久しぶりに訪れた西日が差し込む恋人の部屋は、最後の記憶と変わらなかった。それにほっとしつつ旅の途中買ってきた土産の菓子をテーブルに置き、レッドはリビングのソファに勢いよく腰を下ろした。
部屋のところどころから恋人のにおいがして、だんだんと心地よくなってくる。家主が留守なため静かなのもあり、そのまま意識がゆっくりと遠のいていきそうになった。先程まで背負っていたリュックはソファの脇に置いてあるが、放りっぱなしでは家主が帰ってきたときに文句を言うだろうが、今日ばかりは許してほしい。
今にも夢の世界へと行ってしまいそうだが、どうせなら恋人のにおいを全身で浴びたくてベッドで眠りにつきたかった。そう思い立ち、まだ意識がある内に寝室へと向かった。
寝室も、最後に見た時と変わっていなかった。だけど、ベッドの上に見慣れないものがある。
(なんだこれ)
それは縦長の小さな箱だった。真っ黒で片手で持てるぐらいのサイズで、何と書いてあるのか分からないロゴが蓋の中央にぽつんと描かれている、シンプルなものだった。ベッドを使わせてもらいたかったので箱を少しの間退けさせてもらおうと掴むと――持ち方が悪かったのか、蓋が外れてしまい中身が露になる。
「わぁっ」
幸い持ち上げた箱は布団の上に落ちたので中身が飛び出すことは無かったが、事故とはいえ他人の持ち物を勝手に開封してしまった。慌てて蓋を閉じようとした。が、レッドはそれをしなかった。と言うより、中身に気を取られて出来なかった、が正しい。
箱の中身に気を取られ、眠気などとうに消えてしまった。レッドは突如目の前にあらわれた“それ”を箱から取り出し手に掴んだ。その時。
「――――レッド、いるんだろ!!」
勢いよく寝室の扉が開かれたと思うと、そこには恋人兼家主が息を切らしながらものすごい剣幕でこちらを睨みつけていた。
「グリーン……」
弱々しく名前を呼ぶと、彼はベッドのふちに片膝をついたレッドと、その手に握られているものを交互に視線を送り見る見るうちに顔を青くしていった。
「……最悪だ」
その場にへたりとしゃがみこんだグリーンが心配で駆け寄るが、そんなことお構いなしとグリーンは自力で立ち上がるとレッドの持ったままだった“それ”を奪い取り、大股でベッドまで進むと箱に音を立てながらしまい込んだ。
「ね、ねえグリーン」
名前を呼ばれ、くるりと勢いよく振り返る。
「お前は何も見てない。いいな、何も見てない」
肩越しの視線は、普段の何倍も鋭い。
「……うん」
それに気圧されたまま頷くと、グリーンは「よし」とこちらに向かってきた。
「忘れろ、全部」
「でも、なんで」
「忘れろっつっただろ」
そのまま寝室を出て行ったグリーンの背を追いつつも、レッドの頭は混乱したままだった。
先程までは慌てていた様子のグリーンもいつの間にか落ち着いたのか、夕食を食べるころにはいつもの調子に戻っていた。向かい合わせに座ったテーブル越しに、以前と変わらぬ他愛のない話をする。旅の道中のこと、近況について。何も変なことは話していない。
だけどどこかそわそわしているように思えるのは、帰ってきたときに寝室で見たアレのことが引っかかっているからだ。
夕食後は風呂に入ってこいと急かされた。きっとレッドの入浴中に例のものを片付ける気なのだろう。浴槽に浸かりつつ、レッドは寝室で見たものを思い出す。俗っぽい知識やそういった経験には疎いレッドだったが、その程度は知っている。実物を見たのは初めてだったが、あれは絶対に。
(……バイブ、だよなあ)
いつも自分を受け入れてくれる、場所用の。
それを思い返すたびに身体から力が抜けていき、ずるずると湯の中に沈んでいく。どうしてあんなもの、とは思ったが、たぶん自分のせいだとレッドは肩を落とす。
レッドには悪い癖があり、興味のあるものや目の前のものに夢中になるとまわりに目がいかなくなるのだ。なので道中に珍しいポケモンがいれば立ち止まるし、強いトレーナーと目が合えばバトルをするし、困っている人がいれば放ってはおけなかった。長年一緒にいるグリーンはそれを分かってくれているし、それがお前の良い所だとも言ってくれる。だけど、今回は何も連絡をしなかったのが悪かった。半年も恋人を放置していたのだから仕方がない。グリーンを責められないし、責める権利も無い。どう考えても寂しい思いをさせた自分のせいなのだ。
