、抑えきれない声が漏れてしまう。
「は、ぁ……グリーン、もう」
 いつもきれいなグリーンの手だけではなく口内まで汚した日にはもう顔を合わせられない気がする。頭をつかんで無理やり剥がそうとしたが、彼は上目遣いにこちらを一瞬見ただけだった。じゅう、と強く吸われてしまい上手く力が入らず、結局そのまま再び欲を吐き出してしまった。
「ん、んッぅ、ぐ……」
 口内で熱を受け止めている彼の苦しそうな顔を見て、はやく吐き出させなければと思っていたのに、顔を離した彼の白いのどが上下するのが見えて血の気が引いた。
「な、なにして」
「分かるだろ、こっちは寒いんだよ」
 さっきから、そればかりだ。確かにこちらの体は大分暖まった気がするが、はたして君はそれでいいのか、と


 あの後、グリーンと何を話したのか覚えていない。何か一言二言ほど言葉を交わした気がするが、頭がまわらないうちに雪は止んでおり、そのままグリーンはシロガネ山を後にした。結局彼は、何をしに来たのだろう。その理由も分からないままだった。
 しかし数日後、再びグリーンがシロガネ山へを現れた。今度は吹雪いておらず比較的良好な天候の中、久しぶりに彼とバトルをすることになった。
「お前とこうしてバトルするの、久しぶりだな」
 バトルの前に隣で話すグリーンが、持参していたペットボトルの水を飲もうと口をつける。飲み口に触れる唇とそこから少し覗く舌を見て、つい先日の情事を思い出してしまい顔が熱くなるのを感じた。さっと逸らした視線には、気付かれていないだろうか。分からないが、彼は昔からこちらのことに感してやたらと勘が鋭い。悟られぬうちに距離を置いて、「早く始めよう」とバトルを急かすことにした。
 
 結果は、こちらの負けだった。お互いギリギリだったとはいえ、目の前で倒れたリザードンを見た時はまるで信じられなかった。慌てて駆け寄ってげんきのかけらを使う。ごめん、少し休んでて、とボールに戻したリザードンの表情はとても悔しそうだった。
 今までも公式試合以外ではグリーンに負けたことは何度かある。なのに、よりによって何故こんな時に負けてしまうのか。先日のことがあったので、あまり弱いところは見せたくなかったのに。
「どうやらレッドくんは調子が悪いようだな?」
 ああ、あの顔だ。悪戯を仕掛ける時の表情でこちらに近づいてくるグリーンを、真っ直ぐ見られなかった。
 そうしていると、ぱらぱらと雪が降り始めた。気が付けば辺りも暗くなっており、随分とこのバトルは長引いていたのだと今更気が付く。
「あー、さむ。レッドも、流石にお湯ぐらいは沸かせるよな?」
 グリーンの言葉に、無言で頷く。普段ならここで勝ち誇った彼は普段の何倍も嫌味を言ってくるはずなのに、既にバトルのことなど忘れているかのように空を眺めていた。

 先日グリーンと過ごした洞窟に、再び彼を招き入れた。湯を沸かす準備をしようとしていると、視界の端でグリーンが来ていたコートの前を寛げた。見えたのは、あの日と同じ白い首筋。まるで雪みたいだ、なんて思っていると視線に気づかれてしまい「見すぎだから」と隠されてしまった。
 とりあえず火をおこしたところで、グリーンは例のブランケットに再びくるまっていた。そして同じようにおいでと手招きをされる。コートを脱いでいたので、白い首と鎖骨が先程よりよく見えた。それに誘われるまま、彼の懐に潜り込む。懐かしいにおいがする。
「お前、ほんとーに単純な奴だよ」
 そのままブランケットの中で抱きしめられる。グリーンの体は、思ったよりも冷たかった。一方彼の方は「あったけー」と言いながらこちらに腕をまわしている。
