ラストシーン

思い返せば、グリーンのはじめての相手はいつもレッドだった。
はじめての親友、はじめてのライバル、はじめてのポケモンバトル。そして、はじめて手放したくないと思った相手だった。
そんな中ジムリーダーとして過ごしていたグリーンに、アローラ地方へと赴いて欲しいと通告があった。
アローラという土地は話には聞いたことはあったが、行ったことはない。そして現地へはダブルバトルのパートナーとして、指名したトレーナーを一緒に連れてきても良いということだった。
それなら相手はレッドが良い、レッドと一緒なら楽しそうだ。幼馴染と一緒なら、ということを条件にグリーンはその話を二つ返事で引き受けた。

今までもイッシュ地方へとトレーナーとして行ったことがったが、そう言えばあの時もレッドと一緒だったな、とグリーンは昔を思い出して自然と口元が緩む。
レッドにはなんて言って伝えようか。そんなことを考えていると、丁度武者修行(と本人は言い張っている)から帰ってきたレッドが玄関の戸を開ける音が聞こえた。
レッドは稀に、旅から帰ってきた時にマサラタウンの実家ではなくトキワのグリーンが借りている部屋にやって来る。
何か特別な用事があるのか旅で起こった話がしたいだけなのかは知らないが、レッドを想っているグリーンにとってそれを拒否する理由など無かった。

「ただいま」
まるで自分の家に帰ってきたような様子のレッドに、グリーンは少し気恥ずかしさを覚えた。
「おかえり。早速だけど、ニュースがあるぜ」

アローラ行きのことをグリーンが腰かけていたソファの隣に座ったレッドに伝えると、珍しく分かりやすい表情で「面白そう」と返事があった。
「へえ、人が集まるところは嫌がるかと思ってた」
「別にそんなことない。いろんなトレーナーに会うのは楽しいよ。ただ、君みたいに話せないだけで…」
ふい、と気まずそうに視線を逸らす様子が拗ねたガーディのようで、少しいたずら心が芽生えてしまう。
「ふーん、レッドはオレ以外には興味ないと思ってた」
これは、ほんの冗談だった。わざとらしく言ってみれば、さすがのレッドも何か言い返してくると思っただけだ。
だけど、当のレッドは視線を逸らし黙ったままだ。
「……」
「なんだよ、ただの冗談だろ?」
少しの罪悪感が胸の中を覆い、グリーンは笑いながら隣のレッドの肩をこつんと小突いた。
だけど顔を上げたレッドの視線は鋭く、ついグリーンは息をのんでしまう。
「…グリーンは、いいの?」
「なにがだよ」
気のせいか、自分たちの距離が少し近くなっている気がした。
「アローラに一緒に行くのが僕で」
じ、とこちらを見るレッドの目に、今度はグリーンは視線を逸らしてしまう。
「お前とは前もイッシュに行ったことあるし、ダブルバトルなら…息が合うやつが良い、…と、思って…」
どんどん尻すぼみになっていく自分の声に、グリーンは混乱する。
どうして、こんな簡単なことをまっすぐ目を見て言えないんだ。

「僕とは、息が合うって思ってくれてるんだ」
言われて、はっとする。何か自分はとんでもないことを言ってしまったのではないか、と。
「…べつに変な意味じゃない。昔からの付き合いだし、それに」
続きを話そうとして、言葉が詰まってしまう。この後自分が何を言おうとしたのか気が付き、グリーンは思わず片手で口をふさいだ。
「それに、なに?」
それに、真っ先に頭に浮かんだのがお前だった。なんて、口が裂けても言えない。
揶揄っていたのはこちらのはずなのに、今は立場が逆転してしまっている。悔しさと気恥ずかしさで顔が熱くなっていくのが分かる。
「別にいいんだ、僕を選んでくれた理由がなんだって。でも」
お互い動いていないはずなのに、どんどん距離が近くなっている気がする。
「グリーンが他の人を選んでたら嫌だなって」
「なんでだよ…」
「だって、僕」


他人の告白に頷いたのは、人生でこれが初めてだった。
今までも似たようなことはあった。だけど昔から頭のどこかにレッドがいるグリーンにとって、それ以外の人間からの言葉は全て流してきてしまっていた。