無機物に嫉妬するなんて…とは思うが、どうにもこうにもレッドはもやもやとしたものを抱えていた。
**********
いつものように男二人では少し狭いベッドへと一緒に潜り込めば、グリーンの方から手を伸ばしてきた。それに応えるようにキスをすれば満足そうに目を細める様子が愛おしくて、鼓動がどんどんと速くなる。今まで何度も繰り返してきた行為なのに、時折漏れる「ん、ん」という小さな声が脳を溶かしていった。
触れるだけのものから奥を探るように深く口づける。密着する身体が燃えてしまうのではないかと思うぐらい熱くなる。ごそごそと手を動かし、服の中を弄る。腰のラインをなぞる様に触れるとびくりと震えるのが楽しい。そのまま手を彼の胸の辺りまで持っていけば、「はぁ…」と漏れた甘い吐息が耳にかかった。
ふにふにと揉むようにそこを触れていけば、次第につんと尖ったものが触れた。指先で捏ねたり摘まんだりして遊んでいると耳たぶを噛まれてしまったので「じれったい」と言いたいのだろう。それならばと服をがばりと捲り、露になった飾りに舌を這わせる。丁寧に育てた箇所なので以前よりもぷくりとしている…気がするので舐めやすい。
「ッぁ、……あ、ン」
吸ったりを繰り返していると、キスの時と同じように微かに甘い声が聞こえる。
「気持ちいいんだ?」
聞けば、髪の毛を引っ張られる。けど全然痛くない。この行為の度に増える背中の傷を想えば、こんなのはまだ可愛いものだった。わざと音を立ててし続ける。その度に頭上から小さな鳴き声が聞こえてくるものだから、自分でやっておきながら勘弁してほしいと思った。
胸を愛でるのもそこそこに腰の下へ手を伸ばしていけば、一瞬その細い身体が強張ったのが分かった。大丈夫だよともう一度触れるだけのキスをして、行為を進める。身に着けているものを全部剥がしてしまい、いつも自分を受け入れてくれるソコへと触れた。
潤滑液で濡れているとはいえ、久しぶりに触るた箇所は少しばかり狭いようだった。入口を揉むように慣らして指を押しいれていくと、背中に腕を回された。ようやく入った指を曲げながら浅い部分を押しつぶしていると、回されている腕の力が強くなる。
「ん、ンッ」
我慢しているのだろう、漏れ始めた声がとても小さい。もっと聞きたいと思って一番反応がある場所をぐ、と強く押せば、ひと際高い声があがった。
「や、ァッあ、あ」
必死にしがみついてくる様子が可愛くて、普段の仕返しと言わんばかりについ意地悪をしたくなる。一本だけだった指がいつの間にか二本、三本と増えていき、ばらばらに動かしながら気持ちいいところを何度も何度も擦ってやる。
「れっどッ指、もうやだ、ァ」
舌ったらずな声でそう懇願され、レッドの加虐心はますます掻き立てられた。
「ねえ、グリーン」
指の動きは止めぬまま、必死に耐えている恋人に声をかける。
「な、に……」
「今日見たアレ、使ってもいい?」
聞けば、グリーンは赤くなっている顔をもっと赤くさせた。ばか、とかあほ、とか言われている気がするが、それよりもグリーンは今与えられている快感に耐えるのに必死なのだ。
だから、聞くなら今だと思った。我ながら、最悪だとは思うが。
「ぼくがいない間にアレ使ってたんでしょ?」
「そん、なッこと……」
「グリーンが気持ちよくなってるところ、もっと見たいなあって」
グリーンが黙ったままなので、ぐりぐりとナカを探りながらキスをする。
「ふ、アッんァ……れ、れっど」
合間に名前を呼ばれるが、それはこちらの問いに対してのイエスでもノーでも無かった。
「ねえ、だめ?」
まだ捨ててないんでしょ、と言えば、グリーンは小さい口を開けた。
「……、…した」
「ん?」
「…だから!ベッドのしたに、まだ、ある…から……」
半ば叫ぶように言いながら、離した顔を枕に押し付けてしまった。かわいい。
息を切らしているグリーンが気を変えない内にベッドの下を探ると、夕方見たあの箱が顔を出した。中身を取り出し、改めて確認する。やっぱり、それは自分が思っているものだった。
