この世界の果てを知らない

「幸せになりたい」
 自らの口から出た言葉に驚いてしまう。幸せになりたいだなんて、あまりにも曖昧で、自分ですらその幸せというものの答えに辿り着いたことが無いと言うのに。
 この16年という長いようで短い人生の中で、幸せについて自分に問いかけたことなどあっただろうか。ネルセンを前にしたイレブンは、そんなことを考えていた。
 苦労して突破した試練の果てで、ネルセンが勇者の願いを叶えてくれるのだと言う。勇者の願いに「さあ、どうする」と言わんばかりにこちらを射抜く眼光を受け、イレブンは思わず一歩後ずさった。

「では、誰がお前を幸せにしてくれると思うかね?」
 そこでイレブンは首を捻る。幸せとは自分で掴むのではなく、誰かが与えてくれるものなのだろうかと。
 思えば、自分の幸せについて考えたことは無かったが、誰かの幸せを願うことはある。そしてイレブンの頭の中に一人の顔が思い浮かび、無意識のうちにその名を呼んでいた。
「カミュ……」
 その名を聞いたネルセンは満足げに静かに頷いている。
「たしかに彼ならば、お前を幸せにしてくれるだろう」
「うん……、…………え?」
「幸せになりたいと言う気持ちは人として自然なものだ。その願い、かなえよう」
 イレブンの返事を待たぬまま、ネルセンは「これからイレブンはカミュと共に暮らすのだ」と言い残し光の中へと消えていった。
(僕はカミュと幸せになるの?)
 誰に問えばいいのか分からぬまま、勇者もまた眩い光の中へと包まれていった。

 * * * * * * * * * *

 次に目を開けた時、そこにはイシの村の景色が広がっていた。どうやら自分にとっての幸せは故郷にあるらしい。そのことには安堵したが、ネルセンの言い残した言葉が胸の奥に引っかかっている。

「イレブン」
 聞き慣れた多くの声で名を呼ばれ振り返ると、そこには村の入り口に佇む旅の仲間たちがいた。だけれど、その中にカミュだけがいなかった。
 不思議に思いつつも仲間たちの方へ駆け寄ると、全員が微笑みながら口々に「幸せ」を勇者に伝える。各々祝福の言葉を述べると、はやく家に帰った方が良いとイレブンを見送った。
 理由は分からないがどこか浮き立つ足取りでイレブンは見知った道を駆け下り、または上り、帰路を辿って行く。

 そしていざ家の前に立つと、何度も開いた自宅のドアへなかなか触れることが出来ず佇んでしまう。
 ばくばくと鳴り続ける心臓はうるさいのに、不安など少しも無い。しかし自分の抱えているものが期待なのか焦りなのかが分からず、イレブンは動くことが出来なかった。
 すると、家の中から足音が聞こえてきた。こちらに近づいて来たかと思うとゆっくりとドアが開けられ、頭の中で思い描いていたよく目立つ蒼い髪の青年がイレブンを出迎えた。
「おかえり、イレブン」
 少し上目遣い気味になっている目を細め、自分を見つけた喜びを真っすぐに伝えてくれる。そんなカミュの表情を見て、イレブンは幸せというものをもう一度考えてみた。

 
「いい村だよな、ここ」
 イレブンを出迎えたカミュは慣れた手つきでテーブルへ食事の準備を始めながらつぶやいた。キッチンからはスープのいいかおりが漂ってくる。
「カミュが作ってくれたの?」
「ああ。二人で旅をしてた時、よく作ったよなぁ」
 あの時に食べた、野菜の欠片と小さな肉が数個入っているだけの簡素なスープを思い出す。イレブンは、カミュが作ったそれが好きだった。
 今目の前に置かれているものは以前より具も色も増しているが、きっと懐かしい味がするのだろう。
「もっと良いもん食わせてやりたいけど、俺にそんな技術ないし。こんなので悪いけど、腹減ってると思ってさ」
 言われた途端、腹の虫が無遠慮に響き渡る。それを聞いたカミュは吹き出して「はやく食おうぜ」と席に着いた。
 鼻をくすぐる懐かしい匂いにイレブンの胸が躍る。仲間たちと食べる食事も捨てがたいけれど、カミュと過ごす静かな空間も大切だからだ。用意された皿の中の透き通るスープの表面が窓から入る光できらきらと反射して、イレブンの記憶の中のものより輝いて見えた。

