誰のものでもない - 2/2

 そこから、どうやってここまで来たのかは覚えてない。少し広めで薄暗い部屋に辿り着くと、カミュは奥にある大きなダブルベッドに腰をおろした。そのまま自分の隣へと導くようにぽんぽんとシーツを叩くと青年は大人しく指定された場所へ座るなり、顔を真っ赤にしてぼそぼそと話し始めた。
「本当に良かったんでしょうか。僕と、こんなところに……」
何を今更、とカミュは笑う。ここがどこだか分かっているくせにすっかり緊張してしまっている青年の鼻をぎゅっと摘むと、ふぎゃっと情けない声が上がった。
「今からすること分かってんだろ。もっと気楽に喋れ」
「うう、そんなこと言われても」
「オレが良いって言ってんだからもう気にすんな。……それより、さっさとさっきの事を忘れたいんだ」
 カミュは青年の腕を引きながらベッドに横たわる。自然と彼がカミュを押し倒す形になり、見上げた先の青年の顔はますます赤くなっていった。いつも車内で見ていた凛とした出立ちとはあまりにも違う姿に愛おしくなってくる。
「お前、経験は?」
「……恥ずかしながら」
「ま、そんな感じだな。でもオレも男は初めてだからお揃い、だな?」
 カミュは青年の手を取ると、その甲にすり……と頬を寄せた。見た目に反して少し大きめの手にひどく安心する。この手が触れてくれれば、すぐに嫌なことも忘れられる気がした。
「そう言えば名前、聞いてなかったな」
 両手を伸ばして顔を引き寄せればゆっくりとキスが降りてきたと同時に、青年は「イレブン」と名乗った。
「イレブン……イレブン、か」
 名前を呼ぶと、どんどん身体中が熱くなっていった。車内で見るだけだった男が目の前にいて、オレを押し倒している。腹の奥がきゅんと反応した気がして、カミュはもぞもぞと太ももを寄せた。
「オレはカミュ。言っておくが、おかしいのはお前だけじゃないからな」
 不思議そうに首を傾げたイレブンに、今度はカミュからキスをした。

 * * * * * * * * * * * *

「あ、あっん、んン、ぁっあ」
 ほんの少しの間接照明だけが灯る部屋の中で嬌声が響く。イレブンが正面からカミュの腰を掴み必死に腰を打ちつけていた。その様子を伺いながらカミュは脱ぎ捨てた互いの服を邪魔だと言わんばかりにベッドの下へを落とす。
「は、ぁっ、いれぶ、ん……もっと、もっと、ぉ」
 カミュはイレブンの背に両足を絡ませ、さらに奥へと導くようにぎゅうっと腰を引き寄せる。イレブンは腰から手を離すとカミュの両脇に手をつき、ぐっと奥へと挿注を繰り返す。その感覚にカミュは顔を綻ばせ、イレブンの顔を掴み耳元に顔を寄せわざと喘いでみせた。
「かみゅ、すご……なか、うねってる。こんな風になるんだ」
「ん、ぅ、ばか、ぁッ、んっお前がそう、させてん、だよ」
 ばちゅん、と肌がぶつかる音が聞こえてくるたびに全身の感覚が鋭くなっていくようだった。もっと、もっと奥に欲しい。きゅうとナカの屹立を締め付けるとイレブンが眉を寄せ、はあ、と熱い息を吐いた。
「男との経験は無いって、言ったじゃないか……」
 拗ねるように吐き捨てられた言葉に、カミュは思わず目を細める。なんだ、ヤキモチなんて妬くんだな。イレブンの意外な一面に一瞬胸が躍ったが、その瞬間ずるりとまだ達していない怒張が引き抜かれた。え、と間抜けな声が出る。理由の分からないカミュがイレブンを見上げると、仰向けだった身体をうつ伏せへとひっくり返されてしまった。
「な、に……?」
 答えのないままイレブンが背後からしっかりとカミュの腰を掴み高く上げさせると同時に、後孔にぬるりとした先端が触れているのが分かる。それを待ち侘びているかのようにぱくぱくと開閉する窄まりに、腹の奥が満たされたがっている気がした。
「僕は知りたいんだ、君のこと……カミュの、こと」
 どちゅんっ、と奥まで一気に貫かれる感覚が全身を覆う。自分の意思とは関係なく跳ねる腰を逃すまいとイレブンが掴んで離さない。
「さすがの僕だって分かるよ、はじめての人が、こんなのじゃないってこと、ぐらい」
 荒い息の中、途切れ途切れのイレブンが呟く。その言葉に返したいのに、カミュの身体は快感を得ることに必死に言うことを聞かなかった。
「それ、は、ぁッあ、ン、ぁあ、ん、あっあ!」
「意地悪したいんじゃなくて、嘘をついてほしくないだけなんだ、だから……」
 少し悲しそうな声で、イレブンが何度もカミュ、カミュと名前を呼ぶ。肉壁がイレブンの形を覚えようと締め付け、それを広げれるように奥を暴かれていく。すると欲を注がれた感覚があり、脱力したカミュからはずるりとイレブン自身が引き抜かれていった。
「ごめん、僕……君を見ていると、おかしくなるんだ」
 肩を揺らされ、カミュは汗で髪が頬に張り付いた顔を上げる。必死に謝ってくるイレブンを見上げながら、次の瞬間には彼の着痩せしている厚い胸を押して馬乗りになっていた。
「カミュ……」
「だから、おかしいのはお前だけじゃねぇって言っただろうが」
 吐き出した直後のイレブンの萎えたモノに手を這わせるカミュを見て、イレブンは生唾を飲んだ。カミュはイレブンに跨ったまま、再び硬さを取り戻した屹立に自身の後孔をあてがう様に乗り上げる。
「あのな、欲しがってたのはお前だけじゃないんだよ……ッ」
 カミュが腰を下ろすと、ずぷんっとそれを飲み込んでいった。脚を大きく開き腰を振る姿にイレブンは目を離せない。蕩けた表情も、ぷくりと勃ち色づいた胸も、両脚の中心も、イレブンを飲み込んでいる箇所も、何もかもが丸見えだった。
「ずっと、お前のこと見て、てぇ……いつかこうやって、抱かれたら良いのに、って、」
 喘ぎながら話すカミュの声に、ナカに収まるイレブンの怒張の質量が増していった。それに気がついたのか、カミュはさらに甘くなっていく。
「ん、お前が今突っ込んでるここ、も……お前のこと、ッ考えながら何回も、触ってて……ん、ッだか、ら、電車で触られてた、とき……これがお前の手だったら、なん、て」
 もう、いいから。そう言いたくてイレブンは腕を伸ばした。するとそれに応えるようにカミュが指を絡ませる。もう片方の手も掴むとカミュの腰が先ほどより乱れ、ナカのイレブンを搾り取ろうとしていた。
「あ、んっは、ぁン、あん、あ!いく、い、っちゃう、も、ぅ……いれぶ、んッ奥に、欲し、い、ぁ、あ!」
「僕も、もう……ッカミュ、すき、好きだ、かみゅ。ぼくも、ずっと君を、見てた」
 イレブンが一際強く奥を突くと、カミュの身体がびくりと跳ねた。中にどくどくと濃い熱を注がれているのがわかる。恥ずかしそうに眉を寄せる表情のイレブンを見下ろしながら、カミュは小さく「オレもだよ」と呟いた。