嘘でもかまわない - 2/4

 あれから悟空はベジータに会わないようにしようと心に誓った。元々ベジータから悟空へと会いに来るようなことは滅多に無かったし、お互い用が無ければ連絡を取り合うこともない。その為、悩みの種が落ち着くまではベジータには接触しないようにして、そのことについて頭でも考えない様にすればいい。今まで通り普通に過ごして、普通に生活して、普通に修行をしていればこの不思議な感情もいずれ消え去るだろう。きっと、そうに違いない。
 だが、悟空のそんな思惑は簡単に崩れ去ることとなった。家で昼食を終えると悟天が悟空の服の裾を引っ張った。
「ねえお父さん、今日トランクスくんちに行かなきゃいけないんだ。瞬間移動で連れてってよ」
 いつもなら「いいぞ」と二つ返事してやるところだが、今はそうもいかない。トランクスの家ということはつまり目的地はCCであり、そこへ向かえばベジータと鉢合わせる可能性があるからだ。
 昨日の今日なので、悟空もベジータもいろんな感情を引きずっている。今、彼に会うわけにはいかないのだ。
「ト、トランクスの家に行くならいつも飛んで行ってるじゃねぇか」
 悟空は普段と様子が違うことを悟天に悟られない様に、表情を崩さず答える。
「そうだけど、今日は今まで借りてたおもちゃをいっぱい返さなきゃならないんだ。飛んでいくと途中で落としちゃいそうだし前が見えなくて危ないし、行きだけ連れてってよ」
 見れば、部屋の隅には大きめの段ボールが置かれており、その中には恐らくトランクスから借りてきたというおもちゃが詰め込まれていた。確かにこの量は、いくら力があるとはいえまだ体の小さな悟天が一人で運ぶのには苦労するだろう。
 お願い、と見上げてくる大きな目に悟空はノーと答えることができず、首を縦に振るのだった。

 悟天に強請られトランクスの気を探り瞬間移動して来ると、そこは広いリビングだった。
「あ、悟天と悟空さん。いらっしゃい!」
 部屋の中央にあるソファへ座ってたトランクスはこちらに気が付くと駆け足でやって来た。悟天はトランクスに借りていたおもちゃの詰まったダンボールを差し出すと二人で他愛もない会話をはじめた。部屋にはトランクスしかいなかったようで、悟空は胸を撫でおろす。
「なぁトランクス。ブルマと、その……ベジータは?」
「ママなら買い物に行ってるよ。パパはたぶん重力室じゃないかな。パパ、昨日帰って来てからずっと機嫌が悪いんだ。だから会いに行くなら気を付けてね」
 トランクスの忠告を聞き、悟空は気づかれないうちにさっさと帰ろうと額に指を当てる。悟天にあまり帰りが遅くならない様にとだけ伝えようとしていると、廊下からバタバタとけたたましい足音が聞こえてきた。まさか、と足音の主の気を感じ体が固まる。その直後には壁にひびが入るのではないかと思う程の迫力と共に、ベジータがリビングへと現れた。重力室でトレーニングの最中だった為かゆるめのタンクトップにボトムスというラフな格好をしていた。悟空の気を感じて慌ててやって来たのだろう、上を向いている黒髪が少しだけ乱れている。
「……カカロット」
 空気が震える中、ベジータが名を呼ぶ。思わず背筋が伸び「はい!」と返事をしてしまいそうだったが、鋭い視線に負けてただその姿を見ることしか出来ない。二人の様子を窺う幼い二人は不安そうに、ただその場に突っ立っている。
「ベ、ベジータ……」
 すぐにでも瞬間移動をして逃げてしまえばいいのだが、そんなことをすればこの後どうなるか分かったものではない。この様子では、きっと彼の不機嫌の理由は自分だ。怒りに満ちたベジータは扱いが難しいことを知っているし、なにより無関係な子ども達を巻き込みたくはない。
「逃げようなんて思ってないだろうな」
 いつも以上に低い家主の声に、悟空は本当に逃げ出してしまいそうになる。
「まさか!……なあ、いったん落ち着けよ」
 悟空はリビングの入り口から動かないベジータの肩をポンと軽く叩く。だが、彼の表情は変わらない。だというのに、ベジータの身体が一瞬だけ震えたような気がした。
「……ベジータ?」
 顔を覗き込もうとするが、視線を外されて背を向けられてしまった。そして「着いて来い」と言われ、悟空は不安そうにしている悟天とトランクスをその場に残し、大人しくベジータの後をついて行った。