「あのさ」
 食事の後、テーブルの上の片づけながらどこか忙しない様子のカミュがイレブンに声をかける。
「あとで散歩に行かないか?」
 いいけど、と簡単な返事をする。外はまだ明るく天気もいいので散歩には丁度良い日だ。
「じゃあ、さっさと片付けようぜ!」
 頷いて、イレブンも食事の終わった皿を片付ける手伝いをする。ただ散歩の約束をしただけなのに、何故だか口元が緩んでしまう。
 そこでイレブンは、日常のなんでもない一コマを普段よりむず痒く感じることに気が付いた。そして同時にネルセンに言われた「誰がお前を幸せにしてくれるか」と言う言葉を思い出す。
 自分の幸せの答えは分からない。だけれど、その答えはきっとカミュが持っている。そう確信した。

 イレブンがカミュにどこへ行きたいかと問えば、神の岩と返ってきた。
「あそこは絶景だって村の人から教えてもらったんだ。どんなところか気になるし、お前とふたりで見てみたい」
 そう言われて断れるはずもなく。そもそも断る理由も無いので、イレブンは二つ返事をして二人は神の岩へと向かった。
 外は気持ちいい風が流れていた。天気がいいので少し暑いかと思ったが頬を撫でる風がそんな煩わしさを消し去ってくれている。
 カミュのつんつんとセットされた髪が少し揺れてつい目で追っていると、その視線に気がついた彼は笑いながらイレブンの頬にかかる乱れた髪を手で整えた。
「まったく、ぼーっとしてんなよ?」
 さらりと撫でられる感覚が心地よくて、イレブンはついその手を取ってしまった。
「なんだ……?」
「いや、あの……。なんでもない」
 慌てて放したが、カミュは握られた手とイレブンの顔を何度も見返していた。
「変なやつ。目的地までちゃんと案内できるのか?」
「それは大丈夫だよ。ごめん、ちょっと考え事してて」
 なんとか納得してくれたのかは分からないが、カミュは「いいけど」と口を尖らせる。
「ところでさあ、お前ずいぶん背が伸びたよな」
「そうかな?」
「ああ。なんか、目線が合わなくなった」
 言われて、イレブン自信をカミュの顔を見る時の位置が以前よりも変わったことに気が付いた。
 はじめて出会った時からイレブンの方がカミュよりも背が高かったが、その差は確かに開いたようだった。
「そうやってどんどん大きくなるんだろうな」
「母さんみたいなこと言うのやめてよ」
「悪い。マヤを見てきたからか、年下を見てるとそういう気持ちになっちまうんだよな」
 言いながら笑うカミュの笑顔は柔らかい。彼にとって妹の存在がいかに大きいかを再確認して、その一方で自分がカミュにとってどんな存在なのか打ち明けられた気がした。
 きっとカミュにとってのイレブンは勇者であり、仲間であり、相棒であり、親友であり、そしてどこか弟の様な存在になってしまっているのだろう。だけれどカミュはイレブンを対等な存在として扱ってくれている。弟のように扱う部分は無意識だろう。
 思えばカミュ以外の他の仲間たちも、イレブンを尊重すると同時に護ろうとしてくれている。仲間なのだから当たり前なのだが、イレブンの思う「護る」とは、また別のように感じていた。
「ぼくって子どもっぽいのかな」
「どうしたんだよ、突然」
 隣を歩くカミュに向かって訊くと、彼は怪訝そうに眉を顰める。
「なんだか気になって」
 変なことを聞いてしまったと、イレブンは笑って誤魔化した。だけどカミュには通用しなかったようで、こつんと拳で軽く肩を叩かれる。
「子どもっぽいかどうかは分かんねえけど、いつも頼りにはしてる」
「……うん、ありがとう」
 カミュは頭の後ろで手を組むと、意地悪そうに笑って見せた。
「ま、子どもっぽいとか気にしてるうちはまだ子どもかもな?」
 この軽口だって、カミュだから成り立っている。
 イレブンの中で彼の存在がどんどん大きくなっていき、再び頭の中で「彼ならばお前を幸せにしてくれるだろう」と言うネルセンの言葉が蘇る。

