うわあ。自分でも思った以上に間抜けな声が出た、と思う。
いつものようにジムから自宅までまっすぐと帰宅していたオレが見つけたのは、まるで漫画のように真っ白な雪道の真ん中でうつ伏せの姿で地面へと倒れた人間だった。時間も遅く辺りも暗かったため始めは“それ”が人間だという事しか分からなかったが、近寄ってみると妙に見おぼえるのあるシルエットだということに気が付いた。
「おい、大丈夫か?」
まだしとしとと雪が降っているというのにその背中には何も積もってない。先程倒れたばかりなのだろうか……と思考を巡らせながら地面に膝をつき肩を揺すったところで確信した。そいつは見覚えがあるどころか、忘れたくても忘れられない人間だったのだ。微かに唸り声が聞こえるが起き上がろうとする気配が無いので名前を呼んでみることにした。
「返事しろ、レッド」
名前を呼べば、「ううん」と小さな返事があった。するとようやく目の前の行き倒れはうつ伏せから仰向けになると、ぼんやりとした視線をこちらへと向けた。
「グリーン」
小さく開かれた口から出たのは、想像以上に弱々しい声だった。見た限りでは外傷は無さそうだが、もしかしたらどこか怪我をしているのかもしれない。病院へ運んだ方が良いのだろうかと思いポケギアを手に取ったところで、その考えは吹き飛んだ。
辺り一面に、ぐうううう、となんとも情けない腹の音が響いたからだ。
オレよりもでかい体に肩を貸してなんとか自宅に連れて帰ったレッドは今、目の前に出してやった昨晩の残りのカレーを無言で頬張っている。いろいろと聞きたいことはあったが、とりあえずテーブルの向かいに座っている目の前の男が胃を満たすまで待つことにした。無我夢中で皿の中身を減らしていくレッドを見て、とりあえず体は何とも無さそうだと胸をなでおろす。
食べ終わった空の皿をじっと見ているので「おかわり、あるけど」と言えばレッドの目が輝いた(少なくともオレにはそう見えた)気がする。どうも昔からこの目に弱いオレは皿を持って立ち上がった。帰ってくるまでは鍋に半分ほどあったはずのカレーの残りがどんどん減っていく。なのに不思議と悪い気は全くしない。
全て食べ終わるのを待っていようかと思ったが、それだとまだしばらくかかりそうだった。しびれを切らし「ところで」と切り出せば、レッドの視線がこちらへと向けられた。
「なんで家の近くで倒れてたんだ」
率直に聞けば、頬が膨れるほど口いっぱいに頬張っていたレッドの喉が上下した。少し視線が泳いだ後、「それは…」ともごもごと歯切れの悪い返事が返ってくる。
「お腹が減って下山したんだけど麓のポケモンセンターが閉まってて、とりあえずトキワまでは来れたんだけどどこに行けば良いか分からなくなって、気が付いたらあそこで倒れてた」
「オレが見つけてなかったら今頃お前凍え死んでたぞ。まあ、なんともなさそうで良かったけど」
冬になり最近は雪が降り始めてただでさえ寒すぎると言うのに、あんな雪の中で倒れてよく無事だったなと感心する。普段から雪山に籠っているおかげなのだろうか。
「とりあえずグリーンのところに行けば、なんとかなるかなって」
「そう思うなら、まず家に来る前に連絡してこいよ」
言えば、きょとんとした表情の後に「ああ、そうか」と一言。アナログ人間のレッドにはデジタルな発想は無いらしい。
「グリーンの家、久しぶりだな」
カレーを食べ終えたレッドは満足そうにしている。レッドの話を聞いて、そういえば家族以外でこの家に上げた人間はレッドだけだなと気が付いた。
「オレの家どころかそもそもお前と顔合わせるのが半年ぶりなんだけど」
「そうだっけ」
「明日で良いからマサラにも行けよ。おばさん何も言わないけど心配してるぞ」
うん、とそれは弱気な返事だった。これは帰らないなと確信する。近いうちに無理やりにでも連れていかないと、と使命感が湧く。
「何でも良いけど、オレ疲れてるからさ。今日は泊まっていいからお前もさっさと寝ろよ」
立ち上がりながら言うと、レッドは不思議そうにオレを見ていた。
「ジムリーダーって大変?」
「たぶんお前が想像してる10倍は大変だな」
そうか、と頷くとレッドは皿を片付けにキッチンへと向かいその背中を見送った。いつもと変わらぬ部屋なのに、レッドがいなくなった途端妙に広く感じてしまった理由は分からない。
