ゼミの飲み会に遅れてやって来たカミュは、ただ空いていたからという理由だけで躊躇うことなく座敷のテーブルの隅っこに座っていた僕の隣に座った。彼とは今まで話したことも無いし、顔を合わせたことだって数回しかないと言うのに。
しかし、僕は彼のファンだった。入学してすぐの頃たまたま見かけた時から心を奪われている。
カミュは誰かと群れているような人ではないのに、不思議と人を惹きつける魅力がある。派手な格好をしているわけではないのに気が付けば目で追ってしまう。あの青い髪を、はじめて見た時から忘れられなかった。
既に会は始まっていたけれど、カミュが入って来るとまわりの同期や先輩達が「もう一度乾杯しよう」と店員を呼ぶ。すぐに運ばれてきたビールを手にカミュと乾杯をして、がちゃん、と音を立てるジョッキがほんの少しだけ眩しかった。
カミュはすぐに親しい人達の近くの席へ移動するものだと思ったけど、そんなことはなかった。「腹減ったー」と言いながらカミュ用に小皿へと取り分けられていたサラダや唐揚げを食べ、向かいに座っている僕の同期の女子と話をしている。この席は同期が集まっているから自然と僕も会話に入ることが出来て、僕ははじめてカミュと言葉を交わすことが出来た。
楽しそうな会話、アルコール、煙草の匂い。誰が何の、なんて考える暇はなく目の前で様々なシーンが次々と飛んでいく。そうしていると隣のカミュが息を吐き、小さな口から白いような灰色の様な煙が細い線を描いて消えていった。いろいろな匂いと混ざってもはや何の匂いなのか分からないが、隣に座っている彼の吐き出した煙草の跡をつい目で追ってしまう。
誰もがやっている行為でさほど珍しくも無いと言うのに、何故だか視線を奪われてしまう。ビールジョッキを掴んだまま彼の様子を眺めていた間抜けな僕に、ついに声がかけられた。
「なんだ、お前もいるか?」
緑と白で彩られた小さな箱から一本、慣れた手つきで彼が咥えているものと同じものを差し出される。
咄嗟のことに声を出すことが出来なかったためジェスチャーだけでノーと意思表示をすると「そう言えばお前未成年か」と素早く箱をテーブルの上に戻していった。
「名前、イレブンだっけ」
傍にあった灰皿へ吸い終えた煙草を押し付けると、青い髪の青年はゆっくりと顔をこちらを向いた。
「はい。……あの、先輩は」
「カミュ。堅苦しいの好きじゃないから名前で呼んでいい。敬語も禁止な」
今度は返事をすることができて胸を撫でおろしていると隣から肩を軽く叩かれて、体に押し込めていた緊張が解けていく。名前なんてとうの昔に知っているというのに、僕は彼にとっては初対面も同然だったようだ。
先輩は、僕を知っているんですか。本当はそう訊き返したかったけれど、その答えは聞かなくても分かってしまったので声になる前に消えていった。
すると骨が溶けてしまったのかと思うぐらい次々と力が抜けていき少し上半身がよろけると、カミュは慌てて僕の体を支えてくれた。
「なんだよ、もう酔ったのか?」
困ったように眉を下げて笑う表情を綺麗だと思った。しっかりと耳に届く声を聞き逃さない様に、先程まで煙草を咥えていた口元を見つめる。
酔ってなどいないので誰かの手を借りるほどでもないが、すぐに離れるのは勿体ない気がしてついカミュの肩にもたれ掛かる様に姿勢を直した。こちらの思惑など知らないカミュは「本当に大丈夫かよ」と大人しく肩を貸し真剣に心配してくれている。
カミュの着ているシャツは首元がゆるく、視界の端で鎖骨がのぞいている。その光景に思わずごくりと唾を飲んだ。心の中でごめんなさいと謝り、贖罪の意味も込めて瞼を閉じた。なんだか申し訳ないが、もう少しこのままでいさせてもらおう。
少し甘え過ぎたのか、カミュが「ちょっと外行こう」と僕を連れ出した。小さな子どもにするみたいに僕の手を引くカミュの後ろを大人しく着いて行く。
