グリーンはレッドのことが好きだ。それはもう、本人が呆れるほどに。
気が付けばこれでもかという程に惚れこんでいたし、これから先別の人間を好きになることも無いだろうと思っている。
だからというわけではないが、グリーンはレッドのやること成すこと大抵のことを笑って許した。
待ち合わせの時刻に遅刻したって、夜中に突然訪問されたって、勝手に何年も姿を消したって。
流石に最後の時は涙も流れたかもしれないが、それでも最後は笑っていた気がする。
「なんでもいい、お前がいてさえくれれば」そう言って、いつだってグリーンはレッドを許してしまうのだ。
例え、何をされたって。
「痛い」
そう言って止まる男ではないことを分かっているのに、つい口に出してしまった。
返事は無く、乱れた服などお構いなしにそのまま行為を続けるレッドにはもう慣れてしまった。
肩口に歯を立てられているのが分かる。ああ、痛いな。だけど、悪くないと思っている自分もいる。
流石にこれはやめさせた方が良いのだろうが、ぜんぶレッドの好きにさせてやりたいとも思う。うすうす気がついてはいたが、かなりの重症だ。
レッドの顔が離れたので痛む箇所を指でなぞる。出血がないことに安心して、まだ小さかったガーディを思い出す。あいつも噛み癖がひどかった。
「なんで、こんなことするんだ?」
他人を噛みたいと思ったことがないグリーンにとって、これは純粋に疑問だった。
ベッドのスプリングがぎしりと音を立てたかと思うと、今度はレッドが首筋に顔をうずめてくる。
上から覆いかぶさるように抱きしめられて、思わずその広くなった背中を抱き返した。
「ぼく、昔から…」
耳元で呟くようなレッドの声が聞こえ、グリーンは黙って続きを待った。
「君の…グリーンの、においが好きだった」
「におい?」
「うん、なんだか安心するんだ」
そう言われても、においと噛むことが結びつかず「なるほど」とは返せない。
すると、すん、と小さく鼻をすする音が聞こえた。
その様子が本当に小さい頃のガーディのようで、思わず頭を撫でてしまった。
「安心するって思って、好きだなって感じて、そしたら今度は」
言葉を続けるレッドはグリーンの顔の両脇に腕をつき、見下ろされるような体勢に変わってしまう。
「…今度は、食べちゃいたいって、思って」
気のせいだろうか、レッドの目が鈍く光ったような気がした。
「食べちゃいたい、かあ…」
甘噛みの様なものであれば可愛いものだが、レッドは結構本気で噛む。傷になるのではないかと思う程に。
今のところ出血するほどではないが、なにぶん痕が残って仕方が無いのだ。服に気を遣わねばならない此方の身にもなって欲しい。
「よく分かんないけど、オレ様って愛されるんだな」
「そうだよ、上手く伝えられないけど」
大丈夫、愛されてるって分かってるから。そう言って手を伸ばせば、今度は手首を掴まれ再び歯を立てられる。
血管の薄い部分が悲鳴を上げそうで思わず顔を顰めると、レッドは我に返ったのか手を離した。
「ごめん、普通はこういうの嫌だろうなって分かってるんだけど」
「別に、嫌じゃない」
「…グリーン、変わってる」
「お前だけには言われたくない」
そろそろお喋りだけじゃ物足りないだろうとレッドを抱き寄せれば、今度は肩でも首でもなく口に熱を感じた。
何もやめることは無い。お互い求めあって、理解して、ただそれだけなのだから。
明かりが無く薄暗い部屋で互いの息を腰がぶつかる音だけが聞こえる。
こういうのは慣れたと思っていたのに、案外まだ気恥ずかしいものだった。
「ぁ、あッ、レッド」
名前を呼んだってどうにもならないことは知っているが、どうしたって勝手に口が動く。
脳がぐちゃぐちゃになっているのだから仕方が無いと言えばそうなのだが、必死に自分を求めて腰を振るレッドを愛おしいと感じつい名前を呼んでしまうのだ。
快感だけ得たくて痛みを逃がす様にレッドに腕を回し、いつもはその首筋に顔をうずめるだけだったが先程のレッドの言葉が頭をよぎった。
食べちゃいたいって、思って。
今なら、レッドの気持ちが分かる気がする。
自分の中にレッドがいるのだから食べているのと変わらないかもしれない。けど、同じことをしてみたい。
すぐ目の前にあるレッドの肩口に歯を立てれば、一瞬レッドの体が強張った。
「…なんだ、グリーンも同じなんだ」
ふ、とレッドは笑った気がする。
そんなのお構いなしに甘噛みすると、同時に肺いっぱいにレッドのにおいが広がったような気がした。
いつもより胸の奥があたたかくなって、身体中がぜんぶ、ぜんぶ、気持ちよくなろうとしている気がする。
「ん、ぁっ!ん、ンン…、はっ…、レッド!れっど、ぉ…」
そのせいか、先程まで我慢できていたのにナカにいるレッドが動くたびに声が溢れるようになってしまった。
「いいよ、ぼくのこと、食べちゃって」
ぐい、と腰を持ち直されて一気に深く突かれれば、もう抑えは効かなかった。
「あ!あ、ん…ッ!んぅ、そこッやだ、やらぁ!」
「グリーンってホント、昔から強がってばっかりだ」
嫌だと言えばいう程、より一層奥に熱がやって来た。
ずちゅずちゅと音が聞こえる度にグリーンの脳も身体も溶けそうになる。
「グリーンも、ぼくのこと食べてくれる?」
そう聞こえて、自然とレッドのこちらを眺める目を見つめた。
何も言わず頷けば、レッドはどこか安心したように優しく笑った。
オレって馬鹿だ、レッドを食べちゃいたい、だなんて。
そんなことを考えながら、グリーンはレッドを受け止めた後ゆっくりと意識を手放した。