主カミュ

タイトロープ

 ゼミの飲み会に遅れてやって来たカミュは、ただ空いていたからという理由だけで躊躇うことなく座敷のテーブルの隅っこに座っていた僕の隣に座った。彼とは今まで話したことも無いし、顔を合わせたことだって数回しかないと言うのに。 しかし、僕は彼のファ…

誰のものでもない

 ある日の帰宅途中、電車に乗るタイミングが悪く普段よりも乗車人数の多い車両に乗っていたカミュは息苦しさを感じていた。低くもないが高くもない身長の為か、周囲に体格の良い人間が集まるとどうしても押しつぶされそうになってしまう。(最悪だ。次の駅で…

atmosphere

(勇者視点) 僕の世界は、少し前までは狭い村の中だけだった。極端な言い方をしてしまえば、村は世界で親は神だ。 それ以外を知らず、与えられず、信じるものも限られている。ただぼんやりと、遠くに見える空の向こうに存在するであろう知らない国や人のこ…

春の夜の夢のごとし

 カミュ。どうやらそれが自分の名前であることだけは憶えている。あとは、そう……何か大事な、やらなければならないことがあった、ということ。 空腹に耐えきれず忍び込んだ船では、運良く自分のことを知っている人達と出会うことができた。彼らがどんな人…

この世界の果てを知らない

「幸せになりたい」 自らの口から出た言葉に驚いてしまう。幸せになりたいだなんて、あまりにも曖昧で、自分ですらその幸せというものの答えに辿り着いたことが無いと言うのに。 この16年という長いようで短い人生の中で、幸せについて自分に問いかけたこ…

君が確かめて

 それは日差しが強く、少しばかり暑い日だった。 カミュと共に行動するようになって、イレブンは何事も以前よりも慎重に行うようになった。 それもそのはずだった。勇者だなんだと呼ばれたかと思ったら突然地下牢に入れられて、近いうちに殺されるかもしれ…

ぼくたちに明日はない

 きっと、気が緩んでいたのだと思う。 慣れた頃が一番危ないとはよく言ったものだが、どうしてもっとその言葉を頭に刻んでおかなかったのだろうと、この後僕は後悔をする。 森の中で目の前に振りかざされた、鋭い爪の生えたモンスターの大きな手。それが見…

Wind

 カミュという男は他人とつるまない、余計は事は話さない、慣れ合ったりなんてしない。手を伸ばしてもするりと抜け出しその場を離れてしまうような、まるで猫のように自由でしなやかな男だった。 こうして長い間をともに旅をしていても、彼はあまり自分のこ…

Never Really Over

その日は最高に運が悪かった。学校からの帰り道、他校の見知らぬ数人の男子学生に呼び止められたかと思うと、そのまま人通りのない薄暗い路地裏へと連れ込まれた。見ると、僕を連れて行った男子生徒は、素行の悪い学生が多いことで有名な学校の制服を着ていた…

ふたりぼっち

風に揺れる草原の草花と、遠くに見える真っ赤な夕日が眩しい。前を歩く青年の長い影に追いつこうとするが、思うように足が上がらない。途切れつつある苦しい呼吸。額から流れる汗。肌をなでる風が気持ちいい。このまま、風になってしまいたい…と思ったところ…

まだまだ子どもだと思っていた君へ

キミと再会したあの日。あの日から私は、キミを守ることだけを考えて生きてきた。今度こそ、私が守る。世界中のみんなが敵になろうとも、キミがどんな絶望の淵に立たされようとも、私が、必ず…。この決意は固い。今も変わらない。…ただ、私は再会するまで、…

ADDICT

朝日が昇ると共に目が覚め、上半身を起こす。隣で眠っている勇者様は、まだ夢の中から出てくる気配がない。寝顔を覆う髪をさっと手で払ってやれば、伏せられた目とむにゃむにゃと寝言を言う口が小さく動く。その顔を今日も一番に見ることが出来るのは自分だけ…