夏も終わりに近づき、半袖で快適な気温とはいえ夜風は少し冷たい。今日は星が見えないからか店の前なのに暗い。だけど、隣に佇むカミュはやけにはっきりと見えた。
身長差のせいでよく見えなかったが、小さな音を立て黄色のライターがカミュの咥える煙草に火を付けた。灰にめいっぱい吸い込むようにしてから、僕とは逆方向に煙を吐く。その姿を見つめていると「嫌だったか?」と投げかけられ慌てて「違う」と返した。
「だよな。そんな顔してねーもん」
ふふ、と笑うカミュはの表情はよく見えないけれど綺麗だと思えた。
「あの……意外、でした」
言うと、下から頬を軽く摘ままれた。カミュを見ると怪訝そうな表情をしていたので、一息置いて言葉尻を訂正をする。
「意外、だったんだ。校内で吸ってるところ、見たことがなかったから」
店内からはがやがやと盛り上がっている声が聞こえてくる。それが同期達のものなのか別のお客さんのものなのか、なんてどうだっていい。今はただカミュの声が聞こえれば良かった。
「まーな。普段はあんまり人前で吸わねえから」
「今日は、なんで?」
訊いても、今度は答えてもらえなかった。何か彼を怒らせるようなことを言ってしまったのだろうかと視線を落とすと、突然胸ぐらを掴まれた。
「か、みゅ」
夜空に溶けるように彼の吐いた煙が吸い込まれていく。その様子がまるでスローモーションのようで、この時間が現実とは異なっているのではないかと思えた。
彼は吸い殻となった煙草をすぐ傍にあった銀色の灰皿へ落とすと、僕の胸ぐらを掴んだままこちらをまっすぐと見上げた。
「ああ、その顔だ」
え。なんて、たった一言を返す間もなく。気が付けば、ずっと眺めていた彼の口が僕の同じところを塞いでいた。強く引っ張られているので少し前かがみになり、体勢がきつい。
だからと言うわけではないが、体重をかけるところが欲しくてカミュの両肩を掴んだ。するとヌルリと舌が入り込んできて、啄むだけだったものとは全く違う感覚に驚き、ついカミュを押しのけてしまった。
「は、っは……ぁ」
息を整えながらカミュを見据える。腕で口を拭い、なんでもないみたいに柔らかく微笑んでいた。
「さっき、聞いたよな。なんで人前では吸わねえんだって」
いきなりなんの話だと思っていると、カミュは少し乱れた髪をかき上げながら言った。
「我慢してる時だよ。どうにもならない時、吸いたくなるんだ」
「がまんって、なに、を」
察しが悪いとでも言いたそうに眉を顰めたカミュは親指で店内を指さした。
「荷物持ってこい。お前と俺の分、両方」
なんでとは言わせてくれない雰囲気だった。言われた通り店内に戻り互いの荷物を手にすると周りからは心配されたが、少し多めに二人分の飲食代を残し適当に愛想笑いをして店を出た。
カミュは店内から出てきた僕を見つけると何も言わず歩き始め、荷物を持ったままその後ろ姿に着いて行く。人通りのない路地は静かで、靴音だけが響いており妙に不気味だ。
数十分程歩いた先のアパートの前で立ち止まるとカミュは何も言わずカンカンと音を立てて外の階段を上って行く。恐らく、ここが彼の住んでいる部屋のアパートなのだろう。角の一室に辿り着くと手を出してきたので彼の荷物を差し出すとそこから乱暴に鍵を取り出し部屋のドアを開けた。
どうして彼の家に連れてこられたのか分からない。……いや、連れてこられたのではない。僕が勝手に着いて来ただけだ。だとしても、まるで首輪とリードを付けられてここまで引っ張られて来たかのような感覚だった。
「……おじゃま、します」
玄関口で脱いだ靴を揃えると「そういう所だよなぁ」と家主に楽しそうに笑われた。何かおかしかっただろうか。悪いことはしていないはずだけれど。
カミュは部屋の電気を付けなかったが、窓から漏れる微かな明かりで彼の姿は捉えられたので充分だった。部屋の端を指さされたのでそこに荷物を置く。彼の部屋は片付いているというよりも物が少なく、本当に必要最低限の家具や日用品しか置かれていない印象だった。