「カミュ」
 前を歩く彼の背に向かって、いつもより少し大きい声で名前を呼んだ。
「なんだよ」
 振り返った彼の海のように青く揺れる瞳を見て、イレブンは深呼吸をする。
「帰ったら、話があるんだ」
 
 * * * * * * * * * *

 神の岩から自宅への帰路で、イレブンはカミュに言われたことを思い返す。
 お前と一緒に世界中を回りたい。そう言ったカミュの目は真剣だった。イレブンもその願いを叶えてやりたいと思い、カミュと一緒ならばずっと楽しいだろうと感じた。
 
 自宅へ戻った頃には既に陽が落ちており、部屋の中は薄暗く視界が悪い。
「もうこんな時間だったんだな。今明かり付けるから……」
 イレブンはカミュに続いて家に入ると後ろ手にドアを閉じ、暗闇の中で明かりを探す彼の腕を掴んだ。
「なんだよ、どうしたんだ?」
「帰ったら話があるって、言ったよね」
 カミュは掴まれた腕を振り払おうとしなかった。これが彼との信頼の証であると信じたい。
「カミュ、言ったよね。僕と一緒だと退屈しないって。二人で世界を回りたいって」
「ん、ああ……」
 自然と腕を掴む手に力が入る。少し痛かったのか、カミュからも緊張が伝わった。
「それって、ぼくと……ずっと一緒にいたいってことで、いいの?」
 きゅ、と舌唇をかむ。そんなイレブンを、カミュはじっと見つめていた。
 
 しばらく沈黙が続いて彼の手を放そうとした時、今度はカミュからイレブンに近づいて来た。
「どうして、そんなこと訊くんだ」
 イレブンを見上げる深い青は、暗闇の中でも輝いていた。
「そ、れは……」
「お前の口から聞きたい」
 ほら、とまた一歩カミュが近づいてくる。後ずさったイレブンの背に壁がぶつかり、逃げ場が無くなった。

「ぼく……僕は、カミュが好きだ。きっと、ずっと前から」
 イレブンの顔がどんどん赤くなり、熱くなり、遂には目を閉じてしまった。
「それで?」
 これ以上の言葉を、この世界の勇者は知らなかった。だと言うのに、カミュは空いている方の手でするりとイレブンの頬を撫でる。
 もう一度目を開けて、まっすぐとカミュを見つめる。ぶつかった視線の先で、彼は穏やかに微笑んでいた。
 すう、と静かに息を吸って呼吸を整える
「ぼくは、幸せになりたい。できれば、カミュと一緒に。だから……」
 再びイレブンの視界が暗くなる。だけれどそれは、目を閉じたからではない。
「オレはもう幸せだよ」
 視界が明けると同時に、唇に触れたものの感覚も遠ざかって行った。
 先程の感覚を思い出す様に、手が自然と唇を触れる。
 「そうなの……?」
「ああ。マヤがいて、お前がいて……お節介な奴らも大勢いてさ」
 視線を逸らして困ったような顔になりながらカミュが続ける。
「だから、お前が幸せになる為にはオレが必要だって言うなら……喜んでくれてやる」
 その言葉を聞いて、たまらずイレブンはカミュを抱きしめた。腕の中からは「痛いって」と呟く声が聞こえてきたが、それどころではない。
「僕の幸せは君が持ってるんだ。だから、それを少し分けて欲しい」
 腕の中から解放されたカミュはイレブンの頭を掴む。そして指の間からさらりと流れる髪をぐしゃぐしゃと撫でまわした。
「少しだなんて言わずに、好きなだけ持って行ってくれ」
 