二人ともシャワーを浴びていざ寝るかという時、レッドが「ソファ借りてもいい?」と聞いて来た。
「いいけど、たぶんかなり寒いぞ」
「慣れてるし平気だよ」
あっそと返事をして、余らしていた毛布を貸してやる。こんなのオレだったら無理だなと思うが、レッドは何でも無さそうにそれを受け取った。
「グリーンって寒いの苦手だよね」
レッドは受け取った毛布を抱えたまま寒さで手をさするオレを見ている。
「お前と比べたら誰だって苦手な部類に入るだろ」
「僕も得意なわけじゃあ無いんだけど……」
言いながら、レッドがオレの片手を大きな手ぎゅうと握った。それが思った以上にあたたかくて、すぐに振り払うことができなかった。
「手、冷たいね」
冷えた指先がじんわりと熱を取り戻していき、徐々に鼓動がはやくなる。なんなんだよ、これは。
「ねえ、やっぱりソファじゃなくてベッドで一緒に寝てもいい?」
その問いかけに、オレはノーとは答えられなかった。
他人を家にあげたことすら数えるほどしか無いのに、同じベッドに入り寝るなんて人生で初めてだった。正しくは小さい頃にはレッドと一緒に寝たこともあったが、それとこれは状況が全く違う。隣にレッドがいるせいで、いつも使っているベッドなのに全く違う空間の様だった。声を出せば吐息がかかる距離で心臓に悪い。見慣れているはずなのに知らない男の顔が、すぐそこにある。
このままでは寝られそうにないので背中を向けようとしたら、布団の中で再び手を握られる。今度は両手で包むようにされて、オレの頭はすっかり混乱してしまっていた。
「やっぱり冷たい」
はあ、と鼻先にあたたかい吐息を僅かに感じて顔が熱くなるのを感じる。そもそも成人男性が同じベッドで寝るなんてこと自体が異様だが、そんな常識がレッドには通用しないことなんて分かっていた。一晩だけ、たった一晩だけのことだ。冷えた体に人肌は毒だ。何かを勘違いしそうになっているのは、オレだけであってほしい。
「ほっとけ」
放しがたい手をなんとか振り払い背中を向ける。後ろから小さく「おやすみ」と聞こえ、気が付けば意識を手放していた。
次の日、普段よりもはやく目が覚めた。やけに寒くて目を空ければ、隣にいたはずのレッドの姿が無くなっていた。
ぽっかりと空いた空間を寂しく感じて、そこにあったはずの熱を思い出そうとシーツに触れる。出ていく前に何か一言ぐらい残していけばいいのにと思っていると、隣の部屋から物音がしたので寝室を出た。そこには既に身支度を終えたレッドが荷物の整理をしている姿があって、良かった、まだいたのかと胸をなでおろす。
「もう行くのか?」
声をかけると、「うん」と短い返事があった。
「またシロガネ山に戻るのか?それか、違う地方に行くとか」
「まだ、分かんない」
「そうか」
この親友兼ライバルは掴みどころが無い風のような男だ。誰が何を言おうと縛ることができない。だから何を言っても無駄だと分かっているが、少しだけ引き留めるようなことを言いたくなった。
「昨日は久しぶりによく眠れたんだ」
「そう、良かった」
「いつもより、あったかくてさ」
揶揄ったつもりだった。ちょっとでもレッドが動揺すれば面白いかも、なんていう子どもじみた悪戯だ。リュックを背負おうとしたレッドの動きが一瞬だけ止まったのを見逃さなかったので、オレの作戦は成功したのだろう。
「オレさあ、お前の言う通り寒いのが嫌いなんだ」
「うん、知ってるよ」
それじゃあ、ありがとう。そう言い残しあっさりと出て行ったレッドを見送って、オレは再びベッドの中へと潜り込んだ。
ジムリーダーという仕事は、シンプルなようで意外とやることが多い。挑戦者がいなければ必要以上にバトルをすることもないが、書類仕事だって少なくはない。ジム挑戦者用のポケモン達の管理や、ジムトレーナーの訓練だってある。トキワジムに挑みに来るトレーナー自体があまり多くは無いが、それにしたって最近は挑戦者が少ない。そんな日々に文句があるわけではないが、退屈だとは感じている。
だけど今日、久しぶりに挑戦者が現れた。ここにやって来るという事は初心者ではない。手練れたトレーナーではあるのだろうが、オレは相手が誰であろうがジムリーダーとしての責務を全うするだけだった。