目が慣れてきてカミュの表情がはっきりと分かるほどになる。手持無沙汰になり部屋の真ん中で突っ立っていると再び腕を引かれ、壁際のベッドに誘導された。そのまま肩を押され、ベッドに半ば強制的に座らされる。そして隣に腰かけたカミュの腕がゆるゆると伸びてきて、僕の両頬を包み込んだ。
「この部屋、壁薄いから」
その言葉が何を意味するのか分からない振りをして頷くと、すぐにあの居酒屋での続きがはじまった。目の前にはカミュの顔だけ。だけど舌の感覚ははっきりとしていて、見えない彼の輪郭がはっきりと浮かび上がる様だった。
「ん、んっ」
息を荒げながら、再び口内で互いが絡む。中の形を全部縁取るかのような動きに夢中になっていると、いつの間にかカミュの片手が頬から降りて僕の熱の集まりかけていた箇所へと触れていた。
(え、え、カミュ)
止めさせなければならないのだろうか。だけど、そうすると何故彼に着いて来たのか分からない。
これが目的だったわけではない。ただ僕がカミュに惹かれていて、彼に近づけるのならと思いここまで来た。この行為も、断る理由はない。
気が付けば履いていたズボンの前が寛げられていて、硬くなりつつあるものの先端を擦る様に触れられている。
そちらが気になってしまい視線をやろうとするが、僕の頬に触れていたカミュのもう片方の手が顎へと移動して顔を固定される。
「よそ見すんな」
まっすぐ僕を捉える両の瞳がぎらりと光る。もういいか、と頭の中で大事なものが崩れていく感覚があって、僕もカミュの後頭部に手を這わせてキスに没頭した。
外気に晒されている僕自身がぬちぬちと音をたてながら上下に扱かれている。気持ちのいいところをもっと触れて欲しいと思っていると、カミュはそこを良いように触れてくれた。僕の考えなんて全部お見通しのなのだろうか。
「は、ぁ、イレブン、も……イっていいぜ」
扱かれる速度が上がって、ぬちぬちと響く卑猥な音で頭がの中がいっぱいになる。こんな感覚は勿論はじめてで、もっともっと触って欲しいとカミュに身体をすり寄せた。
「ぁっかみゅ、……か、みゅ」
離れた唇に名残惜しさは感じつつも、とにかく彼にもっと近づきたい。
「イイコだな、イレブン」
その言葉の直後、僕は彼の手を汚してしまっていた。終わってみればあっという間だったはずなのに長い長い時間をカミュと過ごしていたような気がした。
「ごめん、カミュ、その……」
「あー、いいって」
カミュはベッドサイドに置いてあったティッシュを取ると手早く汚れを落とし、満足そうな表情でもう一度僕にキスをした。
先程とは違って触れるだけの軽いキスだった。それでも僕の心臓はばくばくと忙しなく脈打ち、頭から湯気が出ると言う表現をこれでもかという程に痛感してしまっていた。
「なあ、お前って彼女いんの?」
「は、ぇ……?」
突然の問いに戸惑う僕とは真逆に、脚を組んで頬杖をつくカミュが隣で面白いものでも見ているかのように目を細める。
「その様子だといなさそうだな。ちなみに童貞?」
会話の内容とスピードについていけない。どうして、そんなことを今になって訊くんだ。
「あ、あの」
「童貞だな」
ふ、とカミュの口の端が吊り上がる。悔しいと思うべき場面なのかもしれないが、もうどうだって良かった。
「勿体ない。そんなイイモノ持ってるのに」
今まさに仕舞おうとしていたそれを指さされ、耳まで赤くなったのが分かる。そんなに堂々とこれについて指摘されたことなんて、今まで一度だって無かった。
羞恥から手が思い通り動かすことが出来ずもたもたとしていると、隣に座っていたはずのカミュがいつの間にかベッドから降りて先程言及されたものの前で膝立ちになり、じっとそれを見つめていた。
「な、なに?」
すっかり萎えていたモノに、徐にカミュが口付けた。わざとらしく音をたてながら吸われ、再び硬さを持ち始めている。
「かみゅッちょっと、ま……、!」