「君のことが好きだ」
まるでバトルの最中のように真剣なレッドの告白に気圧されながらそれに頷くと、そのままがばりと勢いよく抱きしめられた。
「れ、レッド、苦しいから放せって」
「だって、嬉しいから」
顔は見えないが、きっとレッドの顔も赤い。だって自分の顔がこんなにアツいのだ、同じでないと困る。
どこか幼い恋愛をしているという自覚はあるが、今も昔もずっとレッドのことしか頭に無かったグリーンはにとっても、舞い上がるような出来事だった。

そんなこともあり、結局レッドとグリーンはアローラへ行く前に関係性が少し、いやかなり、変わってしまっていた。
これと言って何かが特別変わったわけではないが、宿泊先のホテルも二部屋ではなく同じ部屋にしてしまった。
今になってまずかったかと思ったが、周りからは何も言われることもなくレッドも「一緒の部屋で嬉しい」なんて何も気にしていなさそうだったので、グリーンはとりあえず良しとした。

そしてアローラに到着してから、二人は視察もかねて地元の観光をしていた。
見たことが無いポケモンも、バトル形式も、何もかもが新鮮だった。
正式にバトルツリーでボスとして任命されるまでにはまだ時間があるらしく、それならばと現地を楽しんでいた。

きらきら光るアローラの海を眺めながら名物だというマラサダを楽しんでいると、ふいにレッドがグリーンの名前を呼んだ。
「口元、クリームついてる」
「え、どこ?」
グリーンが指でクリームをすくおうとするが、何も感触が無い。
「そっちじゃなくて、こっち」
す、と伸ばされたレッドの手がグリーンの口元を拭う。
別に変なことでは無いのに、事が過ぎてから二人は沈黙したまま顔を逸らした。
「…えーっと、アリガトウ?」
「カタコトになってるよ」
「お前のせいだろ…」
ちらりと隣を見ると、レッドが先程拭ったクリームをぺろりと舐めた。
どうしてかその様子から目を外せなくて眺めていると、それに気が付いたレッドと視線がぶつかる。
「レッド?」
ざあ、と風が吹いたと同時に近づいて来たレッドの顔と、ちょうど建物の陰になっているこの場所と、いろんな条件がかみ合ったのだろうか。
何も言わぬまま唇が重なって、そしてそれはすぐに離れていった。

(うわ、なんか、なんか、これって)
物凄く恥ずかしいことをしている。グリーンの頭の中はそれでいっぱいだった。

「…お前とキスしたの、そう言えばはじめて、かも」
レッドとは恋仲らしい関係は進んでいなかったことを思い出す。
一緒にいるだけで楽しい。それほどまでに、レッドという存在がグリーンにとって大きかった。
「そうだね」
そして何でもないように返事をするレッドに、グリーンは少しだけ寂しさを覚えるた。
自分たちは付き合っているのだから、これぐらい何もおかしなことではないはずなのに。

ホテルに戻ってから、グリーンは疲れてるからとかなんとか言葉を並べて真っ先にシャワールームへと向かった。
とにかく汗を流したい。暑かったからとかではない。関係が変わったと自覚してからというもの、レッドといるととにかくグリーンの中の何かが壊れそうだった。
(ああもう、何やってんだ…)
いろんなことに一喜一憂してしまう自分が情けない。それと同時に、反応の薄いレッドに悔しいと感じていた。
グリーンはあらゆる感情でぐちゃぐちゃになりながらとにかく間抜けな所は見られたくないと思い、普段より長めにシャワーを浴びた。


グリーンがシャワールームを出ると、ツインベッドの片方でレッドが転寝をしてた。
「おーい、お前も汗流せよー」
軽く肩を揺すってみると眉が少し動いただけで起きる様子はない。
気楽なもんだと肩をすくませ、ベッドのふちに腰かけた。
(レッドは、オレとどうなりたいんだろう)
グリーンはあまり関係の進展を考えたことが無かった。というより、求めていなかった。
だけどレッドは違うかもしれないし、同じかもしれない。
ふに、と自分の唇に触れてみる。あの時はほんの一瞬で分からなかったが、レッドがそういうことをしてくることが予想外だった。