「欲しいものとか、したいこととか。我慢しないでもっと正直に言えばいいのに」
 そう言われて、これは試されている、と確信する。仕掛けられた勝負には応えねばならない。
「……君が、言ったんだからな」
 そのまま、目の前の細い首筋に噛みついた。ぴくりと跳ねた体は気にしないようにして、何度も何度も吸い付いた。薄い皮に痕が散っていき、なんだか綺麗だ、なんて思ってしまう。
 痕が消えてほしくないと思って、吸い付いた箇所に舌を這わせる。そうしていると「ん、ん」と頭上から声が漏れてきて、それが余計にこちらを煽っていることに彼は気が付いていないだろう。
「お前のせいで、明日はジム行けねーよ」
 そんなこと、こちらには関係なかった。そして、彼の首と同じように白い手が太ももに触れてきてくすぐる様に触られた後、その中心をやわやわと握り込まれる。
「オレさあ、お前のことならなんだって分かるよ。お前は、違うんだろうけど」
 その言葉がどう意味なのか聞きたかったが、自身を撫でるように触れる指に声が出せなかった。慣れた手つきで取り出されてしまい、こういう経験が幼馴染にはたくさんあるのかと想像して、存在するかも分からない彼を暴いていく誰かの姿に胸のもやもやが濃くなっていく。
 聞きたいことは山ほどあるのにいつの間にかグリーンの顔が目の前にあって、そのまま噛みつくようにキスをされて何も言えなくなった。唇を重ねながらぬるぬると屹立を刺激され、この間とは違う感覚に思考がどんどん溶けていく。呼吸の最中に彼の顔を盗み見ると、彼の濡れた瞳が脳に張り付いて消えなくなってしまった。
「はぁ、あ、もう……ッ!」
 言い終える前に、再びきれいな手を汚してしまった。彼は手にかかったそれをじっと眺めた後ぺろりと舐めとっていたので、全身の熱がまったく冷めない。この熱をもう一度開放してほしかったのに、グリーンは姿勢を下げることはなく立ち上がってしまった。
 そして手際よく身なりを整え雪の止んだ外へ荷物を抱え出て行こうとする背中に「どこに行くの」と訊けば、今度は意地悪そうなものではなく優しく微笑むように振り返った。
「お前、今日オレに負けたからな。口は無し。残念だったな」
 じゃあな、と何事も無かったように立ち去る後ろ姿に、頭は余計に混乱するのみだった。


 それから、また数日が経った。来る日も来る日も思い返すのはグリーンの濡れた瞳と白い肌だった。自分でも異常だとは思う。つい先日まで彼は幼なじみで、友達で、親友で、そしてライバルだったのに。
 今日もグリーンに会えなかった、と夕方頃にボックスを利用するために麓のポケモンセンターに向かうと、そこで思い焦がれていた姿が入ってきた。
「グリーン」
 声をかけると、振り返った表情は普段のそれだった。その同世代の友人に向けるような表情に、若干の違和感を覚える。違う顔もできる癖に。
「おっ偶然だな」
「君こそ、こんなところに何の用?」
 こんなことを訊いておきながら、本当は期待していた。この後、シロガネ山へと来てくれる予定だったのではないか、と。
「じいさんに頼まれて、荷物届けに来たんだ。何か施設のもの借りてたみたいで」
 オレのジムここから近いからさー、と話すグリーンに嘘は無いようだった。実際スタッフの人に何か荷物を渡しているし、ここへ他の用事は無さそうだった。
「それじゃ、またな」
「えっ」
 建物から出て行く背中を追いかけると、「なんだよ」と怪訝そうな顔で振り向かれた。
「オレに何か用事?今まで散々放置してきたくせに?」
 ああ、いつもの嫌味だ。だけど今はそれに安心している場合ではない。気が付けば彼の腕を掴んでいた。