制止の声も空しく、カミュは喉奥を突かせるようにめいっぱいそれを咥え込む。必死に吸ったり舐めたりを繰り返すカミュの顔を見下ろしながら、(これはまずい)と頭で警報が鳴った。
カミュは僕が達する寸前に口を離すと、こちらの言葉を待たずに再びベッドに乗りあがって来たかと思えば力任せに押し倒され、見れば馬乗りになるように僕の腹の上に跨っていた。
「もうちょっと我慢、できるよな?」
いつ脱いだのか、今のカミュはシャツしか身に着けていなかった。むき出しになった太ももから視線が離れなくなって、つい掴むように触れてしまう。
その手が振り払われることも無く、気にしてもいないのか楽しそうな声が頭上から聞こえてきた。
「はは、むっつり君。これからもっとすげーことすんのに、そんなので良いのか?」
馬鹿にするような口調への苛立ちか悔しさか、太ももの内側をなぞる様に触れると余裕な口ぶりで「上手、上手」だと言われる始末。
それでも彼の中心は反応していたし、手を止めるとカミュがしびれを切らしたのか鼻をならした。
「お前、モテるだろ」
何故、そんなことを聞くのか。先程の時もそうだった。自分の色恋も他人の性事情にも興味などないというのに。
しばらくカミュを眺めていると、こちらからはっきりとは見えないが、膝立ちになった彼は自らの後孔に指を這わせていた。気持ちが良いのか「んっん」と甘い声が漏れている。とろけそうな表情から視線を逸らせず、そしてこの後に行われる行為を考え身体が強張っていった。
「女なんて困らないだろうに。なんで俺なんかに、こんなあっさり着いて来るのか……」
目の前で痴態を晒すカミュをただただ見続けた。しばらくすると膝立ちの体制だったカミュが、ゆっくりを腰を落としていく。
「大人しく待てたごほーび、やらねえとな?」
カミュが動くたびに、すっかり解された箇所へ僕の中心がずぶずぶと挿入っていく。熱の先端が入口の浅いところを掠めるように、彼はゆるゆると腰を振り始めた。
「あ、あッ、ん!やっぱ、おまえ……すごい、よ、ッ」
ローションがぬるぬると二人を刺激する。カミュの声が、水音が、互いの肉がぶつかる音が、まるで全部幻のようだ。
がまんが出来なくてずぷんっと奥まで突いてしまったが、快楽を貪るのに夢中な彼は自らも腰を深く落としていった。
「イレブンの、ぁっきもち、いい」
「ぼくも、きもちいい……ね、かみゅ、どこがいい?」
「そこ、そこぉ、もっと、ア、んッ!」
彼の反応を探っていく内に、どこが好い場所なのかが徐々に分かってきた。そこを目掛けて何度も突くと、きゅうきゅうと内側を締め付けられていく。それに比例するようにこちらの質量も増していき、カミュからはとめどなく嬌声が溢れていた。
「ばか、おっきく、ン!すんなァ、ッあ、ぁん!」
「ごめん……カミュがかわいいから、ッ……」
「も、ぅ無理、いれぶん、おまえ、も」
一緒に、なんて。何の意味もないのにな、と頭の片隅で考える。
だけど今はどうだって良くて、ただ僕に突かれて善がって腰を振るカミュの言葉はなんでも受け止めたかった。だからばちゅんっと勢いよく突いて、二人でこの行為に溺れて行った。
結局、僕は彼のナカで果ててしまった。同時にカミュの先端からも白濁を吐き出したのが見えて、どうしてか胸の奥が熱くなる。
「あ、あー……」
僕と繋がったままぼんやりしているカミュを見て、少し自分の悪い所が溢れてくるのを感じた。
上半身を起こすとカミュと目が合ったので、今度は僕からキスをした。甘えてくるように素直に受け入れてくれるカミュが愛おしくて、先程こちらがされたみたいに力の入りきっていない彼をベッドに押し倒した。
「いれぶん……?」
「まだ足りないって顔、してる」
よく分かっていない、とでも言いたそうな視線を無視して、カミュへ覆いかぶさる様に彼の頭の両脇に手をつく。彼の着ているシャツをゆっくりと脱がせていけば、とろんとした表情に鋭さが宿った。ああ、その顔だ。