 悟空が連れられて来たのは、どうやらベジータの使っている寝室のようだった。こんなプライベートな場所に連れてこられるとは思っていなかったので、緊張で身体が強張る。
「で、どうなんだ」
 どう、とは。悟空は訳が分からないといった様子で腕を組み首を傾げると、苛立ちを隠せないベジータは悟空へと詰め寄った。
「惚けるな!……昨日も言ったが、オレに隠していることがあるだろう。どうせ、また何か新しい力だとかなんとかだろうが。それを話す気になったのかと言っているんだ。ここでなら他に誰もいないから問題ないだろう」
 ベジータが悟空との距離を詰め、ぐっと顔を近づけてくる。 本来悟空は、動きにくいという理由から他人に密着されることを嫌う。だけど、ブウの胎内でベジータと共闘した際はいつの間にか自分からベジータへと体を密着させていた。力を合わせる為という理由があったが、肌のぬくもりが離れた瞬間に寂しさを覚えたのもまた事実だ。
 今も触れるか触れないかの距離にベジータがいる。悟空の視線は、上目遣いになっているベジータの黒い両目と見下ろした先にある豊満な胸筋へと釘付けになっていた。身長差のせいでベジータが悟空を見上げているせいで、今まではなんとも思わなかった体勢に悟空はつい本音を漏らしてしまう。
「いい眺めだ……」
「あぁ?」
「あっいや、そうじゃなくて。だからオラは別に新しい力なんて隠してねぇって!」
 怪訝そうなベジータに慌てて顔の前で両手を振りながら訂正するも、納得いかない様子だった。
「ふん、どうだかな」
 このままではベジータの機嫌が更に悪くなり、関係は悪化するばかりだ。周囲の人間にも影響するかもしれない。悟空は頬をかくと、ため息をつきながら「分かったよ」と呟いた。
「確かに隠していることはある。だけど、新しい力を隠してるとかじゃないぞ。話せない事情があるんだ。オラ個人の問題で、……それで、お前にも話せないんだ」
「それが、オレとの修行で本気を出せない理由か」
「ま、そうなるな。お前には悪いとは思ってるし、オラだって本当はこんなこと解決して本気で戦いてぇよ」
 天井を見上げながら悟空が息を吐く。胸の内に秘めていたことを吐露すると、少し心が軽くなった気がした。たとえその相手が、悩みの種の原因である人物だったとしても。
 ベジータは口元に手を当て何かを考えている素振りを見せると、普段自分が就寝に使っているであろうベッドへ悟空を導いた。さっさと座れと言わんばかりにベッドの縁を指さされ、悟空が大人しくそこへ腰を降ろす。ベジータは立ったままなので、今度は悟空が彼を見上げていることになっている。
「オレがどうこうできることかは知らんが、話して解決することもあるだろう。話せる範囲で構わん、オレが聞いてやる」
 よっぽど悟空の悩みというものが気になるのか、ただ悟空との修行に専念したいからなのか、ここまでベジータが他人の事情に首を突っ込むのは初めてのことだった。これには悟空も驚き、大きな目をぱちぱちと瞬きさせる。しかし悟空が何も言わないことに苛立ったベジータは「何も言わないなら出て行け」と視線で訴えてきた。
 きっとここで退いたところで、同じことを繰り返すだけだ。そう判断し、悟空は確信を突かない程度に今抱えている悩みについて話し始めた。
 
 * * * * * * * *

「……それで、溜まった時に自分の妻じゃ発散できないせいで修行に集中できないで困っている、ということか」
 ベジータの言葉に悟空は訂正を加える。チチが悪いわけではない自分が悪いのだと伝えたが、「結局のところ同じことだろう」と言い返されてしまった。
「まあ、お前の悩みは分からんことも無い。ブルマとて同じだ……もともと地球人を相手にするように出来ていないからな、今までと同じでは駄目なのだろう。オレはその行為に興味が無いから、困ったことは無いが」
「オラだってそうだったさ。だけど、えっと……最近になって、なんか変になっちまって」
 つい「お前がそうさせている」と言ってしまいそうになり、悟空はベジータの表情を窺う。怪しんでいる様子は無いのでバレてはいないと思うが、これも時間の問題だろう。
 本当に、今まではなんともなかった。妻との触れ合いがあろうが無かろうが下半身が反応することは無かったし、我慢できないほど困ったことも無かった。なのに、今はどうだろう。ベジータを前にすると、彼のことを考えると、どうもおかしくなってしまうのだ。
 