 * * * * * * * * * *
 
 明かりはつけぬまま、二人はベッドの上で並んで座っている。月明りの中のカミュがいつも見ている姿とは違うように感じるのは、そっと抱きしめた時にちょっとだけ小さく見えたからだろうか。
「なあ、いい加減離せよ」
 イレブンの腕の中でカミュが苦しそうに身じろぐ。
「だって普段こんなことできないから……」
「あとで好きなだけさせてやるから。それより、顔が見たい」
 そんなことを言われて断れるわけがないので、イレブンは大人しくカミュを解放した。
「お前がオレを選んでくれたんだよなぁ。最初は試練が終わった後の悪い冗談かと思っちまった」
「うん……半分成り行きみたいになっちゃったけど、幸せになる時はカミュに隣へいてほしかった」
 言えば、カミュは驚いたのか両の目をぱちぱちと大げさに瞬きさせていた。
「よくそんな恥ずかしいこと真顔で言えるよな」
「恥ずかしくないよ。本音だし」
 そういうところだよ、と額を指で軽く弾かれる。カミュは耳を赤くしているが、それを指摘すれば怒りだしそうだったのでイレブンは黙ったままもう一度カミュを抱き寄せた。
「さっきのやつ、もう1回したい。よく分からなかったから」
「さっきのって……」
 全て言い終える前に彼へキスをした。先程は一瞬の出来事で何が何だか分からなかったが、今ならよく分かる。ふに、と触れる柔らかい感触が気持ちいい。
 大人しくされるがままだったカミュがイレブンの頬に手を添えたかと思うと、にゅるりと口内へ舌が割り入ってきた。
「ん、ぅ」
 どちらのものとも分からない吐息が漏れては混ざり合う。いつの間にか夢中になって互いの口内を暴いていた。
 形を確かめるように歯列をなぞり舌を絡める行為は、まるで「ちゃんとここにいる」と確認しているようだった。
 
 息苦しくなり顔を離すと二人の間を透明な糸が引き気恥ずかしくなる。カミュはそんなイレブンの様子を見て、ふふ、と小さく笑った。
「なんだ、お前もそんな顔するんだな?」
「からかわないでよ」
「まさか。かわいいって思ったんだ」
 かわいいなんて男性相手に使う言葉ではないと思っていたが、イレブン自身もカミュに対して同様の感情を抱くことがある。
 なので反論はしなかったが、やはりかわいいのは自分よりもカミュの方だと思う、などと頭の隅でぼんやり考えていた。