結果は、オレの勝利だった。挑戦者の男は「あと少しだったのに」と悔しそうに唇を噛んでいる。敗因はいろいろあるが、バトルのあとは挑戦者に敬意を払い、そして何かアドバイスをすることが多い。この日もその場に立ちっぱなしで動こうとしないトレーナーに近寄って、この一戦で感じたことを正直に話した。
だけど、それが良くなかったのだろう。うつ向いていた相手がいきなり顔を上げたかと思えば、突然腕を振りかざした。
「何も知らねえくせに、偉そうにしやがって!」
長年の勘が無くとも誰だって「殴られる」と予想が付くだろう。こういったことは今までも何度かあった。避けても良かったが、下手に避けて余計に逆上されても面倒だ。一発殴られて相手の気が済むのなら、それで良い気がした。
歯を食いしばった直後、頬に鈍い痛みが走る。大した力のない拳ではあったが、痛みはしっかりとある。血は出ていない様で安心した。すると騒ぎに気が付いたジムトレーナーの一人が慌てて駆け寄ってきたので、オレはトレーナーから離れようと一歩下がった。
「何やってるんだ!」
挑戦者の男はオレの胸ぐらを掴んできたがジムトレーナーがそれを引きはがし、暴れる相手を羽交い絞めにして押さえつけていた。他のトレーナーもやって来る途中で何かを叫ばれていた気がするが、何を言われていたのか全く覚えていなかった。
そんなことがあったものだから、気分は最悪だった。いつもより早い時間ではあったが、心配したジムトレーナー達に「今日ははやめに帰ってください」と口をそろえて言われてしまい、オレはしぶしぶジムを後にした。まだ仕事だって残っていたのに。
外は、昨日に引き続き雪が降っていた。まったく寒くてかなわないとコートのポケットに両手を突っ込むが、全然あたたかくならない。薄暗い自宅までの帰り道を雪を踏みつけながらざくざくと歩いていると、いつの間にか昨日レッドを拾った場所までやって来ていた。
(ほんとうに、変なやつだよな)
常識に縛られないからこそ頂点に立つことが出来るのだろう。だから誰にも引き留められないし、どこにも留まらない。行くなと言ってもあいつは心のままにどこかへ行ってしまうのだろう、きっと、今朝のように。たまに顔を見せには来るが、レッドにとって、一体自分は何者なのだろうか。
それにしたって寒すぎる、頬にかかる雪のせいではない。冷えた空気がどんどん体温を奪っていくようだった。昨日のレッドの手を思い出して自分の手を爪が食い込むほど強く握りしめる。ぜんぜん、あたたかくならない。そんなことをしていると呼吸が苦しくなってきた気がしたので、とにかく一秒でも早く暖まりたいと帰路を急いだ。やっと自宅があるマンションまでたどり着き、階段を上がっていく。
そして部屋の前まで来たところで予想していなかった影を見つけてしまい、つい「あっ」と声が漏れた。
「レッド、なんで」
オレの声に気が付き、玄関の前でしゃがみ込んでいるレッドが顔を上げた。
「おかえり、グリーン」
いつからここにいたのか、鼻の頭が赤い。慌てて駆け寄り頬に触れるとひんやりとしていて、思わず「ばか」と声が出てしまう。
「グリーンの手、つめたい」
ふにゃふにゃと笑う顔が、視線が、ぜんぶ胸の奥をしめつけていく。
「それは、……それより、なんでいるんだよ……」
レッドがオレに向ける言葉も態度も、きっと全部無自覚だ。嘘のない言葉でまっすぐとぶつけてくるものだから、たまに扱いに困ってしまう。だけど、だからこそオレはレッドはこんな歪で奇妙な関係を何年も続けられている。
何故だかオレの視界がぐずぐずとしてきてしまったので、それがバレてしまわないように鼻をすする振りをする。とにかくこんな寒いところに長居させてはいけないと部屋の鍵を取り出そうとしていると、レッドが立ち上がり情けない笑顔のまま呟いた。
「君が作ったカレー、おいしかったから」
とどめの「また食べたくなって」という一言で体が固まったかと思うと、がちゃり、と取り出した鍵が落ちる音がした。
今日のメニューはシチューだった。レッドに出してやれば、昨日と同じようにどんどん口に運んでいた。ご所望のカレーではないが、満足そうに食べているので問題は無さそうだ。