「その……、僕は」
 言葉が詰まってしまい、うまく出てこない。しどろもどろになってしまっている姿を見て、グリーンははあ、とため息をついた。
「言ったよな。もっと、自分に正直になった方が良いって」
 そしてぐっと距離を近づけてきて、上目遣いに見つめられる。本当に、心臓に悪い。
「オレに会いたかったんだろ?」
 図星を突かれ、冷や汗が流れる。だけど、全部バレてしまっているのならもう問題は無いのではないだろうか。腕を握る力を強め、深呼吸した。
「僕は、……君が、好きだ。もっと、君が欲しい」


 そのままシロガネ山には戻らず、ポケモンセンターから近いトキワのグリーンの自宅へと向かった。道中はお互い無言だったのに、不思議と気まずさなど無かった。
 久しぶりに訪れた彼の部屋の前に到着し、鍵を開けるや否やなだれ込むように入り込んで後ろ手にドアを閉めて壁に彼を縫い付けた。
「今のお前の目、好きだな」
 それは良かった、と真っ暗な部屋の中で唇を重ねる。舌をねじ込むとあっという間に力が抜けていったので、君だって期待してたんじゃないか、と少し気持ちが軽くなった。ぬるりと口内を辿っていくと、誘うように舌先を突かれる。
 脱げ落ちた互いの上着も荷物も気にせず、彼の肌触りの良い服の下へと手を潜り込ませる。鎖骨より下の肌に触れるのは初めてだ、と小さな子どものようにどきどきした。手を這わせた先につんと主張する突起が触れて、目の前の彼が余計に愛おしくなった。
「グリーンって、もしかして感じやすい?」
 言ってから後悔した。背に回された手が、ぎゅうと薄い肌の部分を抓ってくる。正直めちゃくちゃ痛い。
 だけどそれに構わず、キスを続けたまま胸のふにふにとしている部分を指でなぞっていく。その度に主張を増していく飾りを指で押しつぶしたり引っ掻いたりして、彼の反応を楽しんだ。直に見たくて服を胸の上まで捲ると、指で遊んでいたそこは薄くピンクに色づいてぷくりと膨れていた。思わずごくりと息を飲む。
 おいしそう、と思い唇にするようにそこを舌で転がす。その度に甘い声が溢れていくので気分がいい。
「そういうの、も……ッいい、から……」
 余裕が無さそうな声に欲が掻き立てられる。手を降ろしていき、以前自分がされたように太ももの内側を撫でて、その中心に触れる。良かった、ちゃんと反応がある。
「君はこういうことに興味無いのかなって思ってたから、不思議な感じだ」
 返事が無いのは羞恥からだろうか、先程から耳が真っ赤だ。このままでは窮屈だろうと思って彼の服を下着ごと下げてやると「じろじろ見るな」と怒られてしまった。自分はこちらのものを好きに扱ってくれた癖に。

「手、ついて」
 こちらに背中を向けさせる体勢にさせると、グリーンは不安そうに肩越しにこちらを見ていた。
「乱暴にはしないつもりだけど」
「お前が気を遣えるなんて始めから思ってない」
 それはそれで酷いと思うが、嫌がってはいないようなので進めることにする。勃ち上がったままの彼の前をゆるゆると触れつつ、後ろにも指を這わせていく。
「は、ァ……」
 小さく漏れた息には緊張が混じっている。ごめんね、と項にキスを落とすと彼は「好きにしろ」と首を振った。
 適当な軟膏を纏った指を押し進めていく。少し解されてきたところで、腹側の一点を引っ掻くと「ひぁ」と普段より高い声が上がった。
「あッあ、そこ」
「ここ、気持ちいい?」
 ん、んと返事にならない声を繰り返している。先程までは解すのに精いっぱいだったはずの指がいつの間にか二本、三本と次々のみ込んでいく。ばらばらに動かしつつ反応がある箇所を指で押していけば、それを離さまいときゅうきゅう吸い付いて来た。