今もすやすやと目を閉じたままのレッドを見て、考えるより先に身体が動いた。
(別に良いよな、これぐらい)
レッドの両脇に手をつき顔を近づける。
すると突然、ぐいっと背中を抱えられグリーンはレッドの上にのしかかるように体制を崩してしまった。
見ると、瞼を上げたレッドを目が合う。
「うわ、レッド起きてたのか」
「…うん」
まだ半分夢の中なのか、うとうととした声でレッドは返事をした。
「起きたならお前もシャワー浴びて…」
「グリーン、僕とキスしたいの?」
「…はあ?」
レッドの突拍子もない言葉に思わず声を上げてしまう。
「だって、今しようとしたよね」
「お前、どこから起きて…」
「答えてよ」
抱きしめられる力が強まり、二人の距離がぐっと縮まる。
「…別に良いだろ、オレ達そういう仲なんだから」
「うん、かまわない」
そのまま、また唇で塞がれてしまった。今度は先ほどのキスとは違う。このまま食われてしまうのではないかと思うぐらい貪られているのが分かる。
「んぅ、ふ…ぁ」
自分の声が漏れる度に、グリーンの頭は空っぽになった。逃げたいような、このまま続けたいような、よく分からないふわふわとした自分がいる。
だけど流石に苦しくなってくる。しっかりと抱え込まれているので逃げられないのでレッドの胸を叩いて苦しいと訴えれば、途端にそれは離れていき糸を引いているのが見えた。

「おま、え…なんなんだよ急に」
「グリーンはさ、想像もしてないんでしょ」
何が、なんて聞かなくても分かる。

「僕は、もっと君が欲しい」

もしかしたら、その言葉をずっと待っていたのかもしれない。
グリーンはレッドの熱のこもった目を見つめたまま、告白されたあの時のように無言で頷いた。

「僕、グリーンのこと全部好きだけどさ」
「…はあ」
互いに服を脱ぎながら気恥ずかしさから生返事をする。
レッドは気にしてないのかそのまま続けた。
「唇が、特に好き」
そしてレッドにベッドへ押し倒され、そのまま、ちゅ、と音を立てて再び触れるだけのキスをされる。
「前から食べられたらなあって思ってた」
「怖いこというのはやめてくれ」
「冗談だよ」
今度は首に、胸に、順にキスをされる。
思ったよりもレッドは自分にご熱心だったことを知り、グリーンは少し勝ち誇った気持ちになった。

だけど、これから行うハジメテの行為の相手がレッドで良かった。他の相手だったらグリーンはこうはいられないだろう。
身を任せてとにかく失敗には終わらないようにと気を張っていると、つぷ、とレッドの指がナカに入ってきた。
(うわ、思ったより、なんか…)
黙ったままのグリーンにレッドは「大丈夫?」と心配そうに見つめてくる。
「大丈夫だから、気にすんな」
「…うん」
そのまま押し広げるように指を動かされ、違和感を感じながらもグリーンはそのままレッドに任せていた。
そもそもはじめての行為で気持ち良くなろうなんていう方が間違っているのだ。今日はレッドを満足させられればそれでいい。グリーンはそう腹をくくっていた。
そしてレッドの指がお腹側の一点を掠めた時、一瞬びりっと電気が走ったような感覚がやって来た。
「あ…れ?」
「どうかした?」
「いや、べつに…」
なんだ今の、と不思議に思いつつやり過ごそうとするが、ナカに入る指が増える度に時々同じ感覚に襲われる。
(なんか変だ、でも、なんで?)
その度に小さく声が漏れるのに、レッドは気が付いていないのか違う箇所をぐいぐいと押し広げてくる。
「…なあ、レッド」
「なに?」
「その、……」
さっきのところもっと触って。なんて、言えるわけが無かった。
「……」
「グリーン、黙ったままじゃ分かんないよ」
再び一瞬だけ同じところを触れられ、びくりと身体が跳ねる。
「ッん、ん」
「どうかした?」
見れば、いつもは絶対にしないような表情のレッドがこちらを見下ろしている。

(こいつ、分かっててわざとやってる!)
そしてまたイイ所をぐにぐにと押され、溢れる声がどんどん大きくなってしまう。
「あッ、ぅ…レッド、なんで」
「ねえ、どうして欲しいかちゃんと言ってよ」
「う…」
手で口を覆うとしようとしたが、すかさずレッドの空いた手に捕まってしまう。
そんな時ですら押し広げられる指は止まらず、わざとらしくイイところを掠めていった。
「あッあ、やだぁ!レッド…」
「……やだ、とかじゃ分かんない」
その時のグリーンはもう、とにかく解放されたい一心だったのかもしれない。
「お願いだから、ぁ!ちゃんと…、きもちいいところ、ン、ッいっぱい触って」
気が付けば涙が出てとろんと蕩けたグリーンの目で訴えられたレッドは、はあ、と小さく息をはいた。