「今朝ここを出てうろうろしてたんだけど、どこに行けばいいのか分からなくなって」
「お前ほんとうに適当に生きてるな」
オレが帰ってこなかったらどうするつもりだったのか。本能で生きている人間は想像以上に怖い。そもそも、オレに追い返されるかもしれないと言う発想は無いのだろうか。そんなことは、まあ、有り得はしないのだが。
「それに、今日も寒いし」
言いながら、レッドはばくばくとシチューを平らげていく。オレも自分の分を口につけるが、熱くてレッドのように食べられない。
「寒いからって、なんでオレのところに来るんだよ」
「グリーンがまた寒がってたら嫌だなあって思った」
なんだそれ、と返して再びシチューを口に運ぶ。まっすぐレッドの目を見ることが出来ない。頬があつい。あついのに、体があたたまっている気がしなかった。
今夜も、レッドが同じベッドの中にいる。当たり前のように布団の中に入って来るオレよりでかい図体に、最早何も言えなくなっていた。なので、今日はオレからレッドの手を握ってみた。やっぱりあたたかい。こいつの体はどうしてこうもあたたかいのだろう。
「寒い?」
ふいにかけられた声に、正直に頷く。すると突然視界が暗くなった。レッドに抱きしめられている。
「なにやってんだ」
レッドの胸の辺りに顔を押し付ける形になってしまっているので、どうしても見上げるようにしないと相手の顔が見えない。そうしていると、「うーん」とレッドが難しい表情になった。
「こうすれば、寒くないかなって」
「いや、そうかもしれないけど」
逃げられないのでもぞもぞと身じろいでいると、レッドがオレが玄関の前でしたように頬に触れてきた。今日、ジムで挑戦者に殴られた場所だった。
「ねえ……今日、何かあった?」
何かってなんだ、毎日なにかしらあるよ。そこまで頭で言葉を並べたが、レッドが求めている答えは、こういうことではないのだろう。
「そうだな。挑戦者が来たから相手して負かしたら、何も知らねえ癖にって殴られた」
嘘をついたって無意味だ。だから起こったことをそのまま話すと、途端にレッドの眉間にしわが寄った。
「なにそれ、大丈夫なの?」
「まあな。というかそんなに腫れてないのに、よく分かったな」
「そりゃあ、昨日の今日だし……」
レッドの観察力を侮っていたかもしれない。ジムでちゃんと冷やしたし、どうせバレないと思っていたのに。いや、バレたって何かあるわけではないが、余計な心配はかけたくなかった。
いい加減見上げる体制になるのが辛くて体を動かし、レッドと真っ直ぐ視線が合う位置まで体を動かす。すると丁度鼻先が触れそうなほど顔が近かったので距離を取ろうとした。だけど離れると隙間が出来てしまって、ますます寒くなる。
そうしていると、再び視界が暗くなった。今度は抱きしめられたのではない。柔らかくて、少しかさかさしたものが唇に触れたのが分かる。
「なんで」
すぐに離れていったそれに対しての問いだ。視線を逸らさぬまま聞けば、暗闇の中で向こうもまっすぐこちらを見つめていた。
「もっと、くっつけば」
「……くっつけば?」
「もっと、あたたかくなるかな、って思って」
レッドの言葉にそうかもな、なんて思ってしまったので、オレはどうかしてしまったのかもしれない。だけど、そんなことは構わない。だって、寒いのが悪いのだ。だから、オレからも顔を近づけた。驚いたようなレッドの顔が面白くて、きっとオレは笑ってしまっていたと思う。
互いの唇が何度も何度も軽く触れて、気がつけば角度を変えて深く探り始めていた。腰に手を回されたのに気が付き、こちらも首に両手をまわしてやる。
「んッ、はあ、ンぅ……」
どちらのものとも分からない声と吐息が混ざっていく。相変わらず自分の手は冷たいのに、レッドの貪るようなキスで胸の奥はばくばくと煩くなっていく。反対に触れる唇はどんどん熱くなっていき、口の端から唾液が垂れていくのが分かった。
今までどれだけ寒くても、他人の熱が欲しいと思ったことは無かった。だけど、一度レッドに触れてしまったからだろうか。今はもう、この熱を手放したくないと思った。
「あッぁ、レッド……」