「んァ、あっぁ!そこ、ッだめ、も、やばいか、らァ!」
 もう片方の手で扱いている彼の芯がしとどになって、びくびくと震えている。ああ、もっといろんな姿が見てみたい。手のスピードを速めると、イイところに触れようと彼の腰が揺れていた。
「腰、揺れてるよ」
「ばか、んなッこと……ぁ、ん!」
 前は先端をぐりぐりと指の腹で撫で、後ろはこの後受け入れてもらう為にどんどん解していく。そうしていると、グリーンの声が普段とは違うぐずぐずとしたものになっていった。
「やら、ぁッ!レッド、ん、もう……出ちゃうか、らぁ、ッ――――~~~~~、ッッ!」
 直後、ぴゅるっと勢いよく彼の熱が吐き出された。今まで自分がされてきたのに、今日は立場が逆転している。その状態に、ひどく胸が高鳴っていった。
「よかった、イけたね。ちゃんと出来なかったらどうしようって思ってた……」
 思っていたことを正直に話し、すり、と背後から頬をすり合わせる。ついでに、自分の昂ったモノを取り出して後ろへと擦る様に押し付けた。
「……お前、遠慮ってものを知らねえ、のか」
「うん、だって好きにしろって言ったのは君だよ」
 だからいいよね、と大分解れただろう箇所に自分の熱をすりすりとあてがう。するとキスをするようにちゅ、と音がして、今からしようとしていることがどんなものだったか忘れそうになる。
 何も言わないのでそのまま埋めていくと、先端が入ったところで苦しそうな声が上がった。
「きつい、かな……大丈夫?」
「いいからもう、本当に好きにしてくれ……」
 はあ、と漏れる声がつらそうで首や肩に何度もキスを落とした。前回付けた痕はすっかり消えていたので、また新しいものを残していかねばならない。
 ゆるゆると腰を動かして入口の浅い部分を攻めてやると、再び可愛く鳴く声が聞こえた。
「ひぁ!あッん、んン!ッあん、あ……」
「グリーン、かわいい」
「次、ッかわいいって言った、ら…ぶん殴って、やる!」
 強気な言葉も今ではただの嬌声に他ならない。腰の動きは止めぬまま腕をまわし彼の胸を撫でれば一際高い嬌声とともに、きゅう、と強く締め付けられた。
「や、だ……ぁ、そこッ!一緒にされると、ぁッン!おかしく、ッなる」
「もう僕たち、どっちも……変に、ッなってる、よ」
 先程よりぷくりと膨れている突起を擦る様に摘まむと、きゃんきゃんと鳴く生まれたばかりのガーディのような声が響く。これで無自覚なのは、とんでもないことなのではないだろうか。
 そこで、ふと思い返す。シロガネ山で感じた胸のもやもやとした感情。あれは、間違いなく嫉妬だった。
「ねえ、グリーンって、……こういうこと、慣れてるの?」
 自分より先に彼へと触れたかもしれない誰かを想像しながら馬鹿正直に聞けば、「なにが」と訳が分からないと言いたそうな返事がきた。
「だって、シロガネ山の時から、ッあんまり抵抗、無さそうだったから……」
「……そんな、の…ンッ、ぁ、知って、どうするんだ、よ」
 その通りなのだが、こちらとしては気になってしまうし、自分以外の誰かが存在するとすれば自我を保てる自身が無かった。
 なので、正直に答えてほしくて胸を弄る指をわざと緩めた。挿れた箇所も彼が触れてほしい部分を外す様に動かしていく。
「ぁ、レッドなんで、ぇ……」
「正直に言ってよ」
 意地悪なことをしているとは思う。だけど、たまにはこちらの前でも正直になって欲しい。僕は正直になったのだから、という想いを込めて、耳の裏に舌を這わせた。びくびく震える体は、もどかしそうに揺れている。