「うん、いいよ。かわいいところ、僕もいっぱい見たい」
突然ぐぐ、と強請った部分を刺激され、グリーンの身体は再びびくびくと仰け反ってしまう。
「や、ッあ!そこ!んぅ、触られると、なんか…ヘンに、なる…ぅ、あ」
「ここが気持ちいいんだ?」
気が付いてたくせに、とグリーンはレッドを睨む。
そんなのお構いなしと言いたげに、レッドは指を抜いた。
「うぁ、れっど…?」
上がった息を整えながら名前を呼ぶと、頬にキスをされる。
「もっと、君が欲しい」


指とは比べ物にならない質量を受け入れながらも、グリーンは必死に自分を求めるレッドに愛おしさを覚えていた。
ゆっくりと自身を押しいれていくレッドとその姿を可愛いと思う自分の異常さに頭がくらくらする。
「はぁ、ぜんぶ、挿入っちゃった」
グリーンは満足そうにそう言うレッドへと手を伸ばし頬を撫でる。すると手の平にすりすりと顔を寄せてくるので、やっぱりどこかポケモンみたいだな、なんて思っていた。

しばらくそうしていると、眉をしかめたレッドに「そろそろ動いていい?」と訊ねられ、ここでダメと答えればどんな顔をするのだろうなんて考えた。
「いいよ、て言ってやりたいが」
「きつい?」
「分かんねー、だって初めてだし」
初めて。そう自分で言って、やっぱり自分の初めては全部レッドなんだと自覚する。
「分かんねえけど、でも、いいよ。お前がしたいようにして」
「…後で後悔しない?」
「そんなの、お前がオレを満足させればいい話だろ」
言えば、ぎゅうと覆うように抱きしめられる。
「グリーン、だいすき…」
「ああ、知ってる」

ゆるゆるとレッドが腰を動かすと、再び自分のナカに違和感と快感を覚える。
「ん、ッん、ぅ」
「グリーン、苦しかったら言ってね」
さっきは意地悪したくせに、と返す余裕はない。
強い刺激に身体が勝手に逃げてしまいそうなのでレッドの背に手を回す。そこが思った以上に熱くて、少し恥ずかしい。
指で散々弄ばれた箇所をぐりぐりと攻められ、途端に自分でも聞いたことが無い声を出してしまう。
「ッあ、や!レッド、そこ、やめ…ッ」
「なんで?…気持ち良い、んだよね?」
苦しかったら言えと言ったくせに、こちらの言い分は聞く気が無いらしい。
そのまま何度も同じ個所を刺激され、嬌声が溢れて止まらなくなる。
「あン、あ、ッは、ァん…レッド、れっど!」
だらしなく開いたままの口からだらだらと液体が垂れる。それを舐めとるようにキスをされ、グリーンの頭の中は真っ白になりそうだった。
「腰、動いてるよ」
「ッだって、お前が…!、こんな、の…」
言葉が終わらぬ間に腰を抱えなおされ、そのまま奥まで一気に深く突かれる。
「!?あ、やらッあ!おく、ンッだめ、だって…!」
「グリーンが、ッ言ったんだよ」
ちゃんと触って、って。
そう言われて、もうグリーンには何がなんだか分からなくなった。
ただ深く深く何度も突かれて、その度に自分のものではないような声が上がる。
「あ、ん!ン、も、ぅ…れっど、イく、イッっちゃう!れっど、れっど!」
馬鹿みたいに何度も名前を呼べば、レッドはふわりと微笑んだ。
「…はッぁ、本当に、食べちゃってるみたいだ」
一際強く突かれて、グリーンはそのままレッドの熱を受け止めた。

「レッドって、本当にオレのこと好きだよなー」
必死になっちゃってさぁ、とベッドの上で二人でだらだらとしている時に話せば、レッドは唇を尖らせた。
「…グリーンだって、僕のこと好きじゃん」
「まあ、そうだな」
「えっ」
思いがけない返事だったのか、レッドはぱちぱちと瞬きを繰り返す。
もう変に隠すことはやめた。だって隠したって良いことが無い。
「レッドが思ってるより、オレはお前のこと好きだよ」
グリーンがそう言えば、レッドは満足そうに笑うのだった。