いただきます

俺はノクトがご飯を食べている姿が好きだ。
ノクトはかっこいい。まず容姿が良い。顔は整っているし、なんだかんだで王子様で一つ一つの動作が美しい。
指が長くてきれいだ。好きなものを見つけるときの目が宝石の様だ。形のいい唇から発せられる声は脳を溶かすのだ。
ノクトはかなりの偏食で野菜を一切食べない。けれど、好きなものを食べるときは丁寧に、丁寧に食べるのだ。
がっついてしまう俺とは違う。目の前に並べられたそれを、綺麗にたいらげていく。
ステーキ肉を呑み込むノクトを見て、肉を羨ましいと思った。
咀嚼ののちに肉を呑み込む喉の動きが美しく、俺も食べられるならノクトが良いと思った。誰かに食べられる予定があるわけではないけれど。
フォークとナイフで巧みに一口大に切り分けられていく肉と溢れる肉汁を見て、ノクトはそれを美味しそうだと思っているんだよね?
俺もきっと美味しいよ。どうかな? なんて言ったら、ノクトはなんて答えるんだろう。
「なんだよ、人が食うところばっかり見て」
気が付いたら長いことノクトを見ていたようで、怪しまれてしまった。
「べっつにー。美味しそうに食べるなと思ってさ」
「はぁ? それはお前の方だろ」
好きなもの食べる時だいたい笑顔だろ、と笑われた。わ、ノクト俺が食べるところ見てくれてるんだ。嬉しいかも。
でも、やっぱりノクトには敵わないと思うんだよね。一般市民の俺と王子様のノクトとじゃあ、まずスタートラインが違うんだよ。
「俺ってそんな笑顔で食べてる?」
「ああ、すっげー顔だな」
「何それ。言い方悪いなぁ」
「でもさ」
キィ、とノクトのナイフが肉を切る音が響いた。どうしたの、力入れすぎてるよ。
「俺、お前が食うところ見るの、好きだから」
え、え、え。ノクト、今なんて言ったの。
「すき?」
「すき」
「俺も、ノクトすき」
「知ってるし」
へへへ。嬉しい。好き、だって。
思わずにこにこと笑顔になった。ニヤニヤして気持ち悪いって思われるかな。
なんてのは杞憂で、ノクトにその顔って笑われた。
「どんな顔?」
「すっげー幸せそうな顔。俺が好きな顔」
「そっかー。うん、幸せそうな顔かぁ」
「今すぐ食べたい顔。食べていいか?」
「へ?」
ニヤニヤと意地悪なこと考えてる表情のノクトの皿は、気が付けば空っぽだった。
食べたりないって顔でノクトがじっと見てくる。体中に穴があいちゃいそう。
「い、いただかれちゃおうかな~」
「メインディッシュだし?」
「もー、言い方ぁ…」
席から立ちあがったノクトに腕をひかれた。少し力が強い。腕に食い込む指は長くてきれい。
「プロンプト」
形のいい唇から俺の名前を呼ばれた。甘い声だ。
ノクトを見ると宝石のような両目がキラキラ輝いていた。