「これ、何回使ったの?」
本来は自分に使うスキンを手の中のそれに被せつつ聞くと、グリーンは「ない」とだけ答えた。
「え?」
「……使ってない。なんか、使う前に空しくなって」
それに、余計にお前を思い出しちまいそうだったし。枕越しにくぐもった声でそう言われて、ついレッドはうつ伏せたままの彼の背中にいっぱいキスをしてしまった。痕になるからやめろとは言うものの、止めようとはしてこない。そんなところがかわいいのだった。
「じゃあ、挿れるよ」
正面から押し倒す体勢で、先程さんざん指で慣らした箇所にバイブを押し当てる。
「いいけど、そんなオモチャだけで終わらせたら許さねえからな」
「分かってるよ」
ぐぐ、と奥へと進めていくと少しずつナカへと入って行った。とりあえず先端だけ入ったところで、恋人の気持ちいいところを探す。指とは勝手が違うので、ちゃんと確かめておきたかった。おずおずと扱っていると、途中で「んンッ」と声が上がった。
「ここ、気持ちいい?」
「ッん、んゥ……」
これはきっとイエスだなという直感で、レッドは手に持ったソレの電源を入れる。ブブ、と小さく弱々しく振動するそれでぐりぐりとイイところを押し当てれば、途端にびくびくと身体が跳ねた。
「これ、ゃあ、んッだめ、ダメ!」
ばたばたと逃げようとする足を無理やり開かせると、涙目で「どうして」と訴えてくる。
「ぼく、言ったじゃん。グリーンが気持ちよくなってるところが見たいって」
「なっ……」
別に彼をいじめたいわけじゃない。ただ、普段は絶対に見られない姿が見たかった。どんなふうに乱れるのか、もっと彼のことが知りたかった。イイところを確実に擦りつつ、時折ずぷずぷと浅く抜き差しをする。その律動の度に入り口の肉が裏返りきゅうと締まるので、ああちゃんと気持ちいいんだな、と分かる。
「あッあん、レッド、ンッこれ、やだァ!だめ、だめだってばァ!」
嫌だ駄目だと言いつつ喘ぎっぱなしの姿に興奮しないわけがないのだが、もう少しこの様子を楽しみたい。スイッチを切り替えて振動のレベルを上げると、グリーンの腰が先程よりも浮いた。
「あ!やァッやら、あ、あァ――――~~~!!!」
ぴゅる、とグリーンの腹に彼自身の熱がかかった。それでも手を止めずにいると、彼はふるふると首を振った。
「ま、まて!、いまッン…、イッたばっかり、だから…ッぁ!」
小さく震えるその姿を見て、愛おしくてたまらなくなる。イッたからなのか暴れていた足は大人しくなっていたので、空いた手を胸へと伸ばした。
触れてほしいと言いたげにつんと立ったままの突起に指を這わせる。まわりをなぞる様に触れて中心を指で弾いてやると、震える身体はその度に何度も反応した。
「は、ン!んぅ、は……ァ!あっア」
「良かった、いっぱい気持ちいいよね?」
返事は無かったが、相手の考えていることはだいたい分かる。それに敏感になっているのか、さっきからずっと軽くイきっぱなしだ。返事をしろという方が無理なのだ。最後に浅い部分だけで遊んでいたそれを、ずぷずぷと奥へ押し進めた。
「や、またイっちゃ、いっちゃうからァ!あ、れっどッ……!!」
再びぴゅるぴゅると熱を吐き出した姿を見て、流石にやり過ぎたかとゆっくりと彼を乱していたものを引き抜いた。ナカのものを失ったそこは物欲しげにひくひくとしていて、その本人は必死に肩で息をしている。
「う、ぁ……」
涙目でぐずぐずになっている恋人の頬にキスを落として、乱れた髪を整えるようにひたすら優しく撫でた。
「ごめんね、グリーン…だいじょうぶ?」
「……くそ、レッドのあほ、ばか、甲斐性なし!」
あほとばかは反省の面もあって受け入れるが、甲斐性なしは少し悲しい。もう一度「ごめんね」とキスをすると、胸をとんと押されてしまった。
ベッドの上で膝立ちのまま小さく震えたままのグリーンを見下ろしていると、もう何も気にしていないのか、先程まで散々レッドに弄ばれた箇所を自らの手で広げて見せた。
「~~~ッ、お前の、せいだからな!ここ、はやくなんとかしろよ…」
太ももを持ち、まだひくひくとしているソコを見せつけられる。思わずごくりと息を飲んで、ああ、僕はなんてことをしてしまったのだろうと混乱した。