一度繋がりを解くと、そこへ名残惜しそうに視線を向けられる。気が付かない振りをして彼のつんと上を向いている胸へと顔を寄せた。
「ハぁ、お前むっつりだよなぁ」
頭上から聞こえてくる小言に(放っとけ)と頭の中で毒づきながら薄く色づいている胸元を無遠慮にべろりと舐めた。
「ん、ぁ……」
すぐさま反応があったので吸ってみたり舌先で転がしてみたりする。もう片方も指の腹で擦る様に触れれば、そこが徐々にぷくりと膨らみを帯びてきた。
「カミュ、カミュ」
名前を呼べば面倒そうに視線だけがこちらを向いた。
「なんだよ……」
「すごい。なんだか、すごくえっちだ」
言った途端耳を引っ張られたが本気でないことは分かる。どちらにしてもこの行為を止めるつもりもないので、スピードを上げたり下げたりを繰り返しながら執拗にそこを弄り続けた。声だけではなく身体まで小さく震えるほど反応していて、ちらりとカミュの様子を窺う。
その瞬間に見えた口元を抑えて必死に耐えている姿が、僕の中の何かを崩していった。
(ここ、好きなんだ)
最初は引っ張られるばかりで、あんなに強気だったのに。男の僕にこんなところを触られて善がってるなんて、なんて言えば、今度は頭をぶたれるかもしれない。
でもそれも悪くはないかも、なんて考えながら強く胸の先端を摘まんだ。
「あッいれ、ぶん!や、だめ、それ」
駄目じゃないことは気がついているので、声に構わず同じように行為を続けるとカミュの身体がびくびくと大きく震えた。
「ア、ぁッあ――――」
ぴゅるっと勢いよくカミュから熱が吐き出されて、涙目になっている瞳にキスを落とした。
「カミュすごい。おっぱいだけでイけるんだ」
「頼むからおっぱいとか言うな……」
少し興奮状態の僕にカミュが呆れたような声をかける。天井を仰いだままの彼の腰を掴めば、今度はぎょっとしたような表情で慌て始めた。
「もうちょっと、付き合って」
気が付けばお互い真っ裸で、ベッドの上で抱き合っていた。
気太りするタイプなのか、カミュの腰は想像よりも細かった。その細い腰をしっかりと掴んで腰を打ち付け、何度も何度もピストンを繰り返す。僕が動くたびにカミュは善がりながら甘い声を上げていた。
「んッあ、ァん!あッあ、ン、ん!」
僕は学校でのいつも気丈で、かっこよくて、綺麗なカミュしか知らなかった。男に突かれて快楽に溺れている姿なんて知らなかった。彼の違う顔を知れて嬉しい。だけど、これを知っている人間はあと何人いるのだろう。
「カミュは、誰とでもこういうこと、するの……?」
訊いてもカミュは嬌声を上げるだけで答えてはくれなかった。だけど、それでも良かった。だって、本当は知りたくなんかないからだ。
胸の奥に渦巻く黒い影の様なものが込み上げてくる。だって、だって、ぼくは。
「僕、好きだよ。カミュの、こと……前から、ずっと」
吐き出してしまえば、なんてことないように思えてしまった。たった数秒足らずの愛の告白は今の真っ白な彼の頭には届かないだろう。でも、その方が都合がいい。
腰を深く抱えなおして、覆いかぶさる様にしてカミュの耳元に顔を寄せた。
「好きなんだ、始めてみた時から。君は僕のことなんて、何も知らないんだろうけど」
「いれ、ぶん……」
僕の名前を呼ぶ小さな声に反応するかのように、カミュが腰を振る。
きゅうきゅうと締め付けられて内側の肉が捲りかえるのではないかと思う程にカミュのナカが僕を掴んで離さない。今だけは僕を求めてくれている。それ以上のことなんて望んではいけないと知っている。
「カミュのきもちいいところ、全部教えて。これから、僕が、いつでも、君が我慢しなくたっていいようにするから」
「ぁ、いれぶん、ッあァ、あっアん、あ、ン」
背に回された手が熱くて、それが答えなのではないかと思いたかった。
ずぷんっと最奥を突くと、ひと際高い声をあげてカミュは腹の上に熱を吐き出し、僕も同時に果てていた。
少し泣きそうな顔だったのは、きっと僕の夢だった。