 
「さてと、勇者様。これからお前の欲しいもの全部くれてやるわけだが……オレにどうしてほしい?」
 すっかりと目が慣れ暗闇の中でもはっきりと姿を認識できるようになった頃、カミュはふふん、と得意げに目の前で腕を組んだ。その様子にイレブンは先ほどの雑念を払う。カミュはかっこいい。いつだって自分を導いてくれる、頼りがいのある人だ。
「どうって言われても……」
 勝手が分からず言い淀んでいると、カミュは面白いものを眺めるかのように目を細めた。
「そうか、なら言い方を変える。お前はどうしたい?」
 言いながら、カミュは元々緩い胸元の紐をするすると解いていく。普段は見えない部分の肌までが露になり、イレブンは思わず生唾を飲んだ。
 次第に服の胸元を支えていた紐は抜け落ち、重力に逆らえない布が徐々に彼の肩からずり落ちていく。辛うじてまだ「着ている」と表現できるその状態でカミュはベッドに手をつくと四つん這いになり、イレブンの傍へと寄ってきた。
(あ、これ、やばい)
 視線を下げると、すぐそこには普段は見えそうで見えない部分があった。ずり落ちた服と肌の隙間からは、彼のほんのり色づいた胸元の突起がちらりと覗いている。
 そこばかり見ていたからか、イレブンの視線の先がはっきりと見えるような体勢へとカミュが体が傾けた。見える角度が変わり、目に毒であるツンと立った突起が今度はしっかりと視界に入る。
「すけべ」
 こちらを煽る様にぺろりと舌を出す姿に、イレブンの顔は真っ赤になってしまった。
「だっ……て、見るでしょ、普通」
「見ないんだよ、普通は」
 でもお前はこういうのが好きだもんな、なんて言われる始末。ぱふぱふ屋に興味があるというのは事実だが、それとこれとは別だというのに。
「こんな平らな男の胸のどこがいいんだか」
 呆れているのか、ため息交じりのカミュの声についむきになって反論してしまう。
「大きさの問題じゃあないんだよ」
「そこ真剣に返されても、なんか嫌だな」
 そう文句は言いつつも、カミュは膝立ちになると露わになった胸元へとイレブンの頭を抱き寄せた。
「わ、ちょっと!」
「ほら、どうしたいか決まったか……?」
 まさかカミュにぱふぱふされる日が来るなんて!と全身が固まってしまう。だけれど空中で固まったままの自分の両手になんとか意識を宿し、想像よりも細い彼の腰へと手をまわす。
 無言のまま目の前の突起へ舌を這わせると、彼の身体がぴくりと動いた。
「くすぐったい?」
「ん……へんな、感じ」
 男の人でもここは感じるのか、と勝手に解釈してイレブンは行為に戻る。片方は舌先で突いたり吸ったり、もう片方は指で摘まんだり弾いたりと刺激を与えていく。彼の言うように、やりたいことを好きに行なってみた。
 確かにカミュは男性なので女性の様な胸の膨らみなど持ってはいないが、筋肉があるので片手に収まる範囲で揉むことができる。そして両の胸を存分に味わっている内に、突起が先程よりも硬くなり、ふちの部分はより濃く色付きぷくりと膨れていることに気が付いた。想像よりも刺激が強いその光景のせいで、どんどん夢中になっていく。
「あ、ぁっ、そこばっかり、ぃ」
 同じ箇所ばかりで痺れを切らしたのか、カミュが身を捩る。
「だって、かわいいから」
 カミュはかっこいい。だけど、やっぱり自分にとっては愛おしく、かわいい人だった。
 そんな彼を逃がすまいと身体を支えていた手の力を強める。するとびくりと跳ねて、カミュの息が熱を持ちながら乱れていった。
「そこ、弱いから、ァっん!も、や、だめ、だめッ」
「やだ、もっと欲しい」
 好きにしていいと言ったじゃないかと、乳輪をなぞる様に舌を這わせ、指先で先端をコリコリと引っ掻くように動かす。その度に声を上げて快感に震えるカミュに、胸の奥が満たされていった。
「いれぶ、ん……こっち、も」
 力の入っていないカミュに手を掴まれ、彼の太ももの奥へと導かれる。
「オレ、お前のことぜんぶ受け止められるから……」
 言いながら、カミュは乱れた自身の服をゆるゆるとベッドの上へ脱ぎ落としていく。彼の言葉の意味に確信は持てないが、考えていることはきっと同じだろうと物欲しげな視線が訴えている。
 その様子を眺めながら、イレブンも身に着けているものを寛げていった。