「だが抜くだけなら一人でもできるだろ。家族の目もあるかもしれんが」
「そんなんじゃ足りねぇんだってば。自分じゃどうにもできねぇし、気ぃ抜くとすぐ勃っちまうし……」
「げ、下品なことを言うな!」
 頬を赤らめたベジータが遮って来たので、悟空は口を閉ざした。下世話なことに免疫が無いのか、彼はいつもこうだ。なのでそれ以上話すのをやめ、悟空はベッドから立ち上がると再び額に二本の指を当てた。
「どうするつもりだ」
「帰るんだよ。ベジータに話してちょっと楽になった、ありがとな。あとはもうオラでなんとか……」
「なってないようだぞ」
 ベジータが眉をひそめながら、ある場所を顎で示す。見れば、股間が苦しそうに張り詰めていた。驚いた悟空は急いで瞬間移動しようとしたが、その瞬間に腕を強く掴まれてしまった。
「そのまま帰って、どうするつもりだ。どうせ隠れて一人で抜くだけだろうが」
 でもそうするしか方法が無いのだ。他にどうすればいい。ベジータの考えが読めず、悟空は混乱する。
 動けずにいると、徐にベジータは悟空の前に膝をついた。何をするつもりなのか聞く前に力任せに道着を降ろされ、隠そうとしたものが勢いよく飛び出す。
「わぁ!?ベジータ、な、なにして……」
 しっかり勃ちあがっているソレを隠そうとするがベジータに握られてしまい、急な衝撃に小さく呻くだけで何もできなくなってしまった。
「いいから……貴様は黙ってろ」
 言いながら、ベジータは片手を動かし握っているものを丁寧に扱く。もう片方の手で既に濡れている先端を弄りながら、時折悟空の様子を窺っていた。
 その姿を見ながら悟空は緊張どころの騒ぎではなくなった。信じられないものを見ている。今まで一人で抜きながら想像していた光景が目の前にある。興奮を抑えきれるはずもなく、悟空の怒張はますます太く硬くなっていった。
「貴様が修行に集中できんのはオレにとっても不都合だからこうしてやっているんだ、貴様を楽しませるためじゃない」
 先走りだけでは滑りが足りないからか、ベジータは手の平に涎を垂らし指を這わせていく。ぬるぬるとした感覚が気持ちよく、目を細め味わった。
「ベジータ、あ、あのさ……」
「なんだ。無駄口を叩く暇があったらさっさと出しやがれ」
 ベジータは普段より数倍鋭い目つきで悟空を見上げる。その顔もいいな、などと思っている場合ではない。
「嫌じゃなかったら、口でしてくんねぇか……?」
「はぁ!?」
 悟空の怒張を握る手に力が込められ、主からは「ぎゃっ!」と情けない声が上がった。
「くそっ、何が嫌じゃなかったらだ!ふざけるな!」
 もっともな言い分である。だが、どうだろう。悟空から見たベジータは、さほど嫌そうな顔をしているようには見えなかった。耳まで真っ赤にして怒鳴っている様子はむしろ、何かを待ち望んでいるかのような……。
「そ、そうすれば早く出そうな気がするんだ。終わったらさ、昨日の組手の続きやろうぜ?」
「……本当だな」
 悟空が頷くと、ベジータは躊躇いながらもおずおずと目の前のペニスに顔を近づけた。つまりは「嫌ではない」ということだ。そのことに気を好くした悟空は、思わず口元を緩ませてしまった。
 いつもは毒を吐くばかりの小さな口が、ゆっくりと先端を飲み込んでいく。ベジータの吐息がかかるだけでびくびくと反応しているというのに、舌先で突いたり筋をなぞられたり吸われたりしている内に悟空の息は徐々に上がってきていた。ベジータの逆立つ髪を撫でながら手を後頭部へ回し、より深く咥え込ませた。辛いのだろう、ベジータの目にうっすらと涙が浮かんでいる。それでも止まらず、悟空はそのままゆるゆると腰を打ち付けた。
「ッう、ぐ」
「悪いベジータ……そのまま、頼む」
 とても褒められたものではないことなど分かっている。だけど悟空にはもうどうしようもないのだ。それに、ベジータもそれに応えようと懸命に口を使っている。抜き差しする際にじゅぽじゅぽと卑猥な音が響いて、どうにかなってしまいそうだった。にゅるりと舌が絡み、悟空は絶頂が近いことを悟る。悟空がベジータを見ていると、蕩けそうな目がこちらを向いた。
「か、かろっ、と」
 苦し気な息の中で名前を呼ばれ、悟空はそのまま同胞の口の中で果ててしまった。