「や、らぁ、あ!」
「ちゃんと話してくれたら、触ってあげるから」
 自分の中にこんな感情があったことにも驚きではあるし、自分をこうさせた彼がこんな風に乱れることも知らなかった。知らないことを、物知りな彼にもっといっぱい教えて欲しい。
「ほら、いつまでもこれじゃあ苦しいだろ?」
 ぐち、と一瞬だけイイところ掠めてやる。ぶるりと震える体からは、もう抵抗を感じなかった。
「ッ……ん、な、無い。…ない、から……ッおまえが、れっどが、はじめてだから、ァあ!」
 ほとんど涙声になっていて、罪悪感に飲まれてしまう。正直になれたご褒美に、とぐちゅぐちゅと浅い部分をいっぱい押しつぶしてやる。
「ふ、ぁッ……んッ!あ、ァん!やあ、ッあ、ンん!」
「ねえ、ほんと?それなら……なんで、こんな」
 行動が慣れているそれという他にも、違和感があった。いくら丁寧に解したとはいえ簡単にこちらを受け入れ過ぎているし、体のあちこちが敏感な気がする。色づいた胸に触れる指を再開して、触れる度に反応する敏感な突起をくにくにと指の腹で弄っていく。
「僕的には、触りやすくて良いんだけど……、とてもはじめて他人に触れられてる、とは思えなくて」
「そ、んなの……あ、ァ!」
 ねえ話してよ、と今度はきゅうと摘まんでやると、締まりが前よりもきつくなる。これは、やっぱり何かある。
「……オレ、が!お前の抜いてやった時、ッ何も、感じてなかったわけ、あッン、ねえだ、ろ!」
 半ば吐き捨てるように言われてしまった。もう耳だけではなく全身が上気した肌からは、汗が伝っている。
「前から、んッ、いつか……お前と、こうなったらって、ぁッ!かんがえて、ぇ……」
 喘ぎ続けるグリーンの声に、体に、全てに欲情してしまう。
「そしたら、ァ…止まらなく、なって……ッじぶんで、触ってたら、いつの間にか…こう、なっちまって……ッ」
「…………、それって」
 彼が、僕を想いながら自分を慰めていた姿を一瞬で想像してしまう。どうしよう、ますます愛おしくなる。
「……グリーン、かわいい」
 ちゅ、と音を立てて項に何度もキスをする。本当に、食べてしまいたい。
「ッ次かわいい、て言った、ら…殴ってやるって、言っただ、ろッ!」
「いいよ、後でいくらでも殴って……でも、今は言わせて、よ」
 腰を動かすのを再開すると、思ったよりずんっと奥まで突いてしまって、グリーンの声にならない声が耳に届く。
「やァ、あッれっど、ぉ……、ッ――――~~~~~~!?」
 そのままナカに吐き出すと、彼も同じようにぴゅるぴゅると二度目の熱を吐き出してしまった。ごめんと囁いても返事が無い。でも、彼が欲しかったのはこれなのだから許してほしい。
 乱れた呼吸を整えているのも束の間、汗が伝う項に吸い寄せられて舐めとると、再び中心に熱が集まるのを感じた。
「あ…、お前なに、またデカくして……」
「ごめん、でも……奥、離したくないっていっぱいになってる、……かわいい」
 イッたばかりだと言うのに更にきゅんきゅんと締め付けてくるので、耳元でかわいいと繰り返してやる。
 動くたびにグリーンの中心からはぷしゃぷしゃと薄いものが出ていた。もうどこに触れても反応する程全身が敏感になってしまっている。
「ん、んッや、れっど、も、キモチイイの、やらァ!」
「グリーン、ずっとイきっぱなしでかわいい。きもち、いいんだ?」
 ついにかわいいと言ってもやめろという返事は聞こえなくなってしまった。最早それどころではないのだろうが。放さまいと締め付けるのに反抗して屹立が抜けそうなほど入口ぎりぎりまで抜き、そして一気にずちゅずちゅとナカを突いてやれば、何度も何度も嬌声が上がった。