 イレブンは四つん這いになっているカミュの腰を背後から掴むと、導かれるまま彼の後孔へと自身の屹立を挿入していく。まだ浅い部分しか収まっていないが、はじめてだと言うのに予想していたよりもカミュは苦しそうにはしていなかった。
 ずぷずぷと奥へ進めるようにゆっくり突くと、ちょうどイイ所を掠めたのかカミュが甘い声を上げた。
「はあッ、ぁん、そ、こ……ん、もっと欲し、ぃ」
 言われた通りゆるくピストンを繰り返すと、それに合わせて強請るようにカミュの腰が揺れる。
「あ、いれぶ、ん、ぁっあ!あぅ、んっあ、んっン!」
 快楽に耐えながらシーツの皴を増やしていく姿は少し苦しそうだが、嬌声は止まらないようだった。
 狭い肉壁を押し広げるように、徐々にナカを突く勢いが増していく。すると奥へと導くようにカミュが腰を振った。
「ね、カミュ。好きって、言って」
 行為の途中で求めて良いものなのかは分からないが、イレブンはその言葉を今聞きたくなってしまった。
「な、んで」
「君の口から聞きたい。僕は好きだよ、カミュのこと」
 好き。その言葉が出る度にイレブンの屹立を咥える彼の後孔がきゅうと締まり、まるでイレブンの要求に応える代わりだとても言うようにナカでうねる。
 好き。大好き。はやく言って。呪文のように繰り返すが、カミュはなかなか返事をしてくれない。
「ぁ、あっあん、ア、ぁ!や、あッあ、ん!」
「かみゅ、言ったじゃないか……好きなだけくれるって」
 意地悪なことを言っている自覚はある。だけれど、もう止められなかった。
 わざと腰の動きをゆるめると、カミュが何か言いたげにイレブンを肩越しに睨む。気が付かない振りをしていると、観念したのか甘い声の中でカミュが必死に声を絞り出す。
「っは、ァ、いれぶ、んっはぁ、んッあ、ン!すき、す、きぃ……ッだから、奥、はや、く」
「はは……これじゃあ、どっちのことが好きなのか分かんないや」
 どちらも自分であることには変わりはないので、とりあえずは良しとすることにする。
「ありがと、僕も好き……、カミュが欲しいの、あげるね」
「いれぶん、ッああ、んッ!ぅ、あン、ぁ……!」
 汗ばんでいる腰を抱えなおすと、イレブンは一際深く突きいれた。
 背中へ覆いかぶさる様にして挿注を繰り返す。ずぷんっと最奥を突いた時、カミュの身体がびくびくと跳ねた。
 カミュが、僕で感じてくれてる。僕に突かれてイってる。そう思うと。全身の血液が沸騰してしまいそうになる。
 イレブン自信も彼のナカへどくどくと脈打つように達すると、へたりと倒れ込んだカミュの髪をそっと撫でた。

 腰が砕けてしまっているカミュから屹立を抜くと、自分の出したものが溢れだしてくる。
 慌てて処理をしていると、仰向けになったカミュはとろんとした両の目でこちらへ両手を伸ばしてきた。
「はぁ……上出来」
 よしよし、と子どもを扱うかのように頭を撫でられる。むず痒くなり、イレブンは視線を背けた。
 そして、行為の最中ずっと気がかりだったことを包み隠さず問う。
「カミュ、はじめてじゃないよね……?」
 イレブンは至って真面目に訊いているのだが、問われた本人は意味が分からないとでも言うように首を傾げていた。
「だって、はじめてで、それに男同士なのに……こんな、簡単にできるものじゃないって」
「本にでも書いてあったか?」
 図星だった。だけど、つまりはそれが事実ではないのだろうかと、イレブンは理由も分からぬままショックを受けていた。
 別にカミュがこういったことに慣れていようがいまいが自分がそれに対して口を挟む権利などない。だけれど、彼の相手をした人間を想像すると表現のできない感情が渦巻いた。
「そうだな。お前の言う通り男だったらこんなにすんなり出来るもんじゃないだろうな」
「だったら……」
「オレもさぁ、ずっと前からお前のこと好きだったよ」
 それを聞いて、イレブンの頭は固まってしまった。好きと言う言葉は嬉しい。だけれど、ということは……と、頭の中を予測がどんどん飛び交っていく。
「お前のこと好きすぎて、いつの間にかこんなになっちまった。責任取ってくれるよな?」
 さらさらの髪を撫でていた手がイレブンを引き寄せると、ちゅっと音が鳴るだけの軽いキスを落とされた。
 君はなんて卑怯なんだ。そう言って何倍もキスを返したかったが、実行すれば更にその何倍も怒られてしまいそうだったので堪えることにした。
 だけれど我慢はできそうにない。自身に再び熱が集まってきたのを感じて、そのままイレブンは愛しい人を押し倒した。
「はじめてなのに、どうしてかなって思ってたけど……カミュってば、すごいえっちだったんだ」
「ああ、お前がそうさせたんだからな」
 意地悪そうに笑うその顔が好きだと、額にキスを落とす。
「やっぱり、遠慮なく好きなだけ貰っちゃうね」