「……責任、とるね」
ちゅ、と音を立てて汗で前髪がはりついた額へとキスを落とすと満足げな声が返って来る。
「当たり前だ、ばかやろう」
恋人の痴態を見てすっかり元気になってしまった自分自身をソコにあてがうと、待ち遠しいと言わんばかりにぴくんと身体が跳ねた。
「さっきは、意地悪してごめんね」
「……そんなのいいから、はやく――!?」
先程までオモチャが入っていたからなのか、ずぷんっと思ったよりすんなりと先端部分が挿入ってしまった。
「うぁ、ん、おまえッがっつきすぎ……!」
衝撃に耐える為、背中に伸びた手の爪が皮膚をひっかく。これのせいで、レッドの背中は小さな傷が絶えなかった。
「だって、グリーンがッかわいい、から」
自分のモノが入っている下腹部を撫でれば、「うぅ…」と涙声が聞こえた。
慣らしているとはいえ、やっぱりいきなりは傷つけてしまいそうで怖い。浅い部分をじゅぷじゅぷと突いてやると、返事をするようにきゅうきゅう締め付けられる。何度も絶頂してどこもかしこも敏感になっているのか、どこに触れてもびくびくと反応する姿が官能的だ。なんて言えば、きっと冷ややかな目で見られるのだろう。
本人は気が付いていないだろうが、さっきから気持ち良くなろうと彼の腰が揺れている。身体は正直なんだなあと頭の片隅で考えながら、真っ赤になっている耳元に顔を寄せた。
「ね、さっきのとぼくと、どっちが気持ちいい?」
「……なに、言って」
「だって、嫉妬しちゃいそうで」
あんなの買ってさ、とぐりぐりとナカをかき乱していく。
「ッ嫉妬て、ンっあんなッ、おもちゃ、ァ、なんか、に……」
「だって、ぼくよりアッチの方が、よかったなんてッ言われたら、悔しいから」
緩く腰を打ち付けながら子どもの我が儘のように言って見せれば、グリーンは黙ってしまった。
(……まあ、いいんだけど)
答えなんて分かってる、と奥を突いてやる。
「あ、や!あぁッ~~~あ、あァッん、ん」
「どっちか、答えてよ」
それでも返事を求めれば、引っ掻かれる皮膚の痛みが強くなった。
「~~~~れっど、れっどのが、キモチイイ!きもちいからァ、あ、ン、!」
「……うん、良かった」
「だからッ!もう、あんなの使うな、ァ…」
声と同時にきゅうきゅうと締め付けられ、愛おしさが増していく。ああ、この人の恋人で良かったな。
涙目でぐずぐずと名前を呼んでくる姿を目に焼き付けながら、打ち付ける腰の速度を上げた。
「はッあ、グリーン、だいすき、だいすき」
腰を抱えなおし更に深いところを暴いていけば、上がる声がどんどん大きくなっていく。
「あ、あッん!もっと、もっと奥、おくッ…欲し、い…ぁあッアぁ、んぅ、あ!」
「……、いいよ…いっぱい、あげるね」
こんなに可愛く強請られては、要求に応える他無かった。
「あ、アッんぁ、や、あぁ!ア、あ―――!!」
ずん、と強く突いてやれば再び強く締め付けられ、そのままナカで果ててしまった。同時にグリーンも薄くなった熱をぷしゃぷしゃと吐き出したのを確認して、抱え込むように自分よりも華奢なその身体を抱きしめた。
**********
「お前にアレ見られた時、終わったって思った」
「え、そうなの?」
ベッドの上で動けずにいるグリーンへとペットボトルの水を差し出せば、彼は枯れた声で話してくれた。
「だって、モノがモノだし。お前怒ってるかなあって」
「怒ってないし、僕のせいって分かってるから気にしてないよ」
それに使ってないんだよね?と顔を覗き込むように聞けば、鼻先をぴんと指で弾かれた。
「そうだけど結局お前が使ったじゃねーか。はあ、明日にでも捨てなきゃなあ……」
「捨てちゃうの?」
「当たり前だろ」
もう使わねえし、とペットボトルを煽るグリーンの姿を見て「そっかあ」と零す。
「ちょっと勿体ないな。アレ使ってる時のきみ、可愛かったのに」
「ふざけんな」
一気に水を飲み切ったグリーンはペットボトルをベッドサイドに置くと、レッドの肩を掴みぐいっと引き寄せた。
「あんなの無くたって、お前が満足させてくれるんだろ?」
「……仰せのままに」
その身体をもう一度シーツの上に沈めて、そのままくしゃりと笑った顔にキスをした。