「れっど、や、あ!あン、ぁ、あッ!れっど、ぉ、ッそこ、やめ…またイッちゃうか、らァ」
「うん、イッっていいよ……、もっと気持ちよくする、から」
 腰を抱えてもっと奥まで届くようにしてやると、善がる声が響いた。どうにも彼の声はこちらの体温を上げていって心臓に悪い。
「嫉妬して、た……ッ僕より先に、誰かが君に触れてるかも、って……」
「ひゃ、あんッぁア、レッド、れっどがはじめて、だからァ!んッ、ァ…好き、すき!れっど、ッもっと!いっぱい、奥、までぇ……」
 好き。たった二文字の子どもでも使える簡単な言葉だ。なのに、こんなにも二人を狂わせてしまう。
「シロガネ山まで行ったのだって、ッれっど、に…会いたくて、ぇ……!ッだから、奥いっぱい、おねが、い、れっど!」
「ッ僕も、好き…好き、きっとずっと、前から」
 好き、と言った瞬間、きゅうと一層強く締め付けられて全身がもっと熱くなる。
「はっぁ、も…射精す、から……全部、ぜんぶ、ッあげるから」
「あ、れっど、――――――――~~~ッッ!!」
 そのままどくどくと最奥へと熱を注ぎ込む。するとそれに応えるようにグリーンも嬌声を上げながらびくびくと体を震わせていた。だけど先程とは違い、彼からは何も出ていない。この状態には、色事に疎い自分でも感付くものがあった。
「……グリーン、本当に僕のこと、好きじゃん」
 聞こえるか聞こえないか分からない程度にぼそりと呟いて、ずるりと自身を抜き出すと、入口だった箇所からは自分が吐き出したものが垂れ流れてきて、「う…」と苦しそうな声を出すグリーンの崩れそうな体を支えてやる。もしかしたら、もしかしなくても……やりすぎた、のかもしれない。


 ぐったりしている彼の体をベッドまで運んで寝かせると、途端に背を向けられてしまった。それでもめげずに声をかける。
「ねえ、僕は嬉しいんだ。君に好きって言って貰えて」
「……、そうかよ」
 こちらを向く気配がないので、そのまま処理をさせてもらおうと後ろに指を挿れる。
「おま、なにして」
「だって綺麗にしないと」
 そう言えば、今にも騒ぎだしそうだった口は大人しくなった。ぐちゅ…と先程の情事を思い出しそうな耳に悪い音がするが、気を取られないようにしてナカを掻き出していく。
「これで、僕の相手は全部君が初めてになったのかも」
「それは良かったな」
「グリーンだって同じだろ?」
 耳が赤い。図星だ。彼は僕を分かりやすいと言うが、向こうも同じように分かりやすい、と思う。
 言いながらナカを掻き出す指を曲げると、「んッ」と甘い声が漏れていた。聞こえない振りも、そろそろ限界かもしれない。頬にキスすると、顔だけこちらに向けられた。
「あのさ、僕……もっと、君をいっぱい知りたい。欲しいって気が付いたら抑えられない性格なんだよね」
「というより、お前は鈍感なだけなんだよ」
 指を抜くと体もこちら向いたので、誘うように広げられた彼の腕の中に飛び込んだ。
「レッドはさ、鈍いし、本能で行動してるし、でも自由なんだよな」
「……良いことではないって、分かってるけど」
「いいんだよ、お前はそのままで。オレが好きなのは、そういう男だからさ」
 このたった二文字が、どうしようもなく胸を締め付ける。
「だから好きにしていいって言ったし、ずっとそれでいい。今も、お前がどうしたいかバレてんだよ」
 膝でぐり、と足の間を刺激される。そうか、バレてしまっては申し訳ない。
 背中に回された手に応えるように、彼を強く強く抱きしめた。