 
 うなじも良いけど本当は顔が見たかったんだ。そんな邪念を払うことなくイレブンはカミュの太ももを抱えた。
 そして先程まで自身を咥えていた後孔へ再び腰を押し付け、今しがた覚えたばかりのカミュの好きな部分をごりごりと擦る様に動く。
「はっァ…、勇者様は覚えがはやいな……?」
「おかげさまで」
 カミュの脚を折り曲げ、上から深く覆いかぶさる。カミュは一瞬苦しそうに眉を歪めたが、すぐに「大丈夫」と言いたそうに優しく微笑んだ。その様子に愛おしさが募り、それに比例して質量が増していった。
「ん、お前のでかいんだよ……」
「誉め言葉だよね?」
「どうだか……あ、ァんっ!」
 ばちゅんっと奥を突いていく。力を抜いて耐えているカミュの頬に張り付いた髪を払うと、お返しなのか一瞬だけ頬を撫でられた。
 
「いつも僕のこと考えながら、ここ触ってたの……?」
 言いながらカミュの好きな所を何度も突く。彼のナカがイレブンを逃がさまいとうねり、きゅうきゅうと締め付けてくる。
「は、ァっそう、だよ……んぁ、ん!」
「そっか、嬉しいな」
 自分のことを想いながら一人で身体を慰めている彼の姿を想像して、イレブンの胸が高鳴っていく。
 だけど恥ずかしさからなのかカミュの頬は紅潮し、うっすら目には涙が浮かんでいた。
「も、その話はいいだろ……」
「そうだね、僕も我慢できないや」
「ん、んっァ、あ!またイっちゃ、う、あッあん、ぁ!」
 カミュの反応を見ながら腰を打ち付ける。奥を深く突いた時、カミュの先端からぴゅるっと白濁が溢れた。
 だが、イレブンはまだ自分が達していないので腰の動きを止めなかった。その行為に驚き、カミュは慌ててに声を上げる。
「や、ぁ、いまイってるか、らァ!あ、アん、ぁっあ!」
 カミュの脚はぴんと伸び、太ももの中心からはぷしゃぷしゃと透明な液体が溢れている。
 嫌だと首を振りつつも喘ぎ続け、もはやそれは勇者を翻弄する以外に意味を持たなかった。
「ぁ、あ!やら、ァっいれぶ、ん、もう出な、いぃッあっあ、ンん!」
「ごめん、もうちょっとだけ、おねがい……」
「で、もっァ、あ!あん、ァあアっぁン!ッん、んあ、あッ!」
 ギシギシと音を立てながらベッドが揺れ、もはやどちらのものかも分からなくなる程に息が乱れる
「イく、またイっちゃ、ぅ、いれぶん、ッあ、はぁ、あ」
 何も出していないのにびくびくと震えるカミュのナカを満たす様に、肉壁を押し広げては奥へと刺激を与えていく。
 刺激を得たいのか逃げたいのか分からなくなっているカミュを見て、イレブンは更に腰を打ち付けた。
「ッあ、ぁんっァあアアっあッん、あッアああ――――」
 カミュの身体が大きく跳ねて、全て搾り取られのではないかと思う程にイレブンの屹立がナカで刺激される。
 そして一際高い彼の嬌声を聞いて、同時に絶頂を迎えた。
 
 * * * * * * * * * *
 
 ベッドの上でお互い寝ころんだままなのに背中しか見せてくれないカミュに、イレブンはすっかり肩を落としていた。
「ごめん、苦しかったよね……?」
 好きにしていいとは言われたが、あまりにも好き放題してしまった気がすると、今更になって後悔をしていた。
 だけど今まで知らんかったカミュの一面を見られて良かったと思っている自分がいるのもまた事実。どこか複雑な思いを抱えながら、イレブンは彼の肩を揺すった。
「ぼく、嬉しかったんだ。君がそんなにもぼくのこと好きだって分かって」
「……もういいって、その話は」
 やっとの思いで寝返ってこちらを向いてくれたカミュは気恥ずかしそうな顔をしており、視線は合わせないままだった。
 そのままでは寂しいので額にキスをすると、彼は降参と示す様に微笑んだ。
「次はもっと優しくしてくれよ、勇者様」