ふいに、太ももに硬いものが触れた。それが何か気が付いた時、素直に嬉しいと思ってしまった自分が嫌になる。気が付かない振りをしていればどうなるんだろうと考えたが、相手に主導権を取られっぱなしなのは癪だ。だから自分から手を伸ばして服の上から触れてみると、びくりと小さく震えた。なんだ、案外反応するもんだな。
「……あの、ごめん」
申し訳なさそうな声を出すレッドに、思わず吹き出してしまう。
「なんで謝るんだよ」
「だって、こんな」
「いいんだよ。オレのこと、あっためてくれるんだろ?」
聞けば、目の前の男が正直に頷いたので笑ってしまう。オレはどうしてか、この目に弱いのだ。
「グリーン、背中むけてくれる?」
言われた通りにすると、ゆるめのルームウェアを下着ごとずり降ろされる。これから何をされるのか想像はつくが、さて、どうしたものか。
「ごめんね……痛くはしないから」
背後から腰に腕をまわされて、太ももの間ににゅるりと硬いものが入り込んでくる。たったそれだけで、脳が爆発してしまいそうだった。にゅぷにゅぷと音を立てながらソレに太ももを擦られて、必死に漏れそうな声を押し殺す。たまに自分のモノにレッドの芯が触れるので、その度にどんどん体温が上がっていった。
「……声、我慢しないで、良いよ」
耳元で熱を持った声色でそんなことを言われ、体がますます敏感になる。他人からこんな風に触れられるのは初めてなので、ほどほどにして欲しいところだ。
「別に、我慢なんか……」
「だったら、いいけど」
すると、腰を掴んでいた手の片方が胸へと上って来た。ふにふにと柔らかく弱い部分を指で押しつぶされて、どんどん頭が馬鹿になっていくのが分かる。
「そ、んなところ、触ってどーするんだ…ッ」
「だって、グリーンにも気持ちよくなってもらいたくて」
相変わらず太ももの間ではぬちぬちと卑猥な音を立てながら挿入を繰り返されている。刺激に耐えようと体に力を入れると足がよりレッドの芯を挟み込んでしまうので、それが良くなかったのかもしれない。腰の速度が上がってしまっている。
「はァ、グリーン…あったかい、ね……?」
首筋を吸いながら話すのはやめて欲しい。ひゃん、と間抜けな声を上げてしまう。その声を面白がってか、レッドが胸を触る手を速めてきた。
「やっあ!ッん、ア」
「ほら、やっぱり我慢してるじゃん」
胸の先端を摘ままれたかと思えば、そのふちをくすぐる様に指の腹でなぞられる。今まで自分の体がこんなことで敏感になるなんて知らなかった。
「もうグリーンが寒いって、思えなくなるぐらい…君を、あっためてあげたいって、思って」
打ち付けられる腰に合わせて、どんどん声が抑えられなくなる。自分の先端からは、だらだらとだらしなく先走りが伝っていて、何も考えられなくなっていた。
「君は、寂しがりやだから……ッ、僕の熱を、分けてあげたいんだ」
「あ、ぁッ…レッド、れっど、ぉ」
レッドが喋る度に脳が溶けそうになる。普段は無口なくせに、オレが言い返せないからって好きに喋りやがって。
胸を好き放題に弄っていた手が再び下に降りてきた。そのまま先端を握り込まれ、ぐちゅぐちゅと上下に扱かれる。
「一緒にいっぱいあつくなって、冬が来るたびに、雪を見るたびに…ッ僕のこと、思い出してくれる?」
「そんな、の、……いつ、だってぇ」
いつだって、お前のことしか考えてない。
その言葉は嬌声になって溶け、お互い同時に達してしまっていた。
「オレ、お前のことが好きなのかも」
ぼーっとする頭のまま天井を仰ぎながら布団にくるまってそう言えば、隣で寝転がっているレッドは不思議そうに視線をこちらに向けていた。
「うん、知ってたよ」
「……、あっそ」
もっと驚いた反応があると思ったのに! 悔しくなってくるりと背中を向けると、レッドが首筋に吸い付いてきた。そこはいい加減やめてほしい。
「昔からグリーンは僕のこと好きだよね」
「自惚れんな」
「まあ、僕もなんだけど」
え、と振り返ると、それを見計らってか唇にキスをされる。くそ、全部見透かされている気がする。
「僕、こんなだからさ。でも、グリーンを好きなのと、あっためてあげたいって思ってるのは本当」
「そうか、だったら」
ぎゅう、と今度はこちらから抱きしめてやる。
「今日は特に寒いからさ。もっかい、あっためてくれるか?」
「もちろん」
この手が離れていく度に名残惜しいと思っていた理由が、今ならはっきりと分かる気がした。